労働契約承継法(施行通達)

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会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律の施行について

(平成12年12月27日、労働省発地第81号、労発第248号)

労働大臣官房長、労働省労政局長から、地方労働局長あて



第1
 目的(法第1条)
第2 労働者への通知(法第2条第1項) 簡易分割の場合の特例(法第2条第3項)
第3 労働組合への通知(法第2条第2項) 簡易分割の場合の特例(法第2条第3項)
第4 継承される営業に主として従事する労働者の範囲(法第2条第1項第1号)
第5 労働契約の承継(法第3条及び第4条)
第6 異議の申出(法第4条及び第5条) 異議の申出の効果(法第4条第4項及び第5条第3項)
第7 労働協約の承継等(法第6条)
   労働協約の分割計画書等への記載法第6条第1項)、労働協約の合意に係る部分の承継(法第6条第2項)、合意がない場合の債務的部分及び基準部分の取扱い(法第6条第3項)
第8 労働者の理解と協力(法第7条)
第9 指針(法第8条)
第10 法附則 施行期日(法附則第1条)、中央省庁等改革法施行法の一部改正(法附則第2条)









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第1 目的(法第1条)

 法の基本的考え方は次のとおりであること。

(1) 労働契約の承継についての特例
 会社をめぐる最近の社会経済情勢にかんがみ、会社がその営業の全部又は一部を他の会社に承継させる会社分割の制度の創設を主たる内容とする「商法等の一部を改正する法律(平成12年法律第90号。以下「商法等改正法」という。)」が本年5月24目に成立し、同月31日に公布されたところであること。
 商法等改正法により新設された商法(明治32年法律第48号)第2編第4章第6節ノ3又は有限会社法(昭和13年法律74号)第63条ノ2から第63条ノ9までの規定により、分割をする会社(以下「分割会社」という。)の権利義務は、分割計画書又は分割契約書(以下「分割計画書等」という、)の記載に従い、分割によって設立する会社又は分割こよって営業を承継する会社(以下「設立会社等」という。)に承継される(商法第374条ノ1O第1項等)ことから、分割会社がその雇用する労働者との間で締結している労働契約が分割計画書等に記載された場合又は記載されなかった場合は、当該労働契約は、当該労働者の意思に関係なく、設立会社等に承継され又は承継されないこととなるものであること。
 この場合、当該労働者が、その意思に関係なく、主として従事してきた業務から切り離される場合が起こり得るが、これは労働者の利害に大きな影響を与え得るため、法は、この場合には、当該労働者に一定の条件下で異議を申し出る権利を与えることとし、商法及び有限会社法(以下「商法等」という。)の特例を定めることにより当該労働者の保護を図ったものであること(商法等改正法附則第5条第2項参照)。
 なお、「労働契約の承継」とは、労働契約に基づき使用者としての地位から生じる権利義務のすべてが包括的に承継されることであること。
 おって、保護の対象となる労働者は、いわゆる正社員に限らず、短時間労働者等すべての種類の労働者を含むものであること。

(2) 労働協約の承継についての特例等
 また、法は、会社の分割に当たり、分割会社と労働組合との間で締結している労働協約から生じる権利義務の承継については、商法等の規定にかかわらず、当該分割会社と労働組合との合意がない場合には分割計画書等の記載に従った権利義務の承継を認めず、特別の定めをすることとしたものであること。
 さらに、法は、会社の分割に当たっての労働組合法(昭和24年法律第174号)第16条の基準に係る部分についての労働協約の効力について特別の定めをするとともに、労働者の理解と協力に関する事項等について規定するものであること。





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第2 労働者への通知(法第2条第1項)

1 基本的考え方
 会社の分割に際し、その利害に大きな影響を受け得る一定の労働者に対し、法第4条又は第5条の異議の申出を行うか否かを判断するために必要かつ十分な情報を提供して、異議の申出の権限を効果的たらしめるため、分割会社は、当該労働者に対して、事前に、一定の事項について、書面で通知しなけれぱならないこととしたものであること。

2 具体的内容

(1) 通知の時期
 法第2条第1項の労働者への通知は、分割計画書等を承認する株主総会又は社員総会(以下「株主総会等」という。)の会日の2週間前までにする必要があるが、商法等の規定に基づき分割計画書等を本店に備え置く日(以下「分割計画書等の本店備置き日」という。)又は株主総会等を招集するための通知を発する日のうちいずれか早い日と同じ日に行われることが望ましいものであること(指針第2の1(1))。
 なお、通知を郵便等により行う場合は、民法第97条第1項により、相手方に到達した時よりその効力を生ずるものであるので、株主総会等の会日の2週間前までに当該労働者に到達する必要があること(指針第2の1(1))。

(2) 通知事項
 労働者に通知すべき事項は、次のものであること。
イ 分割に関し、分割会社が当該労働者との間で締結している労働契約を設立会社等が承継する旨の分割計画書等中の記載の有無(法第2条第1項柱書き)

ロ 法第4条第1項に規定する、分割会社が定める労働者が異議を申し出る期限日(同)

ハ 通知の相手方たる労働者が法第2条第1項各号のいずれに該当するかの別(則第1条第1号)。
 これは、当該労働者にとって、使用者が、自己を当該承継される営業に主として従事してきたものと認識しているか又は主として従事してきていないものと認識しているかのいずれであるかを知らなければ、何故自己の労働契約が承継されることになるのか又は承継されないことになるのかが分からず、対応が困難となるため、則で規定したものであること。

ニ 承継される営業の概要(則第1条第2号)

ホ 分割後の分割会社及び設立会社等の名称、所在地、事業内容及び雇用することを予定している労働者の数(則第1条第3号)

へ 分割をなすべき時期(則第1条第4号)

ト 分割後の分割会社又は設立会社等において当該労働者について予定されている従事する業務の内容、就業場所その他の就業形態(則第1条第5号)
 賃金、労働時間等の労働条件は分割の際に変更されるものではない(下記第5の2(4))ので通知する必要はないが、就業形態については、労働契約に基づき使用者の裁量により決定できる場合が少なくないため、分割後予定されている就業形態について通知することとしたものであること。なお、「その他の就業形態」には、交替制勤務における就業時間帯が含まれるものであること。

チ 分割後の分割会社及び設立会社等のそれぞれがその負担すべき債務の履行の見込みがあること及びその理由(則第1条第6号)
 なお、通知に記載する内容は、商法等の規定に基づき本店に備え置く書類の要旨や、株主招集通知に記載する要領によることもできるものであること。

リ 法第4条第1項又は第5条第1項の異議がある場合はその申出を行うことができる旨及び異議の申出を行う際の当該申出を受理する部門の名称及び所在地又は担当者の氏名、職名及び勤務場所(則第1条第7号)


(3) 「書面」による通知
 「書面」による通知には、電子情報処理組織を使用する方法(いわゆる電子メール又はホームページによるもの)は含まれないものであること。通知者の署名等が要件とされていないため、ファクシミリにより相手方の支配圏内にあるファックス機器に備えられた用紙に印字する方法によることは認められる(相手方のファックス機器の不調に伴う危険負担は、通知者が負う)ものであること。

(4) 通知を行う労働者の範囲
 分割会社が法第2条第1項の規定により通知を行う労働者は、当該分割会社が雇用する労働者のうち、承継される営業に主として従事する労働者(同項第1号)及び当該労働者以外の労働者であって分割計画書等にその者が当該分割会社との間で締結している労働契約を設立会社等が承継する旨の記載があるもの(同項第2号)であること(「主として従事する」の判断については、下記第4参照)。


3 簡易分割の場合の特例(法第2条第3項)
 分割会社から設立会社等に承継させる財産の価額の合計額が分割をする会社の最終の貸借対照表の資産の部に計上した額の合計額の20分の1を超えない場合には、株主総会の承認を得ないで分割を行うことができる(商法第374条ノ6第1項及び第374条ノ22第1項)ため、この場合においては、法第2条第2項の労働者に対する通知の期限日の基準となる株主総会の会日がないことから、この期限日について、「分割計画書等を承認する株主総会等の会日の2週間前までに」を「分割計画書等が作成された日から起算して2週間以内に」と読み替えることとしたものであること。





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第3 労働組合への通知(法第2条第2項)

1 基本的考え方
 分割会社との間で労働協約を締結している労働組合は、会社の分割に伴い、当該労働協約に関する取扱いについて重要な利害関係にあるため、分割会社は、当該労働組合に対し、労働者の場合と同様に、分割計画書等を承認する株主総会等の会日の2週間前までに、分割に関する一定の事項を書面により通知しなけれぱならないこととしたものであること。

2 具体的内容

(1) 通知の時期
 上記第2の2(1)と同様であること。

(2) 通知事項
 労働組合に通知すべき事項は、次のものであること。

イ 分割に関し、分割会社が当該労働組合との間で締結している労働協約を設立会社等が承継する旨の分割計画書等中の記載の有無(法第2条第2項)

ロ 承継される営業の概要(則第3条第1号)

ハ 分割後の分割会社及び設立会社等の名称、所在地、事業内容及び雇用することを予定している労働者の数(則第3条第1号)

ニ 分割をなすべき時期(則第3条第1号)

ホ 分割後の分割会社及び設立会社等のそれぞれがその負担すべき債務の履行の見込みがあること及びその理由(則第3条第1号)
 なお、通知に記載する内容は、商法等の規定に基づき本店に備え置く書類の要旨や、株主招集通知に記載する要領によることもできるものであること。

ヘ 分割会社との間で締結している労働契約が設立会社等に承継される労働者の範囲及び当該範囲の明示によっては当該労働組合にとって当該労働者の氏名が明らかとならない場合には当該労働者の氏名(則第3条第2号)

ト 設立会社等が承継する労働協約の内容(法第2条第2項の規定に基づき、分割会社が、当該労働協約を設立会社等が承継する旨の当該分割計画書等中の記載がある旨を通知する場合に限る。)(則第3条第3号)

(3) 「書面」による通知
 上記第2の2(3)と同様であること。

(4) 通知を行う労働組合の範囲
 分割会社が法第2条第2項の規定により通知を行う労働組合は、当該分割会社との間で労働協約を締結している労働組合であるが、労働組合の組合員が当該分割会社との間で労働契約を締結している場合には、通知後団体交渉の進展如何では労働協約が締結される可能性もあること等から、当該分割会社は、当該労働組合との間で労働協約を締結していない場合であっても、当該労働組合に対し、法第2条第2項の規定の例により通知を行うことが望ましいものであること(指針第2の1(3))。


3 簡易分割の場合の特例(法第2条第3項)
 上記第2の3と同様であること。





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第4 承継される営業に主として従事する労働者の範囲(法第2条第1項第1号)

1 則第2条で定めるもの
 承継される営業に主として従事する労働者の範囲として、次のものがあること。

(1) 分割計画書等を作成する時点において、承継される営業に主として従事する労働者(分割会社が当該労働者に対し当該承継される営業に一時的に主として従事するように命じた場合その他の分割計画書等を作成する時点において当該時点後に当該承継される営業に主として従事しないこととなることが明らかである場合を除く。)(則第2条第1号)

(2) (1)の労働者以外の労働者であって、分割計画書等を作成する時点以前において分割会社が承継される営業以外の営業(当該分割会社以外の者のなす営業を含む。)に一時的に主として従事するよう命じたもの又は休業を開始したもの(当該労働者が当該承継される営業に主として従事した後、当該承継される営業以外の営業に従事し、又は当該休業を開始した場合に限る。)その他の分割計画書等を作成する時点において承継される営業に主として従事しないもののうち、当該時点後に当該承継される営業に主として従事することとなることが明らかであるもの(則第2条第2号)

2 指針による判断基準

(1) 分割計画書等作成時点における判断`
 承継される営業に主として従事する労働者か否かの判断は、原則として、分割計画書等を作成する時点で判断し、その判断基準は、指針で、次のように示していること(別添3図1から4まで)。

イ 分割計画書等を作成する時点において、承継される営業に専ら従事する労働者は、法第2条第1項第1号の労働者に該当するものであること(指針第2の2(3)イ(イ))。

ロ 労働者が承継される営業以外の営業にも従事している場合は、それぞれの営業に従事する時間、それぞれの営業における当該労働者の果たしている役割等を総合的に判断して当該労働者が当該承継される営業に主として従事しているか否かを決定するものであること(指針第2の2(3)イ(ロ))。
 ほとんどの場合、最も長い時間従事している営業に「主として従事している」と認められるであろうが、短い時間しか従事していない場合であっても、当該営業において責任ある地位にある一方、長い時間従事している営業においては待機時間が長い、補助的作業しかしていない等の事情がある場合には、上記の「総合的に判断」する必要が生じるものであること。

ハ 総務、人事、経理、銀行業における資産運用(内部資産運用に限る。)等のいわゆる間接部門に従事する労働者であって、承継される営業のために専ら従事している労働者は、法第2条第1項第1号の労働者に該当するものであること。
 労働者が、承継される営業以外の営業のためにも従事している場合は、上記ロの例によって判断することができるときには、これによること(指針第2の2(3)イ(ハ))。
 いわゆる間接部門については、当該労働者が複数の営業のために従事している場合、どの営業のために最も従事していると認められるかで判断するが、人事部門なら各営業における労働者数、経理部門なら各営業で扱う金銭額、資産運用部なら各営業から資産運用部に回す資産の額、庁舎管理部門なら各営業で占有する庁舎の面積、総合受付なら各営業への来客数で判断することなどが一応の目安として考えられるものであること。
 労働者が、いずれの営業のために従事するのかの区別なくしていわゆる間接部門に従事している場合で、上記ロの例によっては判断することができないときは、特段の事情のない限り、当該判断することができない労働者を除いた分割会社の雇用する労働者の過半数の労働者に係る労働契約が設立会社等に承継される場合に限り、当該労働者は、法第2条第1項第1号の労働者に該当するものであること(指針第2の2(3)イ(ハ))。
 指針第2の2(3)イ(ハ)第3段落の記述は、判断すべき要素についての資料が整備されていない場合等で、いわゆる主従の判断がつきかねる場合には、事業活動にとって重要な要素である「労働者」の数を判断の基準とするのが適当であることによるものであること。この場合において、「特段の事情」とは、単純に労働者数を判断の基準とすることが社会常識に反する場合を指すものであること。


(2) 分割計画書等作成時点で判断することが適当でない場合

 (1)については、分割計画書等作成の一時点でみているため、一時的に当該承継される営業に従事している又は従事していないに過ぎない場合が起こり得るため、このような場合として、則第2条第1号括弧書きや同項第2号で規定しているもののほか、指針で次のように示していること。

イ 分割計画書等作成時点において承継される営業に主として従事する労働者であっても、分割会社が、研修命令、応援命令、一定の期間で終了する企画業務への従事命令等一時的に当該承継される営業に当該労働者を従事させた場合であって、当該命令による業務が終了した場合には当該承継される営業に主として従事しないこととなることが明らかであるものは、法第2条第1項第1号の労働者に該当しないものであること(別添3図5参照)。
 また、育児等のために承継される営業からの配置転換を希望する労働者等であって分割計画書等作成時点以前の分割会社との間の合意により分割計画書等作成時点後に当該承継される営業に主として従事しないこととなることが明らかであるものは、法第2条第1項第1号の労働者に該当しないものであること(別添3図6参照)(指針第2の2(3)口(イ))。

ロ 分割計画書等作成時点前において承継される営業に主として従事していた労働者であって、分割会社による研修命令、応援命令、一定の期間で終了する企画業務への従事命令(出向命令を含む。)等によって分割計画書等作成時点では一時的に当該承継される営業以外の営業に主として従事することとなったもののうち、当該命令による業務が終了した場合には当該承継される営業に主として従事することとなることが明らかであるものは、法第2条第1項第1号の労働者に該当するものであること(別添3図7参照)。
 分割計画書等作成時点前において承継される営業に主として従事していた労働者であって、その後休業することとなり分割計画書等作成時点では当該承継される営業に主として従事しないこととなったもののうち、当該休業から復帰する場合は再度当該承継される営業に主として従事することとなることが明らかであるものは、法第2条第1項第1号の労働者に該当するものであること(別添3図7参照)。

 労働契約が成立している採用内定者、育児等のための配置転換希望者等分割計画書等作成時点では承継される営業に主として従事していなかった労働者であっても、当該時点後に当該承継される営業に主として従事することとなることが明らかであるものは、法第2条第1項第1号の労働者に該当するものであること(別添3図8参照)(指針第2の2(3)口(ハ))。

ハ 過去の勤務の実態から判断してその労働契約が設立会社等に承継されるべき又は承継されないべきことが明らかな労働者に関し、分割会社が、合理的理由なく会社の分割後に当該労働者を設立会社等又は分割会社から排除することを目的として、当該分割前に配置転換等を意図的に行った場合における当該労働者が法第2条第1項第1号の労働者に該当するか否かの判断については、当該過去の勤務の実態に基づくべきものであること(指針第2の2(3)口(ハ))。





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第5 労働契約の承継(法第3粂及び第4条)

1 労働契約の分割計画書等への記載

(1) 労働者の氏名の特定
 商法等の規定に基づき分割会社から設立会社等に承継される労働契約を分割計画書等に記載する場合には、当該承継される労働契約に係る労働者のすべての氏名が特定できることが必要であること。当該承継される労働契約に係る労働者のすべての氏名が特定できるときには、分割会社の特定の事業場を明示して、当該事業場のすべての労働者又は特定の者を除くすべての労働者に係る労働契約が当該承継される労働契約である旨を分割計画書等に記載することができること(指針第2の2(1))。

(2) 包括的記載
 労働契約の承継について分割計画書等に記載する場合、労働契約の内容を構成する権利義務の一部分のみを取り出して記載することは法が予定していないものであること。

(3) 承継される営業に従事しない労働者に係る労働契約の記載
 商法等の規定による会社の分割は、「営業」を単位として設立会社等に承継させるものである(商法第373条、第374条ノ16等)ので、承継される営業に全く従事しない労働者に係る労働契約は承継された営業を構成するものとはいえず、当該労働者に係る労働契約は、分割計画書等への記載をしても商法等の規定に基づく効力は生じず、設立会社等に承継されないものであること。
 この場合において、当該労働者に係る労働契約を設立会社等に移転させるには、分割会社と設立会社等との個別の労働契約に係る権利譲渡及び債務引受けの合意が必要であることのほか、当該労働者の民法第625条第1項の承諾が必要であること(指針第2の2(3)二(口))。


2 労働契約の承継

(1) 基本的考え方

イ 承継される営業に主として従事する労働者の労働契約の承継
 法第2条第1項第1号に掲げる労働者が分割会社との間で締結している労働契約であって、分割計画書等に設立会社等が承継する旨の記載があるものは、当該分割計画書等に係る分割の効力が生じた時に、当該設立会社等に承継されることとなること(法第3条)。
 法第2条第1項第1号に掲げる労働者が分割会社との間で締結している労働契約であって、分割計画書等に設立会社等が承継する旨の記載がないものは、法第4条第1項から第3項までの規定に従い、書面により異議を申し出たときは、当該分割計画書等に係る分割の効力が生じた時に、当該設立会社等に承継されることとなること(法第4条第4〕頁)。

ロ 承継される営業に主として従事しない労働者の労働契約の承継
 法第2条第1項第2号に掲げる労働者(承継される営業に全く従事しない労働者を除く。)が分割会社との間で締結している労働契約であって、分割計画書等に設立会社等が承継する旨の記載があるものは、法第5条第1項の異議を同項の期限日までに申し出なかったときは、当該分割計画書等の記載に従い、当該設立会社等に承継されることとなること(商法第374条ノ10第1項、第374条ノ26第1項等)。

ハ その他の場合
 上記イ及びロ以外の場合は、労働契約は、分割計画書等への記載によっては設立会社等に承継されないものであること。

(2 )承継の効果
 労働契約の承継により、当該労働契約の内容はそのまま設立会社等と当該労働者との間の労働契約の内容となり、当該労働契約に基づき使用者としての地位から生じる分割会社の権利義務の全てが設立会社等に承継されるものであること。
 したがって、労働契約の内容たる当該労働者に係る労働条件は、そのまま維持されること(指針第2の2(4)イ(イ))。

(3) 承継される労働契約に基づく権利義務

 承継される権利義務としては、次のものがあること。

イ 承継される権利
 承継される労働契約に基づく権利としては、労働契約の本旨(下記(4)参照)に従った労務の提供を受ける権利のほか、売掛金等を労働者が代理受領した場合の当該売掛金の引き渡し請求権、労働契約の一環として貸し付けた金銭の返還請求権等を含むものであること。

ロ 承継される義務
 承継される労働契約に基づく義務としては、報酬(諸手当、退職金等を含む。)の支払い義務のほか、福利厚生に係る義務、いわゆる社内預金の返還義務、安全配慮義務違反による損害賠償義務(民法第415条)等を含むものであること。


(4) 承継される労働契約の内容として維持される労働条件(指針第2の2(4)イ(イ))

 設立会社等に承継される労働契約の内容として維持される労働条件は、労働協約、就業規則又は労働契約に規定されている労働条件のほか、確立された労働慣行であって分割会社と労働者との間で黙示の合意が成立したもの又は民法第92条の慣習が成立していると認められるもののうち労働者の待遇に関する部分についても、労働契約の内容である労働条件として維持されるものであること。
 また、年次有給休暇の日数、退職金額等の算定、永年勤続表彰資格等に係る勤続年数については、分割会社におけるものが通算されるものであること。
 社宅の貸与制度、社内住宅融資制度等の福利厚生に関するものについても、労働協約又は就業規則に規定され制度化されているもの等分割会社と労働者との間の権利義務の内容となっていると認められるものについては、労働契約の内容である労働条件として維持されるものであること。この場合において、その内容によって設立会社等において同一の内容のまま引き継ぐことが困難な福利厚生については、当該分割会社は、当該労働者等に対し、会社の分割後の取扱いについて情報提供を行うとともに、法第7条及び商法等改正法附則第5条並びに指針第2の4により、代替措置等を含め当該労働者との間の協議等を行い、妥当な解決を図るべきものであること。
 なお、法人税法(昭和40年法律第34号)第84条第3項の規定に基づく適格退職年金その他の外部拠出制の企業年金に係る退職年金で、事業主と金融機関等との間で締結される退職年金契約に基づき労働者に支払われるものについては、当該退職年金の内容である給付の要件、水準等が労働協約又は就業規則に規定される等、その受給権が労働契約の内容となっている場合には、会社の分割によって分割会社から設立会社等に労働契約が承継される労働者の受給権は、労働条件として維持されるものであること。

(5) 会社の分割を理由とする労働条件の不利益変更等

 労働契約の内容である労働条件の変更については、労働組合法における労使間の合意や民法の基本原則に基づく契約の両当事者問の合意を必要とすることとされていることから、会社の分割の際には、会社は会社の分割を理由とする一方的な労働条件の不利益変更を行ってはならず、また、会社の分割の前後において労働条件の変更を行う場合には、法令及び判例に従い、労使間の合意が基本となるものであること(指針第2の2(4)イ(口))。

(6) 会社の分割を理由とする解雇

イ 普通解雇や整理解雇について判例法理が確立しており、会社は、これに反する会社の分割のみを理由とする解雇を行ってはならないこと(指針第2の2(4)イ(ハ))。

ロ 普通解雇に関する判例としては、「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効となる」旨の最高裁判所の判例(日本食塩製造雇用関係存在確認請求上告事件(最二小判昭和50.4.25民集29.4.456頁))があること。
 整理解雇に関する判例としては、東洋酸素地位保全等仮処分申請控訴事件(東京高判昭54.10.29労判330号71頁)において、「企業運営上の必要性を理由とする使用者の解雇の自由も一定の制約を受けることを免れない。」旨判示され、その後の地方裁判所及び高等裁判所において、整理解雇の有効要件として、解雇の必要性、解雇回避努力、被解雇者の選定の合理性、手続の妥当性の4要件が必要であるとする判断が採用され、当該4要件を欠く整理解雇が権利の濫用として、当該解雇を無効とする判決等が数多く出されているものであること(高田製鋼所従業員地位確認等請求控訴事件(大阪高判昭57.9.30労判398号38頁)等)。

(7) 福利厚生に関する留意事項

イ 恩恵的性格を有する福利厚生について
 分割会社と労働者との間の権利義務の内容となっていると認められる福利厚生については、労働契約の内容である労働条件として維持されるものであるが、このような性格を有しない恩恵的性格を有するものについては、当該分割会社は、当該労働者等に対し、会社の分割後の取扱いについて情報提供を行うとともに、法第7条及び商法等改正法附則第5条並びに指針第2の4により、当該労働者等との間の協議等を行い、妥当な解決を図るべきものであること(指針第2の2(4)口)。


ロ 法律により要件が定あられている福利厚生について

 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第9章第1節の規定に基づく厚生年金基金、健康保険法(大正11年法律第70号)第3章の規定に基づく健康保険組合、勤労者財産形成促進法(昭和46年法律第92号)第6条の金融機関等、中小企業退職金共済法(昭和34年法律第160号)第6章の規定に基づく勤労者退職金共済機構等分割会社以外の第三者が、各法令の規定に従い福利厚生の全部又は一部を実施している場合においては、会社の分割後の当該福利厚生の取扱いについては、商法第2編第4章第6節ノ3、有限会社法第6章及び法の規定によるもののほか、各法令の規定に従った取扱いが必要であるため、当該分割会社は、次のことに留意して、労働者等に対し、当該分割後の取扱いについて情報提供を行うとともに、法第7条及ぴ商法等改正法附則第5条並びに指針第2の4により、当該労働者等との間の協議等を行い、妥当な解決を図るべきものであること(指針第2の2(4)ハ)。

(イ) 厚生年金基金

 厚生年金基金(以下「基金」という。)は、厚生年金保険法第9章第1節の規定に基づき、任意に設立される法人であり、会社の分割が行われても、当然には分割会社の雇用する労働者を加入員とする基金から設立会社等の雇用する労働者を加入員とする基金に変更されるものではないこと。
 この場合において、基金の加入員たる分割会社の雇用する労働者であってその労働契約が設立会社等に承継されたものに対する厚生年金保険法第106条の老齢についての給付を継続する方法としては次のようなものがあるが、いずれも基金の規約の変更又は基金の新設若しくは分割が必要なため、主務大臣の認可が必要となるものであること。

a 新設分割の場合
(a) 分割会社に係る基金の規約を一部改正し、商法又は有限会社法の規定による新設分割によって設立する会社(以下「設立会社」という。)を当該基金の適用事業所に追加する方法

(b) その労働契約が設立会社に承継される労働者に関して分割会社に係る基金の分割を行い、設立会社を適用事業所とする基金を新たに設立する方法

b 吸収分割の場合

(a) 承継会社に基金がある場合
 分割会社に係る基金の加入員の年金給付等の支給に関する権利義務を商法又は有限会社法の規定による吸収分割(以下「吸収分割」という。)によって営業を承継する会社(以下「承継会社」という。)に係る基金に移転させる方法又は分割会社に係る基金と承継会社に係る基金との合併を行う方法

(b)承継会社に基金がない場合
 分割会社に係る基金の規約を一部改正し、承継会社を当該基金の設立事業所に追加する方法又は承継会社を適用事業所とする基金を新たに設立する方法

(ロ) 健康保険組合
 健康保険組合は、健康保険法第3章の規定に基づき対象事業所を基礎として任意に設立される法人であり、基本的には(イ)の基金の場合と同様の対応となること。

(ハ) 財産形成貯蓄契約等
 財産形成貯蓄契約等(財産形成貯蓄契約、財産形成年金貯蓄契約及び財産形成住宅貯蓄契約をいう。以下同じ。)は、勤労者と金融機関等が当該勤労者の財産形成に関し締結する契約であり、その契約の締結の際勤労者は、勤労者財産形成促進法第6条第1項第1号ハ等により事業主と賃金控除及び払込代行について契約を締結するものとされており、当該契約は、労働契約の内容である労働条件として維持されるものであること。したがって、会社の分割によって分割会社から設立会社等に労働契約が承継される場合、当該契約に基づく賃金控除及び払込代行を行う義務も設立会社等に承継されることとなるため、当該承継される労働契約に係る労働者は、当該財産形成貯蓄契約等を存続させることができるものであること。なお、この場合、当該設立会社等の事業場において労働基準法(昭和22年法律第49号)第24条第1項の労使協定があることが必要となるものであること。また、設立会社等は金融機関等との間で所定の手続を行う必要があること。

(ニ) 中小企業退職金共済契約
 中小企業退職金共済契約は、中小企業退職金共済法第2章の規定に基づき、中小企業者(共済契約者)が、各従業員(被共済者)につき、勤労者退職金共済機構(以下「機構」という。)と締結する契約であり、当該中小企業者が機構に掛金を納付し、機構が当該従業員に対し退職金の支払を行うことを内容とするものであること。また、当該従業員が機構から退職金の支払を受けることは、当該中小企業者と当該従業員との間の権利義務の内容となっていると認められ、労働契約の内容である労働条件として維持されるものであること。また、会社の分割により事業主が異なることとなった場合であっても、当該分割によって労働契約が分割会社から設立会社等に承継される従業員について、共済契約が継続しているものとして取り扱うこととなるものであること。なお、この場合、設立会社等は機構との間で所定の手続を行う必要があること。

3 労働契約の承継に関する留意事項

(1) 違法な目的による配置転換
 分割会社は、不当労働行為の意図をもって会社の分割後の分割会社又は設立会社等から当該労働者を排除する等の違法な目的のために、当該分割前に配置転換等を行ってはならず、このような配置転換等は無効となるものであること(指針第2の2(3)ニ(イ))。

(2) 分割会社と労働者との間で見解の相違がある場合
 法第2条第1項第1号の労働者に該当するか否かの判断に関し、労働者と分割会社との間で見解の相違があり、その結果、労働契約の承継に関する見解の相違があるときは、当該分割会社は、法第7条及ぴ商法等改正法附則第5条並びに指針第2の4により、当該労働者との間の協議等によって見解の相違の解消に努めるものとすること。この場合においては、次のことに留意すべきであること。なお、この協議等によっても見解の相違が解消しない場合においては、最終的には労働者又は分割会社いずれか一方の主観に左右されることなく裁判によって解決を図ることができること(指針第2の2(3)ハ)。
 また、都道府県労働局による相談等への対応も行われるものであること。

イ 承継される営業に主として従事する労働者であって、分割計画書等にその者が分割会社との間で締結している労働契約を設立会社等が承継する旨の記載がないものが、法第2条第1項の通知を適法に受けなかった場合(当該分割会社が当該労働者を当該承継される営業に主として従事していないものとして取り扱い、当該通知をしなかった場合のほか、意図的に当該通知をしなかった場合を含む。)は、当該労働者は、当該分割後においても、当該設立会社等に対してその雇用する労働者たる地位の保全又は確認を求めることができ、また、当該分割会社に対してその雇用する労働者ではないことの確認を求めることができるものであること。

ロ 承継される営業に主として従事しない労働者であって分割計画書等にその者が分割会社との間で締結している労働契約を設立会社等が承継する旨の記載があるものが法第5条第1項の異議の申出をした場合において、当該分割会社が当該労働者を当該承継される営業に主として従事しているため当該労働者に係る労働契約を設立会社等に承継させたものとして取り扱うときは、当該労働者は、当該分割後においても、当該分割会社に対してその雇用する労働者たる地位の保全又は確認を求めることができ、また、当該設立会社等に対してその雇用する労働者ではないことの確認を求めることができるものであること。承継される営業に主として従事しない労働者であって分割計画書等にその者が分割会社との間で締結している労働契約を設立会社等が承継する旨の記載があるにもかかわらず、法第2条第1項の通知を適法に受けなかった場合もこれに準ずるものであること。

(3) 商法第374条ノ10第2項等による分割会社等の責任

 商法第374条ノ4第1項(有限会社法第63条ノ9第1項において準用する場合を含む。)及び商法第374条ノ20第1項(有限会社法第63条ノ9第1項において準用する場合を含む。)に規定する「知れたる債権者」への催告に関し、分割会社の労働者であって、当該分割会社に対し、未払い賃金債権、いわゆる過去勤務に対応する退職金債権、安全配慮義務違反に対する損害賠償債権、いわゆる社内預金の返還債権等を有するものは、これらの規定の「知れたる債権者」に該当するものであること。したがって、分割会社が、当該労働者に対して当該催告をしなかった場合(催告をなすべき時期に債権が確定していなかった場合を含む。)には、商法第374条ノ1O第2項(有限会社法第63条ノ6第1項において準用する場合を含む。)及び商法第374条ノ26第2項(有限会社法第63条ノ9第1項において準用する場合を含む。)の規定に基づき、分割計画書等に基づき当該債権に対応する債務の弁済の責めに任じないこととされている分割会社又は設立会社等であっても、原則として、設立会社等又は分割会社とともに、当該債務の弁済の責めに任じられる(ただし、分割会社又は設立会社等が分割の日に有していた財産の価額を限度とする)ので留意すべきであること。
 なお、設立会社等が、分割に際して発行する株式の総数を分割会社に割り当てる場合で、労働契約が設立会社等に承継されない労働者に関しては、この限りではないこと。また、吸収分割の場合で、承継会社が商法第374条ノ20第1項ただし書等に基づき個別催告に代えて必要事項を日刊新聞紙に掲げて公告をなす場合についても、この限りではないこと。





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第6 異議の申出(法第4条及ぴ第5条)

1 基本的考え方

 上記第5の2(1)イ及びロで述べたとおり、承継される営業に主として従事する労働者であって分割計画書等にその労働契約が設立会社等に承継される旨の記載が無いもの及び承継される営業に主として従事しない労働者であって分割計画書等にその労働契約が設立会社等に承継される旨の記載が有るものに、異議を申し出る権限を与えたものであること。

2 具体的内容

(1) 異議の申出の内容等

 法第4条第1項の異議の申出については、当該労働者は、当該労働者の氏名及び当該労働者に係る労働契約が当該設立会社等に承継されないことについて反対である旨を書面に記載して、同項の期限日までに当該分割会社が指定する異議の申出先に通知すれば足りること(指針第2の2(2)イ)。
 法第5条第1項の異議の申出については、当該労働者は、当該労働者の氏名、当該労働者が法第2条第1項第2号に掲げる労働者に該当する旨及び当該労働者に係る労働契約が当該設立会社等に承継されることについて反対である旨を書面に記載して、法第5条第1項の期限日までに当該分割会社が指定する異議の申出先に通知すれば足りるものであること(指針第2の2(2)イ)。
 なお、分割会社は、労働者が任意に対応することを期待し、労働者に異議の申出を行う理由等の記載を求めることは可能であるが、当該理由等の記載の有無は、本法に基づく異議の申出の効力に何ら影響を与えるものではないこと。

(2) 「書面」について

 異議の申出に係る書面については、上記第2の2(3)と同様であること。

(3) 期限日に関する留意事項

 法第4条第1項又は第5条第1項の異議の申出を郵便等により合う場合は、民法第97条第1項の規定により、相手方に到達した時よりその効力が生ずるものであるので、法第4条第1項又は第5条第1項の期限日までに当該分割会社に到達する必要があること(指針第2の2(2)ロ)。
 異議の申出の期限日は、分割計画書等を承認する株主総会等の会日から当該会日の前日までの日の間で分割会社が定めるが(法第4条第1項)、当該労働者に対する通知がされた日と分割会社が異議申出ができる日として定めた期限日との間に少なくとも13日間を置かなければならないこと(法第4条第2項)。

(4) 異議の申出に係る取扱い

 分割会社は、法第4条第1項又は第5条第1項の異議の申出を行おうとする労働者に対しては、異議の申出が容易となるような異議の申出先の指定をするとともに、勤務時間中に異議の申出に必要な行為が行えるよう配慮すること(指針第2の2(2)ハ)。
 また、分割会社及び設立会社等は、労働者が法第4条第1項又は第5条第1項の異議の申出を行おうとしていること又は行ったことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと(指針第2の2(2)ハ)。

(5) 簡易分割における異議の申出の期限日の定め

 簡易分割の場合における分割会社が定める異議の申出の期限日については、分割をなすべき日の前日までの日までにおいて定めること(法第4条第3項)。


3 異議の申出の効果(法第4条第4項及び第5条第3項)

(1) 形成権
 適法な異議の申出により、当該異議を申し出た労働者の労働契約が設立会社等に当然に承継される効果を発生させるか又は当然に承継の効果を無効とするという意味において、民事上の効力を発生させるものであること。この場合において、この効果については、分割会社や設立会社等の意思の影響を受けるものではないこと。

(2) 事前の放棄
 異議の申出は、分割会社からの通知を受理してから労働者が判断して行うものであるので、当該権利を事前に放棄することはできないものであること。





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第7 労働協約の承継等(法第6条)

1 労働協約の分割計画書等への記載(法第6条第1項)

 労働協約の規定のうち、使用者(分割会社)と労働組合との合意に係る部分(労働組合法第16条の基準以外の部分をいう。以下「債務的部分」という。)については、使用者(分割会社)の権利義務を規定するものであるので、そのうち設立会社等に承継させる部分を分割計画書等に記載することができるものであること(法第6条第1項)。この意味において、法第6条第1項は、商法等の分割による権利義務の承継の原則を確認したものであること。
 一方、労働組合法第16条の基準に関する労働協約の規定については、使用者(分割会社)と労働組合との権利義務を規定するものではないので、当該部分については、分割計画書等に記載しても承継の対象となり得る権利義務とはならないこと。
 なお、「労働協約」とは、労働組合法第14条の労働協約を指し、分割会社と労働組合との間で締結し、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印したものであること。


2 労働協約の合意に係る部分の承継(法第6条第2項)

(1) 基本的な考え方
 法第6条第1項により分割計画書等に記載された債務的部分は、商法等の分割に関する規定からすれば、本来、分割会社と労働組合との合意を条件とせず、分割計画書等の記載に従い、当然に設立会社等に承継されるものであるが、法第6条第2項は、同条第3項と相まって、労働組合の利益の保護の観点から、分割計画書等の記載に従い設立会社等に債務的部分を承継させるには、分割会社と労働組合との合意がある場合に限ることとしたものであること(合意がない場合については、同条第3項による)。

(2) 債務的部分の例
 債務的部分の例としては、使用者(分割会社)の義務として、労働組合に対する便宜供与の義務(在籍専従者を認める義務、組合事務所や組合掲示板を無償で貸与する義務、組合費をチェック・オフする義務等)、争議解決金の支払い義務、いわゆる平和義務等の不作為義務等があり、使用者(分割会社)の権利として、不動産の有償貸与の場合の賃料請求権、いわゆる平和義務等の不作為請求権等が含まれるものであること。

(3) 全部又は一部の合意
 法第6条第2項の合意は、債務的部分の全部又は一部の承継について行うことができるものであること。例えば、「「会社は、労働組合に対し100平方メートルの規模の組合事務所を貸与する。」という労働協約の内容のうち40平方メートル分の規模の組合事務所を貸与する義務については当該会社に残し、残り60平方メートル分の規模の組合事務所を貸与する義務については設立会杜に承継させる。」という内容の分割計画書等の記載及び合意も可能であること(指針第2の3(1)口(イ))。

(4) 合意の時期
 法第6条第2項の分割会社と労働組合との間の合意については、分割計画書等の作成前にあらかじめ労使間で協議をすることにより合意しておくことが望ましいこと(指針第2の3(1)イ)。


3 合意がない場合の債務的部分及び基準部分の取扱い(法第6条第3項)

(1) 合意がない場合の債務的部分の取扱い
 債務的部分に関する法第6条第2項の合意がないときは、当該部分に関しては、法第6条第3項の規定により、分割会社は、分割後も労働協約の当事者たる地位にとどまり、当該労働組合の組合員に係る労働契約が設立会社等に承継されるときは、当該設立会社等は、当該労働協約と同一の内容を有する労働協約の当事者たる地位に立つこととなるものであること。この場合、当該設立会社等には、当該労働協約に係る権利義務関係の本旨に従った権利又は義務が生じることとなるものであること(指針第2の3(1)ロ(ロ))。
 したがって、いわゆる平和義務等の不作為に関する規定では、分割会社及び設立会社等が当該労働組合との間で、それぞれ当該規定上の不作為を請求し又は遵守することとなるが、一定数の組合専従者の承認義務、一定の面積の組合事務所貸与等当該分割会社が当該労働組合に対し一定内容の履行を約している場合にあっては、当該分割会社及ぴ設立会社等は、当該債務の履行に当たって、当該労働組合に対し、不真正連帯債務を負うものであること。

(2) 労働組合法第16条の基準に関する部分の取扱い

 労働組合法第16条の基準に関する部分については、法第6条第3項の規定により、当該分割会社は、当該分割後もなお当該労働協約の当事者たる地位にとどまり、当該労働組合の組合員に係る労働契約が設立会社等に承継されるときは、当該設立会社等は、当該労働協約と同一の内容を有する労働協約の当事者たる地位に立つこととなるものであること(指針第2の3(1)ロ(ハ))。


4 承継会社における既存の労働協約との関係

 労働協約は使用者と労働組合との間で締結されるものであることから、一の会社にその所属する労働組合が異なる労働者が勤務している場合には、同一の事項に関し、各労働組合ごとに内容の異なる労働協約が締結され、併存する場合もあり得るものであること(指針第2の3(2))。
 したがって、吸収分割の場合であって、法第6条第3項の規定により分割会社との間で締結されている労働協約と同一の内容の労働協約が承継会社と当該労働組合との間で締結されたものとみなされるときは、当該承継会社が同一の事項に関して複数の労働組合と内容の異なる労働協約を締結したこととなるため、同種の労働者の中で労働条件が異なることは起こり得ること(指針第2の3(2))。


5 その他の留意事項

(1) 労働組合法第17条の一般的拘東力等
 労働組合法第17条の一般的拘束力については、その要件として、「一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったとき」でなけれぱならないこととされており、会社の分割前に分割会社の工場事業場において労働組合法第17条が適用されていた場合であっても、当該分割の際に当該要件を満たさなくなった分割会社又は設立会社等の工場事業場においては、労働組合法第17条は適用されないこと。
 労働組合法第7条第1号ただし書のいわゆるショップ制に係る労働協約についても同様であること(指針第2の3(3)イ)。

(2)労働基準法上の労使協定
 労働基準法第24条、第36条等の労使協定については、民事上の権利義務を定めるものではないため、分割会社が分割計画書等に記載することにより設立会社等に承継させる対象とはならないものであること。これらの労使協定については、会社の分割の前後で事業場の同一性が認められる場合には、引き続き有効であると解され得るものであること。事業場の同一性が失われた場合は、該当する労働基準法上の免罰効が失われることから、当該分割後に再度、それぞれの規定に基づいて労使協定を締結し届出をする必要があるものであること(指針第2の3(3)ロ)。
 なお、船員法(昭和22年法律第100号)の規定による労使協定も同様の扱いがされるものであること(指針第2の5(3))。





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第8 労働者の理解と協力(法第7条)

1 商法等改正法附則第5条の協議

(1)労働者との事前の協議
 商法等改正法附則第5条の規定により、分割会社は、分割計画書等の本店備置き日までに、承継される営業に従事している労働者と、会社の分割に伴う労働契約の承継に関して協議をするものとされていること。
 分割会社は、当該労働者に対し、当該分割後当該労働者が勤務するとととなる会社の概要、当該労働者が法第2条第1項第1号に掲げる労働者に該当するか否かの考え方等を十分説明し、本人の希望を聴取した上で、当該労働者に係る労働契約の承継の有無、承継するとした場合又は承継しないとした場合の当該労働者が従事することを予定する業務の内容、就業場所その他の就業形態等について協議をするものとされていること(指針第2の4(1)イ)。

(2) 法第7条の労働者の理解と協力を得る努力との関係 
 当該協議は、承継される営業に従事する個別労働者の保護のための手続であるのに対し、法第7条の労働者の理解と協力を得る努力は、下記2のとおり、会社の分割に際し分割会社に勤務する労働者全体の理解と協力を得るためのものであって、実施時期、対象労働者の範囲、対象事項の範囲、手続等に違いがあるものであること(指針第2の4(1)ロ)。

(3) 労働組合法上の団体交渉権との関係
 会社の分割に伴う労働者の労働条件等に関する労働組合法第6条の団体交渉の対象事項については、分割会社は、当該協議が行われていることをもって労働組合による当該分割に係る適法な団体交渉の申入れを拒否できないものであること(指針第2の4(1)ハ)。

(4) 協議に当たっての代理人の選定
 労働者が個別に民法の規定により労働組合を当該協議の全部又は一部に係る代理人として選定した場合は、分割会社は、当該労働組合と誠実に協議をするものとされていること(指針第2の4(1)ニ)。

(5) 協議開始時期
 分割会社は、分割計画書等の本店備置き日までに十分な協議ができるよう、時間的余裕をみて協議を開始するものとされていること(指針第2の4(1)ホ)。

(6) 分割無効の原因となる協議義務違反
 商法等改正法附則第5条で義務付けられた協議を全く行わなかった場合又は実質的にこれと同視し得る場合における会社の分割については、分割無効の原因となり得るとされていることに留意すべきであること(指針第2の4(1)へ)。


2 法第7条の労働者の理解と協力を得る努力

(1) 内容
 分割会社は、法第7条の規定に基づき、当該分割に当たり、そのすべての事業場において、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との協議その他これに準ずる方法によって、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めるものとすること。
 「その他これに準ずる方法」としては、名称の如何を問わず、労働者の理解と協力を得るために、労使対等の立場に立ち誠意をもって協議が行われることが確保される場において協議することが含まれるものであること(指針第2の4(2)イ)。

(2) 対象事項
 分割会社がその雇用する労働者の理解と協力を得るよう努める事項としては、次のようなものがあること(指針第2の4(2)ロ)。

イ 会社の分割を行う背景及び理由
ロ 会社の分割後の分割会社及び設立会社等の負担すべき債務の履行の見込み
ハ 労働者が法第2条第1項第1号に掲げる労働者に該当するか否かの判断基準
ニ 法第6条の労働協約の承継に関する事項
ホ 会社の分割に当たり、分割会社又は設立会社等と関係労働組合又は労働者との間に生じた労働関係上の問題を解決するための手続

(3) 労働組合法上の団体交渉権との関係
 会社の分割に伴う労働者の労働条件等に関する労働組合法第6条の団体交渉の対象事項については、分割会社は、法第7条の手続が行われていることをもって労働組合による当該分割に係る適法な団体交渉の申入れを拒否できないものであること(指針第2の4(2)ハ)。

(4) 開始時期等
 法第7条の手続は、遅くとも商法等改正法附則第5条の規定に基づく協議の開始までに開始され、その後も必要に応じて適宜行われるものであること(指針第2の4(2)二)。






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第9 指針(法第8条)

1 基本的考え方
 労働大臣は、分割会社及ぴ設立会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置に関し、その適切な実施を図るために必要な指針を定めることができるものであること。

2 その他の指針事項
 指針で定めた事項は、適宜、本通達で引用したところであるが、引用しなかったものとして、次のものがあること。

(1) 安全衛生委員会等従業員代表を構成員とする法律上の組織に関する事項 
労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第19条の安全衛生委員会等法令上企業又は事業場規模が設置要件となっている委員会等については、会社の分割後に設置要件を満たさなくなった場合であっても、分割会社及び設立会社等において当該分割前と同様の委員会等を設置することが望ましいこと(指針第2の5(1))。

 船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和42年法律第61号)第11条の安全衛生委員会についても同様の扱いをするものであること。(指針第2の5(3))。

(2) 派遣労働者の取扱い
 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号)の規定に従い派遣労働者が分割会社に派遣されている場合であって、当該派遣労働者に係る労働者派遣契約が当該分割会社から設立会社等に承継されたときには、当該設立会社等が派遣先の地位を承継することとなることから、同法第40条の2、第40条の3等の派遣労働者を受け入れる期間に係る規定の適用に当たっては、当該期間は、会社の分割前の分割会社における期間も通算して算定されるものであること(指針第2の5(2))。

(3) 雇用の安定
 分割会社及び設立会社等は、会社の分割後の労働者の雇用の安定を図るよう努めること(指針第2の5(4))。





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第10 法附則

1 施行期日(法附則第1条)
 法の施行期日を商法等改正法の施行の日から施行することとしていたが、商法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成12年政令第 号)により、商法等改正法の施行の日は、平成13年4月1目とされたものであること。ただし、中央省庁等改革関係法施行法の一部改正規定は、平成13年1月6日以降効力を生ずることが必要であることから、公布の日(平成12年5月31日)から施行されることとしたものであること。

2 中央省庁等改革関係法施行法の一部改正(法附則第2条)
 法第2条中「労働省令」並びに第7条及び第8条中「労働大臣」については、平成13年1月6日以降はそれぞれ「厚生労働省令」及び「厚生労働大臣」とする必要があることから、中央省庁等改革関係法施行法(平成11年法律第160号)の一部を改正したものであること。











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