パート労働者の均衡処遇に関するガイドライン案

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H14.7パートタイム労働研究会最終報告「別添」
短時間労働者の均衡処遇に関するガイドライン案





 第1 このガイドラインの趣旨と使い方


(1) 「多様な働き方」を活かせる組織運営が少子化に対応できる経営のカギ

  経済環境の変化や、就業意識の変化などの下で、パート労働者や派遣労働者の増加にみられるように、就業形態の多様化が急速に進展しています。企業にとっては、こうした多様な人材の能力を引き出し、組織全体の活力を高めていくことが新たな課題となっ
てきています。特に、少子高齢化が進む中で、女性や高齢者など短時間の働き方(パート就業)を望む層を有効に活用しつつ、組織運営を円滑にし、生産性を高められるかが、今後、企業として競争に耐え抜いていくためのカギになると言っても過言ではありません。



(2) パート社員も企業の重要な一員。働きに応じた公正な処遇を

  すでにバート労働者は雇用者全体の2割を超える大きな存在となっています。企業経営の観点からみて、これらの層の活性化、戦力化が重要なことは言うまでもありませんが、その前提としてまず「パート社員も企業の重要な一員」という常識を持つことが重要です。経験・能力のあるパート社員に、他の社員に劣らぬ役割を期待する一方で、処遇については「パートだから低くて当然」というアンバランスな考え方に陥ってはいないでしょうか。企業として、パート社員の真の活性化、戦力化を目指すならば、パート社員も企業の重要な一員として「働きに応じた公正な処遇」が確保されるような取り組みが必要です。



(3) 常用フルタイム社員の働き方や処遇も含めて、総合的な雇用管理の見直しを

  もちろんパート社員の処遇を見直せばすべて問題が解決するわけではありません。常用フルタイム社員のニーズも変化しています。従来の仕事一辺倒の働き方から、仕事と家庭生活との両立をはじめ、ゆとりを実感できる働き方を求める層も増えています。パート社員の処遇の見直しだけでなく、常用フルタイム社員の働き方や処遇のあり方も含めた総合的な見直しを行うことによって、組織全体の活力を高めていくことが重要です。



 このガイドラインは、このような基本的な考え方の下に、多様な働き方に対応した雇用管理のあり方をできるだけ具体的に示すことによって、パート社員を雇用している経営者が留意すべき基準として提供するとともに、パート社員、常用フルタイム社員、労働組合にも考えていただく素材として提供するものです。このガイドラインをきっかけに、今後個々の企業において働き方や処遇のあり方について検討が行われ、関係者それぞれがメリットを享受できる具体的な方策が講じられることが望まれます。あわせて、これにより、処遇格差に関する紛争が予め回避されることが望まれます。

注) このガイドラインで「パート社員J及び「常用フルタイム社員」とは、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート法」)第2粂に規定する「短時間労働者」及び「通常の労働者」のことを想定しています。

短時間労働者:(定義)1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べ短い労助者。1日の所定労働時間は通常の労働者と同じであるが、所定労働日数が少ない者を含む。
通常の労働者:(定義)いわゆる正規型の労働者をいい、社会通念に従い、当該労働者の雇用形態、賃金体系等(例えば、労働契約の期間の定めがなく長期雇用を前提とした処遇を受けるものであるか、賃金の主たる部分の支給形態、賞与、退職金、定期的な昇給・昇格の有無等)を総合的に勘案し判断する。



 なお、フルタイムで働いているにもかかわらず、いわゆる非正規型の労働者であるためにパート、契約社員等の名前で呼ばれている方についても、「働きに見合った公正な処遇」という観点から、以下の「パート社員」と同様な取扱いが必要です。





第2 パート社員を雇用する経営者の方々へ


確認1 あなたの会社ではパート社員をどう位置づけていますか?


 日本で働いているパート労働者の数はすでに1,200万人を超えています。もちろん、その仕事は多岐にわたっていますが、最近の傾向として、従来、常用フルタイム社員が行っていた役割の一部をパート社員が担うようになってきています(図表)。


(事例)





「実際、使ったことのある人に『これ、いいですよ』と薦められるとお客も心動かされます。パートさんの生活者としての重みは大きいですよ。」(百貨店)

「利用家庭のニーズに合わせてヘルパーを配置する必要があることから、パートのシフト制が不可欠です。利用者とのコミュニケーションが大事なので、パートさんの力量にほんとに左右される業態です。」(介護サービス)

「地域に密着しているパートさんの情報で、学校の遠足、地域の祭りなどに対応して品揃えができ、売上げもアップしています。」(スーパー)

「多品種少量生産のため部品の数が膨大で、以前は部品を探し回ることがしょっちゅうでしたが、パートさんがこまめに部品棚を整理してくれるようになってからは、そういうことがなくなり、効率もアップしました。」(精密機械製造業)

「看護師の資格を持ったパートさんを活用しています。パートであっても、生命を預かる仕事には変わりありません。正社員と同様に責任を持って働いてもらっています。」(病院)


 あなたの会社のパート社員はどんな仕事をしていますか。意外に会社にとって重要な仕事を任せていても「パートだから」と考え、その能力を十分に引き出すことを忘れていませんか。

以下のようなことはあなたの会社のパート社員にあてはまると思いますか。

・パート社員にしっかり働いてもらわないと仕事がまわらない。
・パート社員の対応次第で会社の信用にも影響が及ぶと思う。
・常用フルタイム社員が知らないような大事な現場の情報に接している。
・能力・経験において、常用フルタイム社員がかなわないパート社員がかなりいる。


 常用フルタイム社員であれ、パート社員であれ、会社にとっていずれも貴重な人材です。彼らの一人一人が意欲を持って働き、能力を発揮できるかどうかが会社の活性化にとって不可欠です。特に、少子高齢化が進む中で、女性や高齢者など短時間の働き方(パート就業)を望む層を有効に活用しつつ、組織運営を円滑にし、生産性を高めていけるかどうかが、今後、企業として競争に耐え抜いていくためのカギになると言っても過言ではありません。
 パート社員についても、会社の重要な一員として、その能力・意欲を引き出せるように雇用管理の発想を変えることが必要ではないでしょうか。


確認2 パート社員の処遇についてどう考えていますか?


☆あなたの会社のパート社員の処遇についてあてはまるのはどれですか。


 @ 常用フルタイムであれ、パート社員であれ、現在の仕事や責任に応じて分け隔てなく処遇している。

 A 現在の仕事や責任が同じでも、常用フルタイム社員とパート社員では転勤、配点の有無などキャリア管理が明らかに違うので、現時点の処遇も違う。

 B 現在の仕事や責任が同じだけでなく、キャリア管理もそれほど違わないが、とにかく雇用管理区分が違いので処遇が違う。

(注)ここで「キャリア管理の違い」とは、企業の雇用管理の考え方に基づき、パート社員と常用フルタイム社員の間で、異動の幅、頻度、あるいは同じ職場の中でも役割の変化の度合いが明らかに違うことを言います。

☆もう一つ。あなたがパート社員だったとして、会社のために尽くそうと思えるのは上のどの場合でしょうか。

@の場合はパート社員だからといって分け隔てをしていないので、やる気をもてるでしょうし、Aの場合も、情報フルタイム社員の今後の負担を考えると多少の違いなら納得できるかもしれません。
しかし、Bの場合はどうでしょうか。「こんな不公平な会社のために尽くそうと言う気にはなれない」と思うのではないでしょうか。


・平成11年のJIL(日本労働研究機構)の調査によると、パート労働者は、自分の認識する職務レベルが高くなると、正社員との職務が同じであるのに賃金の差があることに不満を感じる度合いが高まる傾向があります(図表)。




 パート社員の重要性を認識し、そのノウハウの活用を企業として図ろうとしても、「働きに見合った処遇」に配慮を欠けば、おそらくは「冷めた反応」しか返ってきません。パート社員として有能な人材を確保するのも難しいのではないでしょうか。企業として、パート社員の真の活性化、戦力化を目指すならば、パート社員も企業の重要な一員として「働きに応じた公正な処遇」が確保されるような取り組みが必要です。


☆ パート社員の処遇が問題化した例として、以下のような裁判例があります。

 丸子警報器事件
 原告ら臨時社員は、女性正社員と職種、作業内容が同じのみならず、労働時間もほとんど同じであり、2カ月毎の雇用期間の更新を形式的に繰り返して長期に勤続(4年〜25年)していたが、何ら措置を請ずることなく、女性正社員との賃金格差が拡大していった事案。原告らの賃金が、同じ勤続年数の女性正社員の8割以下となるとき、公序良俗に反し、違法になると判断された(長野地裁上田支部 平成8年3月15日判決)。
 原告・被告双方が控訴したが、控訴審において、給与を日給から月給にする、5年間月給の額を毎年3千円ずつ増額することにより5年後には正社員の9割前後にまで是正する等を内容とする和解が成立した(東京高裁 平成11年11月29日和解)。






働きに応じた公正な処遇のための6つのルール


 以上のようなことを踏まえると、パート社員の力を経営に活かそうとするならば、以下のような点に留意することが必要と考えられます。


[雇用管理における透明性・納得性の向上]

ルール1  パート社員の処遇について常用フルタイム社員との違いやその理由について十分な説明を行うこと。

 労働基準法やパート法の指針で定められている事項に加え、バナト社員と常用フルタイム社員の仕事やキャリア管理の具体的な違い、それに伴う処遇の違いなどについて、採用時やパート社員から求められたときに十分な説明をすることがパート社員の納得を得、モラールを確保する上で必要です。

(事例)


「パートさんの採用時に正社員との処遇の違いについて説明するようにしています。単にパートだから賃金が安いというのではパートさんの納得を得られません。仕事・役割がこう違うと説明することで、仕事の与え方にも自然に注意が行くようになりました。」(小売業)


ルール2  処遇の決定プロセスに、パート社員の意思が反映されるよう、工夫すること。

 パート社員に適用される就業規則の制定・改訂にあたっては、パート代表者の意見を聴くことが専業主の努力義務となっています(バート法第7条)。
 パート労働者の組合組織率は極めて低く、賃金改定の労使交渉でもパート社員の意思が反映されにくいのが実情です。非組合員であるパート社員の処遇も含めて交渉しようとする労働組合への適切な対応や職場で直接パート社員の声を聞くことをしながら、処遇条件を決めるという手順を踏めば、必ずしもパート社員の希望どおりにならなくても、その納得性を高めることにつながるはずです。

(事例)


「突然、優秀なパートさんが辞めたいというので、びっくりして理由を聞くと、うちよりも時給の高い他の職場に転職するというのです。そんなことがあってからは、時給改訂時にはパートさんときちんと話し合う場を設けるようになりました。」(ビルメンテナンス)


「年1回の時給アップの時期には、パート社員を集め、まず、店舗の売り上げ、収益状況を説明し、賃金アップに使える全体費用、個々のパート社員への配分基準を説明した上で、それに対するパート社員の意見を聞くことにしています。これをやるようになってから、パート社員の賃金に対する不満が少なくなり、自分たちの時給のアップのためにも売上げ、収益を増やそうという意欲が高まっています。」(小売業)



ルール3  パート社員についても、仕事の内容・役割の変化や能力の向上に伴って、処遇を向上させる仕組みを作ること。


 常用フルタイム社員については、ほとんどの企業が「やる気」を引き出すような様々な処遇制度に腐心しています。パート社員についても「やる気」を持って積極的に働いてもらおうとすれば、やはり同じような視点での配慮が必要です。
 なお、平成13年の21世紀職業財団の調査によれば、パートの昇進昇格制度のある事業所はパートを雇う事業所の約3割に上っています


(事例)

「パートさんの仕事レベルがあがると、昇格し、時給もアップするという資格制度を導入しました。例えば、『発注業務を担当できるようになれば、この資格等級に昇格できる』など、昇格基準を明確に示しています。資格制度の導入で、パートさんもそれぞれ目標を持って、仕事のレベルアップに励んでおり、コストアップ以上の成果が出ています。」(小売業)

「パートさんの目標管理制度を導入しました。上司が半年ごとにパートさん一人一人と面談し、一人ずつ半年間の目標を決めます。半年後、また面談し、目標が達成できたか話し合い、その達成度に応じて時給もアップする仕組みです。これによって、パートさんのやる気を引き出し、新しい仕事にどんどんチャレンジしてもらっています。」(レストラン)

「1年に1回勤務評価を行い、昇給額を決定しています。上司が出勤率、勤務態度、仕事の習熟度、改善提案等の各項目について評価を行い、100点満点で点数化します。90点以上の優秀者は15円、80〜89点は10円、70〜79点は7円、60〜69点は5円の時給アップです。60点未満は時給アップはありませんが、60点未満のパートさんはほとんどいません。評価制度を取り入れてから、やる気がアップしています。」(ホテル業)

「パートさんの仕事をその複雑度、難易度、責任度に応じて4つの資格等級に分けて処遇しています。また、年に3回人事考課を行い、それぞれ昇級・昇格、夏・冬のボーナスに反映させています。考課要素や着眼点は、各等級ごとに決めています。結果は、被考課者へフォールドバックしているため、賃金の納得度はとても高いです。また、考課結果を教育訓練にも活用しています。」(製造業)

「パートさんにも成果主義を導入し『やってもやらなくても時給は同じ』という事態を防ぎたいと思い、昨年度からパートさんを勤務形態・仕事、責任の段階により区分し、それぞれの区分に応じて処遇する制度を導入しました。処遇に係る制度が明確化されたことにより、パートさんのモラールアップにつながりました。」(小売業)

 

 

[雇用管理区分間の行き来を可能にすること]

ルール4  パ−ト社員の意欲、能力、適性等に応じて、常用フルタイム社員(あるいは短時間正社員)への転換の道を開くこと。


 パート社員が常用フルタイム社員になることを希望した場合には、これに応募する機会を優先的に与えることが事業主の努力義務となっています(パート法第8条に基づく「事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関する指針」)。
 パート社員の意識は多様ですが、その中には、仕事における自己実現を望んでいる層もいます。そしてこうした層が、意欲も能力も高く、企業にとっても有益な人材であることが多いのです。
 パート社員から常用フルタイム社員への転換の道を制度として用意すれば、このような人材にとって、最初は補助的な仕事から入るとしても、将来のキャリアパスが描けるので大きな魅力となるはずです。企業にとっても有能な人材を確保する有効策となります。

 なお、パート社員の正社員登用制度のある事業所は約3割で、それらの事業所において、最近3年間に登用された人数は一事業所あたり平均3・6人となっています。

 さらに、少子高齢化が進む中で、女性や高齢者の活用が不可欠になってくるとすれば、常用フルタイム社員だけではなく、短時間のまま、常用フルタイム社員と同じように責任と役割を持って働く働き方も、今後広がっていくことが予想されます。先鞭を切ってこのような働き方を提案すれば、さらに有能な人材を確保することが可能になると考えられます。

(注) 『短時間正社員』とは、常用フルタイム社員より一週間の所定労働時間は短いが、常用フルタイム社員と同様の役割・責任を担い、同様の能力評価や賃金決定方式の適用を受ける社員のことを言います。


(事例)


「パートに対しても仕事レベルに応じた等級制度を採用しています。最上級の等級になると、フルタイムで働くことができれば、パートから正社員に転換することができます。最上級の等級になれば、正社員に転換することがはっきりしているため、『どうせパートだから』という消極的な考えのパートが減ったように思います。また、パートから正社員になった方は、意欲、能力とも優れており、会社の発展になくてはならない人ばかりです。」(流通業)



[雇用管理における公正なルールの確保]

ルール5  フルかパートかの違いだけで、現在の仕事、責任が同じであり、また異動の幅、頻度などで判断されるキヤリア管理実態の違いも明らかでない場合は、処遇決定方式を合わせること。


 雇用管理区分が違えば、仕事の内容、責任、働き方が違うのが普通です。しかし、実際企業に聞くと、以下のようなケースもみられます(平成13年の21世紀職業財団の調査)。
・正社員と仕事も責任の重さも同じパートがいる事業所はパート雇用事業所の3割に上っています。
・現在の仕事、責任だけでなく、配転・転勤・残業などの取扱いも含めて正社員と同じパートがいる事業所も4〜5%程度は存在しています。
 後者のようなケースでは、現在の仕事、責任のみならず、キャリア管理実態の違いも明らかでないため、処遇決定方式を合わせ、いわば同じ土俵の上で評価することの必要性が特に高いと考えられます。
 なお、ここで「処遇決定方式を合わせる」とは、同じ賃金テーブルの適用など、同じ評価基準で評価・処遇することを言います。



Q:わが社においては、常用フルタイム社員は、長期的キャリア形成を前提としているため、職能に基づく賃金制度をとっていますが、パート社員にとっては、有期契約ということもあり、別の賃金制度を適用しています。特に若手のころには、常用フルタイム社員とパート社員が同じ仕事で責任も変わらないという場合がありますが、そのようなケースはこのルールからみて、問題となるでしょうか。


A:異動の幅、頻度などからみて、確かに常用フルタイム社員とパート社員とのキャリア管理の実態が違うと説明できるかどうかが決め手となります。それがパート社員にも納得いくようなものであるかどうかでしょう。雇用管理区分が違うわけですから、たまたま現在は同じ仕事とをしていても、キャリア管理の仕方が明らかに異なるのが通常で、例えば、常用フルタイム社員には転勤・配転があるけれども、パート社員にはそれがない、というように具体的な違いがあるはずです。その違いも説明できないということになると、処遇格差についてパート社員の納得を得るのは困難と考えられます。なお、有期契約であっても反復更新を繰り返し、実質的に常用フルタイム社員と同じような働き方をしている場合には、やはり処遇格差について納得を得るのは難しいでしょう。こうした処遇格差をそのままにしておくと、トラブルの発生やパート社員のモラールへの影響も懸念されます。また、今後に向けて有能な人材の確保に支障をきたすことになるかもしれません。



ルール6  ルール5に照らして、処遇決定方式を異にする合理性がある場合でも、現在の仕事、責任が同じであれば、処遇の水準の均衡に配慮すること。


「重要な仕事を任されて、はじめは働きがいを感じたが、ふと隣の常用フルタイム社員の給料との差を考えたらばかばかしくなった」−−−−意欲と能力のあるパート社員にはよくみられるケースです。このような人材のモラールを削いでしまっては元も子もありません。
 こうした意味で、異動の頻度や幅などキャリア管理の実態は常用フルタイム社員と明らかに違うとしても、現時点ではほとんど同じ仕事をしており、その内容に照らしてみた時に、パート社員の処遇条件が著しく低いケースについては、処遇水準の均衡を図ることが必要と考えられます。
 平成11年のJILの調査で、正社員と職務内容がほとんど同じパートがいる事業所に対して、正社員との処遇の格差を縮める必要があると思うかと聞いたところ、約半数が処遇格差を縮める「必要性が高い」又は「一定の必要性がある」と答えています。企業自身、現状の処遇格差でパート社員のモラールを削いでいないか心配している、ということでしょう。
 ただ、処遇水準の均衡に至る道筋はひとつではありません。直ちに、パート社員の処遇水準を引き上げるのでなくても、パート社員に昇進昇格制度などその能力・経験が反映される処遇の仕組みを作ったり、パート社員の声を処遇決定プロセスに反映させる仕組みを作ったり、また、意欲と能力に応じて常用フルタイム社員への転換の道を開くなどの方策を着実に請じ、処遇水準が均衡に向かう道筋を確かなものにしていくことが重要です。

 こうした方策はいずれもコストアップとなって、企業経営にマイナスだという見方もありますが、そうとは限りません。前述の昇進昇格制度の導入事例でもみたように、やり方次第で、パート社鼻のモラールアップや優秀な人材の確保などを通じて、企業の成果にも結びつきうるものです。

(事例)

「地域相場より高い賃金設定でパートを募集したところ、いい人材が集まるようになりました。当社の場合、パートから正社員店長に登用される確率が高いなど、将来に道が開かれていることも、パートさんにとって魅力となっているのかもしれません。」(小売業)


 このような取り組みの結果として、キャリア管理実態の違いがあっても、処遇の水準の均衡が図られることが望まれます。どのくらいならば均衡がとれていると判断されるのかは、もちろん、キャリア管理実態の違いにもよるので、一概には言えません。
 ちなみに、平成13年の21世紀職業財団の調査によると、正社員と同様の仕事をしているパートが納得できると考えている水準は、パート、正社員、事業所いずれも、平均的には正社員の約8割と回答しています。



常用フルタイム社員の働き方や処遇のあり方も含めた雇用管理の見直しを


 以上、パート社員の処遇のあり方を中心に話を進めてきましたが、もちろんパート社員の処遇を見直せばすべて問題が解決するわけではありません。

 今の常用フルタイム社員の処遇が年功的な場合は、それにパート社員の処遇を合わせろと言われても労務コストの面等から困難との見方もあります。
 ただ、これだけ大きな存在となっているパート社員を常用フルタイム社員の処遇体系といわば無関係に管理し続けることが、組織全体の活力やモラールからいってもマイナスとなりかねないことも事実です。常用フルタイム社員の処遇を能力や成果に応じたものに見直していく流れがありますが、こうした流れの一環として、パート社員の処遇についても見直していくことが重要ではないでしょうか。パート社員のみならず、常用フルタイム社員の働き方や処遇も含め、総合的な雇用管理の見直しが必要と考えられます。
 このため、以下のようなことについて、パート社員の声も反映する形で労使間の話合いが行われ、それぞれの関係者にとってメリットとなるような調整がなされることが望まれます。

・常用フルタイム社員でも、従来の仕事一辺倒の働き方から、仕事と家庭生活との両立をはじめ、ゆとりを実感できる働き方を求める層も増えている中で、もう少し転勤、残業などの高速性は低いが、経済的自立の図れる働き方も導入すべきではないか。

・このように働き方を見直す中で、生計費や家族手当等、いわば「生活の必要に応じた処遇」についても見直すべきではないか。

・企業の中の「仕事・責任」の評価やそれを遂行する「能力・成果」の評価を客観的に行い、これに基づく「働き方に見合った処遇」の仕組みを作って行くべきではないか。

 


第3 パート社員の方々へ


確認1 パート社員であっても、常用フルタイム社員と基本的に同じように労働基準法・最低賃金法等の労働関係法令が適用されます。


・パート社員であっても、常用フルタイム社員と基本的に同じよう労働基準法・最低賃金法等の労働関係法令が適用されます。あなたを取り巻く法律や制度を正確に把握していれば、いざという時に自信を持って対応ができます。


(事例)


「週3日で働いていますが、『パートには有給休暇がない』と事業主に言われました。」(製造業)

 →パート社員であっても、@6ケ月間継続勤務し、A全労働日の8割以上出勤したという適用要件を満たせば有給休暇が取得できます。


「パートなので『産休がない』と人事課長に言われました。本当ですか。今、妊娠5ヶ月なのですが辞めるしかないのでしょうか。」(小売業)

 →産前産後休業は、パート社員であっても取得できます。また、産前産後の休業中と産後休業が終わった後の30日間は、女性労働者を解雇することはできません。


「最初に約束したのと時給が違って困ったというパートの話を聞きました。こうならないためにはどうすればいいのでしょうか。」

 →契約は、何かトラブルが起きたときのために書面にしておくことが重要です。『言った』『言わない』を証明するのはとても難しいことです。労働基準法では、使用者に契約締結時の労働条件書面明示を義務づけています(労働基準法第15条)。契約締結の際には、仕事の内容、労働条件を確認し、書面でそれを明示してもらってください。労働条件通知書のモデルもありますから、これに書いてもらってもいいでしょう。

「年収103万円を超えると損をすると仲間から聞きました。現在、103万円ぎりぎりなので、使用者から時給アップの申し出も労働時間増加の申し出も断っています。」(流通業)

→ 税制上は年収103万円を超えても世帯の実収入が減ることはありませんが、世帯主の会社の配偶者手当の停止水準が103万円に設定されている場合には、それを超えると実収入が減ることになります。ただ、平成13年の21世紀職業財団の調査によると、103万円で就業調整している人の約4分の1はそれを超えても手取りが減少しないにも関わらず、減少すると思い込んで就業調整していることがわかっています。あなたも誤解に基づいて、時給アップを断ってしまっているのかもしれません。
 いずれにしても税・社会保険制度や配偶者が勤めている会社の家族手当制度の内容などについて、一度確課した方が良いでしょう。制度は変更されることもありますから、世の中の動きにも注目しておくことが重要です。
 法律や制度を知らないと、自分自身が損する結果になってしまいます。

 

・ただ、いろいろな疑問や不満があっても、なかなか上司に言い出すのは難しいものです。
 あなたにも以下のような経験がありませんか。

・年休を取得できないのはおかしいと思ったが、事業主の機嫌を損ねては契約を更新してもらえなくて困ると思って諦めた。

・聖夜員と全く同じ仕事をしているのに賃金は半分以下で、納得がいかないと思ったけれど、言っても無駄だと思い、黙っていた。

・契約締結時には、「1年経過したら正社員になるチャンスを与える」と言われたのにいつまで経ってもチャンスを与えてもらえないが、波風を立てるのも嫌なので何も言い出さずにいる。


・一方で次のように、上司との人間関係を損なわずに、うまく問題を解決した事例もあります。


(事例)

「労働条件に納得いかない点があったので、疑問点をノートに整理して、都道府県労働局の総合労働相談コーナーに相談に行きました。相談の結果、私自身の誤解にも気づいたし、自信を持って使用者に問題点を指摘できました。」(外食産業)

「年休や休憩時間の取扱い等おかしいと思うところがあったので、自分で調べた上で、会社の苦情相談窓口にお話してみました。何人か同じように考えていた人がいたようで、みんなで一緒に職場の上司に申し出ました。状況は・・・改善されましたよ!」(製造業)

「職場でパート同士で集まるとすぐ、不満やグチばかりで、これでは良いサービスもできないと思いました。そこで『陰で不満を言っていないで前向きな提案をしよう』と呼びかけ、みんなで話し合って『職場活性化提案』として施設長に渡したところ、前向きな姿勢が評価され、いろいろ改善されました。これまで、掃除はやる気のある人が時間外にやるという実態でしたが、きちんと当番制を敷き、時間内にやるなどのルールができました。」(介護施設)


  勇気を出して、職場の上司に、または相談機関に相談してみませんか?職場に労働組合があれば、あなたが組合員でなくても、組合に相談してみませんか? 自分だけで悩んでいても間磨は解決しないはずです。




確認2 働くうえでの心構えを持つことが大切です。


・パート社員も、会社と労働契約を結び、その契約内容に沿って勤務し、報酬を対価として受け取っているという点においては、常用フルタイム社員と何ら異なることはありません。ただ、企業の人事担当者から、以下のような指摘があるのも事実です。

(事例)

「日頃から業務の状況を説明しているにもかかわらず、年末に就業調整するパートさんがたくさんいるんです。当社は接客業なので、一度に大量に休まれる12月に備え日頃から業務のやりくりをしなければならず大変です。」(流通業)

「子供の学校行事で急に休むパートさんがいます。年休を休むのは仕方がないと思うのですが、当日に『休む』という連絡だけで何の引継もなされないので、とても困ります。」(建設会社)

「パートさんにも教育訓練の機会を付与していますが、新しいシステムを導入しても慣れようとしません。職場のモラール低下を招いて困っています。」(製造業)

「突然こなくなったので、電話してみたら、『別の仕事がみつかったのでやめることにしました』ということでした。シフトの関係もあるし1ヶ月くらい前にきちんと相談するのがルールだと思うのですが・・。」(小売業)

 それだけの給料しか出してないからそうなるのだ、という見方もあります。しかし、こうした行動がパート社員全体に対する会社の評価を低め、「パートだから安くて当然」という誤った認識に結びついている面もあるのではないでしょうか。

・一方で、パート社員の責任感や仕事ぶりを評価する人事担当者はたくさんいます。一生懸命パート社員に対して、働きに応じた処遇をする企業も増えています。
(事例)

「今までパートさんは管理職に登用していなかったのですが、一生懸命働いてくれる労に報いたいと思い、主任や店長に登用し常用フルタイム社員と時間比例の処遇をする制度を導入しました。まだ始めたばかりですが、結果は上々です。もっと上位の役職につける仕組みも考えてみたいと思っています。」(小売業)

「頑張ってくれるパートさんと意欲の乏しいパートさんが同じ処遇では申し訳ないので、パートさんに細かいキャリアアップ制度を設けました。資格等級の上位と下位では、時間給もかなりの差があります。」(外食産業)


 会社が働きに応じた公正な処遇をする気持ちになるか否かは、パート社員の働き方にも大きく左右されます。企業にとって存在価値のあるパート社員になることが大切です。「こんなに頑張っているパートさんには、処遇を引き上げないと。」「このパートさんに辞められては、うちの企業は立ち行かない。」そう会社に思わせることができれば、会社での様々な疑問も自信をもって正すことができるのではないでしょうか。



第4 常用フルタイム社員及び労働組合の方々へ

 

確認1 常用フルタイム社員のあなたはパート社員の働き方をどう見ていますか?


 第2でみたように、パート社員の働く領域は大きく広がっています。常用フルタイム社員として働くあなたは会社のパート社員について、どうとらえていますか。

・やはり私たち正社員とは別だと思う。労働時間が短いので、補助的な仕事しかできず、時給が低くても仕方がない。

・会社の売上げが上がれば、みんなの雇用や収入が確保される。そのためにはパート社員も含めた全員のモラール向上が不可欠。パート社員も意欲や成果に応じて、きちんと処遇すべきだ。

前述したように、従来、常用フルタイム社員が行っていた役割の一部をパート社員が担うようになってきています。同じ仕事をしているパートが増えていると回答した正社員が4分の1強存在し、減っていると回答した正社員(10%弱)を上回っています。

 もはや「パ−トは別、パートは補助的仕事」という認識は必ずしも当てはまらなくなってきているようです。会社を動かす重要なパートナーとしてパート社員が力を発揮できるようになることは、常用フルタイム社員にとっても重要なことではないでしょうか。
 そのためにあなたが力になれることもあるはずです。

(事例)パート社員の声を聞いてみましょう。

「職場で集会を開くときに。フルタイム社員の方が、私たちパートにも声をかけてくれました。初めて仲間として認められた思いがします。」(製造業)

「店内のレイアウトを変える際に、パートの意見も聞いてもらえました。売り場主任も私の提案に熱心に耳を傾けてくれ、結果的に私のアイデアが一部採用されました。」(小売業)

「お総菜売り場の主任だった正社員の方が急にお辞めになって、店長が私を後任に指名して仕事を全面的に任せてくださいました。商品を今までより小分けしたり、お総菜の種類を増やしたり、張り切って取り組みました。時給も大幅にアップしました。」(流通業)


 パート社員がやる気を持って意欲的に仕事に取り組み職場全体に活気が生まれるか、もてる能力の一部しか発揮せず職場全体に暗い雰囲気が立ちこめるか、あなた自身の意識や行動によっても大きく変わるのではないでしょうか。


確認2 パート処遇についてどう考えていますか?


 でも常用フルタイム社員の意識を変えるだけでは解決できない問題もあります。それはパート社員の処遇の問題です。パート社員の処遇の改善のためには、常用フルタイム社員の意識を変えるだけではなく、実際にパート社員の処遇制度を見直す必要があります。

(事例)

「わが社ではこのところ正社員がかなり削減され、これまで正社員がしていた仕事をパートさんが代わってやっています。当然、正社員並みの仕事をしてもらわないと、我々正社員の方に負荷がかかり、自分の仕事もまわらなくなってしまうのですが、彼らがもらっている給料の額を考えると強いことは言えません。」(流通業)

「妻がスーパーのパートで1日6時間働き始めて10年になるのですが、時給850円。入社時から50円アップしただけです。売り場責任者で責任もあるのに、これではひどいのではないかと思います。疑問に思って自分の会社のパートさんの時給について聞いてみたら、妻の状況と大して違わず、ショックを受けました。それ以来、パートさんの働き方や時給についても、機会があれば上司に意見を言うようにしています。」(小売業)

「人事部に異動になってパートさんの時給があまりにも低いことを知りました。自分と同じ仕事をしているのに、時給換算だと私の半分くらいなのです。パートさんに仕事を頼むのが何だか申し訳なくなってしまうと同時に、給与の高い自分はいままでよりもっと頑張らねばと思いました。」(製造業)


 平成13年厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、女性正社員と女性パート労働者の時間当たり所定内給与は、正社員を100とした場合に、パート労働者が66.4と開きがあります。賞与を含めると55.5と、格差はさらに大きくなります。また、平成11年の度生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、賞与や退職金制度の適用を受ける正社員が、9割を超えるのに対してパート労働者は、賞与支給制度の適用を受けるのが4割強、退職金制度の適用が1割弱となっています。
 さらに、平成13年の21世紀職業財団の調査によれば、自分と同じ仕事に従事しているパートが増えていると答えた正社員のうち、5割がパート処遇改善の必要性を感じています。

 事例にもあったように、パート社員が積極的に仕事に取り組んでくれるかどうかによって、常用フルタイム社員の業務の負担は大きく違ってきます。常用フルタイム社員にとってパート問題は「自らの問題」でもあるのです。実際、それを感じているからこそ、前述のようにパート社員の処遇改善が必要と考える常用フルタイム社員が多いのでしょう。
 あなたの職場こ労働組合が組織され、あなたか組合員であるならば、労働組合に対してパート社員の処遇の改善に取り組んでいくことを求めることも重要ではないでしょうか。




労働組合がパート問題を自らの問題として取り組む姿勢を


 平成13年厚生労働省「労働組合基礎調査報告」によると、パート労働者の組合組織率は2.7%に止まっていますが、パート問題を自らの問題ととらえるならば、正社員の組合員を中心として構成されている労働組合もパート労働者の労働条件の向上に一緒に取り組んでいくことが重要と考えられます。


(事例)

「かって正社員として勤務し、組合でも活動していたときは、パートのことはほとんど念頭にありませんでした。『家計補助の人たち』くらいの認識でした。不幸にも会社の業績が悪化し、早期退職に応じて退職しました。新しい就職先でパートになってみて、はじめてパートの気持ちがわかりました。職場の正社員や労働組合が、パートを同じ労働者としてとらえてくれたら大変心強いのですが・・・。」(製造業)

「当社の組合にはパート労働者の大半が加入しています。最初は組合内部で正社員とパート労働者の利害調整が大変なのではないかと危惧していたのですが、全くそんな心配はありませんでした。組合員として一緒に労働条件の工場に向けて活動していく中で、職場内の一体感も強まりましたし、生産性も向上したと思っています。」(流通業)

「パートさん5人が、会社から解雇を通告されたと言って私たちの組合に相談に来ました。そのパートさんたちは組合員ではありませんでしたが、使用者が労働条件をきちんと説明することは職場全体にとって大切なことだと思い、使用者にパートさんに対する説明会を開いてもらいました。結果的には、解雇は撤回できなかったのですが、パートさんたちは納得して辞めていかれました。『やっぱり組合って強いですね。』の言葉が忘れられません。」(小売業)


 労働組合のナショナルセンターである「連合」も以下のような考え方を打ち出しています。
「就業形態が多様化する中で、バートや派遣、契約労働者をメンバーシップから除外するならば、企業別労働組合は長期継続雇用を典型とする労働者の利益しか守れない組織に堕す恐れがあり、結果として典型労働者の利益さえ危うくすることにもなる。(「21世紀『ニュー連合』の役割と行動」)

 ただ、ことはパート社員の処遇問題に止まりません。第2でもみたように今の常用フルタイム社員の処遇が年功的な場合は、それにパート社員の処遇を合わせろと言われても、労務コストの面等から困難との見方もあります。現在、常用フルタイム社員の処遇を能力や成果に応じたものに見直していく流れがありますが、こうした流れの一環として、パート社員の処遇についても見直していくことが重要ではないでしょうか。パート社員のみならず、常用フルタイム社員の働き方や処遇も含め、総合的な雇用管理の見直しに向けた労使間の率直な話合いが望まれます(P12参照)。