コーヒー抽出設備で発生した一酸化炭素中毒

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コーヒー抽出設備で発生した一酸化炭素中毒

コーヒー液の抽出作業終了後、作業者Aがストレージタンク内の最後の抽出液を濃縮工程に送ってからタンク内を水で洗浄後、タンク内に落としたサンプリング用のひしゃくを取りにタンク内に入ってそのままタンク内で倒れた。
  これを見た作業者Bが救出のためタンク内に入ったが、Bも救出作業中に倒れた。







1.災害発生状況


別紙1
コーヒー抽出設備で発生した一酸化炭素中毒〔平成14年〕


1 発生年月日 平成14年11月22日


2 被災状況 死亡1名、中毒5名


3 発生状況

(1)事業場、設備の概要
  災害発生事業場は、多種類の食品加工を行っている工場で、災害はその中のコーヒー液を製造するコーヒー抽出設備で発生した。
  コーヒー抽出設備は、焙煎されたコーヒー豆(以下「焙煎豆」という。)に温水を通してコーヒー液を抽出する3本のカラム(直径0.8m、高さ4.37m)と抽出したコーヒー液を一時貯留するストレージタンク(直径2m、高さ2.57m)、熱交換器、ステンレス製配管等から成っている。
  抽出カラムには、上部と下部に40メッシュの金網が設置されており、この金網の間に焙煎豆を入れ、温水を通して抽出を行う。抽出液はストレージタンクに送られて一時貯留の後、次の濃縮工程へ送られる。


(2)作業の概要
  コーヒー液の抽出作業は、次のような過程により行われる。
 [1] 抽出カラム内に、焙煎豆を投入する。
 [2] 抽出カラム内に温水を送り、コーヒー液を抽出する。
 [3] 抽出されたコーヒー液を熱交換器に通して冷却してストレージタンクに送る。
 [4] 2〜3バッチ分の抽出液をストレージタンクに貯めた後、次の濃縮工程に送る。
 [5] 抽出カラムでは、1バッチ終了ごとに、下部マンホールから残滓物をかき出し、次の焙煎豆を投入する。
 [6] ストレージタンクでは、1バッチ終了ごとに、上部マンホールからひしゃくを使ってサンプリングを行いコーヒー液の濃度測定を行う。
 [7] 全抽出作業終了後は、水でタンク内を洗浄する。

(3)災害発生状況
  災害発生当日、3本の抽出カラムを順番に使って合計18バッチのコーヒー抽出作業を行った。
  作業者Aは、抽出作業終了後、ストレージタンク内の最後の抽出液を濃縮工程に送ってからタンク内を水で洗浄後、タンク内に落としたサンプリング用のひしゃくを取りにタンク内に入ってそのままタンク内で倒れた。
  これを見た作業者Bが救出のためタンク内に入ったが、Bも救出作業中に倒れた。
  さらにタンク内の2名を救出しようとした作業者Cもタンクに入りかけて制止されたが気分が悪くなった。
 このほか、この時タンク内に空気を送り込んだため、タンク内部に滞留していたガスがマンホール等から周囲に拡散し、救出のために付近にいた作業者D、E及びFも気分が悪くなった。
  被災者は病院に運ばれたが、Aは死亡した。他の者は不休〜休業14日であった。


4 発生原因
(1)原因物質の特定
  死亡した被災者は、諸臓器に認められた所見や血液中の一酸化炭素ヘモグロビン濃度から一酸化炭素中毒と診断された。
  このことから原因物質として一酸化炭素が疑われ、災害発生事業場において3バッチ分の抽出で再現実験を行ったところ、2本目のカラムの抽出時点でストレージタンク内の一酸化炭素濃度は10%に達し、タンク内の水洗終了後も4%であった。このため、被災者Aが入ったタンクは18バッチ分抽出を行った後であるので、タンク内の一酸化炭素濃度は少なくとも4%以上はあったものと推定される。
  一酸化炭素の発生原因は、次のように考えられている。
  コーヒー豆の焙煎に伴う熱分解によりコーヒー豆に含まれる有機物から一酸化炭素が発生して、これが多孔質の焙煎豆に吸着され、この焙煎豆に吸着された一酸化炭素が、温水による抽出過程で一気にタンク内に放出され高濃度の状態になった。

(2)災害発生原因
  [1] 事業者にコーヒー抽出工程において一酸化炭素が発生するという危険認識がなく、設備面も含め健康障害防止のための対応がとられていなかったこと。
  [2] 労働者に対しても一酸化炭素の危険性に関する教育を行っていなかったこと。
  [3] 労働者が危険認識のないまま、換気もせず呼吸用保護具も着用せずに高濃度の一酸化炭素の入っているタンク内に入ったこと。また、救助作業に当たった者も呼吸用保護具を着用しなかったこと。
  [4] 焙煎豆メーカーも焙煎豆から一酸化炭素が発生するという危険認識がなく、納入先にその危険性を周知していなかったこと。





別紙2
コーヒー抽出設備で発生した一酸化炭素中毒〔平成6年〕



1 発生日時    平成6年11月10日 午前9時30分頃



2 被災状況    死亡1名



3 発生箇所状況
(1)事業場、設備の概要
  災害発生事業場は、飲料缶詰製造、果物缶詰製造、レトルト加工が行われている工場であり、災害はその中のコーヒー抽出設備で発生した。
  コーヒー抽出工程は、抽出容器(円筒形、直径150cm、高さ181cm、内容積約3m3)に粉砕加工済み焙煎コーヒー豆及び温水等を投入し行う。


(2)作業の概要
  コーヒー液の抽出作業は、次のような過程により行われる。
  [1] 抽出容器内に温水を入れる。
  [2] 天井クレーンでコーヒー原料の入ったフレキシブルコンテナを抽出容器上部に運搬し、フレキシブルコンテナ下部の縛り口をとき、抽出容器の投入口から投入する。
  [3] かまし棒(長さ150cm)でコーヒー原料を平らにならし、上蓋を締める。
  [4] 抽出容器内に温水を入れる。
  [5] 抽出されたコーヒー液は抽出容器下部についているパイプを通って抽出タンクに移送される。温水は抽出容器内の水位を保つため、適宜注入する。
  [6] 抽出終了後、フィルター上部に水が残っていないことを確認する。基本的には行わないが、手で上蓋を開けてコーヒー原料の異常の有無等を目視する場合がある。
  [7] 制御盤により抽出容器下蓋を開けてコーヒー原料の残滓物を排出する。
  [8] 抽出容器内部に付着している残滓物は抽出容器内の清掃用散水シャワーや投入口からのホースによる放水で落とす。



(3)災害発生状況
  災害発生日当日、1名が抽出工程、1名が調合工程を担当していた。抽出担当者は、2階からコーヒー原料を投入し、かまし棒でコーヒー原料を平らにならしてから、上蓋を締め、温水等を注入するため制御盤を操作していた。1回の抽出を終え、2回目の抽出工程を終了したところで、コーヒー原料の残滓物の排出がなかなか行われなかったため、調合担当者が抽出担当者の様子を見に2階に上がったところ、抽出容器内部で倒れている抽出担当者を発見した。応援を呼び3名で被災者を抽出容器内部から救出し、救急車で病院へ運んだが、1ヶ月後死亡した。抽出容器内部にかまし棒があったことから、被災者はコーヒー原料をかまし棒でならしていた際に抽出容器内にかまし棒を誤って落とし、抽出終了後にかまし棒を取るために抽出容器内部に立ち入ったものと推定される。


4 災害発生原因
(1)原因物質の特定
  死亡した被災者は、事故発生当日の血液中の一酸化炭素ヘモグロビン量が高かったことから、一酸化炭素中毒と診断された。
  再現実験を行ったところ、コーヒー原料の入ったフレキシブルコンテナ内の一酸化炭素濃度が3%、抽出後の抽出容器内部の一酸化炭素濃度が1.4%と高濃度の一酸化炭素が発生していることが判明した。


(2)災害発生原因
  [1] 事業者にコーヒー抽出工程において一酸化炭素が発生するという危険認識がなく、換気、測定及び呼吸用保護具の備付け等健康障害防止のための対応がとられていなかったこと。
  [2] 労働者に対しても一酸化炭素の危険性に関する教育を行っていなかったこと。
  [3] 労働者に危険認識がなかったこと。
  [4] 焙煎豆メーカーも焙煎豆から一酸化炭素が発生するという危険認識がなく、納入先にその危険性を周知していなかったこと。





2.再発防止対策

以上の事故を踏まえて、平成16年6月24日、厚生労働省労働基準局安全衛生部長から地方労働局長あてに、「コーヒー液の抽出工程等における一酸化炭素中毒等の防止について」(基安発第0624003号)とする再発防止対策の徹底に関する通達が発せられている。


コーヒー液の抽出工程等における一酸化炭素中毒等の防止について


 一酸化炭素中毒は、化学物質による業務上疾病の中でも最も多く発生しているものであり、また死亡災害にも直結しやすいことから、第10次の労働災害防止計画においてもその撲滅を図ることが計画の目標の一つに盛り込まれる等、その防止対策は安全衛生行政の中でも重点的に推進してきたところである。
 しかしながら、平成14年11月、焙煎されたコーヒー豆(以下「焙煎豆」という。)からコーヒー液の抽出を行っている事業場において労働者6名が一酸化炭素中毒に罹患し、うち1名が死亡するというこれまでにほとんど発生例の見られない重大災害が発生したところである。
 この災害の概要は別紙1のとおりであり、
 発生機序は、
[1]コーヒー豆の焙煎の過程で一酸化炭素が発生したこと、
[2]この一酸化炭素が多孔質の焙煎豆の中に吸着されていたこと、
[3]焙煎豆に吸着されていた一酸化炭素がコーヒー液の抽出過程で温水に追い出されてタンク内に発散したこと、
[4]発散した一酸化炭素を当該タンク内に入った労働者が吸入し、救助に当たった同僚労働者も同様に被災したことであるが、その原因としては、焙煎豆に一酸化炭素が含まれており、これがコーヒー液の抽出により発散することが周知されていなかったことが挙げられる。
なお、別紙2のとおり、平成6年にも1件同種災害が発生している。
 このような状況にかんがみ、別添1(略)及び別添2(略)のとおり、関係事業者団体に対して標記災害防止について要請したので、各局においても、関係事業者等に対して下記事項に留意し指導に努められたい。
 なお、コーヒー豆の焙煎設備、焙煎豆の貯留設備、焙煎豆からコーヒー液を抽出する容器(以下「抽出容器」という。)又は抽出したコーヒー液を一時貯留する槽(以下「貯留槽」という。)等は、特定化学物質等(一酸化炭素)を発生させる物を入れたタンク等に該当することから、その改造、修理、清掃等で、これらの設備の内部に立ち入る作業を行う際には、特定化学物質等障害予防規則(昭和47年労働省令第39号)第22条の規定が適用となることについても、関係事業者等に対して指導に努められたい。



1 焙煎豆の販売関係
 (1)容器への表示
  フレキシブルコンテナ等の事業用焙煎豆の運搬容器の外部に、コーヒー豆に一酸化炭素が含まれていると及びこれが抽出工程で抽出容器内に発散することに関する注意喚起表示をすること。
 (2)作業を安全に行うための注意事項を記載した文書の交付
  事業用焙煎豆の納入先に対して、上記(1)の事項及び下記3の抽出工程での一酸化炭素中毒防止対策を記載した文書を交付すること。


2 焙煎豆の製造関係
 (1)作業の安全確保のための指揮管理等
  [1] 一酸化炭素中毒予防対策を追加した作業標準を定め、これに従い作業を行うこと。
  [2] 特定化学物質等作業主任者等、一酸化炭素中毒予防対策に関する知識を有する者の指揮管理下で作業を行うこと。
 (2)焙煎設備の内部に立ち入るときの措置等
  [1] 点検、清掃等のために焙煎設備又は焙煎豆の貯留設備の内部に立ち入る際には、あらかじめ換気を行うとともに、その内部の空気中の一酸化炭素濃度が50ppm以下であることを一酸化炭素濃度測定器により確認すること。
  [2] 焙煎設備、焙煎豆の粉砕設備、貯留設備及び運搬容器への充填設備(以下「焙煎設備等」という。)の近傍の労働者が作業のために立ち入る場所については、空気中の一酸化炭素濃度が50ppm以下になるように換気を行うこと。この場合、必要に応じ一酸化炭素濃度測定器により濃度の確認を行うこと。
 (3)労働者に対する教育
   関係労働者に対し設備内での一酸化炭素の発生及びその有害性並びに作業上の注意事項に関する教育を実施すること。
 (4)機器の装備等
  [1] 焙煎時に発生するガス及び焙煎設備内の冷却時の排ガスは屋外に排出すること。
  [2] 必要な測定器(一酸化炭素濃度測定器)及び呼吸用保護具(空気呼吸器又は送気マスク)を備え付けること。
  [3] 焙煎設備等の近傍には、一酸化炭素の漏えいを検知するための自動警報装置の設置が望ましいこと。
 (5)緊急時の措置
   一酸化炭素中毒が発生したときは、事故処理、被災者救出作業には空気呼吸器又は送気マスクを使用すること。

3 コーヒー液の抽出関係
 (1)作業の安全確保のための指揮管理等
  [1] コーヒー液の抽出工程については、一酸化炭素中毒予防対策を加えた作業標準を定め、これに従い作業を行わせること。
  [2] 特定化学物質等作業主任者等、一酸化炭素中毒予防対策に関する知識を有する者の指揮管理下で作業を行わせること。
 (2)タンク等の内部に立ち入るときの措置等
  [1] 抽出容器や貯留槽の内部は原則立入禁止とすること。
  [2] 必要により抽出容器や貯留槽の内部に立ち入るときは、あらかじめその内部の空気中の一酸化炭素濃度が50ppm以下になるまで換気を行うこと。なお、この場合、一酸化炭素濃度測定器により濃度の確認を行うこと。
 (3)抽出容器を開放して行う作業の際の措置
   焙煎豆の投入、コーヒー豆かすの排出、コーヒー液のサンプリング等のために、抽出容器を開放して作業を行う場合には、局所排気装置等により発散する一酸化炭素を屋外へ排出すること。
 (4)労働者に対する教育等
  [1] 関係労働者に対しコーヒー液の抽出工程での一酸化炭素の発生及びその有害性、作業上の注意事項等に関する教育を実施すること。
  [2] 抽出容器や貯留槽の近傍に、内部への立入りの原則禁止と必要により立ち入る場合の注意事項を掲示すること。
 (5)機器の装備等
  [1] 必要な測定器(一酸化炭素濃度測定器)及び呼吸用保護具(空気呼吸器又は送気マスク)を備え付けること。
  [2] 槽内への立入作業を避けるため、抽出容器や貯留槽の洗浄には自動洗浄装置の導入が望ましいこと。
  [3] 抽出容器や貯留槽の近傍には、一酸化炭素の漏えいを検知するための自動警報装置の設置が望ましいこと。
 (6)緊急時の措置
   一酸化炭素中毒又は一酸化炭素の漏えい事故が発生したときは、事故処理及び被災者救出作業には、空気呼吸器又は送気マスクを使用すること。

    別紙1
    別紙2