振動工具による障害の予防対策について

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チエンソー以外の
振動工具

による振動障害予防対策指針



チエンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害の予防について

昭50.10.20 基発第608号

 標記について、別添のとおり「チエンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害予防対策指針」を定めたので、関係事業者に周知徹底を図るとともに、適切な指導を行われたい。
 また、振動工具のメーカーに対しても、本指針の2の「工具の選定基準」に適合する工具の製造等について指導を行われたい。


 (別 添)
 チエンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害予防対策指針


1 対象業務の範囲

 この指針は、次の業務を対象とするものであること。

(1) さく岩機、チッピングハンマー、リベッテングハンマー、コーキングハンマー、ハンドハンマー、ベビーハンマー、コンクリートブレーカー、スケーリングハンマー、サンドランマー等のピストンによる打撃機構を有する工具を取り扱う業務

(2) エンジンカッター等の内燃機関を内蔵する工具で、可搬式のもの(チェンソーを除く。)を取り扱う業務

(3) 携帯用の皮はぎ機を取り扱う業務

(4) 携帯用のタイタンパーを取り扱う業務

(5) 携帯用研削盤、スイング研削盤、その他手で保持し、又は支えて操作する型式の研削盤(使用する研削といしの直径(製造時におけるものをいう。以下同じ。)が150mmを超えるものに限る。)を取り扱う業務(金属、石材等を研削し、又は切断する業務に限る。)

(6) 卓上用研削盤又は床上用研削盤(使用するといしの直径が150mmを超えるものに限る。)を取り扱う業務(鋳物のばりとり又は溶接部のはつりをする業務に限る。)



2 工具の選定基準

(1) 1の(1)から(5)までに掲げる業務に用いられる工具を使用しようとするときは、次の要件に適合しているものを選定すること。


 イ 振動について

 (イ) 工具に内蔵されている内燃機関は、振動ができるだけ小さいものであること。

 (ロ) 使用に伴って作用点から発生する振動が、発生部分以外の部分へ伝達しにくいものであること。

 (ハ) 次の要件に適合するハンドル又はレバー(以下「ハンドル等」という。)が取り付けられているものであること。

  a そのハンドル等のみを保持して作業を行うことができるものであること。
  b 適正な角度に取り付けられており、通常の使用状態で手指及び手首に無理な力をかける必要がないものであること。
  c 工具の重心に対し、適正な位置に取り付けられているものであること。
  d 防振ゴム等の防振材料を介して工具に取り付けられているものであること。
  e にぎり部は、作業者の手の大きさ等に応じたものであること。
  f にぎり部は、厚手で軟質のゴム等の防振材料で覆われていること。


 ロ 重量等について

 (イ) エンジンカッター、携帯用研削盤等手で保持し、かつ、その重量を身体で支えながら使用する工具については、軽量のものであること。

 (ロ) 作業に必要とする大部分の推力が機械力又はその自重で得られるものであること。

 (ハ) エアホース又はコードは、適正な位置及び角度に取り付けられているものであること。なお、エアーホースの取付け部は、自在型のものであることが望ましいこと。



 ハ 騒音について

 圧縮空気を動力源とし、又は内燃機関を内蔵する工具については、吸排気に伴って発生する騒音を軽減するためのマフラーが装着されているものであること。



 ニ 排気の方向について

 圧縮空気を動力源とし、又は内燃機関を内蔵する工具は、作業者が直接マフラーからの排気にさらされないものであること。



(2) 1の(6)に掲げる業務に用いられる工具を使用しようとするときは、加工の方法、被加工物の大きさ等に適合している支持台(ワークレスト)が取付けられているものを選定すること。




3 振動作業の作業時間の管理

 1の(1)から(6)までに掲げる業務(以下「振動業務」という。)の作業時間については、次によること。


(1) 1の(1)に掲げる業務のうち、金属又は岩石のはつり、かしめ、切断、鋲(びよう)打及び削孔の業務については、

 イ 振動業務とこれ以外の業務を組み合わせて、振動業務に従事しない日を設けるようにすること。

 ロ 1日における振動業務の作業時間(休止時間を除く。以下同じ。)は、2時間以内とすること。

 ハ 振動業務の一連続作業時間は、おおむね10分以内とし、一連続作業の後5分以上の休止時間を設けること。
   なお、作業の性質上、ハンドル等を強く握る場合又は工具を強く押える場合には、一連続作業時間を短縮し、かつ、休止時間の延長を図ること。


(2) 前記(1)以外の業務について

 イ 振動業務とこれ以外の業務を組み合わせて、振動業務に従事しない日を設けるようにすること。

 ロ 1日における振動業務の作業時間は、内燃機関を内蔵する可搬式の工具にあっては1日2時間以内とし、その他の工具にあってはできるだけ短時間とすること。

 ハ 振動作業の一連続作業時間は、おおむね30分以内とし、一連続作業の後5分以上の休止時間を設けること。




4 工具の操作時の措置

(1) 工具の操作方法

 イ ハンドル等以外の部分は、持たないこと。
   なお、ハンドル等は、軽く握り、かつ、強く押さないこと。

 ロ さく岩機等により削孔、掘さく、はつり等を行うとき(特に、削孔の開始時)は、たがねを手で保持しないこと。
   なお、作業の性質上、たがねを固定する必要がある場合は、適切な補助具を用いること。
   また、下向きのさく孔掘さく等を行うときは、軽くひじを曲げできるだけ力を抜いて工具を保持するようにすること。


(2) 作業方法について

 イ ハンドル等を強く握る作業方法、手首に強く力を入れる作業方法、腕を強く曲げて工具の重量を支える作業方法等の筋の緊張を持続するような作業の方法は、避けること。

 ロ 肩、腹、腰等手以外の部分で工具を推す等工具の振動が直接身体に伝わる作業方法は、避けること。

 ハ 直接排気を吸入する作業方法は、避けること。


(3) 工具の支持について

 工具の重量を手で支えて使用する工具は、できる限りアーム、支持台、スプリングバランサー、カウンターウエイト等により支持すること。


(4) 被加工物の支持について

 1の(6)に掲げる業務を行うときは、できる限り被加工物をワークレストで支えて研削すること。



5 たがね等の選定及び管理

 たがね、カツター等は、加工の目的、被加工物の性状等に適合したものを選定し、かつ、適切に整備されたものを使用すること。
 なお、適切な整備のためには、集中的な管理が望ましいものであること。



6 圧縮空気の空気系統について

(1) 送気圧を示す圧力計をホースの分岐部付近に取り付け、定められた空気圧の範囲内で工具を使用すること。

(2) 配管に、適切なドレン抜きを取り付け、必要に応じて圧縮空気のドレンを排出すること。



7 作業標準の設定

 工具の取扱い及び整備の方法並びに作業の方法について、適正な作業標準を具体的に定めること。



8 施設の整備

(1) 休憩設備等について

 イ 屋内作業の場合には、適切な暖房設備を有する休憩室を設けること。

 ロ 屋外作業の場合には、有効に利用することができる休憩の設備を設け、かつ、暖房の措置を講ずること。

 ハ 手洗等のため温水を供給する措置を講ずることが望ましいこと。


(2) 衣服等の乾燥設備について

 湧(ゆう)水のある坑内等において衣服がぬれる作業を行う場合には、衣服を乾燥するための措置を講ずること。


9 保護具の支給及び使用

(1) 防振保護具について

 軟質の厚い防振手袋等を支給し、作業者にこれを使用させること。

(2) 防音保護具について

 90ホン(90dB(A))以上の騒音を伴う作業の場合には、作業者に耳又は耳覆いを支給し、これを使用させること。



10 体操の実施

 作業開始時及び作業終了後に手、腕、肩、腹等の運動を主体とした体操を行うこと。
 なお、体操は作業中も随時行うことが望ましいこと。



11 健康診断の実施及びその結果に基づく措置

 昭和49年1月28日付け基発第45号通達・昭和50年10月20日付け基発第609号通達及び昭和50年10月20日付け基発第610号通達に基づき健康診断の実施及び適切な健康管理を行うこと。



12 安全衛生教育の実施

 作業者を振動業務に就かせ、又は作業者の取り扱う工具の種類を変更したときは、当該作業者に対し、振動の人体に与える影響、工具の適正な取扱い及び管理方法についての教育を行うこと。





チエンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害の予防について

昭50.10.20 労働衛生課長名内翰

標記については、昭和50年10月20日付け基発第608号をもって通達されたところであるが、これの運用にあたっては、下記に留意のうえ、その適正を期されたい。

1 「工具の選定基準」について

(1) 「防振ゴム等の防振材料」の「等」には、スプリングは含まれないものであること。

(2) 「重量を身体で支えながら使用する工具については、軽量のものであること」とした趣旨は、工具を手で保持し押えつける力及びハンドル等を握る力に応じて、振動の人体への伝達量が大きくなるため、これを防ぐことであること。
 なお、「軽量のもの」とは、おおむね4kg以下のものをいうものであること。やむを得ない場合でも8kgを超えないものをいうこと。

(3) 「エアーホース又はコードは、適正な位置角度に取り付けられているものであること」とした趣旨は、これらの重量により無理な力が作業者にかかることを防ぐことであること。

(4) 通達に示した工具以外の工具で、使用の際に振動を伴う工具(例えば、インパクトレンチ、エアドライバー、バイブレーティングシャー、ニブラー、手持鉋機、ジグソー)についてもハンドル等について本通達に示した基準に準じて改善を図るよう指導すること。



2 「振動作業の作業時間の管理」について

 「振動作業の作業時間」の限度は、工具の振動の強さ、振動の周波数、作業時の姿勢、工具の保持の方法、工具の整備状況、被加工物の性状等によって定まるものであり、今後多くの実例について、検討する必要がある。このため当面振動作業に労働者が従事する場合において当該管理を守らせることとしたものであること。



3 「工具の操作時の措置」について

 「削孔、はつり等を行うとき(特に削孔の開始時)はたがねを手で保持しないこと。」とした趣旨は、削孔の開始時において振動が特に著しく発生するので、これの身体への伝達を防ぐことであること。



4 「保護具の支給及び使用」について

 「防振保護具」はウレタンホーム等のように独立した気泡から成り、かつ、振動工具の操作に支障をきたさない限り厚い材料で製造されたものが望ましいものであること。



5 事例の報告について

 以下に示す事例をは握した場合には、本省労働衛生課あて速やかに報告されたい。

 (1) 本通達(昭和50年10月20日付け基発第608号)の別添1の(1)〜(6)に掲げる業務において発生した振動障害の事例

 (2) 工具の振動軽減のため補助具、保護具等の改善の事例

 (3) 予防対策に有効な作業基準の事例



6 その他
 
 振動作業従事者が身体を冷やすことは、振動障害防止の観点からも好ましくないとされているので、日常生活においても身体の保温に努めることが望ましいこと。


参 考

1 たがねを手で直接保持することを避けるために下図に示すような補助具が、採石関係の作業において使用されている。

2 振動の測定方法及び許容基準は、ISO-TC−108、SC4-WG3(国際標準化機構108、技術委員会第4分科会第3活動グループ)で1972年に審議され、その概要が別紙のとおり発表されている。


別 紙

手持振動工具の振動の測定基準(案)


1 手持振動工具振動レベル計の規格の概要

(1) 測定範囲

  8〜1000Hzの範囲において測定できるものであること。

(2) 標示は次によること。

 イ 振動加速度値…dBAL(AccelerationLebel)
  〔10-5m/sec2をOdBとしたdB標示〕

 ロ 振動レベル…dBVL(Vibration Lebel)

  振動加速度を振動感覚で補正した値である。
  振動感覚補正は図1に示すとおりであるが、これは振動の許容基準として提起されたものである。

(3) ピックアップ(振動測定用端子)は、これを振動工具に取り付けた際に当該振動系を乱さないようできるだけ小型軽量のものを用いること。

(4) 指示部は速、緩(Fast0.2秒、Slow0.1秒)の2つの動特性を有すること。


2 測定方法の概要

(1) 振動の測定は、図2に示すとおりにX、Y、Zの3方向について行うこと。

(2) ピックアップを固定する場合ねじを用いること。ただし、振動加速度が小さいときは、ホースバンド、接着剤、両面接着テープを用いてもよいこと。

(3) 振動計の出力は、メーターで直読するか、レベルコーダで記録すること。
  (データ解析を行うには、データレコーダーによる記録を用いることが望ましいこと。)

(4)
 (イ) 指示が変動するときの測定値は、指示の頻度解析を行うか、又はある時間毎に指示を読み中央値及び90%レンジで表すこと。

 (ロ) 衝撃性の振動の測定値は、メーターの緩のピークの数回の平均値で表わすこと。

(5) 振動計による測定と併せて次のことを記録すること。

 (イ) 振動工具の種類、形式、その他の使用条件で重要なもの。

 (ロ) ばく露時間に関するもの(休止時間を含む)。


3 許容基準

 図1に示されるとおりである。なお、断続ばく露の場合には、この値より長時間のばく露が許されること。