夏季に低電圧でも多い感電死亡災害
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夏季に低電圧でも多い感電死亡災害
この時期は、
1.暑さから絶縁用保護具等の使用を怠りがちになること、
2.軽装によって直接皮膚を露出することが多いこと、
3.発汗により皮膚自身の電気抵抗や皮膚と充電物との接触抵抗が減少すること、
4.作業時における注意力が低下しがちであること
等が影響しているものとみられる





感電による死亡災害発生状況

1.感電による死亡災害発生件数の推移(平成3年〜平成12年)

 平成12年の感電による死亡者数は全産業で34人であり、近年は30人〜40人台で増減を繰り返している。これを低圧(交流で600V以下、直流で750V以下の電圧)によるものと高圧(交流で、600Vを超え、直流で750Vを超える電圧、7000Vを超える特別高圧を含む。)によるものとを分けて、その推移を過去10年についてみると、低圧によるものは猛暑であった平成6年の27人をピークとして20人前後で増減を繰り返しており、高圧によるものはここ数年10人台半ばで推移している。







2.月別死亡災害発生件数(平成10年〜平成12年)

 過去3年間の月別発生状況をみると、低圧によるものは7月から9月の3ヶ月間に集中して発生しており、低圧による感電死亡者64人中、52人(81.3%)を占めている。
 この時期は、暑さから絶縁用保護具等の使用を怠りがちになること、軽装によちて直接皮膚を露出することが多いこと、発汗により皮膚自身の電気抵抗や皮膚と充電物との接触抵抗が減少すること、作業時における注意力が低下しがちであること等が影響しているものとみられる。

電圧別・月別感電死亡者数(平成12年)
(単位:人)

  1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 合計
低圧

24
高圧

10
合計

10 34

(注)鉱山保安法適用事業場を除く。
グラフ(略)


電圧別・月別感電死亡者数(平成10年〜12年)
(単位:人)

  1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 合計
低圧

18 22 12 64
高圧

42
合計

21 24 18 106

(注)鉱山保安法適用事業場を除く。
グラフ(略)


3.低圧による死亡災害の設備別・被災者の区分別先生状況(平成10年〜平成12年)

(1)職種別の発生状況


 過去3年間の低圧による感電死亡者(計64人)を「電気取扱者」と「その他の者」とに分けてみると、電気取扱者ほ27人、その他の者は37人である。

低圧による死亡災害の設備別・被災者の区分別発生状況
(平成10年〜平成12年)64事例の分析

    電気取扱者(人) その他の者(人) 計(人)
送電線類(9人) 活線に人体が接触
活線に伝導体が接触
その他
電気使用場所の配線(11人)  
11
クレーントロリー線(8人)  
開閉器類(低圧)(9人)  
変圧器等(0人)  
交流アーク溶接装置(10人) ホルダダーに接触
溶接棒に接触
その他
移動式電動機器(4人) フレームへの漏電
接続コードに接触
その他
可搬式電動機器(4人) フレームに漏電
接続コードに接触
その他
照明装置(4人)  
定置式電動機器(4人)  
その他(1人)  
合計  
27
37
64




(2)設備別の発生状況

 過去3年間の低圧による主な設備別発生状況をみると、

  ・送配線、電気使用場所の配線への接触
  ・天井クレーンの清掃点検等におけるトロリー線への接触
  ・開閉器類の点検等における充電部への接触
  ・交流アーク溶接機のホルダー、溶接棒への接触
  ・可搬式電動機器等の漏電

  等がみられる。            l

4.低圧による死亡災害発生状況(平成12年)

  平成12年の低圧による死亡災害発生状況は表−2のとおりである。

  表-2 平成12年の低電圧による死亡災害の概要

(7月〜9月に発生した20事例)

1
7月
製造業
使用していた水中ポンプに不具合が生じたため、水中ポンブと220ボルトの電源をつな ぐ仮設配線の繋ぎ目の絶縁テープを電源を入れたまま雨の中ではがしていたところ、感電した。
2
7月
電気工事業
臨時電灯に供給するため、引込線の接続作業に従事していたところ、本線に接触し感電した。
8
7月
製造業
製造ライン工程のメンテナンス作業において、ブラウン管真空マシンの修理作業中に、 誤って同マシンの加熟ヒーターの露出した電源供給用接触端子部分(160v)に腕が触れ て感電した。
4
7月
建設業
既存建物の屋根裏(1階天井裏)において、電気配線工事中、既存の三相200ボルト配線の接続に身体の一部が接触した。
5
7月
製造業
工場プラントのコンクリートミキサー内に入り、攪拌羽根をアーク溶接作業中、溶接棒の充電部に接触し感電した。
8
7月
製造業
工場内ホイスト式天井クレーン(2.8トン)を使用して機械等の移設作業をしていたとこ ろ、給電装置がトロリ線から外れた為、修理しようとしたところ、トロリ線こ触れて感電し た。
7
7月
製造業
コンクリートミキサー車のタンク内でアーク溶接作業を行い、作業を終えてタンクから出 ようとしていた際、持っていたアーク溶接棒に触れ感電した。
8
7月
電気工事業
電柱上での作業終了後、ゴム手袋を外して軍手で降りようとしたところ、100Vの家庭用引込線に触れ感電した。
9
7月
製造業
建造中の運搬船の船底で配管溶接部のみがき作業をしていたところ、感電した。
10
8月
その他
コンベアーの復旧作集中、天井の蛍光灯器具の吊りボルトが通電しており、これに触れ感電した。
11
8月
その他
給湯供給設備の一つである電磁弁を新しいタイプに交換作業中、ペンチを手にして活線を切断しようとしたところ感電した。
12
8月
電気工事業
破損した蛍光ランプのソケットを取り替えるために、蛍光燈の導線と新しいソケットの導線を圧着ペンチにより、圧着接続している際、感電した。
13
8月
その他
電気炉制御盤の点換作業中、制御盤の充電部分に接触して感電した。
14
8月
その他
外部足場上で電気ドリルを用いてビスを建屋の側壁に打ち込んでいたところ、ビスが建屋内側のケーブル(三相200V)に接触して通電状態となり、感電した。
15
8月
製造業
ホイスト式天井クレーンのガータの撤去作業後、トロリ線への接続作業を行なう際に電源の閉路を怠り、感電した。
16
8月
その他
テルハの電源コードの断線箇所を修理するため、移動はしご上で電源コードの芯線を加エ中に感電した。
17
9月
製造業
天井走行クレーンの定期自主検査を実施中、配電盤中の配線の端部がこめかみ付近に接触して感電した。
18
9月
製造業
電動ポンプ(100V)を使用し、硝酸をドラム缶から既設タシク内に投入する作美を行っていたところ、漏電により感電した。
19
9月
建設業
木造2階建建築工事現場において、外壁板の防腐処理作業を行っていたところ、仮設電気の配線の絶縁被覆が破けていたため、配線に接触していた足場に通電し感電した。
20
9月
その他
自動販売機の配線取替工事のため、天井裏で作業をしていたところ、活線(電圧100ボ ルト)に接触して感電した。

*表中、建設業とは電気工事業以外の建設業のことである。












要請

厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課長から「中央労働災害防止協会、建設業労働災害防止協会、全日本電気工事業組合連合会、(社)日本電設工業会」あてに下記の要請がなされた。
基安安発第23号、平成13年7月24日)

 

夏季における感電災害の防止にづいて

 労働安全衛生行政の推進につきましては、日頃から格別の御協力を賜り、厚く御礼申し上げます。 さて、感電災害につきましては、夏季に多発する傾向にありますが、本年は梅雨明け以降気温の高い日が多く、残暑も厳しいとの気象庁予報がなされているところであり、例年以上に感電による労働災害の多発が懸念されるところです。
 夏季における感電災害は、暑さから関係労働者が絶縁用保護具等の使用を怠りがちになること、軽装により直接皮膚を多く露出すること、作業時における注意力が低下しがちであることに加えて、発汗により皮膚自身の電気抵抗や皮膚と充電物との接触抵抗が減少すること等が要因となって多発する傾向にあり、特に200V程度の低電圧に係る作業において顕著となっております。また、被災者には電気工事以外の業務に従事する労働者も多数みられるところです。
 つきましては、感電による死亡災害の発生状況を別添のとおりとりまとめましたのでご活用いただくとともに、傘下の会員事業場に対し、災害の発生状況からみて特に留意する必要があるとみられる下記の事項を中心として、夏季における感電災害防止対策が、熱中症の予防対策とともに、改めて徹底されるよう周知いただきたく、特段のご配慮をお願いします。



1.安全教育等

 低圧電気の取扱いに係る作業を高圧電気の取扱い作業に比べで安易に考えることのないよう、低圧に係る死亡災害の発生状況等とともに、低圧の電気の危険性と感電災害防止対策について周知すること。なお、特別教育が必要な場合は適切に実施すること。

2.施設、設備の安全確保

 ア 作業場内の配線等

   作業場内の配線及び移動電線で絶縁被覆が劣化しているものについては適切なものに取り替え、部分的に損傷しているものは電気絶縁用ビニル粘着テープ等で確実にテーピングする等、必要な措置を講じること。

 イ 交流アーク溶接機

   溶接機の出力側電圧端子、溶接棒ホルダー等について、絶縁被覆が不十分である場合は、絶縁覆いをする等必要な措置を講じること。また、使用する自動電撃防止装置については使用前の点検により作動状況を確認すること。

 ウ 移動式又は可搬式の電動機器

   電気ドリル、電気グラインダー等の電動機器については、当該機器の端子と配線との接続部分の劣化等により、漏電による感電のおそれがある場合には確実に補修すること。また、湿潤な場所その他導電性の高い場所で使用する場合は感電防止用漏電遮断装置を接続する等、必要な措置を講じること。

 エ クレーントロリー線等の充電電路

   天井クレーンのトロリー線等、充電電路に近接する場所において清掃、点検等の作業を行う場合は、停電させること、又は充電電路に絶縁用防具を装着する等、接触による感電を防止するための必要な措置を講じること。

3.作業の適正化等


 ア 作業の指揮者

   低圧電気工事については、作業グループごとに作業の指揮者を配置し、その者に作業を直接指揮させるとともに、適切な絶縁用保護具等の使用、充電電路の絶縁用防具の装着を確認させる等作業管理を行うこと。

 イ 停電作業

   停電作業においては、停電の状態及びしや断した電源の開閉器の状態について安全であることを確認した後に作業着手させること。また、停電に用いた開閉器には作業中は施錠するとともに通電禁止の表示をする等必要な措置を講じること。


4.その他

  必要に応じて、安全委員会等において上記1〜3の事項を中心とした夏季における感電災害の防止について協議し、取組を推進すること。