コンクリート用化学混和剤による酸素欠乏症等災害
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コンクリート用化学混和剤による酸素欠乏症等災害
いずれも混和剤の入ったタンクの中に人が入ったときに発生
混和剤は、ほとんどの生コン工場で、各メーカー、各混和剤ごとに、1000L〜10000L程度のポリエチレンまたはステンレス製のタンクに貯蔵されている。
■コンクリート用化学混和剤について
■その使用方法と保管形態
■再発防止のための行政通達について
■発生都道府県−宮城県 | ■発生都道府県−長野県 |
(1)発生日時 平成6年7月 (2)被災状況 死亡1名、休業1名 (8)発生状況 自社工場内に設置された混和剤の入ったタンクの中にパイプを取り付ける作業を行うため1名の労働者がタンク内に入ったところ、急に意織が混濁した状態になった。タンク入口でそれを見ていた他の労働者が救出しようと中に入り抱え上げようとしたが意識を失い、2人ともその場に倒れ込んだ。タンク内には底から深さ20センチメートル程度混和剤が残っており、最初にタンクに入った労働者が溺死し、救出しようとした労働者も混和剤を飲んで嚥下性肺炎等を起こした。 (4)タンク内成分(下記以外は水) ・グルコン酸ソーダ(C5H11O5COONa):3.98% ・リグニンスルホン酸ソーダ(]〜SO3Na):9.04% ・ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン:0.08% ・ホルマリン(HCHO):0.12% (5)発生時の混和剤の状態 タンクは屋外に設置され最大内容量7040リットル、塩化ビニール製で、災害発生時には混和剤は約500リットル残っていた。新たな混和剤の補給は少なくとも20日以上行われていなかっ た。 タンク底には混和剤の沈殿物の堆積を避けるため電気モーターによるスクリューの攪拌装置が付いていたが、タンク内の混和剤が少なくなっていたため災害時には使用していなかった。 (6)酸素欠乏空気等の発生原因 外気温の上昇によりタンク内が高温となり、混和剤の成分であるグルコン酸ソーダ及びリグニンスルホン酸ソーダに含まれる糖分の分解が促進され、その酸素消費によりタンク内が酸素欠乏状態になっていた。 混和剤には防腐剤としてホルマリンが添加されており、通常は腐敗が抑えられるが、連日の暑さのためタンク内の温度が高温になっていたこと、新たな混和剤の補給が少な くとも20日間以上なされていなかったことから腐敗した。 リグニンスルホン酸等の硫酸基から硫酸還元菌により硫化水素が発生するが、意識喪失に至るほどの高濃度になることはない。 防腐剤として添加されているホルマリンについては、人体への影響は殆どない量であ る。 |
(1)発生日時 平成9年5月 (2)被災状況 休業4名 (3)発生状況 屋外に設置されているタンクに貯蔵されていた混和剤のスラッジを吸引ホースでタンクローリー車に移送する作業中、被災者がタンク底部に残ったスラッジを吸引するためにタラップを降りてタンク内に立ち入ったところ、脱力感等の異常を感じたので直ちに戻ろうとタラップを2段ほど上ったところで意識を失い、タンク内に転落した。その際、タンク中央部の攪拌機の羽で背中を打撲した。被災者の救助に当たった関係労働者3名が、タンク内に立ち入る等して意識不明、呼吸困難等になった。 (4)タンク内成分(配合割合不詳) ・リグニンスルホン酸(]〜SO3H) ・グルコン酸ソーダ(C5H11O5COONa) ・トリエタノールアミン((HOCH2CH2)3N) ・カルシウム(Ca) ・苛性ソーダ(NaOH) ・硫酸カルシウム(CaSO4) ・炭酸カルシウム(CaCO3) (5)発生時の混和剤の状態 タンクは屋外に設置され、最大内容量7000リットル、銅製で防食のため内部にエポキシ樹脂が塗られ、混和剤のスラッジを貯蔵していた。スラッジはユーザーから不定期に回収さ れ、約5000リットル貯まると一括して廃棄物処理業者に引き渡されることになっていた。災害 は、約5ケ月(通常の倍以上の期間)の間隔をおいて引渡を行っていた時に発生した。 攪拌用の回転羽が付いていたが、電源コードが切断されていて使用不能であったため、 タンク底部の沈殿物を吸引するために、災害の前日5分間ずつ3回、当日5分間ずつ3 回、ばっ気により攪拌し、さらに吸引しながらばっ気を行った。ばっ気は前回(約5ケ月前)の引渡の時から始められたが、前回は吸引の前日に行い、当日は行っていなかっ た。 (6)酸素欠乏空気等の発生原因 スラッジが貯蔵されている期間が前回の引渡から約5ケ月と長く、貯蔵されていたスラッジは冬期間に販売された混和剤のものであるため防腐剤が添加されておらず、また、 細菌が繁殖しやすい気温の高い日が続いていたためリグニンスルホン酸などの硫酸基が硫酸還元菌の働きによって硫化水素が生成され、スラッジに溶け込んでいた。タンク がばっ気攪拌されている間に、空気中の二酸化炭素が混和剤製造時に添加されていたカルシウムと結合して、スラッジ中に炭酸カルシウムが生成された。タンクに貯蔵されている間に嫌気性細菌等により硫酸基が生成されており、炭酸カルシウムとの硫酸置換反応によって二酸化炭素が発生し、硫化水素と同様にスラッジに溶け込んでいた。さらに、 スラッジの吸引とともに、ばっ気を行ったことから、スラッジに溶けていた硫化水素と二酸化炭素か急激に気中に放出された。 |
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コンクリート用化学混和剤について
(以下、「コンクリート用化学混和剤タンク内作業における酸素欠乏症に係る調査研究」委員会報告より抜粋)
定義
混和剤は、JISA0203・1999(コンクリート用語)によると、「混和材料の中で、使用量が少なく、それ自体の容積がコンクリートなどの練上がり容積に算入されないもの」と
なっている。
コンクリート用化学混和剤(以下、「化学混和剤」という)は混和剤こ属し、JIS A6204 (コンクリート用化学混和剤)に「主として、その界面活性作用によって、コンクリート
の諸性質を改善するために用いる混和剤」と定義されている。JISA6204による化学混和剤の種類と定義を表1に示す。
表1 化学混和剤の種類と定義
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AE剤 | コンクリートなどの中に、多数の微細な独立した空気泡を一様に分布させ、ワーカビリティー及び耐凍害性を申上させるために用いる混和剤 |
減水剤 | 所要のスランプを得るのに必要な単位水量を減少させるために用いる混和剤 |
AE減水剤 | AE剤と減水剤との両方の使用効果を兼ね備えた混和剤 |
高性能AE減水剤 | 空気連行性をもち、AE減水剤よりも高い減水性能及び良好 なスランプ保持性能をもつ混和剤 |
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使用方法
一般的に、化学混和剤は生産工場からローリーにて輸送され、生コン工場の貯蔵タンク に納入される。貯蔵タンクからはポンプでプラント内に送られ、電磁弁を通して計量され
る。計量後、水計量ホッパに放出され、練混ぜ水の一部として計量される。セメント、骨材等の他材料とプラントミキサで練り混ぜ、コンクリートとなる。貯蔵タンクから計量弁までの輸送系の一例を図5に示す。
図5 貯蔵タンク及び輸送系の一例
符号 | 名称 |
(1) | 計量ポンプ |
(2) | 流量調整弁 |
(3) | 逆止弁 |
(4) | バイバス弁 |
(5) | リターン弁 |
(6) | 攪拌ポンプ |
(7) | 配管 |
(1) 計量用ポンプ:計量中のみ運転。計量弁または放出弁の誤動作から混和剤が過大に計量されることを防止する目的で、ポンプの運転時間が30〜40砂以上継続するとポンプを停止させるタイマが付属している。
(2) 流量調整弁:通常全開としておく。
(3) 逆止弁:計量ポンプ停止時、配管内の混和剤がタンク内へ流下することを防止している。
(4) バイパス弁:ポンプアップされた混和剤の一部をタンク側へ戻し、安定した計量を実現させる。通常半回転開が多い。
(5) リターン弁:通常は全開としておく。これを開けることにより上部配管内の混和剤がタンク内へ戻る。
(6) 攪拌ポンプ:タイマによる間欠運転を行うことによりタンク内混和剤の分離を防止している。
(7) 配管:冬季の配管内混和剤凍結を防止する目的でテープヒータを巻いた上に断熱材で包むこともある。
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保管形態
1)製造メーカー(−次保管、二次保替)
−次保管:生産工場で希釈し、直ちに商品として出荷する。
二次保管:生産工場で希釈し、商品として大量製造したものを、貯蔵タンク等に保管しておき、受注に応じて出荷する。
2)生コン工場
ほとんどの生コン工場で、各メーカー、各混和剤ごとに、1000L〜10000L程度のポリ エチレンまたはステンレス製のタンクに貯蔵している。
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厚生労働省労働基準局安全衛生部長から都道府県労働局長あて
(平成14年1月9日付 基安発第0109002号)
コンクリート用化学混和剤を貯留するタンク内作業における酸素欠乏症等の防止について
コンクリート用化学混和剤は、貯留条件によりその結果は一定ではないものの一般に腐敗しやすく、これを長期間貯留した場合には、コンクリート用化学混和剤を貯留するタン
ク(以下「タンク」という。)の置かれた環境等の条件によってはタンク内で腐敗が進行し、酸素欠乏等を引き起こす危険性がある。
このため、タンクの内部は、労働安全衛生法施行令別表第六第九号の酸素欠乏危険場所に該当し、今般、関係業界団体に対して、別添のとおり(略)標記災害の発生防止対策の徹底について、会員事業場及び関係事業場への周知を図るよう要請したところである。
ついては、貴職におかれても下記に留意の上、関係業界団体、関係事業場等に対する周知徹底に努められたい。
記
1 タンクの内部の洗浄、改修等を行う場合を除き、通常の作業においては、作業者がタンクの内部に入る必要がないので、タンクの内部については、原則として立入禁止とし、
作業者が安易にタンクの内部に入ることのないよう周知徹底を図る必要があること。
2 タンクの内部の洗浄、改修等の作業を行うため、作業者がやむを得ずタンクの内部に入る場合は、酸素欠乏症等防止規則に規定されている第2種酸素欠乏危険作業に関する措置を講ずる必要があること。
3 長期間洗浄を行っていないタンクについては、内部で腐敗が進み、酸素濃度が低下している危険性が高いので、送気能力の高い送風機等を用い、特に十分な換気を行う必要があること。
4 十分な換気を継続して行えない場合であって、作業者に空気呼吸器又は送気マスクを着用させるときは、これらが適正に使用されない場合は、災害発生の原因となる危険性があるので、事前に十分な教育を行う必要があること。また、防毒アスク及び防じんマスクは、酸素欠乏症の防止には全く効力がないことについて周知徹底を図る必要があること。