整理解雇の4要件

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整理解雇の4要件

整理解雇の4要件

ポイント  (そのいずれが欠けても解雇権の濫用となり、無効である)

1 人員整理の必要性  余剰人員の整理解雇を行うには、相当の経営上の必要性が認められなければならない。
 一般的に、企業の維持存続が危うい程度に差し迫った必要性が認められる場合は、もちろんであるが、そのような状態に至らないまでも、企業が客観的に高度の経営危機下にある場合、人員整理の必要性は認められる傾向にある。
 人員整理は基本的に、労働者に特段の責められるべき理由がないのに、使用者の都合により一方的になされるものであることから、必要性の判断には慎重を期すべきであるとするものが多いが、判例によっては、企業の合理的運営上やむを得ない必要性があれば足りるとして、経営裁量を広く認めるものもある。
2 解雇回避努力義務の履行  期間の定めのない雇用契約においては、解雇は最後の選択手段であることを要求される。
 役員報酬の削減、新規採用の抑制、希望退職者の募集、配置転換、出向等によって、整理解雇を回避するための相当の経営努力がなされ、整理解雇に着手することがやむを得ないと判断される必要がある。
 この場合の経営努力をどの程度まで求めるかで、若干、判例の傾向は分かれる。
3 被解雇者選定の合理性  まず人選基準が合理的であり、あわせて、具体的人選も合理的かつ公平でなければならない。
4 手続の妥当性  整理解雇に当たって、手続の妥当性が非常に重視されている。
 説明・協議、納得を得るための手順を踏んでいない整理解雇は、他の要件を満たす場合であっても無効とされるケースも多い。







判例の傾向
(注)ここで取り上げている福岡県労働福祉会館事件は、整理解雇判決の代表例というわけではなく、整理解雇4要件に沿って判示している裁判例として使用したものである。

整理解雇の4要件に沿って判示している例
福岡県労働福祉会館事件

その他
判例の傾向

 

整理解雇の4要件

講じた手段等

判断等

1.人員整理の必要性
経営状況と経営上講じた手段


経営状況

・事業収入の伸び悩み
・昭和55年から62年度まで(8年間にわたり)毎年860万円ないし3,800万円の赤字を計上し、繰越損失は3億458万円に達していた。

経営上講じた手段

@テナント料の値上げ−−直ちには見込めない状況

A経費に占める人件費の額が年間4,300万円にのぼり、公認会計士の財務分析においても人件費の抜本的な見直しが強調されていたこと。
 融資先からその前提として人件費削減を含む経営合理化の必要を指摘されていたこと。

B本件解雇前に維持管理費配分率の変更、料金値上げ、退職者不補充等一定の経営努力を(するなど)、、、漫然と右赤字状況を放置していたわけではないこと
 
 そのまま推移すればやがて被告の事業経営が破綻することは必至。
 人員整理を含む抜本的な経営合理化を実施する差し迫った必要が存在していた

 経営合理化の方策の一つとして、大手門会館の業務を全て外部委託とし人件費の削減を図ったことは被告の経営判断上まことにやむを得ない措置と解する
必要性の判断に関する判例の動向

1.解雇は労働者に対し社会的経済的に極めて大きな影響を与えものであり、しかも、本件のような余剰人員の整理を目的の一つとする解雇(整理解雇)は、労働者に特段の責められるべき理由がないのに、使用者の都合により一方的になされるものであることから、
たとえ、企業合理化のためにいかなる経営施策を講ずるかが経営者の固有の権限に属するとしても、(注:最近の判れはこのように経営裁量を認めた上でその権利の濫用を判断する傾向が強い。下記「経営判断と裁判所のチェック」参照)その有効性の判断は慎重になされるべきである。(大阪地裁H6.3.30シンコーエンジニアリング事件)


経営判断と裁判所のチェック
 経済目的からの業務縮小の判断について明らかに考慮すべきでないことを考慮に入れていないかどうか、当然、考慮に入れるべきことを考慮から落としていないかどうか、判断の過程、判断の仕方に不自然、不合理な点がないかどうかについて吟味し、(それが認められない場合)使用者の判断を相当とする審理方式をとるべき(横浜地裁川崎支部S57.7.19日本鋼管事件)
 
 
2.解雇回避努力 @割増退職金の提案−−正規退職金の120パーセント支給
A解雇予定者への再就職先のあっせん
B同あっせんに際して、賃金のほか業種及び勤務先等原告らの労働条件がなるべく下がらないよう配慮
 
 被告は、解雇回避のために最大限の努力をしたものと認めるのが相当である。
@
(人員減量)新規採用の原則中止、減耗人員の不補充、人員再配置、出向者の増員(人件費削減)役員報酬のカット、管理職の30%勇退、一般従業員に対する時間外労働の規制、大量の一時帰休の実施(経営努力)内部留保金300億円の取り崩し(希望退職者の募集)勇退基準を示して募集するも目標に達しなかった
その結果としての「整理解雇」であり、有効。(松山地裁西条支部S62.5.6住友重機愛媛製造所事件)

A
園児の減少に対応し保母2名の指名解雇を行った事件で「事前に、被上告人を含む上告人の職員に対し、人員整理がやむを得ない事情などを説明して協力を求める努力を一切せず、かつ、希望退職者募集の措置を採ることもなく、解雇日の6日前になって突如通告した本件解雇は、労使間の信義に反し是認することができないとした原判決に所論の違法はない。」最高裁第一小S58.10.27あさひ保育員事件)

☆「希望退職者の募集、関連会社への出向など解雇を回避するための努力を怠り、再就職のあっせんなど従業員の犠牲を最小限にする努力も怠った」として整理解雇が無効とされた事件(青森地裁八戸支部S52.2.25八戸鋼業事件)
 
 
 
3.解雇基準の合理性   → 解雇は、被告の職員全員を対象とする人員整理の一環としてなされたものであるから、解雇基準の設定及びその適用に関して、被告に葱意的要素が介入する余地はなく、当該要件の存否は、本件においては問題にならない。
@他の従業員に対しては他部門へ異動できることを通知しているのに原告に対しては単に解雇を通告するのみである等明らかに平等を欠く扱いをしている(解雇無効、東京地裁H9.9.26日運事件

A形式的には全員解雇であるが、会社存続に必要な人材が再雇用されているので、実質的には整理解雇である。(大阪地裁H7.7.27日証事件)

B単に、移籍か労働条件の切り下げに従わないものを解雇するというに過ぎない(もので、整理解雇の基準とならない。)(大阪地裁H7.3.29土藤生コンクリート事件)
 
4.解雇手続の相当性 @合計13回にわたって団体交渉を続けている。
A交渉の席上被告から組合に対して被告の経営状況や整理解雇に至った経緯、経営改善案等に関して説明がなされ、退職の勧試や再就職のあっせん等もなされていること
B被告が右交渉を拒否した事実はなく、また右交渉において被告が不誠実な対応をしたという事実も認められないこと
 
→ 被告は組合との間で本件解雇に関して十分に協議を尽くしたものと解するのが相当である。 @使用者は、解雇の必要性と時期・規模・方法につき説明を行い、協議すべき信義則上の義務を負う。
説明義務は使用者に課せられた重要な義務であり、結果的にみて本件解雇は避けられぬものであったにせよ、これらの事実を持って瑕疵が治癒されたとは言い難い。解雇の遅れによる人件費の増大を危惧するが、それ故に全く抜き打ち的な解雇が是認されるわけではない。本件解雇は、整理解雇の4要件のうち、説明協議義務を尽くすことなくなされたものというべきであるから、無効というほかない。(大阪地裁H7.7.27日証事件)