次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液との混触による塩素中毒災害

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最近発生した次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液との混触による塩素中毒災害
〔H13〜H16〕




■再発防止のために 次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液との混触による塩素中毒災害の防止について


番号
発生年月
業種等
被災者数
発生状況
1
平成13年2月
スポーツクラブ
1名
 スポーツクラブ施設内の浴場機械室内の濾過装置の消毒用タンクに次亜塩素酸ナトリウム溶液を補充しようとして、補充液が室内になかったため同じ薬液を消毒用に使用している同施設内のプール機械室に取りに行って、誤って酸性の凝集剤であるポリ塩化アルミニウム溶液を持ち出して次亜塩素酸ナトリウム溶液タンクに注入したためタンク内の次亜塩素酸ナトリウム溶液との化学反応により発生した塩素ガスを作業者が吸入して中毒となった。また、職場体験実習のため被災作業者と一緒に行動していた中学生3名も中毒になった。
2
平成13年3月
ビルメンテナンス業
1名
 保養所の地下倉庫内でカビ取り用塩素系洗剤(次亜塩素酸ナトリウム含有)を手動ポンプで18リットル容器から持ち運び用の4.5リットル容器に小分けしようとして、誤って別の18リットル容器に入っていた鉄さび・湯垢取り用酸性洗剤液(塩酸含有)を注入したため、4.5リットル容器内に残っていた次亜塩素酸ナトリウムとの化学反応により発生した塩素ガスを作業者が吸入して中毒となった。
3
平成13年5月
スポーツクラブ
22名
 スポーツクラブ施設内の機械室において、プール及び浴場の消毒用薬剤の残量点検・補充作業中に、消毒用の次亜塩素酸ナトリウム溶液を誤って酸性の凝集剤であるポリ塩化アルミニウム溶液タンクに注入したため、タンク内のポリ塩化アルミニウム溶液との化学反応により塩素ガスが発生し、同室内にある給排気ダクトを経由して建物内部に拡散した。これにより当該作業者を含むスポーツクラブの労働者9名、同じ建物内の他の事業場の労働者13名及びスポーツクラブの利用者9名が塩素ガスを吸入して中毒となった。
4
平成13年7月
不動産業
1名
 貸しビルの地下機械室の井戸水処理装置の前処理用薬品のポリ塩化アルミニウム溶液(凝集剤)と次亜塩素酸ナトリウム溶液(滅菌剤)のそれぞれのタンクに薬液を補充しようとして、誤って酸性のポリ塩化アルミニウム溶液を次亜塩素酸ナトリウム溶液タンクに注入したため、タンク内の次亜塩素酸ナトリウム溶液との化学反応により発生した塩素ガスを作業者が吸入して中毒となった。
5
平成13年7月
旅館業
2名
 ホテルのポンプ室内において、水道水の滅菌タンクに次亜塩素酸ナトリウム溶液を補充しようとして、同室内の床上に次亜塩素酸ナトリウム溶液と酢酸の同量の容器が並んで置かれていた中から誤って酢酸の容器を取り上げて、これを滅菌タンクに注入したため、タンク内の次亜塩素酸ナトリウム溶液との化学反応により発生した塩素ガスを作業者1名と近くで作業していた労働者1名が吸入して中毒となった。
6
平成13年8月
建物サービス業
1名
 ゴルフクラブ内の浄水施設の管理業務において、薬液の補充を行っていた際に、凝集剤のポリ塩化アルミニウム溶液のタンクに誤って滅菌用の次亜塩素酸ナトリウム溶液を注入したため、タンク内のポリ塩化アルミニウム溶液との化学反応により発生した塩素ガスを作業者が吸入して中毒となった。
7
平成13年10月
公衆浴場
2名
 井戸水の浄化処理工程の滅菌用次亜塩素酸ナトリウム溶液のタンクに薬液を補充しようとして、誤って酸性の凝集剤であるポリ塩化アルミニウム溶液を注入したため、タンク内の次亜塩素酸ナトリウム溶液との化学反応により発生した塩素ガスを作業者1名が吸入して中毒となったほか、近くで別の作業をしていた労働者1名も中毒となった。
8
平成14年2月
道路貨物運送業
1名
 運輸業と化学薬品の小分け販売を行っている事業場の労働者が、取引先の化学工場から塩化第二鉄溶液をタンクローリーに荷受けして自社まで輸送し、自社の塩化第二鉄溶液タンクに移し替える際に、内容物を日常的に輸送する機会の多い次亜塩素酸ナトリウム溶液と誤認して次亜塩素酸ナトリウム溶液タンクのバルブを開き、タンクローリーから酸性の塩化第二鉄溶液を注入したため、タンク内の次亜塩素酸ナトリウムとの反応により塩素ガスが発生し、作業を行っていた労働者がこれを吸入し中毒となった。
9
平成14年4月
食料品製造業
1名
 飲料製造工程の洗浄剤であるリン酸と次亜塩素酸ナトリウム溶液をそれぞれのタンクに補充する際に、誤ってリン酸タンクに次亜塩素酸ナトリウム溶液を注入したため、タンク内のリン酸との化学反応により発生した塩素ガスを作業者が吸入して中毒となった。
10
平成14年9月
スポーツ施設
3名
 屋内プールを有する体育施設に次亜塩素酸ナトリウム溶液を納入に来た運送会社の労働者が、当該施設の管理事業場の労働者の立会いの下に屋外の注入口から地下タンクに注入する際に、立会い者が誤って併置されている酸性の凝集剤であるポリ塩化アルミニウム溶液タンクの蓋を開いて注入を指示し、運送会社の労働者も蓋の裏の注意事項を確認せず指示のままに次亜塩素酸ナトリウム溶液を注入したために、タンク内のポリ塩化アルミニウム溶液との反応により塩素ガスが発生した。
 発生した塩素ガスは地下室の排気口から排出されたが、その近くに屋内換気設備の吸気口があり、ここから吸い込まれた塩素ガスが換気設備を通じて屋内にも拡散し、施設内にいた施設利用者を含む約200名が避難した。
 この事故で屋内にいた労働者3名と近隣住民5名が救急車で病院に搬送されたほか、労働者10名が医療機関を受診した。(この10名は異常なし)
11
平成15年10月
小売業
1名
 被災者が営業で牧場を訪れた際、納品している3種類の洗浄液の補充を依頼されたため、洗浄液をポリタンクに補充したところ、誤って塩素系の洗剤(水酸化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム含有)を酸性の洗剤(硝酸、有機酸含有)のタンクに投入したため、塩素ガスが発生し、これを吸入して中毒となった。
12
平成15年10月
おしぼりリース業
5名
 おしぼりリース業の事業場へ消毒用の次亜塩素酸ナトリウム溶液を納入に来た運送会社の労働者が、誤ってこれを排水の中和処理用の硫酸タンクに注入したため、タンク内の硫酸との反応により塩素ガスが発生し、当該作業者及び納入先事業場の労働者4名がガスを吸入して中毒となった。また、付近を歩いていた通行人1名も中毒になった。
13
平成15年10月
ビルメンテナンス業
1名
 ホテルの施設管理業務の一環として定期巡回を2名で行っていた際、機械室でプール水等の消毒用の次亜塩素酸ナトリウム溶液がビニール製の容器から漏れているのを見つけたので、機械室内のポリタンクを持って来て当該溶液の移し替えを行ったところ、このタンクが次亜塩素酸ナトリウム溶液用のものと同じ形状の酸性の凝集剤であるポリ塩化アルミニウム溶液タンクであったため、タンク内のポリ塩化アルミニウム溶液との反応により塩素ガスが発生し、労働者1名がガスを吸入して中毒となった。
14
平成15年12月
食料品製造業
4名
 水産加工場において、まな板等の消毒用の次亜塩素酸ナトリウム溶液を20リットル入りの容器から10リットル入りの小容器に移し替える際に、誤って似た形の20リットル容器入りのリン酸を主成分とするpH調整剤を小容器に注入したため、小容器に残っていた次亜塩素酸ナトリウム溶液との反応により塩素ガスが発生し、移し替え作業を行っていた2名の労働者と付近で他の作業を行っていた労働者2名の計4名がガスを吸入して中毒となった。
15
平成16年7月
廃棄物処理業
2名
 ゴミ処理工場の地下ポンプ室内において、井戸水の除鉄用の次亜塩素酸ナトリウム溶液が少なくなったため、電動ポンプを用いて次亜塩素酸ナトリウム溶液用タンクに補充しようとしたところ、誤ってポリ塩化アルミニウム溶液を注入したため、塩素ガスが発生し、付近にいた作業員2名が塩素ガスを吸入した。
16
平成16年9月
スポーツクラブ
5名
 スポーツクラブ施設内の機械室において、プールの殺菌用に使用する容量100リットルのポリタンクに入っている次亜塩素酸ナトリウム溶液の残量が約25リットルと少なくなったため、社員が1名で次亜塩素酸ナトリウム溶液をポリタンクに注入しようとした。しかし、誤ってポリ塩化アルミニウム溶液を約20リットル注入したため、ポリタンク内の次亜塩素酸ナトリウム溶液と反応して、塩素ガスが発生した。
 そこで希釈するため水を注入したところ、希釈溶液があふれ、コンクリート床に拡散したため、注入作業をしていた社員と拡散した希釈溶液の処理をするため駆けつけた支配人と社員3名、そして買い物帰りの第三者が塩素ガスを吸入し救急車で病院に搬送された。







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次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液との混触による塩素中毒災害の防止について

 (平成16年11月2日付け基安発第1102003号厚生労働省労働基準局安全衛生部長から各都道府県労働局長あて)

                              

  安全衛生行政の中でも化学物質による健康障害の防止は重点項目の一つとして推進しているところであるが、化学物質による労働災害の中で次亜塩素酸塩溶液を誤って酸性溶液のタンク等に注入し、又はその逆の操作を行い、これらの液体が混触することにより化学反応を起こし、発生した塩素ガスを作業者や周辺の労働者が吸入する中毒災害は別紙のとおり毎年のように発生している。しかも、近年は屋外での発生から近隣住民等を巻き込んだ公衆災害にまで発展する例もみられるところである。
 次亜塩素酸塩溶液は消毒や漂白等に、酸性溶液は洗浄や水処理等に用いられることから、両者のタンクを併設している事業場も多く、このような災害の起きる可能性は少なくないものと考えられる。
 このような状況にかんがみ、別添1及び別添2のとおり、関係団体に対して標記災害の防止について周知徹底方要請したので、各局においても、関係事業者等に対して下記事項を周知するとともに必要な指導に努められたい。



1 運送事業者に対する指導事項

(1)特定化学物質等作業主任者等による指揮管理

   次亜塩素酸塩溶液又は酸性溶液をタンクへ注入する作業を運送作業者が行う場合においては、注入作業者の中から特定化学物質等作業主任者その他の化学物質による労働災害防止に関する知識を有する者(ただし、酸性溶液のうち塩酸、硝酸又は硫酸をタンクへ注入する場合においては、特定化学物質等作業主任者に限る。)を選任し、次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液を混触させないよう、その者の指揮管理の下に作業を行うこと。

(2)事業場の化学物質の管理に関する責任者の立会い

   タンクローリーの内容物を事業場のタンクに注入する際は、当該事業場の化学物質の管理に関する責任者に立会いを求め、注入する化学物質がタンクの表示と同じ物であることを確認すること。

(3)タンクへの注入時の確認

   タンクローリーの内容物を事業場のタンクに注入する際は、まず少量を注入し、塩素ガスが発生しないことを確認の上で注入作業を行うこと。

(4)次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液が混触した場合の措置

   誤って次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液を混触させ、塩素ガスが発生した場合には、タンクへの注入を中止させ、速やかに労働者を作業場から退避させること。

(5)安全衛生教育

   次亜塩素酸塩溶液又は酸性溶液の輸送及び荷役を行う労働者に対して、化学物質の危険・有害性として次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液が混触した場合に塩素ガスが発生すること、塩素ガスが発生した場合の対応、塩素ガスの有害性及び災害事例について安全衛生教育を行うこと。

2 次亜塩素酸塩溶液及び酸性溶液を使用する事業者に対する指導事項

(1)特定化学物質等作業主任者等による指揮管理

   次亜塩素酸塩溶液又は酸性溶液のタンク又は小分け用容器(以下「タンク等」という。)への注入作業を事業場所属の労働者が行う場合においては、注入作業者の中から特定化学物質等作業主任者その他の化学物質による労働災害防止に関する知識を有する者(ただし、酸性溶液のうち塩酸、硝酸又は硫酸をタンクへ注入する場合においては、特定化学物質等作業主任者に限る。)を選任し、次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液を混触させないよう、その者の指揮管理の下に作業を行わせること。

(2)タンク等への注意表示

   次亜塩素酸塩溶液及び酸性溶液のタンク等には、それぞれ次の内容をタンク等の注入口等見やすい位置に大きく表示すること。
  (1) 次亜塩素酸塩溶液タンク等
   ア 内容物の名称
   イ 酸性溶液を補充しないこと
   ウ 酸性溶液を注入すれば有害な塩素ガスが発生すること
  (2) 酸性溶液タンク等
   ア 内容物の名称
   イ 次亜塩素酸塩溶液を補充しないこと
   ウ 次亜塩素酸塩溶液を注入すれば有害な塩素ガスが発生すること

(3)作業標準の整備

   次亜塩素酸塩溶液及び酸性溶液の補充に際しての混触防止のための作業標準を定め、これを関係労働者に周知すること。

(4)タンク等への注入時の確認

   次亜塩素酸塩溶液又は酸性溶液をタンク等に注入する際は、まず少量を注入し、塩素ガスが発生しないことを確認した上で注入作業を行うこと。

(5)次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液が混触した場合の措置

   誤って次亜塩素酸塩溶液と酸性溶液を混触させ、塩素ガスが発生した場合には、タンク等への注入を中止させ、速やかに労働者を作業場から退避させること。
   また、労働者が塩素ガスによる健康障害を受けるおそれのないことを確認するまでの間、作業場等に関係者以外の者が立ち入ることを禁止し、かつ、その旨を見やすい箇所に表示する必要があること。

(6)安全衛生教育

   関係労働者に対して、次亜塩素酸塩溶液及び酸性溶液のそれぞれの危険・有害性としてこれらが混触した場合に塩素ガスが発生すること、塩素ガスが発生した場合の対応、塩素ガスの有害性及び災害事例について安全衛生教育を行うこと。

(7)荷役時の立会い

   外部の運送業者からタンクローリーにより次亜塩素酸塩溶液又は酸性溶液を事業場内のタンクに荷受けする場合には、荷受けタンクを誤らないよう、これらの化学物質の管理に関する責任者に立ち会わせること。