造船業・塗装作業による有機溶剤中毒(平成15年)

■HOMEPAGE
■災害事例目次へ




造船業・塗装作業による有機溶剤中毒
(平成15年多発)




別紙

1 過去10年間における造船関係有機溶剤中毒発生の経緯

平成6年
平成7年
平成8年
平成9年
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年
平成14年
平成15年
被災者数
0
0
0
3
3
0
1
1
1
7
うち死亡者数
0
0
0
0
1
0
0
0
0
4


2 平成15年における災害の概要

No.
被災者数
有害物
災 害 の 概 要
発 生 要 因
1
中毒1名
キシレン
 船倉内の塗装作業において、送風機及び防毒マスクを用いて、防錆用塗料をハケ塗りした後にスプレーガンを用いて吹き付け塗装を行っていたところ、防毒マスクの吸収缶を適時交換していなかったため吸収缶が破過したため塗料に含まれるキシレンを吸入して中毒となったもの。
不適切な呼吸用保護具の使用
換気装置未設置
安全衛生教育不徹底
作業手順の未徹底
2
死亡1名
中毒1名
トルエン、 
キシレン等
 艤装船左舷バラストタンク内において、スプレーガンを用いて塗装吹き付け作業を行っていた際に、スプレーガンのホース引き取り作業を行っていた労働者が、塗料に含まれる有機溶剤(トルエン、キシレン、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルケトン及びイソブチルアルコール等を含む)を吸入して中毒を起こして倒れ、病院へ搬送されたが死亡した。また、救出を行った労働者も有機溶剤により中毒を起こしたもの。
不適切な呼吸用保護具の使用
換気不十分
有機溶剤作業主任者未選任
3
死亡1名
キシレン、
トルエン 
 艤装工場内において、船体ブロック内部(17m×22m、高さ3m)の塗装をスプレーガンを用いて吹き付け塗装していたところ、意識を失い倒れ、病院へ搬送されたが死亡したもの。
換気不十分
不適切な呼吸用保護具の使用
吸収缶交換を作業場所で行ったこと
有機溶剤作業主任者未選任
4
死亡1名
中毒1名
キシレン、
トルエン 
 船舶の船尾にある雑用清水タンク内に入り、錆びた箇所に塗料(キシレン、トルエン等含有)の塗装作業を行っていたところ、タンク内の換気が不十分であったため、有機溶剤の蒸気が充満し、中毒となったもの。
安全衛生教育不十分
換気不十分
有機溶剤作業主任者未選任
不適切な呼吸用保護具の使用
5
死亡1名
トルエン等
 船体ブロック内部の塗装を(コールタール、トルエン等含有する塗料)6人で6ブロックに分かれてエアガンにより行っていたところ、倒れているところを発見された。ブロック内の換気等は行われていない。
換気が行われていなかったこと
不適切な呼吸用保護具の使用
有機溶剤作業主任者が適切に職務を行っていなかったこと

(厚生労働省調べ)









造船業における塗装作業による有機溶剤中毒予防対策の徹底について

(平成16年8月3日基安発第0803002号厚生労働省労働基準局安全衛生部長から都道府県労働局長あて)

 有機溶剤による健康障害防止対策については、第10次労働災害防止計画の重点として施策を推進しているところであるが、別紙のとおり造船業においては、平成15年の1年間に塗装作業中の5件の災害により7名の労働者が有機溶剤中毒に罹患し、うち4名が死亡するという過去10年来最悪の事態となっている。 
 これらの労働災害は、十分な換気能力を有する換気装置を設置していなかったこと、呼吸用保護具が短時間でその機能を失う等の有機溶剤が高濃度に達することが予想される作業環境であったこと等適切な対策がなされなかったために、関係請負人の労働者が死亡ないし中毒に至ったものであり、誠に遺憾である。
 一方、近年、造船業の受注量は近年になく増大しており、これを反映して工事量も増加傾向にあることから、十分な労働衛生対策が講じられない場合には造船業における有機溶剤中毒の増加が懸念されるところである。
 ついては、造船業における塗装作業による労働災害防止のためには、特定元方事業者を中核とした統括安全衛生管理の徹底が不可欠であることから、別添のとおり日本造船工業会会長等に対し要請を行ったので、各局においても、造船業の事業場に対して、労働安全衛生法第29条及び第30条に基づく措置を含め、別添要請文の記に掲げる事項の徹底について、効果的な指導を行われたい。






造船業における塗装作業による有機溶剤中毒予防対策の徹底について
(平成16年8月3日基安発第0803001号厚生労働省労働基準局安全衛生部長から(社)日本造船工業会会長及び(社)日本中小型造船工業会会長あて)

 

 造船業における塗装作業による有機溶剤中毒予防対策の徹底について


 日頃から安全衛生行政の推進にご協力をいただき感謝申し上げます。
 さて、有機溶剤による健康障害防止対策については、第10次労働災害防止計画の重点として施策を推進している中で、別紙のとおり平成15年の1年間に造船業において、塗装作業中の5件の災害により7名の労働者が有機溶剤中毒に罹患し、うち4名が死亡する事態が生じ、過去10年来最悪となる死傷者数の発生をみたことは、極めて遺憾なことです。
 これらの労働災害は、十分な換気能力を有する換気装置を設置していなかったこと、呼吸用保護具が短時間でその機能を失う等の有機溶剤が高濃度に達する作業環境であったこと等適切な対策がなされなかったために、関係請負人の労働者が死亡ないし中毒に至ったものです。
 貴団体は昭和58年より、全国造船安全衛生対策推進本部を組織されて、安全衛生対策に自主的に取り組んでおられますが、このような造船業の労働災害防止のためには、特定元方事業者を中核とした統括安全衛生管理の徹底が不可欠であることを改めて認識され、事業場内では労働災害を発生させないという姿勢をさらに徹底していただくため、貴会を挙げて取組みを行っていただくことが必要と考えます。
 つきましては、貴会の会員事業場において、統括安全衛生管理を行う立場から、下記1の事項の実施状況を総点検し、問題が認められた事項については確実な改善措置を講じていただきますとともに、下記2について、会員事業場及び関係請負人に徹底を図られますよう要請します。
 なお、貴会会員事業場において、総点検の実施結果、改善措置の状況等につきましては、平成16年9月20日までに、本職あて報告いただきますよう併せて要請します。



1 特定元方事業者による統括安全衛生管理の徹底について
  新造船及び修繕船それぞれについて、船体ブロック内、船倉、タンクの内部等における塗装作業を関係請負人に請け負わせる場合には、元方事業者は関係請負人への適切な労働衛生指導の観点から、次の事項を行うこと。

(1) 適切なばく露低減措置の徹底及び情報の提供
   関係請負人に2の(3)の事項を行わせること。また、通常行われる塗装作業に関し、塗装作業を行う場所の形状、気積、排気口の状況、船内見取り図、当該作業を行う場所の使用状況等について、関係請負人に必要な情報を伝達すること。
(2) 作業手順書の提出指示等 
   塗装作業の開始前に、関係請負人から作業手順書を提出させるとともに、上記(1)に即して作業の方法が不適切な場合にはこれを改善するための指導を行うこと。また、次の事項について確認を行うこと。
  ア 有機溶剤作業主任者の氏名
  イ 塗装作業を行う労働者に係る呼吸用保護具等の安全な使用方法等の教育の受講の有無
(3) 呼吸用保護具に係る指導及び援助
   関係請負人の労働者が呼吸用保護具を使用する場合には、その安全な使用のための教育の実施、送気マスクの清浄な空気供給源の確保等について指導及び援助を行うこと。
(4) 定期的な作業場所の巡視
   特定元方事業者は、作業日ごとに少なくとも1回、作業場所の巡視を行う必要があること。また、特定元方事業者以外で作業を他に請け負わせている事業者においても定期的に作業場所の巡視を行うよう指導すること。
(5) 作業間の連絡及び調整
   特定元方事業者は、随時、当該事業者と関係請負人との間及び関係請負人相互間における連絡及び調整を行う必要があること。

2 事業者が行うべき事項について
  塗装作業を行う事業者は、次の事項を行うこと。

(1) 有機溶剤作業主任者の選任等
   有機溶剤作業主任者を選任し、その者に作業方法の決定、労働者の指揮、呼吸用保護具の使用状況の監視等の職務を行わせる必要があること。
(2) 雇入れ時の教育等
   有機溶剤業務に係る呼吸用保護具の安全な使用方法等の教育を実施すること。
(3) 適切な換気装置の設置及び呼吸用保護具の使用
  ア 有機溶剤含有物を用いて塗装作業を行う場合は、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設置することが原則であるが、有機溶剤の蒸気の発散面が広いため、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置の設置が困難であり、かつ、全体換気装置を設置したときは、当該業務に従事する労働者に送気マスク又は有機ガス用防毒マスクを使用させること。
    なお、空気中の有機溶剤の濃度が高く有機ガス用防毒マスクを使用すると破過時間(吸収缶が除毒能力を喪失するまでの時間)が短くなる等有機ガス用防毒マスクの使用が適切でない場合は、送気マスクを使用させること。また、送気マスクを使用させる場合は、ホースが圧縮され、又は切断されることによる送気の遮断を防止する処置等を講ずること。
  イ 使用する全体換気装置については、有機溶剤中毒予防規則第17条に定める能力を有していることを確認すること。
  ウ 作業場所における有機溶剤の空気中の濃度が爆発下限界値に達するおそれがある場合は、換気装置等が防爆構造を有していることを確認すること。




別紙

(本ページ冒頭に移記)