来島大橋工事・橋桁もろとも60M落下(7名死亡)
■HOMEPAGE
■640/480
■災害事例目次へ








来島大橋架設桁落下災害

−ジャッキの安全機構に不備/


労働省「来島大橋架設桁落下災害調査委員会」の調査結果が、平成10年10月18日発表された。
なお、本調査結果の概要は労働省ホームページの「最近発表資料」に図表入りでより詳細な内容が発表されているので、詳細は、労働省ホームページhttp://www.jil.go.jp/kisya/mokuji.htmlをご覧ください。

この労働災害は、平成10年6月10日(水)愛媛県今治市馬島の来島大橋馬島高架部鋼上部工工事現場(7A−P4間)において、主桁の送り出しに使用した架設桁を解体し、地上に降下させる作業中、架設桁(重量47t)及びこれを吊っていた主桁上の作業台車が約60m下の地上に落下した。このため、作業台車上で作業中の8人のうち7人が地上に墜落して死亡し、主桁上にとばされた1人が重傷を負った、もの。




(災害発生の原因)

1 架設桁のつり降ろしに使用されていた4基のジャッキの上クランプ(ワイヤロープを締め付けて保持する機構)が開放している状態で、「下クランプが開放」したため事故が発生したと推定される。



2 「下クランプの開放」の原因を調査したところ、ジャッキ及び油圧系統の異常はなかったと推定され、何らかの理由により、下クランプの操作レバーが「クランプ開放側」に倒れたことにより、下クランプが開放したと推定される。この原因は、「上下クランプの同時開放を防ぐ機構が備わっていなかったこと」である。



3 さらに、作業台車と主桁との固定が不十分であったことや、作業台車上で作業が行われていたことが災害につながったと考えられる。










調査結果の概要



1 災害の概要

 平成10年6月10日(水)午後0時2分頃、愛媛県今治市馬島の来島大橋馬島高架部鋼上部工工事現場(7A−P4間)において、主桁の送り出しに使用した架設桁を解体し、地上に降下させる作業中、架設桁(重量47t)及びこれを吊っていた主桁上の作業台車が約60m下の地上に落下した。このため、作業台車上で作業中の8人のうち7人が地上に墜落して死亡し、主桁上にとばされた1人が重傷を負った。


2 被災状況

 各工事関係事業者別の被災者数は以下のとおり。
石川島播磨重工業(株) 死亡2人
石川島機械鉄構エンジニアリング(株)  死亡4人 負傷1人
大瀧ジャッキ(株)  死亡1人




3 災害発生当日の作業状況

 当該工事現場では、橋梁の主桁(道路になる部分の桁)の架け渡しが終了し、これに使用した架設桁及びベントの撤去作業を6月9日(災害発生前日)から行っていた。これは架設桁を5つのブロックに分割し、主桁上に設置した作業台車上の4基のセンターホールジャッキによりつり降ろすものである。

(架設桁降下時の状況)


 災害発生当日は、最も今治側の架設桁のブロックを作業台車につり下げ、橋軸方向に所定の位置までに移動させた後、つり降ろすことになっていた。

(災害発生当日の作業概要)

 当日の作業は午前8時頃から開始され、架設桁を橋軸方向に移動後、午前11時30分頃から10人が作業台車上に乗り、架設桁の降下作業が開始された。作業内容は、センターホールジャッキの操作(1人)、センターホールジャッキへのワイヤロープの供給の介添え及び伸縮ジャッキの作動状況の確認、作業全体の監視等であった。午前11時50分頃までに架設桁は3〜4m降下した。ここで作業員3人が休憩のため作業を離れたが、現場副所長が作業に加わり、8人で作業を続行した。
 午後0時2分頃、架設桁及び8人が乗っていた作業台車が約60m下の地上に落下した。
 これに伴い、作業中の8人のうち7人が地上まで墜落して死亡し、1人が主桁上に投げ出されて重傷を負った。



4 事故発生のきっかけ

 事故発生直後の状況から、4基のセンターホールジャッキは、事故発生直前には伸縮ジャッキをほぼ最大に伸長し、上クランプ開放、下クランプ締付けの状態であったことが推測される。(センターホールジャッキの操作概要(=略))
 センターホールジャッキの荷重試験結果によると、上下クランプのピストン位置が完全な締付状態の位置から数ミリ下降した時点で事故発生直前にかかっていたと見られる荷重を保持できなくなる。事故発生後のピストンの位置は、上クランプは完全な開放状態、下クランプは完全な締付状態の位置から13.5mm〜28.5mm離れており、この位置では事故発生時の荷重は保持できない。また、分解結果によると、全センターホールジャッキについて、上下クランプともワイヤロープが通過した痕がある。(センターホールジャッキの構造(=略))

 これらから、事故発生の直接原因は、全センターホールジャッキについて、「下クランプが開放したこと」であると推定できる。




5 災害発生原因

5−1 下クランプ開放の原因

 事故のきっかけ(下クランプの開放)の原因を調査したところ、可能性のあるものとして(1)センターホールジャッキ、(2)油圧系統、(3)操作盤・操作方法、の3点が挙げられた。

 まず、上記(1)、(2)については、実際に使用されていたセンターホールジャッキによる試験、分解結果等により検討したところ、センターホールジャッキのワイヤロープの保持性能には問題はなかったと推定され、油圧系統の異常もなかったと推定された。

 上記(3)については、下クランプの操作レバーが戻し側に倒れれば、全下クランプが開放することが明らかとなった。(油圧ポンプユニットの概要(=略))

 レバーの倒れによって下クランプが開放した原因は、「上下クランプの同時開放を防ぐインターロック機構が備わっていなかったこと」である。

 なお、操作レバーが倒れた理由については、特定できない。



5−2 事故のきっかけが拡大し、労働災害に至った原因

(1)作業台車について

 反力梁にかかる荷重がアンバランスになったことにより、反力梁の一つが跳ね上がり、作業台車全体が崩壊したことにより、労働災害は発生した。作業台車がこのように崩壊してしまった原因には、作業台車自体の剛性や、接合部の強度、作業台車と主桁の固定が不十分であったことが挙げられる。(作業台車の構造図(=略))

(2)人員の配置について

 作業台車の崩壊によって作業員が墜落した原因としては、センターホールジャッキの操作、ワイヤロープの供給の介添え等を作業台車上で行っていたことが挙げられる。





 事故の発生プロセス







6 再発防止対策

 次に、今回使用されたセンターホールジャッキのように、ワイヤロープ等を締め付ける等により保持するタイプのつり上げ機械を使用し、重量物のつり上げ、つり下げ作業を行う場合の再発防止対策は、以下のとおりである。

(1) つり上げ機械について

 イ ワイヤロープ等保持機構の同時開放を防ぐインターロック機能等誤作動、故障等が発生した場合にも事故につながらない機能を有すること。

 ロ ワイヤロープ等保持機構が開放している場合には、操作盤の表示ランプの点滅等によりその旨をオペレーターに確実に認識させる機能を有すること。

 ハ つり上げ機械とそれを搭載する架台を確実に固定すること。

 ニ 架台の十分な剛性、強度を確保し、確実に据え付けること。

(2) 作業方法等について

 イ つり上げ機械の操作については、遠隔操作で行う等によりオペレーターが安全な位置において操作できるようにすること。

 ロ ワイヤロープ等保持機構の開閉操作等については、可能な限り操作の自動化を進めること。

 ハ シーブを設置する等により、つり上げ機械へのワイヤロープ等の供給等の介添えを労働者が安全な位置で行えるようにすること。

 ニ つり上げ機械につり荷の荷重が全て移った際に、つり上げ機械、架台及びつり荷の挙動を確認すること。また、つり上げ及びつり降ろし作業中は、つり荷が傾斜すること等を防止するため、つり荷の高さ、水平度、荷重等を適切に計測・表示すること。

(3)施工計画・安全管理体制について

 イ 施工計画段階から、施工中の危険性を詳細に評価し、その評価に応じた対策を検討し、その結果を施工計画に盛り込むこと。

 ロ 施工に関して十分に知識と経験のある者を作業の指揮者に指名し,この者に作業方法及び労働者の配置を決定させ、作業を直接指揮させること。

(4)安全教育について

 イ 作業を指揮する者及び労働者に対する安全教育を的確に実施すること。特に、つり上げ機械を操作する者に対しては、その操作方法や事故防止対策について十分な教育及び訓練を行うこと。

 ロ 施工計画策定段階での安全対策の検討の的確な実施を図るため、工事計画の策定を担当する者に対して研修を行うなど、その資質の向上を図ること。