〔平成15年改正労働基準法〕の施行通達
■HOMEPAGE
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労働基準法の一部を改正する法律の施行について
平成15年10月22日
厚生労働省労働基準局長から各都道府県労働局長あて
労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第104号。以下「改正法」という。)については、平成15年7月4日付け厚生労働省発基第0704002号により厚生労働事務次官より通達されたところであるが、改正法による改正後の労働基準法(以下「法」という。)及び労働基準法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成15年政令第458号。以下「施行日政令」という。)並びに労働基準法の一部を改正する法律の施行に伴う労働基準法施行規則及び労働時間の短縮に関する臨時措置法施行規則の一部を改正する省令(平成15年厚生労働省令第163号。以下「整備令」という。)による改正後の労働基準法施行規則(以下「則」という。)、労働基準法第14条第1項第1号の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準を定める告示(平成15年厚生労働省告示第356号。以下「特例基準」という。)、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準を定める告示(平成15年厚生労働省告示第357号。以下「雇止めに関する基準」という。)、労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針(平成15年厚生労働省告示第353号。以下「企画業務型指針」という。)の内容等は下記のとおりであるので、これらの施行に遺漏なきを期されたい。
記
第1 有期労働契約(法第14条、第137条及び改正法附則第3条関係)
1 契約期間の上限(法第14条第1項関係)
(1)趣旨
有期契約労働者の多くが契約更新を繰り返すことにより、一定期間継続して雇用されている現状等を踏まえ、有期労働契約が労使双方から良好な雇用形態の一つとして活用されるようにすることを目的として、有期労働契約の契約期間の上限を1年から3年に延長するとともに、高度の専門的知識等を有する労働者や満60歳以上の労働者については、特例としてその期間の上限を5年としたものであること。
なお、高度の専門的知識等を有する労働者との間に締結される労働契約については、当該労働者の有する高度の専門的知識等を必要とする業務に就く場合に限って契約期間の上限を5年とする労働契約を締結することが可能となるものであり、当該高度の専門的知織を必要とする業務に就いていない場合の契約期間の上限は3年であること。
また、本条第1項第1号の高度の専門的知織等を有する労働者との間に締結される労働契約については、改正法による改正前の労働基準法第14条第1号又は第2号の労働者との間に締結される労働契約に係る特例と異なり、当該労働者が当該専門的知識等を必要とする業務に就く者である場合であれば、いつでも5年以内の契約期間の労働契約を締結することができるものであること。
(2)特例の対象
契約期間の上限が5年とされた労働契約は、法第14条第1項第1号及び第2号に掲げる労働契約であり、具体的には次のとおりであること。
ア 法第14条第1項第1号に掲げる労働契約
(ア)趣旨
特例基準は、高度の専門的知織等を限定列挙したものであり、衆議院及び参議院の厚生労働委員会における附帯決議(別添1参照)において、「有期上限5年の対象労働者の範囲については、弁護士、公認会計士など専門的な知識、技術及び経験を有しており、自らの労働条件を決めるに当たり、交渉上、劣位に立つことのない労働者を当該専門的な知識、技術及び経験を必要とする業務に従事させる場合に限定すること。」とされたことを踏まえたものであること。
(イ)特例基準第1号関係
本号は、博士の学位を有する者を特例の対象とすることとしたものであるが、契約期間の上限を5年とする労働契約を締結することができるのは、法第14条第1項第1号に定めるとおり「当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く」場合に限るものであることから、労働者が博士の学位を有しているだけでは足りず、当該博士の学位に関係する業務を行うことが労働契約上認められている等が必要であるものであること。
(ウ)特例基準第2号関係
本号において、契約期間の上限を5年とする労働契約を締結することができるのは、上記(イ)の考え方と同様に、労働者が本号に掲げる国家資格を有していることだけでは足りず、当該国家資格の名称を用いて当該国家資格に係る業務を行うことが労働契約上認められている等が必要であるものであること。
(エ)特例基準第3号関係
「アクチュアリー」とは、確率や数理統計の手法を駆使して、保険料率の算定や配当水準の決定、保険商品の開発及び企業年金の設計等を行うものであり、「アクチュアリーに関する資格試験」とは、社団法人日本アクチュアリー会が行うアクチュアリーに関する資格試験を指すものであること。
また、本号において、契約期間の上限を5年とする労働契約を締結することができるのは、上記(イ)の考え方と同様に、労働者が本号に掲げる資格試験に合格している者であることだけでは足りず、当該資格を用いて当該資格に係る業務を行うことが労働契約上認められている等が必要であるものであること。
(オ)特例基準第4号関係
本号において、契約期間の上限を5年とする労働契約を締結することができるのは、上記(イ)の考え方と同様に、労働者が特許発明等の発明者等であるだけでは足りず、当該特許発明等に関係する業務を行うことが労働契約上認められている等が必要であるものであること。
(カ)特例基準第5号イ関係
a 「農林水産業若しくは鉱工業の科学技術若しくは機械、電気、土木若しくは建築に関する科学技術に関する専門的応用能力を必要とする事項についての計画、設計、分析、試験若しくは評価の業務」とは、@農林水産業の技術者、A鉱工業の技術者、B機械・電気技術者又はC建築・土木技術者の業務をいうものであること。
具体的には、平成11年11月25日付け職発第826号に定める労働省編職業分類における大分類A(専門的・技術的職業)中中分類02(農林水産業・食品技術者)、03(機械・電気技術者)、04(鉱工業技術者(機械・電気技術者を除く))又は05(建築・土木・測量技術者)中小分類051(建築技術者)若しくは052(土木技術者)に分類される者をいうものであること。
b 「情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。以下同じ)の分析若しくは設計の業務(以下「システムエンジニアの業務」をいう。)」とは、いわゆるシステムエンジニアの業務をいうものであること。
「情報処理システム」とは、情報の整理、加工、蓄積、検索等の処理を目的として、コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、通信ネットワーク、データを処理するプログラム等が構成要素として組み合わされた体系をいうものであること。
また、「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは、@ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、A入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等、Bシステム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうものであること。プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれないものであること。
c 「衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務」とは、いわゆるデザイナーの業務をいうものであること。
また、「広告」には、商品のパッケージ、ディスプレイ等広く宣伝を目的としたものも含まれるものであること。考案されたデザインに基づき、単に図面の作成、製品の製作等の業務を行う者は含まれないものであること。
d (1)から(3)までに規定する「就こうとする業務に関する学科」とは、労働者に従事させようとする業務にそれぞれ関するものであること。例えば、別添2に掲げるような学科が考えられること。
なお、「学科」には、大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)第5条に基づき学科に代えて設置されている「課程」も含まれるものであること。
e 本号中「・・年以上従事した経験」には、それぞれの学位や資格等を得る以前の経験を含むものであること。
(キ)特例基準第5号ロ関係
a 「事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務」とは、いわゆるシステムコンサルタントの業務をいうものであること。システムコンサルタントについいては、学歴は問わず、システムエンジニアとしての実務経験を要件としているものであること。
b 「情報処理システムを活用するための問題点の把握」とは、現行の情報処理システム又は業務遂行体制についてヒアリングを行い、新しい情報処理システムの導入又は現行情報処理システムの改善に関し、情報処理システムを効率的、有効に活用するための方法について問題点の把握を行うことをいうものであること。
また、「それを活用するための方法に関する考案若しくは助言」とは、情報処理システムの開発に必要な時間、費用等を考慮した上で、新しい情報処理システムの導入や現行の情報処理システムの改善に関しシステムを効率的、有効に活用するための方法を考案し、助言することをいうものであること。
なお、アプリケーションの設計又は開発の業務、データべ−ス設計又は構築の業務は、上記(カ)のbのいわゆるシステムエンジニアの業務に含まれるものであり、いわゆるシステムコンサルタントの業務には含まれないものであること。
(ク)特例基準第5号の賃金の額に係る要件関係
a 「支払われることが確実に見込まれる賃金の額」とは、個別の労働契約又は就業規則等において、名称の如何にかかわらず、あらかじめ具体的な額をもって支払われることが約束され、支払われることが確実に見込まれる賃金はすべて含まれるものであること。したがって、所定外労働に対する手当や労働者の勤務成績等に応じて支払われる賞与、業績給等その支給額があらかじめ確定されていないものは含まれないものであること。ただし、賞与や業績給でもいわゆる最低保障額が定められ、その最低保障額については支払われることが確実に見込まれる場合には、その最低保障額は含まれるものであること。
b 「一年当たりの額に換算した額が千七十五万円を下回らないもの」とは、契約期間中に支払われることが確実に見込まれる賃金額を一年当たりに換算した額が1075万円以上であることをいうものであり、次のいずれかに該当するものであること。
(a)労働契約の開始日から起算する一年ごとの期間について1075万円以上であること
(b)賃金計算期間等に応じて客観的かつ合理的に定められる任意の日から起算する一年ごとの期間について1075万円以上であること
(c)契約期間中に支払われることが確実に見込まれる賃金の総額を一年に換算した額が1075万円以上であること
c 上記bの(a)及び(b)において、一年未満の端数となる期間が生じる場合にあっては、当該期間を一年に換算した賃金額が1075万円以上であることが必要であること。
d 当該賃金の額に係る要件は、3年を超える有期労働契約の締結に当たっての要件であり、労働者の何らかの事由による休業や欠勤等により実際の賃金額が減額され得ることは、契約の締結の要件とは関係のないことであること。
e 上記cの換算方法その他について疑義が生じた場合には、個別ケースごとに照会されたいこと。
(ケ)特例基準第6号関係
本号に規定する「厚生労働省労働基準局長が定める者」については、おって必要に応じ、厚生労働省労働基準局長通達により定めることとするものであること。
イ 法第14条第1項第2号に掲げる労働契約
本号の労働契約は、契約締結時に満60歳以上である労働者との間に締結されるものであることを要すること。
(3)法第14条第1項に規定する期間を超える期間を定めた労働契約の効力等について
法第14条第1項に規定する期間を超える期間を定めた労働契約を締結した場合は、同条違反となり、当該労働契約の期間は、法第13条により、法第14条第1項第1号及び第2号に掲げるものについては5年、その他のものについては3年となること。
(4)その他
今回の法改正における有期労働契約の期間の上限の延長は、有期労働契約が労使双方から良好な雇用形態の一つとして活用されるようにすることを目的としているものであり、今回の改正を契機として、企業において、期間の定めのない契約の労働者の退職に伴う採用や新規学卒者の採用について、これまでは期間の定めのない契約の労働者を採用することとしていた方針を有期契約労働者のみを採用する方針に変更するなど有期労働契約を期間の定めのない労働契約の代替として利用することは、今回の改正の趣旨に反するものであること。
また、使用者が労働者との間に期間の定めのない労働契約を締結している場合において、当該労働者との間の合意なく当該契約を有期労働契約に変更することはできないものであること。
以上の点に留意すべき旨、使用者やその団体等に対して、集団指導等あらゆる機会を捉えて周知を図るものであること。
2 有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(法第14条第2項及び第3項)
(1)趣旨
有期契約労働者について適切な労働条件を確保するとともに、有期労働契約が労使双方にとって良好な雇用形態として活用されるようにするためには、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに際して発生するトラブルを防止し、その迅速な解決が図られるようにすることが必要であることから、厚生労働大臣が「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」を定めることとし、当該基準に関し、行政官庁が必要な助言及び指導を行うことができることとしたものであること。
(2)雇止めに関する基準の内容
ア 第1条関係
(ア)本条により明示しなければならないこととされる「更新の有無」及び「判断の基準」の内容は、有期労働契約を締結する労働者が、契約期間満了後の自らの雇用継続の可能性について一定程度予見することが可能となるものであることを要するものであること。
例えば、「更新の有無」については、
a 自動的に更新する
b 更新する場合があり得る
c 契約の更新はしない
等を明示することが考えられるものであること。
また、「判断の基準」については、
a 契約期間満了時の業務量により判断する
b 労働者の勤務成績、態度により判断する
c 労働者の能力により判断する
d 会社の経営状況により判断する
e 従事している業務の進捗状況により判断する
等を明示することが考えられるものであること。
(イ)なお、これらの事項については、トラブルを未然に防止する観点から、使用者から労働者に対して書面を交付することにより明示されることが望ましいものであること。
(ウ)本条第3項については、使用者が労働契約締結時に行った「更新の有無」及び「判断の基準」に係る意思表示の内容を変更する場合に、当該労働契約を締結した労働者に対して、速やかにその変更した意思表示の内容を明示しなければならないものであること。この場合、「更新の有無」及び「判断の基準」が当該労働契約の一部となっている場合には、その変更には当該労働者の同意を要するものであること。
イ 第2条関係
(ア)本条の対象となる有期労働契約は、
a 1年以下の契約期間の労働契約が更新又は反復更新され、当該労働契約を締結した使用者との雇用関係が初回の契約締結時から継続して通算1年を超える場合
b 1年を超える契約期間の労働契約を締結している場合であること。
(イ)なお、30日未満の契約期間の労働契約の更新を繰り返して1年を超えた場合の雇止めに関しては、30日前までにその予告をするのが不可能な場合であっても、本条の趣旨に照らし、使用者は、できる限り速やかにその予告をしなければならないものであること。
ウ 第3条関係
「更新しないこととする理由」及び「更新しなかった理由」は、契約期間の満了とは別の理由を明示することを要するものであること。
例えば、
(ア)前回の契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていたため
(イ)契約締結当初から、更新回数の上限を設けており、本契約は当該上限に係るものであるため
(ウ)担当していた業務が終了・中止したため
(ェ)事業縮小のため
(オ)業務を遂行する能力が十分ではないと認められるため
(カ)職務命令に対する違反行為を行ったこと、無断欠勤をしたこと等勤務不良のため
等を明示することが考えられるものであること。
エ 第4条関係
本条における「労働契約の実態」とは、例えば、有期労働契約の反復更新を繰り返した後、雇止めをした場合であっても、裁判において当該雇止めが有効とされる場合のように、業務の都合上、必然的に労働契約の期間が一定の期間に限定され、それ以上の長期の期間では契約を締結できないような実態を指すものであること。
(3)その他
ア 有期労働契約の雇止めに関する裁判例を見ると、契約の形式が有期労働契約であっても、
・反復更新の実態や契約締結時の経緯等により、実質的には期間の定めのない契約と異ならないものと認められた事案
・実質的に期間の定めのない契約とは認められないものの契約更新についての労働者の期待が合理的なものと認められた事案
・格別の意思表示や特段の支障がない限り当然更新されることを前提として契約が締結されていると認められ、実質上雇用継続の特約が存在すると言い得る事案
があり、使用者は、こうした事案では解雇に関する法理の類推適用等により雇止めが認められなかった事案も少なくないことに留意しつつ、法令及び雇止めに関する基準に定められた各事項を遵守すべきものであること。
イ 雇止めに関する基準は、有期労働契約の契約期間の満了に伴う雇止めの法的効力に影響を及ぼすものではないこと。
(4)助言及び指導
行政官庁は、雇止めに関する基準に定める内容に反して労働契約の締結や雇止めがなされた場合にその是正を求める等、雇止めに関する基準に関し、有期労働契約を締結する使用者に対し、法第14条第3項に基づき必要な助言及び指導を行うことができるものであること。
3 有期労働契約についての暫定措置(法第137条、改正法附則第3条関係)
一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、1年を超える期間の有期労働契約を締結した労働者であって、法第14条第1項各号に規定する労働者以外の者は、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、民法第628条に定める事由が存在していなくとも、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができるものであること。
なお、上記の措置は、改正法施行後3年を経過した場合において、法第14条の規定について、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を溝ずるまでの間において有効であるものであること。
第2 解雇(法第18条の2、法第22条第2項、法第89条、則第5条関係)
1 解雇(法第18条の2関係)
(1)趣旨
解雇が労働者に与える影響の重大性や、解雇に関する紛争が増大している現状にかんがみ、解雇に関するルールをあらかじめ明確にすることにより、解雇に際して発生するトラブルを防止し、その解決を図ることを目的として、最高裁判所判決で確立しているいわゆる解雇権濫用法理を法律に明記することとしたものであること。
本条については、衆議院及び参議院の厚生労働委員会における附帯決議(別添1参照)において、「本法における解雇ルールは、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち、圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判実務を何ら変更することなく最高裁判所判決で確立した解雇権濫用法理を法律上明定したもの」であり、「本法における解雇ルールの策定については、最高裁判所判決で確立した解雇権濫用法理とこれに基づく民事裁判実務の通例に則して作成されたものであることを踏まえ、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものではない」ことが立法者の意思であることが明らかにされているものであること。
(2)周知
都道府県労働局及び労働基準監督署においては、解雇権濫用法理を確立した最高裁判所判決をはじめとして、いわゆる整理解雇四要件に関するものを含め、関係する裁判例の内容の周知を図るとともに、上記(1)に記載した法第18条の2の規定の趣旨についての周知を図るものであること。
(3)法第104条第1項との関係
法第18条の2の規定は、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」という要件に当たる場合は、無効となることを定めたものであり、同条の規定に基づき解雇の効力を争う事案については、法第104条第1項に定める申告の対象とはならないものであること。
なお、解雇をめぐる紛争について解決を求められた場合は、個別労働紛争の簡易迅速な解決を図ることを目的とする個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)により解決を図ることができる紛争の対象となることについて周知を図る等の対応を行うものであること。
2 退職時等の証明(法第22条第2項関係)
(1)趣旨
解雇をめぐる紛争を未然に防止し、その迅速な解決を図ることを目的として、現行の退職時証明に加えて、解雇を予告された労働者は、当該解雇の予告がなされた日から当該退職の日までの間においても、使用者に対して当該解雇の理由を記載した証明書の交付を請求できることとし、当該請求があった場合には、使用者は、遅滞なく、当該解雇の理由を記載した証明書を交付をしなければならないこととしたものであること。
(2)法第22条第1項との関係
ア 労働者が解雇予告の期間中に当該解雇の理由について証明書を請求した場合は、その日以後に労働者が当該解雇以外の事由で退職した場合を除いて、使用者は、当該解雇予告の期間が経過した場合であっても、法第22条第2項に基づく証明書の交付義務を負うものであること。
この場合、労働者は、当該解雇予告の期間が経過したからといって、改めて法第22条第1項に基づき解雇の理由についての証明書を請求する必要はないこと。
イ 法第22条第2項の規定は、解雇予告の期間中に解雇を予告された労働者から請求があった場合に、使用者は遅滞なく、当該解雇理由を記載した証明書を交付しなければならないものであるから、解雇予告の義務がない即時解雇の場合には、適用されないものであること。
この場合、即時解雇の通知後に労働者が解雇の理由についての証明書を請求した場合には、使用者は、法第22条第1項に基づいて解雇の理由についての証明書の交付義務を負うものと解すべきものであること。
(3)記載すべき内容
「解雇の理由」については、法第22条第1項に基づく請求における場合と同様に、具体的に示す必要があり、就業規則の一定の条項に該当する事実が存在することを理由として解雇した場合には、就業規則の当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係を証明書に記入しなければならないものであること。
3 就業規則の記載事項(法第89条関係)
(1)趣旨
解雇をめぐる紛争を未然に防止する観点から、就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」には「解雇の事由」が含まれることを法律上明らかにしたものであること。
(2)受理時の相談・援助
労働基準監督署における就業規則の届出の受理に当たっては、解雇の事由ができる限り明確に記載されるよう、モデル就業規則を活用すること等により、使用者に対して必要な相談・援助を行うものであること。
4 労働契約締結時の解雇事由の明示(則第5条関係)
使用者が労働契約の締時に際し書面の交付により明示すべき労働条件として、「退職に関する事項」に「解雇の事由」が含まれることを則において明らかすることとしたものであること。
なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるものであること。
第3 裁量労働制(法第38条の3、法第38条の4関係)
1 専門業務型裁量労働制(法第38条の3関係)
(1)趣旨
専門業務型裁量労働制の適用を受けている労働者について、健康上の不安を感じている労働者が多い等の現状があることから、裁量労働制が働き過ぎにつながることのないよう、専門業務型裁量労働制についても、企画業務型裁量労働制と同様に、労使協定により健康・福祉確保措置及び苦情処理措置の導入を必要とすることとしたものであること。
(2)健康・福祉確保措置及び苦情処理措置の具体的内容
健康・福祉確保措置及び苦情処理措置の具体的な内容については、企画業務型裁量労働制における同措置の内容と同等のものとすることが望ましいものであること。
(3)記録の保存(則第24条の2の2関係)
本制度において、健康・福祉確保措置及び苦情処理措置を必要とすることとしたことに伴い、使用者に対して、制度の対象となる労働者の労働時間の状況及び当該労働者の健康・福祉を確保するための措置として講じた措置、制度の対象となる労働者からの苦情の処理に関する措置に係る記録の保存を要することとしたものであること。
(4)労使協定の様式の改正(則様式第13号関係)
本制度において、労使協定により健康・福祉確保措置及び苦情処理措置を必要とすることとしたことに伴い、労使協定の様式に「労働者め健康及び福祉を確保するために講ずる措置」及び「労働者からの苦情の処理に関して講ずる措置」の欄を追加したものであること。
(5)労使協定の有効期間
労使協定の有効期間については、不適切に制度が運用されることを防ぐため、3年以内とすることが望ましいものであること。
(6)その他
ア 経過措置
今回の改正においては、経過措置が講じられていないことから、改正法の施行日までの間に、使用者が上記の措置を溝ずることを定めた労使協定を締結し、かつ、届出を要することとしたものであること。
イ 条文の整理
今回の改正においては、法第38条の3の規定に関し、その全文を改正しているが、新たに法律要件として付け加えられた事項以外に関しては、条文の構文を整理したものであり、その内容は従前と何ら変わりはないものであること。
2 企画業務型裁量労働制(法第38条の4関係)
(1)趣旨
企画業務型裁量労働制は、労働者が主体的に多様な働き方を選択できる可能性を拡大するために、その選択肢の一つとして導入されたものであるが、今回の改正においては、この制度がより有効に機能するよう、その導入に当たって、労使の十分な話合いを必要とすること等の制度の基本的な枠組みは維持しつつ、同制度の導入・運用についての要件・手続を緩和したものであること。
(2)対象事業場
今回の法改正により、企画業務型裁量労働制を実施することができる事業場は、事業運営上の重要な決定が行われる事業場に限定されないこととなったところであるが、いかなる事業場においても企画業務型裁量労働制を実施することができるということではなく、対象業務が存在する事業場(以下「対象事業場」という。)においてのみ企画業務型裁量労働制を実施することができるものであること。
また、企画業務型指針第2の対象事業場とは、留意事項として、その具体例を掲げているものであり、企画業務型裁量労働制を実施するためには、あくまで対象業務の要件を満たすことが必要であること。
(3)対象業務
法第38条の4第1項第1号の「事業の運営に関する事項」とは、企画業務型指針第3の1の(1)のイに記載のとおり、
@ 対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼす事項
A 当該事業場に係る事業の運営に影響を及ぼす独自の事業計画や営業計画をいい、対象事業場における事業の実施に関する事項が直ちにこれに該当するものではなく、例えば、次のように考えられるものであること。
ア 該当する業務の例
(ア)@に該当する例
a 本社・本店である事業場においてその属する企業全体に係る管理・運営とあわせて対顧客営業を行っている場合、当該本社・本店である事業場の管理・運営を担当する部署において策定される当該事業場の属する企業全体の営業方針
b 事業本部である事業場における当該事業場の属する企業等が取り扱う主要な製品・サービス等についての事業計画
c 地域本社や地域を統轄する支社・支店等である事業場における、当該事業場の属する企業等が事業活動の対象としている主要な地域における生産、販売等にづいての事業計画や営業計画
d 工場等である事業場において、本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に策定する、当該事業場の属する企業等が取り扱う主要な製品・サービス等についての事業計画
(イ)Aに該当する例
a、支社・支店等である事業場において、本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に策定する、当該事業場を含む複数の支社・支店等である事業場に係る事業活動の対象となる地域における生産、販売等についての事業計画や営業計画
b 支社・支店等である事業場において、本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に策定する、当該事業場のみに係る事業活動の対象となる地域における生産、販売等についての事業計画や営業計画
(ウ)なお、「本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に策定する」とは、
a 支社・支店等である事業場の属する企業等が取り扱う主要な製品・サービス等の事業計画について広範な裁量が当核事業場に認められており、その広範な裁量の下で、当該事業場がその属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼす事項についての事業計画を策定している場合、又は、
b 支社・支店等である事業場に係る事業活動の対象となる地域における生産、販売等に係る事業計画や営業計画について広範な裁量が当該事業場に認められており、その広範な裁量の下で、当該事業場lこ係る事業の運営に影響を及ぼす独自の事業計画や営業計画を策定している場合をいうものであること。 .
イ 該当しない業務の例
(ア)@に該当しない例
a 本社・本店である事業場の対顧客営業を担当する部署に所属する個々の営業担当者が担当する営業
b 工場等である事業場における個別の製造等の作業や当該作業に係る工程管理
(イ)Aに該当しない例
支社・支店等である事業場において、本社・本店又は支社・支店等である事業場の具体的な指示を受けて行う個別の営業活動
(4)健康・福祉確保措置
ア 今回の企画業務型指針の改正により、健康・福祉確保措置の一例として、企画業務型指針第3の4の4の(2)のハの(へ)に産業医等による助言・指導等を追加したが、これは、使用者は、裁量労働制対象労働者についても、健康確保の責務があるものであることを踏まえ、把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、必要な場合に当該措置を行うことが考えられるものであること。
イ 企画業務型指針第3の4の4の(2)のニに規定する「必要な見直し」とは、例えば、対象労働者への企画業務型裁量労働制の適用を除外することが考えられるものであること。
(5)決議の有効期間
労使委員会の決議の有効期間については、その期間を当分の間1年以内に限るとしていた暫定措置を廃止したが、今後とも、不適切に制度が運用されることのないように、その有効期間については、3年以内とすることが望ましいものであること。
(6)決議届の様式の改正(則様式第13号の2関係)
今回の法改正により、労働基準監督署長に対する労使委員会の設置についての届出が廃止されることに伴い、同届出の様式の記載事項のうち、決議の届出に際して引き続き把握することが必要な事項について、労働基準監督署長に対する労使委員会の決議についての届出の様式に追加したものであること。
(7)労働基準監督署長への報告(則様式第13号の4及び則第24条の2の5関係)
ア 報告様式の改正
今回の法改正に伴い、報告の様式のうち「労働者からの苦情の処理に関する措置の実施状況」及び「労使委員会の開催状況」の欄を削除したものであること。
イ 報告事項
使用者の報告する事項は、次のとおりであること。
(ア)対象労働者の労働時間の状況
対象労働者について4号決議事項として把握した時間のうち、平均的なもの及び最長のものの状況を報告すること。また、対象労働者の労働時間の状況を実際に把握した方法を具体的に報告すること。
(イ)当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況
ウ 報告時期
決議の届出をした使用者は、当面の間、これまでと同様に、決議が行われた日から起算して6箇月以内ごとに1回、則様式第13号の4により、所轄労働基準監督署長に報告をしなければならないものであること。
(8)その他
ア 労使委員会の適正な設置、運営
企画業務型裁量労働制の導入に当たっては、労使委員会が重要な役割を担っていることにかんがみ、特に労働組合に加入していない労働者が多い中小企業においても、労使委員会が適正に設置、運営される必要があるものであること。
イ 苦情処理措置の適正な実施の確保
今回の法改正により、苦情処理措置の実施状況については、法第38条の4第4項に基づく行政官庁への報告事項としないこととされたが、苦情処理措置については、引き続き、企画業務型指針第3の5の(2)を踏まえて労使委員会における決議がなされることが必要であるとともに、企画業務型指針第4の4の(2)において「使用者は、労使委員会に対し、(中略)対象労働者からの苦情の内容及びその処理状況等法第38条の4第1項第5号に係る決議に係る苦情処理措置の実施状況(中略)を開示することが適当であることに留意することが必要である」とされていることも踏まえつつ、その適正な実施が図られる必要があるものであること。
ウ 対象労働者の同意
企画業務型裁量労働制の適用を受けることについての労働者の同意に関しては、従来から、企画業務型指針第3の6の(2)のロにおいて、「対象労働者から当該同意を撤回することを認めることとする場合にはその要件及び手続を決議において具体的に定めることが適当であることに留意するこどが必要であること」とされているところであり、対象事業場に対して、引き続き、その旨の周知徹底を図るものであること。
エ 改正法の施行日前にした決議の効力
現行制度において企画業務型裁量労働制の対象事業場に該当しない事業場に設置された労使による委員会において、改正法の施行日前に法第38条の4に定める決議事項を決議した場合、当該事業場は対象事業場の要件を満たしていないため、当該決議によっては、みなし労働時間の効力は生じないものであること。
第4 その他
1 施行日政令関係
施行日政令は、改正法の施行期日を平成16年1月1日と定めるものであること。
2 公務員等に係る法の適用関係
(1)国家公務員等関係
法第14条第2項及び第3項、法第18条の2並びに法第22条第2項の規定は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)の規定が優先される国家公務員現業の職員及び特定独立行政法人の職員に対しては適用されないものであること。
なお、法第18条の2及び法第22条の規定については、任期を1日とする日々雇用の非常勤職員の任期の満了による退職の場合は、そもそも解雇ではないため適用されないものであること。
(2)地方公務員等関係
法第14条第2項及び第3項並びに法第18条の2の規定は、改正法による改正後の地方公務員法(昭和25年法律第261号)及び地方公営企業法(昭和27年法律第292号)により、一般職に属する地方公務員及び企業職員に対しては適用されないものであること。
3 労働時間短縮推進委員会(改正法附則第6条及び整備省令第2条関係)
企画業務型裁量労働制の労使委員会の決議について、その要件を改正したことに伴い、いわゆる労使協定代替決議に関して、労使委員会と同じ効力を有する労働時間の特例に係る労働時間短縮促進委員会の決議についても、労使委員会と同じく委員の5分の4以上の多数による議決によることととしたものであること。
また、労使委員会について、その設置の届出を廃止したことに伴い、労働時間短縮促進委員会についても労使委員会と同じく設置の届出を廃止したものであること。
(別添2)
「就こうとする業務に関する学科」の例
大学 | 昭和28年文部省告示第5号 | 短期大学 | 高等専門学校 | 高等学校 | ||
技術者 | ||||||
@農林水産業 | 農業工学科 生物化学科 畜産科学科 森林科学科 海洋生産科 |
海洋生産管理学科(水産大学校) | 農業工学科 酪農科 営林科 |
農業科 林業科 畜産科 漁業科 |
||
A鉱工業 | 理工学部の各学科 鉱山学研究科 |
応用科学科(防衛大学校) 食品化学科(水産大学校) |
工学科 工業技術科 |
工業化学科 機械工学科 |
工業科学科 金属工業科 |
|
B機械・電気 | 機械工学科 電気電子工学科 |
電気電子工学科、機械工学科(防衛大学校) 海洋機械工学科(水産大学校) 産業機械工学科、電気工学科(職業能力開発総合大学校) |
電子機械工学科 電気科 |
機械工学科 電気工学科 電子情報工学科 |
機械科 電気科 電気通信科 |
|
C土木・建築 | 土木工学科 建築工学科 |
建築環境工学科(防衛大学校) 建築工学科(職業能力開発総合大学校) |
土木科 建築学科 |
土木工学科 建築科 |
土木科 建築科 |
|
システムエンジニア | 情報システム工学科 情報工学科 |
情報処理学科 情報システム学科 |
電子情報工学科 | 電気科 電気通信科 |
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デザイナー | ||||||
@衣服 | 装飾造形学科 | 被服科 服装美術科 |
被服科 | |||
A室内装飾 | 建築学科 | 建築学科 | 建築科 | |||
B工業製品 | デザイン工学科 | 造形工学科(職業能力開発総合大学校) | 美術工芸科 | インダストリアル・デザイン学科 工業意匠学科 |
美術科 | |
C広告 | 美術学科 | 美術科 | 美術科 |