諸外国のパート労働均等原則に係る法制について

■HOMEPAGE

■640/480 ■パート労働情報





(資料出所/労働省・H12.4パートタイム労働に係る雇用管理研究会報告---参考資料2)

諸外国におけるパートタイム労働法制等の概要について


1 検討の趣旨等
 (1)パートタイム労働の現状
 (2)政策、法制等に係る状況
 (3)検討事項


2 ドイツにおける状況について
 (1)パートタイム労働の現状
 (2)法制の沿革及び政策的背景
 (3)不平等取扱い禁止原則等の概要
   イ パートタイム労働者の定義
   ロ 不平等取扱い禁止原則
 (4)不平等取扱い禁止原則に係る社会的背景等


3 フランスにおける状況
 (1)パートタイム労働の現状
 (2)法制の沿革及び政策的背景
   イ 基盤の確立---均等・保護立法の制定
   ロ 失業対策としてのパートタイム労働の促進とワークシェアリングの推進
 (3)権利均等原則等の概要
   イ パートタイム労働者の定義
   ロ 権利均等原則
   ハ 報酬比例原則
   二 優先権
 (4)権利均等原則等の運用状況
 (5)報酬比例原則に係る社会的背景等


4 ILO「パートタイム労働に関する条約」等について
 (1)採択の経緯
 (2)パート条約における関係規定
   イ パートタイム労働者の定義
   ロ 加盟国が講ずべき措置
 (3)勧告における関係規定


5 EU「パートタイム労働に関する協約に関する指令」について
 (1)採択に至る背景等について
 (2)パートタイム労働指令の内容について


6 均等取扱いに係る法制における比較の対象となるべきフルタイム労働者の範囲等

7 まとめ

別添  ドイツ連邦共和国における賃金等級と格付けの例



諸外国における法制等の概要について




1 検討の趣旨等


(1)パートタイム労働の現状

イ パートタイム労働の現状を主要な欧米諸国についてみた場合、我が国同様、パートタイム労働者は長期的に増加傾向にある。
 また、アメリカを除き、雇用労働者に占めるパートタイム労働者の割合も上昇傾向にあるが、国による差異が大きく、例えば、オランダ38.3%、イギリス25.3%、ドイツ18.9%、アメリカ17.9%、フランス16.3%などとなっている(アメリカ、イギリス、フランス、オランダについては1997年、ドイツについては1996年の統計による。以下同じ)。

ロ これら各国とも、パートタイム労働者に占める女性の割合は高いものとなっているが、中でもドイツが87.2%と最も高く、次いでイギリス82.9%、フランス82.7%、オランダ74.9%、アメリカ68.0%の順となっている。

 また、女性労働者に占めるパートタイム労働者の割合は、オランダ67.9%、イギリス44.1%、ドイツ35.1%、フランス31.6%、アメリカ26.4%とならており、国による差異が顕著である。
 一方で、男性労働者に占めるパート労働者の割合は低く、オランダ16.7%、アメリカ10.7%、イギリス8.2%、フランス5.1%、ドイツ4.0%となっているが、1990年代に入ってイギリス、ドイツ、フランスではその割合が高まる傾向がみられる。

ハ パートタイム労働者の増加については、女性の労働市場への進出との相関関係がみられるが、詳細にみれば、例えば1980年から97年までの間における女性労働者の増加に占めるパートタイム労働者の増加の割合をみた場合、アメリカが21.5%、イギリスが46.0%であるのに対し、フランスとオランダが92.6%、ドイツが84.6%であるなど、国ごとの差異がみられる。

二 産業別にみた場合、いずれの国においてもサービス産業分野におけるパートタイム労働者比率が高く、とりわけアメリカが43.1%、オランダが41.8%、イギリスが40.8%で際立って高い。これに対し、ドイツは21.4%、フランスは19.8%と相対的に低いものとなっている。

〔注1〕本資料における諸外国のパートタイム労働の現状については、1998年「海外労働情勢」第2部を参照した。
〔注2〕パートタイム労働者の定義等に違いがあるため、各国間の正確な比較は困難であることに留意する必要がある。




(2)政策、法制等に係る状況


イ パートタイム労働者の処遇や労働条件について、フルタイム労働者との均等取扱いや差別的取扱いの禁止(以下単に「均等取扱い」という。)について定める法制は、ドイツ、フランス、オランダ等においてみられる。これらの国々については、程度の差はあるが、失業対策の観点から、パートタイム労働を促進させることにより雇用を創出させる政策が採用されている点でも共通している。

ロ 国際労働機関(ILO)においては、1994年6月に「パートタイム労働に関する条約(第175号)」が採択されており、その中で均等取扱いに係る規定が設けられている。ただし、同条約の批准国は、これまでのところ、キプロス・ガイアナ・モーリシャスの3カ国にとどまっている。
 また、欧州連合(EU)においては、1997年12月に「パートタイム労働に関する指令」が採択されており、その中でも、均等取扱いに係る規定が設けられている。各加盟国においては、これを受けて2000年1月までにその国内への取り入れを図るよう求められている。

ハ アメリカは、フランス、ドイツ等の大陸ヨーロッパ諸国に比べ労働分野における法的規制が少ないが、パートタイム労働についても特別な法制は存在せず、パートタイム労働者の処遇や労働条件の決定については、労使間の話し合いや労働市場における市場原理に委ねられている。
 また、イギリスにおいても、基本的にはアメリカと同様の状況にあり、均等取扱いに関する一般的な法規制は存在しない。ただし、上記のロのパートタイム労働に関する指令について、同国も対象とすることが1998年4月に決定されている。



(3)検討事項



 以上のように、均等取扱いをめぐる政策、法制等のあり方は、それぞれの国における労働市場の構造や「平等」についての考え方等の違いを背景として、@差別的取扱いを法的に禁止するものと、A労使自治や市場原理に委ねるものの大きく二つに分かれている。これに対し、「均衡の考慮」を規定する我が国のパートタイム労働法第3条のあり方は我が国独自の特徴を持つものとみることができる。

 もっとも、「労使による比較の物差しつくり及び処遇の均衡又は均等への取組み」に係る情報提供等に資するべく検討を行うという観点からは、均等取扱いについて定める法制についてその背景、仕組み、運用状況等を明らかにすることが実効ある検討に資する面もあると考えられる。
 そこで、以下においては、これら法制に関し、それぞれの趣旨や背景の違いに留意しつつ、特に比較の対象としてのフルタイム労働者の範囲、均等取扱い等の具体的内容等について明らかにすべく検討することとする。






戻る

2 ドイツにおける状況について



(1)パートタイム労働の現状

イ ドイツにおいては、1960年代から80年代にかけて、女性労働者が増大する中でパートタイム労働も拡大し、西ドイツ地区における全雇用者に占めるパートタイム労働者の割合は、1960年の3.9%から1980年には11.9%へと大幅に増加している。しかし、その後、増加傾向は緩やかなものとなり、1996年においては15.0%となっている。

 また、女性労働者に占めるパートタイム労働者の割合をみても同様の傾向となっており、1960年の8.6%から1980年には29.0%に増加し、1996年においては29.8%となっている。

 さらに、パートタイム労働者に占める女性の割合は1996年で87.2%となっているが、これは他のヨーロッパ諸国と比べ際立って高いものとなっている。


ロ 年齢別にみれば、高齢層においてパート比率が高く、1997年において50歳以上の層で20.7%、女性に限れば44.O%を占めているが、近年15〜24歳層における増加が顕著である。
 また、産業別には、商業(20.7%)、サービス業(39.3%)において高くなっている。


(2)法制の沿革及ぴ政策的背景

イ ドイツでは、1985年に制定された「就業促進法」において、「使用者は、パートタイム労働者に対し、合理的な理由がある場合を除き、パートタイム労働であることを理由として、フルタイム労働者と異なる扱いをしてはならない」旨が規定されている(以下「不平等取扱い禁止原則」という)。これは、従来から判例で示されていた法理が法律上確認されたものである。

ロ また、ドイツでは、後述のフランスほど顕著ではないが、政府がキャンペーンを実施するなど、失業問題を解決するための手段としてパートタイム労働の促進を図っている。
 1996年に改正された「高齢者パートタイム就労法」(1988年制定)においては、使用者が55歳以上の高年齢労働者を年金の支給が開始されるまで最長5年間パートタイム就労に移行させるとともに、これにより生じた「空きポスト」に求職者等を雇用する場合に、当該高年齢パートタイム労働者の賃金の20%を政府が支給する制度が設けられている。



(3)不平等取扱い禁止原則等の概要

イ パートタイム労働者の定義

 就業促進法において、パートタイム労働者とは、原則として、「その週所定労働時間が事業所内で対比し得るフルタイム労働者の週所定労働時間より短い者をいう」ものとされている(法第2条第2項)。

ロ 不平等取扱い禁止原則

(イ)就業促進法においては、「使用者は、パートタイム労働者に対して、パートタイム労働であることを理由としてフルタイム労働者と異なる取扱いをしてはならない。ただし、異なる取扱いを正当化できる合理的な理由がある場合はこの限りではない。」と規定されている(法第2条第1項)。

 この規定において、比較の対象となるフルタイム労働者に関する定義はなされていないが、使用者に対しパートタイム労働者につきフルタイム労働者と異なる取扱いを禁止していることからして、同一事業所におけるフルタイム労働者がその対象となるものと考えられる(なお、ドイツにおいては、職務ないし職務価値を前提とする企業横断的な賃金制度が存在することにつき、下記の(4)のイを参照)。


(ロ)上記の(イ)の「異なる取扱いを正当化できる合理的な理由」として挙げられる例は、労働(労務)給付、職能資格(Qua肚ikation)、職業経験、職務内容等における相違である。これは、一般には、賃金格付けの相違をもたらすこととなる要素でもある。

 フルタイム労働者が特別な義務を引き受ける等の仕事のノルマ(arbeitspensum)に係る相違や、パートタイム労働に本業として従事しているか否かに係る相違は、いずれも、上記の合理的な理由とはならないと解されている。


(ハ)差別禁止原則の内容は、次のとおりである。

a 賃金

 パートタイム労働者は、同一又は同等の職務に就いているフルタイム労働者の賃金に対して、その労働時間の長さに比例した賃金を請求する権利を有する(この賃金には、付随する特別手当、賞与なども含まれる)と解されている。

b 付加的任意給付

 原則として、クリスマス手当、病気見舞金等の付加的任意給付についてもパートタイム労働者を排除してはならないが、全額支給か、按分比例額か、例外的にパートタイム労働者を排除することも許されるかについては、各給付の目的により判断されるものと解されている(例えば、労務給付に対する報酬としての性格を有する企業年金や付加的休暇手当などは時間比例、食事手当、交通費補助などの労務給付の量にかかわらず支給されるものはフルタイム労働者と同額とされる。)


(二)労働時間の変更に関する情報提供義務

 就業促進法においては、「使用者は、労働時間の長さ又は配分の変更の希望を申し出た労働者に対し、その事業所において補充されるべき相応の労働ポストについての情報を提供しなければならない。」と規定されている(法第3条)。なお、本規定は、労働者に対して、希望する労働ポストヘの転換・配置請求権や労働ポスト補充の際の優先権を認めるものではないと解されている。




(4)不平等取扱い禁止原則に係る社会的背景等

イ このような法制の採用を可能としている社会的背景として、ドイツにおける労働条件の決定方法が挙げられる。

 すなわち、広範囲の地域をカバーする産業別の労働組合が使用者団体との間で労働協約を締結し、締結された労働協約は、基本的には当該産業又は当該地域に働いている者全員に適用される。また、組合員でない場合でも、個別の契約における労働条件は当該地域の当該産業の労働協約に拠って決められる場合が多い。

 特に、賃金については、上記の労働協約において、賃金等級、格付け、賃金額等が具体的に定められており(別添の事例を参照)、また、現業労働者の賃金については基本的に時間給べ一スで定められている。このような中で、フルタイムであるか否かによって労働条件が別立てで決定されることがほとんどない。


ロ なお、実際にも、不平等取扱いの禁止をめくる紛争については、格付けの妥当性に係る問題として争われることが多く、不平等取扱いの禁止そのものが問題となる事案は、クリスマス手当や企業年金といった事業主による任意的な給付に係るものに限局される傾向がみられる。






戻る

3 フランスにおける状況


(1)パートタイム労働の現状

 フランスにおいて、パートタイム労働者については長期的に増加傾向が続いていたが、1980年代後半から90年代初めにかけてはその傾向は緩やかなものとなった。しかし、1992年以降急速に増加し、1991年に12.1%であった全雇用者に占めるパートタイム労働者の割合は、その後年間約1%ずつ上昇し、1998年には18.1%となっている。

 これを年齢別にみた場合、15〜24歳層の占める割合が1988年の16.9%から1997年には26.8%に急増しているのが際立っている。産業別には、第三次産業に就労する者の割合が1997年で87.3%と圧倒的に多くなっている。職種別に見た場合、1997年において、最も高いのは事務職員で31.2%であるが、管理職・知的職業においても9.7%、中間的職業でも12.9%となっており、パートタイム労働者の従事する職種が比較的分散している状況が見られる。

 一方、女性労働者に占めるパートタイム労働者の割合も、1975年の13.5%から1997年には25.6%に上昇している。また、パートタイム労働者に占める女性の割合は、1997年において78.9%となっている。




(2)法制の沿革及ぴ政策的背景


イ 基盤の確立---均等・保護立法の制定

(イ) フランスにおけるパートタイム労働法制の枠組みは、1973年の立法においてパートタイム労働に関する規定が設けられて以来、数次にわたる規定の整備を経て、1982年オルドナンス(国会の委任を受けた政府による立法)により完成されている。これらの法制の概要は、次のとおりである。


 @パートタイム労働者の保護

 パートタイム労働者に係る権利均等原則(下記の(3)のイを参照)や報酬比例原則(下記の(3)のロを参照)のほか、パートタイム労働契約の書面による締結、労働時間の配分の変更に係る予告、追加労働時間に係る上限、パートタイム労働への転換に係る拒否の自由、パートタイム労働時間制を導入する場合の従業員代表の関与等に係る規定が設けられている。


 Aパートタイム労働に係る利用上の障害の除去

 法定義務の前提となる従業員数や社会保険料の算定に係る調整等に係る規定が設けられている。


(ロ) このような枠組みが築かれた背景としては、使用者側からはサービス経済化に対応すべくパートタイム労働者の雇用を阻害している法律上の障害をなくすることが、労働者側からは平等の保障と一定の保護によりパートタイム労働を魅力的な就労形態とすることが、それぞれ強く求められていたことが挙げられる。


ロ 失業対策としてのパートタイム労働の促進とワークシェアリングの推進

 1990年代に入ると、失業率が10%を超えるなど失業問題の深刻化を背景に、失業対策として、パートタイム労働の積極的な促進によるワークシェアリングを意図する政策が採用された。
 すなわち、1992年法及び1993年雇用5か年法の下で、追加労働時間の上限等に係る制限が労働協約等を条件に緩和された。また、パートタイム労働者の雇用に係る助成措置として、一定の要件の下で、社会保険料の使用者負担分を30%縮減することとされた。



(3)権利均等原則等の概要


イ パートタイム労働者の定義

 労働法典においては、その労働時間が法定労働時間又は協約の定める労働時間を下回る労働者等をパートタイム労働者としている(212−4−2条3,4項)。


ロ 権利均等原則

 労働法典においては、「パートタイムで雇用される労働者は、法律、企業又は事業所の労働協約及び労使協定によってフルタイム労働者に認められた権利を享受する。」と規定されている(212−4−2条9項)。


ハ 報酬比例原則

 また、労働法典においては、「パートタイム労働者の報酬は、当該事業所又は企業において同じ格付けで同等の職務に就くフルタイム労働者の報酬に対して、その労働時間及び当該企業における在職期間を考慮して、比例的なものとする。」と規定されている(212-4−2条11項)。

 すなわち、パートタイム労働には、同一格付け・同一職務のフルタイム労働者の報酬を基準に、その労働時間の長さに比例した額の報酬が保障される。
 これらについては、年末特別手当等の付随的な手当についても同様とされる。

 なお、同等の職務に就く、あるいは同じ格付けを持つフルタイム労働者が存在しない場合には、パートタイム労働者の報酬は、契約上自由に決定され得る。


二 優先権

 パートタイム労働者のフルタイム労働への転換権は認められていない。ただし、労働法典において、パートタイム労働者に対し、フルタイムポストの割り当てにおける優先権を認めるとともに、使用者に対し、転換を希望するパートタイム労働者に空席ポストを告知することが義務付けられている(212−4−5条1項)。



(4) 権利均等原則等の運用状況

 権利均等原則及び報酬比例原則については、広範かつ厳格に運用されている。

 例えば、1982年に法定労働時間が40時間から39時間に短縮されたことを受けて、賃金総額が減らないよう、賃金単価を39分の1だけ上げるという賃金保障措置を労働協約が定めた場合、この措置は時間短縮を受けていないパートタイム労働者にも及ぶのかということが争われた事案に関し、1986年11月27日の破毀院の判決は、権利均等原則や報酬比例原則に抵触するような規定を労働協約で定めることは許されないとして、パートタイム労働者にも賃上げを享受する権利を認めた。



(5)報酬比例原則に係る社会的背景等

 フランスにおいて、徹底した報酬比例原則が法制度上存在し、かつ、労使にも受容されていることの主要な背景の一つとして、我が国とは異なる賃金決定システムの存在等が挙げられる。
 すなわち、フランスにおいても、ドイツにおけると同様に、共通の職種の概念を前提に、産業別の労働協約によって職種・職務分類・格付けに応じて賃金が決定される制度が幅広く確立されているため、職務と格付けを媒介として、賃金を企業横断的に比較決定することが容易となっている。

 このほか、実態面でもフルタイム労働とパートタイム労働との間に労働時間の違い以外に類型的な差異が設けられることがほとんどなく、職務と賃金を連結することにさほど抵抗がないこと、社会的に「自由」のための「連帯」「平等」という理念が幅広く受容されていることも挙げることができる。






戻る
4 1LO「パートタイム労働に関する条約」等について



(1)採択の経緯

イ 1991年11月のILO理事会において、「パートタイム労働」を2回討議方式の下でIL○総会の議題とすることが決定された。これを受けて、1993年6月の第80回ILO総会における第一次討議を経て、1994年6月のILO総会において、「パートタイム労働に関する条約(第175号。以下「パートタイム労働条約」という。)及び「ノポトタイム労働に関する勧告(第182号。以下「パートタイム労働勧告」という。)」が採択されている。


ロ バートタイム労働に係る国際労働基準を作成することとされた趣旨は、次のとおりとされていた(第80回ILO総会覚書参照、)。

@パートタイム労働は労使双方にとって魅力的で実際的な形態たり得るが、労働法制や社会保障システムが主としてフルタイム労働者を対象としているため、雇用や労働力に関する問題が生じていること。
A労働市場におけるパートタイム労働の発展が、雇用の創出、失業の減少等のための手段を提供する可能性が注目されていること。
Bこれらを踏まえ、パートタイム労働者の保護とこの種の雇用の促進を同時に取り扱うべく、新たな国際労働基準を作成するものであること。


ハ また、採択されたパートタイム労働条約の前文においては、「生産的かつ自由に選択される雇用が全ての労働者にとり重要であること、パートタイム労働が経済的に重要であること、追加的な雇用の機会を促進するに当たりパートタイム労働の役割を考慮した雇用政策が必要であること並びに雇用の機会、労働条件及び社会保障の分野においてパートタイム労働者に対する保護を確保することが必要であること」への言及がなされている。


二 なお、パートタイム労働条約については、1998年2月に発効したが、現在までに、キプロス、ガイアナ、モーリシャスの3カ国が批准したにとどまっている。



(2)バート条約における関係規定

 パート条約のうち、パートタイム労働者の処遇や労働条件に関する規定の概要は次のとおりである。

イ パートタイム労働者の定義

(イ) 「パートタイム労働者」について、「通常の労働時間が比較可能なフルタイム労働者の通常の労働時間よりも短い被用者」をいうものとされている(第1条(a))。
(ロ) 上記の(イ)の「比較可能なフルタイム労働者」については、次のフルタイム労働者をいうものとされている(同条(C))。(すなわち、下記の@からBまでの各要件を満たす者であることが必要とされている。)

@関係するパートタイム労働者と同一の種類の雇用関係を有するフルタイム労働者
A関係するパートタイム労働者と同一の又は類似の種類の労働又は職業に従事するフルタイム労働者
B関係するフルタイム労働者と同一の事業所に雇用されているフルタイム労働者(ただし、比較可能なフルタイム労働者が同一の事業所がいない場合には、同一の企業に雇用されているフルタイム労働者。また、比較可能なフルタイム労働者が同一の企業にいない場合には、同一の活動部門で雇用されているフルタイム労働者。)

 なお、@の「同じ型の雇用関係」については、第80回ILO総会における第一次討議の際に、常用的な雇用、期間の定めのある雇用、一時的な雇用、季節的な雇用、臨時的な雇用といった「特定の種類の雇用関係」を意味するという見解がILO事務局から示されている。
 すなわち、これらの雇用類型が同一であることが比較の対象となるフルタイム労働者の要件の一つとなる。


ロ 加盟国が講ずべき措置

(イ) パートタイム労働者が、パートタイムで働いているという理由のみによって、時間、生産量又は出来高に比例して計算される基本賃金であって、同一の方法により計算される比較可能なフルタイム労働者の基本賃金よりも低いものを受領することがないことを確保するため、国内法及び国内慣行に適合する措置をとる(第5条)。

(ロ) 適当な場合には、国内法及び国内慣行に従い、フルタイム労働からパートタイム労働への転換又はその逆の転換が任意に行われることを確保するための措置をとる(第10条)。



(3)勧告における関係規定

 なお、第81回ILO総会においては、パートタイム労働条約とともに、パートタイム労働勧告も採択されている。これは、各加盟国の国内措置の指針にとどまるものであるが、参考までにパートタイム労働者の処遇や労働条件に関する規定の概要を掲げれば、次のとおりである。


イ パートタイム労働者は、基本賃金に追加される金銭上の報酬であって比較可能なフルタイム労働者が受け取るものについて、公平に支給を受けるべきである(10項)。

ロ バートタイム労働者が関係ある事業所の福利厚生施設及び社会サービスを実効可能な限り公平に利用することができることを確保するため、すべての適当な措置をとるべきである。これらの施設及びサービスは、できる限り、パートタイム労働者の二一ズを考慮するよう調整すべきである(11項)。

ハ 適当な場合には、パートタイム労働者の訓練、昇進の機会及び職業間の移動に対する特定の制約を克服するための措置をとるべきである(15項)。

二 使用者は、フルタイム労働からパートタイム労働への転換又はその逆の転換を容易にするため、事業所におけるパートタイムの職及びフルタイムの職に就くことができる可能性に関する時宜を得た情報を労働者に提供すべきである(18項(2))。





戻る
5 E∪「パートタイム労働に関する協約に関する指令」について



(1) 採択に至る背景等について

 欧州連合(EU)においては、1994年4月に中期社会行動計画を発表し、その中でパートタイム労働等について、マーストリヒト条約附属社会政策議定書に基づく手続を開始する旨を明らかにした。そして、同年9月に、欧州レベルの労使団体であるETUC(欧州労働組合連盟)、UNICE(欧州産業経営者連盟)及びCEEP(欧州公共企業センター)の三者とこの問題に関する協議を開始した。

 そして、1997年6月に、これら三者が「パートタイム労働に関する協約」(以下「パートタイム労働協約」という。)を締結したことを受け、1997年12月には、これをEU法に転換するための指令(以下「パートタイム労働指令」という。)が労働社会相理事会において採択された。また、この指令において当初適用除外されていたイギリスについても、1998年4月にその対象とする指令が採択された。



(2)パートタイム労働指令の内容について

 パートタイム労働指令のうち、パートタイム労働者の処遇や労働条件に関する規定の概要は、以下のとおりである。


イ 加盟国は、2000年1月までに、必要な法律等を施行するか、社会的パートナーが協約によって所要の手段を導入するよう保障しなければならない(第2条)。

ロ バートタイム労働指令の附属書としてのパートタイム労働協約においては、次のような規定が設けられている。


(イ) 協約の目的は、次のとおりであること(第1条)。

 @パートタイム労働者に対する差別の排除を規定し、パートタイム労働の質を高めること。
 A自発的なパートタイム労働の発展を促進し、使用者と労働者の二一ズを考慮する形での労働時間の柔軟な編成に寄与すること。

(ロ) 客観的な理由に基づき、臨時的に働くパートタイム労働者を協約の適用から除外できること(第2条1)。

(ハ) 「パートタイム労働者」とは、通常の労働時間が比較可能なフルタイム労働者の通常の労働時間よりも短い者をいう(第3条1)。

(ニ) 「比較可能なフルタイム労働者」とは、在職期間(Seniority)や資格/技能を含むその他の考慮点を適切に考慮した上で、同一の企業の中で、同種の雇用契約または雇用関係を有し、同一または類似の業務/職業に従事するフルタイム労働者をいう。同一企業の中に比較可能なラルタイム労働者がいない場合には、適用可能な労働協約を参照し、それもない場合には、国内の法、労働協約または慣行に従って比較を行う(第3条2)。

(ホ) 雇用条件に関して、パートタイム労働者は、客観的な根拠によって異なる待遇が正当とされない限り、パートタイム労働者であるというだけの理由で、比較可能なフルタイム労働者より不利な待遇を受けてはならない。

(へ) 適当な場合には、時間比例の原則が適用される(第4条2)。


(ト) 客観的な理由によって正当化される場合には、加盟国及び/又は社会パートナーは、適切な場合には、国内法、協約又は慣行に従って社会的パートナーと協議の上で、勤続期間、実労働時間又は所得資格に従い、特定の雇用条件を利用できるようにすることができる(第4条4)。

(チ) 使用者は、可能な限り、以下のことを考慮しなければならない。

 @フルタイム労働からパートタイム労働への転換を求める労働者の希望
 A機会が生じた場合において、パートタイム労働からフルタイム労働への転換又は労働時間の延長を求める労働者の希望
 B応募可能なパートタイム及びフルタイムの職に関して随時情報を提供すること
 C熟練的、管理なポストも含め、企業内のあらゆるレベルでパートタイム労働へのアクセスを促進する措置、及び、適当な場合には、パートタイム労働者の職業訓練へのアクセスを促進する措置





戻る

6 均等取扱いに係る法制における比較の対象となるべきフルタイム労働者の範囲等



(1) 均等取扱いに係る法制においては、比較の対象となるべきフルタイム労働者について、次のような定義がなされている。


@ ドイツ法

 同一事業所のフルタイム労働者(なお、均等取扱いの内容に関する下記の(2)の@も参照。)


A フランス法

 当該事業所又は企業において同じ格付けで同等の職務に就くフルタイム労働者


B ILO条約

 関係するパートタイム労働者と同一の種類の雇用関係を有し、同一の又は類似の種類の労働又は職業に従事し、同一の事業所(いない場合は、同一の企業、同一の活動部門)に雇用されているフルタイム労働者


C EU指令

 在職期間や資格/技能を含むその他の考慮点を適切に考慮した上で、同一の企業の中で、同種の雇用契約または雇用関係を有し、同一または類似の業務/職業に従事するフルタイム労働者



(2)また、これら法制にあっては、均等取扱いの内容について次のような規定がなされている。


@ ドイツ法

 使用者は、パートタイム労働者に対して、正当化できる合理的な理由(労働給付、職能資格、職業経験、職務内容の相違等)がある場合を除き、パートタイム労働であることを理由としてフルタイム労働者と異なる取扱いをしてはならないこと。
 なお、パートタイム労働者は、同一又は同等の職務に就いているフルタイム労働者の賃金に対し、その労働時間の長さに比例した賃金(これには特別手当、賞与なども含まれる。)を請求する権利を有すると解されている。


A フランス法

 パートタイム労働者は、フルタイム労働者に認められた権利を享受すること。また、パートタイム労働者の報酬は、労働時間及び当該企業における在職期間を考慮して、比例的なものとすること。


B IL0条約

 パートタイム労働者は、パートタイムで働いているという理由のみによって、時間、生産量又は出来高に比例して計算される基本賃金であって、同一の方法により計算される比較可能なフルタイム労働者の基本賃金よりも低いものを受領することがないこと。


C EU指令

 パートタイム労働者は、客観的な根拠によって異なる待遇が正当とされない限り、パートタイム労働者であるというだけの理由で、比較可能なフルタイム労働者より不利な待遇を受けないこと。また、適当な場合には、時間比例の原則が適用されること。


(3) 上記の(1)及び(2)に述べたところから、均等取扱いを定めた4種類の法制について、次のことが明らかとなる。


イ 比較の対象

@比較の対象としてのフルタイム労働者の範囲を画するに当たり、職務の同一性が基本的な基準ないし前提とされる点では共通性がみられる。
Aこれ以外には、格付け、資格、能力、経験、在職期間、雇用関係の種類等に係る同一性が用いられることがある。


ロ 均等取扱い等の内容

@フルタイム労働者と同等の権利を享受することを定めるもの(フランス)と、合理的な理由がある場合を除き差別的ないし不利な取扱いを禁止するもの(ドイツ、EU)とがみられる。
A賃金等については、労務給付に対する報酬としての性格をもつ基本給、賞与、諸手当等については時間比例が、労務給付量にかかわらず支給される通勤手当、食事手当等については同額支給が求められている(ドイツ、フランス)。ただし、IL0条約においては基本賃金の時間比例原則のみが定められており、またEU指令においては、適当な場合には、時間比例原則が適用されることとなる。





戻る
7 まとめ


(1) 均等取扱いに係る法制の導入いかんについては国によって違いがあるが、これは各国の労働市場の仕組みや「平等」に対する考え方の違いによるところが大きい。

(2) 均等取扱いに係る法制を採用しているドイツ、フランス等の国々にあっては、企業横断的な職種の概念を基礎として、産業別の労働協約の下で企業横断的に賃金決定がなされる社会システムが確立されており、このことが、当該法制を支える主要な基盤をなしている。

(3) 均等取扱いに係る法制は、@パートタイム労働者がフルタイム労働者と同等の権利を享受することを定めるものと、A合理的な理由がある場合を除いて差別的取扱いを禁止するものとに大別される。

(4) いずれの法制においても、比較の対象としてのフルタイム労働者の範囲を画定するに当たっては、「職務の同一性」が基本的な基準ないし前提とされている。一方、職務以外の要素の考慮の有無及び程度については、法制により違いがある。






戻る
(別添)

ドイツ連邦共和国における賃金等級と格付けの例

1 現業労働者の賃金等級と格付けの例
  (ノルドライン・ヴエストファーレン地域の金属工業)


賃金等級 基準賃金比率 職務指標 (87.4.1)協約賃金
2 82 予め作業知識がなくても簡単な指示でできる単純作業で肉体的負荷の少ないもの。または、4週間の訓練を要するもので肉体的負荷の少ない作業 10・27マルク
3 84 予め作業知識をもたなくても簡単な指示があれぱできる単純な作業 10・52
4 88 4週間の訓練を必要とする作業 11・02
5 92 3ヵ月の訓練を必要とする作業 11・52
6 96 一般に承認されている訓練を要する職業における訓練教育の修了を前提とする作業、または、それと同程度の企業内訓練を必要とする作業 12・02
7 100 相当な正規の職業教育によって得られる能力を前提とする作業(専門労働)。専門労働に匹敵する熟練と知識が必要な作業 12・52
8 408 数年にわたる経験が必要であるため賃金等級7を超える熟練と知識が必要となる困難な性格の作業 13・52
9 118 作業の遂行の際に能力、独立性、その課業の範囲内における責任において、賃金等級8を超える高い内容が要求される価値の高い作業 14・77
10 133 優秀な能力に加え、理論的知識、自立的な作業遂行、とくに高い責任をともなう課業の範囲内で処分権能が要求される、最高級の価値をもつ作業 16・65









2 職員の賃金等級と格付けの例
  (ノルドライン・ヴエストファーレン地域の金属工業)



賃金等級 職務内容 協約賃金(月給・87.4.1発効)
T 単純な商業的職務(Kauqaennische Taetigkeit)の職員

例:販売士、単純な職務の会計、単純職務のステノタイピスト、電話交換手、展示飾付員、一般経理・購入・計算・信販業務・賃金計算・監査・ファイリング・統計等における単純事務作業をおこなう職員、商品受入・保管・発送における単純な商業的職務を行う職員、宣伝部門の職員(商品勧誘係)、包装ないし出荷の際の検査
職歴    マルク
1年    1,492
2年    1,500
3年    1,550
4年    1,600
5年    1,720
6年    2,000
7年    2,215
U より広い専門知識とより大きい責任が求められる職務につく職員

例:一級販売士、在庫管理係、部門監督者、4本以上の回線を扱う電話交換手、一級展示飾付士、経理・仕入・計算・信販・賃金計算・会計監査・登記・統計・商品受領・倉庫・発送等の業務における一級職員、高度の職務を行う会計、輸出送状作成係、輸入送状作成係、一級商品広告主、高度の職務をもつステノタイピスト、看護婦
職務歴   マルク
1−2年  2,036
3−5年  2,277
5年ー   2,690
V 一般的な指示の範囲内での自立的な職務を行い、かつ、その職域に対して責任を負う職員
 a 常用のフルタイムの部下(研修生を含む)をもたないか、部下が4人以下の場合
 b 常用のフルタイムの部下(研修生、事業所や営業所の会計を含む)が5人以上8人までの場合
 c 常用のフルタイムの部下(研修生を含む)が9人以上の場合

例:代理人、支配人、購入権限をもつ一級販売士、一級展示飾付士、購入権限をもつ在庫管理士、商品管理士、フロア管理者、経理管理者、本部経理主任、本部文書管理者、商品受入・発送管理者、デザイン主任、裁断師、住居管理人、機械管理者、インテリアセールス、売場管理者
職務歴   マルク
a
1−3年  2,374
4−5年  2,537
5年−   2,804
b
1−3年  2,537
4−5年  2,804
5年−   3,088
c
1−3年  2,804
4−5年  3,088
5年−   3,374
W 指揮権能を有する管理的地位にあり、かつ、その職域に対してそれに応じた責任をもつ職員
 a 常用のフルタイムの部下(研修生を含む)をもたないか、部下が4人以下の場合
 b 常用のフルタイムの部下(研修生を含む)が5人以上8人までの場合
 c 常用のフルタイムの部下(研修生、専従の教育主任を含む)が9人以上の場合

例:部課長、仕入れ係、上級管理者(企業管理)、仕入兼部課長、総務部長(事務長)、支店監査人、建物監察官、技術部門の長(技術長)、アトリエ管理者、商品受入部門の長、発送部門の長、装飾部門の長(装飾長)、管理部門の長、倉庫部門の長、在庫管理責任者、販売部門の長
職務歴   マルク
a
1−3年  2,812
4−5年  3,033
5年−   3,166
b
1−3年  3,033
4−5年  3,166
5年−   3,603
c
1−3年  3,166
4−5年  3,603
5年−   4,372