建設業における有機溶剤中毒予防のためのガイドライン

■HOMEPAGE

■640/480  ■安全衛生管理







建設業における有機溶剤中毒予防のためのガイドラインの策定について

平9.3.25 基発第197号


 有機溶剤による中毒予防対策については、従来から重点として施策推進してきたところであるが、災害発生件数は、近年、横ばいの状況にあり、また、被災者に占める死亡者の割合も他の労働災害と比べて高くなっている。
 さらに、これを業種別にみると、特に建設業の占める割合が高く、例年全業種の半数近くを占めている。
 これら有機溶剤中毒を予防するための措置については、有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号)に規定されているところであるが、日々作業場の状況が変化する等の建設業における業務の特徴を踏まえた対策が求められている状況にかんがみ、今般、「建設業における有機溶剤中毒予防のためのガイドライン」を別添1のとおり策定した。
 ついては、関係事業場等に対し、本ガイドラインの周知、徹底を図り、建設業における有機溶剤中毒の予防対策の一層の推進に努められたい。
 なお、この通達の解説部分は、本文と一体のものとして取り扱われたい。
 また、本件に関して、関係事業者団体に対して別添2(省略)のとおり要請を行ったので了知されたい。

(別添1)
建設業における有機溶剤中毒予防のためのガイドライン 建設業における有機溶剤中毒予防のためのガイドラインの解説


1 趣旨

 本ガイドラインは、建設業において有機溶剤又は有機溶剤含有物(以下「有機溶剤等」という。)を用いて行う塗装、防水等の業務に従事する労働者の有機溶剤中毒を予防するため、作業管理、作業環境管理、健康管理等について事業者及び元方事業者が留意すべき事項を示したものである。
 なお、有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号。以下「有機則」という。)の適用のない有機溶剤等であって、有機溶剤中毒を起こすおそれのあるものを用いる場合にあっても、本ガイドラインの対象となるものである。




2 労働衛生管理体制

(1) 作業主任者の選任等

 事業者は、使用する有機溶剤の種類に応じて、有機溶剤業務(労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)第6条第22号に定める業務)にあっては有機溶剤作業主任者を、有機溶剤業務以外にあっては有機溶剤作業主任者技能講習を修了した者のなかから有機溶剤作業主任者に準ずる者を選任し、次に掲げる事項を行わせること。

イ 作業手順書を作成し、これに基づき有機溶剤を用いる業務に従事する労働者(以下「労働者」という。)を指揮すること。

 なお、作業手順書には次の内容を記載すること。

 (イ) 作業を行う日時

 (ロ) 作業の内容

 (ハ) 作業場所

 (ニ) 労働者の数

 (ホ) 使用する有機溶剤等

 (ヘ) 換気の方法及び使用する換気設備

 (ト) 使用する保護具

 (チ) 有機溶剤の気中濃度が一定の濃度に達した場合に警報を発する装置(以下「警報装置」という。)の設置場所及び警報の設定方法

 (リ) 有機溶剤等の保管及び廃棄処理の方法

 (ヌ) 作業の工程


ロ 作業中に、労働者が保護具を適切に使用しているか監視すること。


ハ 下記3から7に掲げる事項について実施状況を確認し、必要に応じて改善すること。


(2) 元方事業者による管理

 事業者が工事の一部を請負人に請け負わせている場合、元方事業者は関係請負人に対する労働衛生指導を適切に行うため、次の事項を行うこと。

イ 関係請負人から上記(1)のイにより作成された作業手順書を提出させるとともに、次の事項を通知させること。

 (イ) 労働衛生を担当する者の氏名及び作業現場の巡視状況

 (ロ) 有機溶剤作業主任者又は有機溶剤作業主任者に準ずる者(以下「作業主任者等」という。)の氏名

 (ハ) 労働者の労働衛生に係る資格の取得状況

 (ニ) 労働者の有機溶剤に係る労働衛生教育の受講の有無

 (ホ) 作業日ごとの作業の開始及び終了予定時刻


ロ 作業主任者等が上記2に掲げる事項を適切に履行しているか確認するとともに、作業手順書の作成を指導する等、積極的にその履行を支援すること。


ハ 作業場所の巡視を行うこと。


ニ 作業手順書等により、作業の方法等が不適切であると判断した場合は、これを改善するよう指導すること。




3 作業管理

 事業者は、次に掲げる事項を実施すること。

(1) 作業開始前における管理

 イ なるべく危険有害性の少ない有機溶剤等を選択すること。

 ロ 使用する工具の破損及び機会設備の故障がないか確認すること。

 ハ 作業の条件に応じて、適切な保護具を選択すること。特に、呼吸用保護具の選択については下記5によること。

 ニ 保護具が労働者の人数分だけそろっているか確認すること。

 ホ 保護具に破損がないか確認すること。

 ヘ 保護具が清潔に保持されているか確認すること。

 ト 下記4により、使用する有機溶剤等の危険有害性を確認し、周知徹底すること。


(2) 作業中の管理

 イ 労働者に適切な保護具を使用させること。特に、呼吸用保護具を使用させるときには、下記5によること。

 ロ 労働者が有機溶剤に直接ばく露されないようにすること。

 ハ 作業手順書に従って作業を行うこと。


(3) 作業終了後における管理

 イ 残存する有機溶剤等の容器及び空容器は作業を行った日ごと持ち帰ること。

 ロ 残存する有機溶剤等の容器及び空容器を保管する場合は密閉した上で専用の保管場所に保管すること。

 ハ 保護具を清潔にしておくこと。




4 使用する有機溶剤等の危険有害性の確認と周知徹底

 事業者は、使用する有機溶剤等の危険有害性の確認等については、次に掲げる事項を実施すること。

(1) 使用する有機溶剤等に付されている化学物質安全データシート(以下「MSDS」という。)等により、その危険有害性を確認すること。

(2) 使用する有機溶剤等にMSDS等が付されていない場合には、提供する事業者にこれを求めること。

(3) 使用する有機溶剤等に含まれる化学物質の危険有害性について、労働者に周知徹底すること。

(4) 使用する有機溶剤等に係る事故発生時の措置を定め、労働者に周知徹底すること。

(5) 使用する有機溶剤等に含まれる化学物質の人体に及ぼす作用、取扱い上の注意事項、中毒発生時の応急措置等の情報を作業中の労働者が容易に分かることができるよう、見やすい場所に掲示すること。




5 呼吸用保護具の使用

 事業者は、呼吸用保護具を使用させる場合にあっては、次に掲げる事項を実施すること。


(1) 作業前の管理

 イ 酸素濃度が不明な作業場においては、送気マスク等を備えること。

 ロ 作業環境中に有機溶剤の蒸気と塗料の粒子等の粉じんが混在する作業については、次のいずれかによること。

 (イ) 粉じんマスクの検定にも合格している吸収缶を装着した有機ガス用防毒マスク(以下「防毒マスク」という。)を使用させること。

 (ロ) JIS T 8152に適合するフィルター付きの吸収缶を使用させること。

 (ハ) メーカーオプションのプレフィルターを吸収缶の前に取り付けて使用させること。


 ハ 防毒マスクを使用させる場合にはあっては、次によること。

 (イ) 当該防毒マスクの取扱説明書等及び破過曲線図、メーカーへの照会等に基づいて作業場所における有機溶剤の気中濃度、作業場所における温度、湿度及び気圧に対して余裕のある使用限度時間をあらかじめ設定すること。

 (ロ) 作業の予定時間に対して、防毒マスクが十分時間的に余裕を持って使用できるよう、必要に応じ防毒マスク用の予備の吸収缶を備えること。

 (ハ) 試験ガスの破過時間よりも著しく破過時間が短い有機溶剤に対して使用した吸収缶は、一度使用したものは使用させないこと。


(2) 作業中の管理

 イ 防毒マスクを使用させる場合にあっては、次によること。

 (イ) 防毒マスク及び防毒マスク用吸収缶に添付されている使用時間記録カードに、使用した時間を記録すること。

 (ロ) 防毒マスクを使用させる場合にあっては、上記(1)のハの(イ)により設定された使用限度時間を超えて防毒マスクを使用させないこと。




6 作業環境管理

 事業者は、次に掲げる事項を実施すること。

(1) 作業の条件に応じて、適切な換気設備等を設置すること。

(2) 換気設備が防爆構造を有していることを確認すること。

(3) 換気設備が1月を超えない期間ごとに点検を受けていることを確認すること。

(4) 換気方法及び使用する換気設備が、作業を行う場所の換気に十分な能力を有していることを確認すること。

(5) 作業中に、換気設備が正常に稼働していることを確認すること。

(6) 全体換気装置を使用する場合にあっては、上記(1)から(5)に掲げる事項以外に、次に掲げる事項について確認すること。

 イ 全体換気装置が有機溶剤の蒸気の発散源から離れすぎていないこと。

 ロ 排気量に見合った吸気量が確保されていること。

 ハ 作業を行っている労働者の位置に、新鮮な空気が供給されていること。

 ニ 汚染された空気が直接外気に向って排出されていること。

 ホ 外部に出た汚染された空気が作業場に再び入っていないこと。

 ヘ 風管が曲がる等により排気の流れが妨げられていないこと。

 ト 全体換気の妨げとなる障害物が全体換気装置と有機溶剤の蒸気の発散源との間に置かれていないこと。




7 警報装置の使用等

 地下室、浴室等の狭あいな場所において作業を行う場合にあっては、事業者は、次に掲げる事項を実施することが望ましいこと。

(1) 作業を行っている間、継続的に有機溶剤の気中濃度を測定すること。

(2) 警報装置を設置し、使用する場合には次の事項に留意すること。

 イ 警報装置の性能

 (イ) 使用する有機溶剤のばく露限界濃度以下まで濃度を検知できるものとすること。

 (ロ) 警報を発していることを作業中の労働者に速やかに知らせることができること。

 (ハ) 防爆性能を有すること。


 ロ 警報装置の設置場所

 (イ) 同一作業場内であっても、複数の場所で作業が行われる場合には、それぞれの作業場所に警報装置を設置すること。

 (ロ) 有機溶剤の気中濃度が最も高くなると考えられる場所に設置すること。

 ハ 警報装置の使用方法

 (イ) 有機溶剤等に含まれる化学物質の種類に応じて適切に警報を発するよう、警報装置のメーカー等への照会等により警報を設定すること。

 (ロ) 防毒マスクを使用する場合には、警報を発する濃度を当該防毒マスクの使用可能な範囲内に設定すること。

 (ハ) 作業を行っている間は、常時稼働させておくこと。


(3) 著しい濃度の上昇が認められた場合の措置

 上記(1)により、著しい濃度の上昇を認めた場合にあっては、次の措置を講ずること。

 イ 速やかに労働者及び作業場の付近の労働者を作業場所から退避させること。

 ロ 著しい濃度の上昇が認められた作業場所に初めて入る際は、十分換気し、適切な呼吸用保護具を着用すること。

 ハ 著しい濃度の上昇が認められた後、作業を再開する前には次の措置を講ずること。

 (イ) 換気の方法及び作業方法について必要な改善を行うこと。

 (ロ) 有機溶剤の気中濃度が十分下がっていることを確認すること。

 (ハ) 防毒マスクの吸収缶を交換すること。




8 健康管理

 事業者は、労働者に対して、次に掲げる事項を実施すること。

(1) 雇入れ時の健康診断、定期健康診断及び有機溶剤に係る健康診断を実施すること。

(2) 上記(1)の結果に基づき、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮の措置を講ずるほか、設備の設置又は整備その他の適切な措置を講ずること。




9 労働衛生教育

 事業者は、労働者に対して、次に掲げる事項を実施すること。その際、本ガイドラインの内容を踏まえてこれを行うこと。

(1) 雇入れ時等の教育

 新たに有機溶剤を用いる業務に従事する労働者(労働者の作業内容の変更を行った場合を含む。)に対して有機溶剤に含まれる化学物質の危険有害性、健康管理、作業管理の方法、作業環境管理の方法、換気設備の使用方法、呼吸用保護具等の保護具の使用方法、関係法令等について特別教育に準じた教育を行うこと。

(2) 日常の教育

 有機溶剤等を用いる業務に従事する労働者に対して、機会あるごとに有機溶剤の危険有害性、換気設備の使用方法及び呼吸用保護具等の保護具の使用方法等について教育を行うこと。





「1 趣旨」について

 有機溶剤中毒の予防対策については、従来から重点として施策を推進してきたところであるが、災害発生件数は近年、減少傾向になく、また、業種別にみると、建設業の割合が高く、例年全業種の半数近くを占めている。
 建設業において有機溶剤又は有機溶剤含有物(以下「有機溶剤等」という。)を用いる業務の特徴として、

(1) 作業の内容としては、壁面等の塗装、防水加工及びつや出しが多い。

(2) 作業の場所としては、急激な有機溶剤の気中濃度の上昇が起こりやすい地下室、浴室等通気が不十分な場所であることが多い。

(3) 作業に要する時間が短時間であったり、日々作業を行う場所が変わることが多い。

(4) 設備の密閉化あるいは局所排気装置の設置が行われていない場合が多い。

等が挙げられる。

 有機溶剤中毒予防のため、有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号。以下「有機則」という。)等労働安全衛生関係法令に基づく措置を行うことは当然であるが、これに加えて、上記の特徴を踏まえ、有機溶剤中毒予防の観点からみて必要な措置を本ガイドラインにおいて示すことにより、一層の予防対策の充実を図るものである。
 なお、有機則第1条第1号において、「有機溶剤」とは、労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。以下「令」という。)別表第6の2に掲げる有機溶剤をいうこと、「有機溶剤等」とは、有機溶剤又は有機溶剤含有物(有機溶剤と有機溶剤以外の物との混合物で、有機溶剤を当該混合物の重量の5パーセントを超えて含有するものをいう。)をいうことが規定されているところであるが、これら以外の有機溶剤又はその含有物であっても、化学物質等安全データシート(以下「MSDS」という。)等により、有機溶剤中毒を起こすおそれがあると判断される場合には、本ガイドラインの対象となるものである。




「2 労働衛生管理体制」について

(1) 作業主任者の選任等

 有機則第19条の2により定められた有機溶剤作業主任者の職務に加えて、建設業における有機溶剤中毒予防の観点から作業主任者等が行うべき事項を示したものである。
 なお、「有機溶剤作業主任者に準ずる者を選任」については、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「法」という。)第14条、令第6条第22号及び有機則第19条により定められた有機溶剤作業主任者の選任のほか、有機則の適用のない有機溶剤等であって、有機溶剤中毒を起こすおそれのあるものを用いる場合にあっても、建設業において塗装、防水等の業務を行う場合には、有機溶剤作業主任者と同等の知識を有する者のなかから有機溶剤作業主任者に準ずる者を選任し、本ガイドラインに掲げる職務を履行させることが望ましいことを示したものである。

イ ガイドライン2の(1)のイの「作業手順書」の記載内容を盛り込んだ様式例は別紙1のとおりである。

ロ ガイドライン2の(1)のイの(ヘ)の「換気の方法及び使用する換気設備」には、全体換気装置、局所排気装置及びプッシュプル型換気装置の別とその数のほか、蒸気を発散する設備を密閉している場合はその旨を記載するものである。

ハ ガイドライン2の(1)のイの(ト)の「使用する保護具」には呼吸用保護具である送気マスク、有機ガス用防毒マスク等の別とその数、保護手袋の数及び保護衣の数を記載するものである。

(2) 元方事業者による管理について

 関係請負人における有機溶剤中毒発生の予防のため、元方事業者が統括労働衛生管理を行うに当たって特に留意するべきことを示したものである。

イ ガイドライン2の(2)のロの「積極的にその履行を支援する」とは、元方事業者が、作業手順書の様式の提示や作成の指導を行うこと並びに作業の方法及び換気の方法について助言を行うことを示したものである。

ロ ガイドライン2の(2)のニの「作業手順書等」には、作業手順書のほか、ガイドライン2の(1)のイにより通知させた事項及び作業場所の巡視があり、「作業の方法等」には、作業方法のほか、換気の方法、保護具の種類と数及び作業主任者等の選任等の労働衛生管理体制がある。











「3 作業管理」について

 作業管理についての留意事項を作業開始前、作業中及び作業終了後に分けて示したものである。

(1) ガイドライン3の(1)のイの「危険有害性の少ない有機溶剤等を選択する」とは、塗装作業を行う場合に、有機溶剤を含有する塗料から水性の塗料に代替することを含むものである。ただし、水性の塗料等であっても、上記のMSDS等により、塗料等に含まれる化学物質の危険有害性について把握し、判断することが必要である。

(2) ガイドライン3の(2)のロの「適切な保護具を使用させる」とは、有機則により適切な呼吸用保護具の使用を徹底するほか、必要に応じて保護衣、保護手袋等を着用することを示したものである。
 有機溶剤中毒の発生事例をみると、保護具の不使用が中毒発生の原因の1つに挙げられる場合が多く、作業主任者等は、作業を行っている労働者が保護具を適切に使用しているか常に確認することが重要である。

(3) ガイドライン3の(2)のハの「有機溶剤等に直接ばく露されないようにする」とは、例えば、有機溶剤等をスプレーで吹き付けて天井、壁面等を塗装する場合に、塗装している面から有機溶剤がはね返り、有機溶剤等が作業を行っている労働者に直接ばく露することがあるため、このような場合には、作業の方法の変更や保護具の使用によって、直接のばく露を避ける必要があることを示したものである。

(4) ガイドライン3の(3)のニの「保護具を清潔にしておく」とは、呼吸用保護具の面体、保護衣及び保護手袋を使用した後、これを十分洗いあるいは拭き、有機溶剤の蒸気やほこりに触れない場所に保管すること等を示したものである。



















「4 使用する有機溶剤等の危険有害性の確認と周知徹底」について

 建設業における有機溶剤等の危険有害性の確認と周知徹底は、有機溶剤中毒予防のための作業管理の上で特に重要であることから、「3 作業管理」とは別に示したものである。

(1) ガイドライン4の「使用する有機溶剤等」として、建設業において多くみられるものとしては、トルエン、キシレン等を含有する塗料が挙げられる。

(2) ガイドライン4の(1)及び(2)の「MSDS等」には、MSDSのほか、容器又は包装に表示された事項がある。MSDS等には、化学物質の名称、成分及び含有量、有害性の種類、人体の及ぼす作用、貯蔵又は取扱い上の注意、事故時における応急措置等が記載されているため、有機溶剤等を選択したり、各事業場において具体的な予防対策をとる上で特に有用である。

(3) ガイドライン4の(5)の「掲示」に関しては、有機則第24条及び同条第2項に基づく昭和47年労働省告示第123号による労働者を有機溶剤業務に従事させるときの労働者に対する人体に及ぼす作用等の掲示についての規定のほか、MSDS等により労働者に知らせるべき事項を把握した場合は、これを併せて掲示する必要がある。




「5 呼吸用保護具の使用」について

 建設業において有機溶剤を用いる業務は、作業の場所や状況が時々刻々と変化する等により、呼吸用保護具の使用が特に重要な有機溶剤予防対策であることから、「3 作業管理」とは別にその使用方法について示したものである。

(1) ガイドライン5の(1)のイの「送気マスク等を備えること」とは、有機ガス用防毒マスク(以下「防毒マスク」という。)は酸素濃度18%以下の所では使用してはならないため、酸素濃度が18%を超えていることが確認されていない場合は、送気マスク又はこれと同時に新鮮な空気の供給が可能な空気呼吸器を備えてこれを使用する必要があることを示したものである。

(2) ガイドライン5の(1)のロの「作業環境中に有機溶剤の蒸気と塗料の粒子等の粉じんが混在する作業」には、吹付け塗装の作業等がある。

(3) ガイドライン5の(1)のハの(ハ)の「試験ガスの破過時間よりも著しく破過時間が短い有機溶剤」には、二硫化水素、アセトン等がある。また、「一度使用したものは使用させない」のは、吸収缶に吸着された有機溶剤が時間と共に脱着して面体側に漏れ出してくることがあるためである。




























「6 作業環境管理」について

 作業環境管理における留意事項を、建設業における業務の特徴を考慮して示したものである。

(1) ガイドライン6の(1)の「作業の条件に応じて、適切な換気設備等を設置する」とは、建設業における有機溶剤中毒の発生事例をみると、原因の1つとして換気が不適切であることが多いため、作業の場所や有機溶剤の気中濃度に応じて、適切に換気設備等を設置する必要があることを示したものである。例えば、建設業においては、全体換気装置を用いることが多いが、複数日にわたって一定時間以上同じ場所で作業を行う場合には局所排気装置を設置すること等が挙げられる。なお、「換気設備等」とは、局所排気装置、プッシュプル型換気装置及び全体換気装置のほか、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備をいう。

(2) ガイドライン6の(4)の「十分な能力を有していることを確認する」とは、換気装置の性能について、作業前に有機則第3章に規定された性能を満たしていることを確認する必要があることを示したものである。

(3) ガイドライン6の(6)では、建設業においては、作業の場所が時々刻々と変化する等により有機溶剤の蒸気が発散する設備の密閉化あるいは局所排気装置の設置が困難であり、これに代えて全体換気装置を設置する場合が多いこと、また、全体換気装置の使用方法が適切でないために十分な換気が行われていないことが災害発生原因の1つとなっていることを考慮し、特に全体換気装置の使用に当たっての留意事項を示したものである。













「7 警報装置の使用等」について

 地下室、浴室等の狭あいな場所において作業を行う場合、有機溶剤の気中濃度が急に著しく上昇し、使用している防毒マスク等の呼吸用保護具の使用可能な範囲を超えることがあるため、作業中に継続的に有機溶剤の気中濃度の測定及び監視を行い、一定以上の濃度に達すれば作業を中止し、作業方法の変更等の措置を講ずることによって中毒の予防を図る方法を示したものである。
 ガイドライン7の(1)でいう「測定」とは、作業中に計器を継続的に作動させる等により行うものであり、有機則等の関係法令に定める作業環境の測定とその結果の評価とは趣旨が異なるものである。
 また、この場合の測定には、作業を行っている労働者に気中濃度の上昇を音又は光によって迅速に知らせることができる警報装置が効果的と考えられる。

(1) ガイドライン7の「狭あいな場所」には、次のような場所がある。
地下室、浴室、洗面所、便所、階段、廊下、槽、タンク、ピット、暗渠、マンホール、箱桁、ダクト、水管及びビニールシート等で養生された空間

(2) ガイドライン7の(2)のイの(イ)の「ばく露限界濃度」には、日本産業衛生学会の定める許容濃度や米国産業衛生専門家会議(ACGIH)等が定めるばく露限界濃度がある。なお、作業環境評価基準(昭和63年労働省告示第79号)に定める管理濃度は、作業環境測定の結果を評価するために定められたものであるが、個々の化学物質について定められた数値を本ガイドラインの警報装置の性能要件や警報の設定の参考として差し支えない。

(3) ガイドライン7の(2)のイの(ロ)の「作業中の労働者に速やかに知らせることができる」とは、音、光等による警報が作業中に労働者に知らせるのに十分な強さを有するものであることをいう。

(4) ガイドライン7の(2)のロの(ロ)の「有機溶剤の気中濃度が最も高くなると考えられる場所」は、有機溶剤は空気より重いものが多く、通常床面に滞留するため、有機溶剤業務を行っている作業者の付近の床面となることが多い。

(5) ガイドライン7の(2)のハの(イ)については、別紙2に例を示すように警報装置のセンサーは有機溶剤等に含まれる化学物質の種類によって感度が異なるため、警報装置の種類によっては、使用する有機溶剤等の中の化学物質の種類によって設定を変えたり、複数の化学物質の混合物の場合はセンサーの感度の基準とする化学物質を考慮しなければならない場合があるので、取扱説明書等によるほか、必要に応じて警報装置のメーカや産業医等の専門家に照会を行う必要があることを示したものである。

(6) ガイドライン7の(2)のハの(ロ)の「防毒マスクの使用可能な範囲」については、防毒マスクの種類別に別紙3に示す。

(7) ガイドライン7の(3)のロの「適切な呼吸用保護具」とは、送気マスクあるいは使用限度時間に余裕のある防毒マスクのことをいう。

(8) ガイドライン7の(3)のハの(ロ)の「有機溶剤の気中濃度が十分下がっていることを確認する」に当たっては、警報装置又は検知管等を使用してこれを行うこと。













「8 健康管理」について

 法第66条、令第22条第1項第6号及び有機則第29条に基づく健康診断を行うほか、健康診断を行った際は、法第66条の2及び法第66条の3に基づき、その結果について産業医等に意見を聴いた上で、必要に
応じて配置の転換、作業時間の短縮等を行い、また、尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査において分布2あるいは分布3の者がみられる場合には、作業管理、作業環境管理に問題がないか検討を行う必要があ
ることを示したものである。




「9 労働衛生教育について」

 法第59条及び労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第35条に基づく労働衛生教育のほか、(昭和59年6月29日付け基発第337号による「有機溶剤業務従事者に対する労働衛生教育の推進について」
に沿った特別教育に準じた教育を、本ガイドラインの内容を踏まえて行うとともに、日常においても労働者に教育を行う必要があることを示したものである。