酸素欠乏症及び硫化水素中毒の発生事例(H8〜9年)
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(酸欠事故と酸欠場所における硫化水素中毒)

昭和56年〜平成9年
この17年間で
発生358件
611人が被災し、うち死亡232人



それらは、事業者の酸素欠乏症等に対する認識の不足が原因で、そのため、労働者に対して必要な知識が与えられていない・・・(ことから発生している!)





mokuji

1.酸欠・硫化水素中毒「発生件数一覧表」(昭和56年から平成9年までの17年間)
2.平成8〜9年の酸欠事故事例
3.平成8〜9年の酸欠場所における硫化水素中毒発生事例
4.労働省は、この原因をどのように分析しているのだろうか
5.H11.12.22、労働省が「酸素欠乏症等の防止対策の徹底について」と題して、示した対策とは?









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昭和56年〜平成9年
酸欠・硫化水素中毒発生状況の一覧表


  56 57 58 59 60 61 62 63 1 2 3 4 5 6 7 8 9
酸素欠乏症 被災者数

42

29

39

27

29

26

17

22

26

23

30

20

17

22

23

22

25

死亡者数

7

12

15

12

12

8

10

9

9

10

16

12

8

8

14

10

8

発生件数

19

16

23

19

12

17

14

14

14

16

20

13

13

16

14

13

15

硫化水素中毒 被災者数

6

7

11

18

19

16

13

7

6

10

2

11

8

12

8

13

5

死亡者数

0

3

3

9

5

7

2

3

2

1

1

2

7

2

1

4

0

発生件数

4

6

4

7

9

9

7

3

4

5

2

6

3

6

4

8

3

被災者数

48

36

50

45

48

42

30

29

32

33

32

31

25

34

31

35

30

死亡者数

7

15

18

21

17

15

12

12

11

11

17

14

15

10

15

14

8

発生件数

23

22

27

26

21

26

21

17

18

21

22

19

16

22

18

21

18











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酸欠事故発生事例(H8・9年)

No

発生月日

発生地

業種

被災者

発生状況

原因等

二次災害

死亡

そ生

死亡

そ生

8-1 1996.2.8 神奈川 建設業  ゴミピットコンクリート斜壁の補修工事のための足場を組む作業中、落とした部材を取るためビット内に降りたところ酸欠空気により被災した。また、救出しようとした事業主も同様に被災した。 1.作業主任者未選任
2.酸素濃度測定せず
3.換気せず
4.特別教育未実施
5.安全衛生管理体制不備
8-2 1996.2.13 群馬 電気機械器具製造業  電力用遮断器の絶縁体として充填されている六フッ化硫黄ガスの抜き取り作業のため、逆止弁にポリエチレン袋を当てて作業を行っていたところ、漏洩した六フッ化硫黄を吸い込み被災した。 1.空気呼吸器等未使用
2.換気せず
3.作業標準の不徹底
4.安全衛生教育不十分
8-3 1996.3.1 岩手 化学工業  粒状肥料のホッパータンク内で製品の状況を確認していたところ、ホッパー内が適温多湿であったため微生物が繁殖し、肥料の成分を酸化し酸欠状態となっていたため、息苦しくなりタンクの外に出ようとしたが間に合わず被災した。また、同じ作業をしていた労働者もホッパーから出た後、再度救助のため入り被災した。 1.換気せず
2.酸素濃度測定せず
3.作業主任者未選任
4.特別教育未実施
5.作業標準の不徹底
6.空気呼吸器等未使用
8-4 1996.3.28 福岡 保健衛生業  原木のくん蒸作業終了後、各ハッチの開放状態を確認していた被災者が、船倉に隣接したエスケープホールド内に立ち入ったところ、長期間密閉されていた船倉内の酸欠空気がハッチから漏洩しており酸欠状態となっていたため、被災した。 1.空気呼吸器等未使用
2.作業標準の不徹底
8-5 1996.4.10 広島 非鉄金属精錬業  ニッケル合金の再粉砕作業においてホッパー内に落としたナイロン袋を取ろうとしたところ転落し、酸化防止のためホッパー内に充填してあったアルゴンガスを吸い込み被災した。 1.転落防止措置不十分
2.作業標準の不徹底
8-6 1996.6.19 東京 建設業  商品陳列ケースの冷却用配管の修理のため、作業者が漠水ビット内に入ったところ、内部が冷却用フロンの漏洩により酸欠状態となっており被災した。また、救出しようとした同僚も同様に被災した。 1.換気せず
2.空気呼吸器等未使用
3.酸素濃度測定せず
4.酸欠作業の認識なし
8-7 1996.6.20 福岡 建設業  下水道新設工事において下水管の到達箇所の土質調査のため、元請けの所長と下請の労働者1名の計2名で既設マンホール内に降りたところ、地層中の第一鉄塩類の酸化により酸欠状態となっており、2名とも倒れた。救助のためマンホール内に入った工場長も同様に倒れた。 1.作業主任者未選任
2.酸素濃度測定せず
3.換気せず
4.特別教育未実施
5.空気呼吸器等未使用
8-8 1996.7.29 長野 土木工事業  下水道管敷設工事において、ヒューム管をマンホールに接続するため、1月半前に敷設した未使用のマンホール内に入ったところ被災した。また、救助のためマンホール内に入った労働者も同様に被災した。 1.酸素濃度測定せず
2.換気せず
3.空気呼吸器等未使用
4.作業主任者未選任
5.特別教育未実施
8-9 1996.8.1 千葉 清掃業  下水道汚水管の清掃作業において、マンホール内部の状況を確認するため、中に入った代表取締役が酸欠空気により被災し、それを助けるためマンホールに入った労働者も同様に被災した。 1.酸素濃度測定せず
2.換気せず
3.作業標準の不徹底
4.空気呼吸器等未使用
5.特別教育未実施
8-10 1996.9.4 愛知 製鉄業  精錬工程におけるチャンバー内に折れたノズルを取るため入ったところ、内部が冷却用のアルゴンカスの漏洩により酸欠状態となっており被災した。また、救助のため同チャンバ-内に入った同僚も同様に被災した。 1.酸欠作業の認識なし
2.酸素濃度測定せず
3.換気せず
4.空気呼吸器等未使用
8-11 1996.9.22 北海道 土木工事業  下水道工事において、他の工事現場のマンホール(深さ約6メートル、直径約90センチメートル)内に置いてあった電動の排水ポンプを取り出すため労働者2名が入ったところ酸欠空気により被災した。また、救助のため同マンホールに入った労働者も同様に被災した。 1.酸素濃度測定せず
2.換気せず
3.特別教育未実施
8-12 1996.10.14 広島 自動車修理業  タンクローリ-のタンク底部の部品を取り替える作業をするためタンク内に立ち入ったところ、ハッチからタンク内に脱硫剤を供給するための気送用アルゴンガスが残留しており、酸欠状態となっていたため被災した。 1.酸素濃度測定せず
2.作業標準の不徹底
8-13 1996.11.30 北海道 清掃業  小学校の配水管逆流の原因調査のため、床下の拝観ピットへ入って作業を行っていた2名が倒れた。当該ピットの酸素濃度は9%程度であった。 1.酸素濃度測定せず
2.特別教育未実施
3.換気せず
9-1 1997.2.13 神奈川 貨物自動車運送業  -60℃に冷却された大型保冷車の荷台(液体窒素を噴射することによって冷却する冷凍庫)へ立ち入ったところ、酸欠空気を吸入し被災した。 1.作業主任者未選任
2.酸素濃度測定せず
3.換気せず
4.特別教育未実施
5.連絡調整体制不備
9-2 1997.2.22 兵庫 清酒製造業  日本酒の製造工程の仲仕込み準備作業中、タンク内に落ちた蒸米拡散器を取り出すため当該タンク内に入ったところ、酸欠空気を吸入し被災した。 1.酸素濃度測定せず
2.換気せず
3.作業標準の不徹底
4.特別教育未実施
9-3 1997.2.24 神奈川 化学工業  炭酸ガス製造プラントにおいて炭酸ガス圧縮機の自動緊急停止により炭酸ガスが排出され、近くのビット内で設備入れ替え作業をしていた2名の労働者が、酸欠空気を吸入し被災した。また、供給過剰となった炭酸ガスが溢れて点検作業中の1名の労働者も同様に被災した。 1.不活性ガス滞留防止措置講じず
2.安全衛生教育不十分
9-4 1997.4.25 岐阜 電気機械器具製造業  電子関連機器のプリント配線板製造工場において、代替フロンを使用している超音波洗浄機内のチェーンが切れたため、補修しようと当該装置内に入り作業を行っていたところ、酸欠空気を吸入し被災した。 1.作業主任者職務遂行せず
2.酸素濃度測定せず
3.換気せず
4.連絡調整体制不備
9-5 1997.5.6 兵庫 建設業  3ヶ月間密閉されていた地下ビットの型枠解体作業に従事していた4名の労働者が、酸欠空気を吸入し被災した。また、救出しようとした2名の労働者も同様に被災した。 1.酸欠作業の認識なし
2.作業主任者未選任
3.酸素濃度測定せず
4.換気せず
5.特別教育未実施
9-6 1997.5.8 大阪 金属製品製造業  洗浄・塗装により使用済み缶を再生する事業場で、缶の研磨等の作業中、二酸化炭素消火設備の誤作動により二酸化炭素が噴射され、酸欠空気を吸入し被災した。 1.二酸化炭素消火設備の点検不備
2.安全衛生教育不十分
9-7 1997.5.16 長野 化学工業  コンクリート用品質改良剤の沈殿物(廃棄物)を貯蔵タンクから吸引ホースで回収する作業において、タンク底部に残った廃棄物を吸引のため、1名の労働者がタンク内に入ったところ、硫化水素及び酸欠空気を吸入し被災した。また、救出しようとした3名の労働者も同様に被災した。 1.作業標準の不徹底
2.酸素濃度測定せず
3.換気せず
4.安全衛生教育不十分
5.空気呼吸器等未使用
9-8 1997.5.16 神奈川 船舶造修業  造船作業において、テイグ溶接作業を行っていたところ、アルゴンガス流出により生じた酸欠空気を吸入し被災した。 1.換気せず
9-9 1997.5.19 栃木 接客娯楽業  ゴルフ場の水中ポンプの修理工事を依頼された電気工事業者が、工事終了後取水ビット内に落としたボールペンを拾いにビット内に降りたところ、酸欠空気を吸入し被災した。また、救出しようとしたゴルフ場従業員も同様に被災した。 1.酸欠作業の認識なし
2.空気呼吸器等未使用
3.安全衛生教育不十分
9-10 1997.7.8 山形 飲料製造業  ワイン醸造タンクにおいて、酸化防止用窒素を放出して酸素濃度計のチェックを行った後、清掃作業のため当該タンクに立ち入ったところ、当該窒素放出により生じた酸欠空気を吸入し被災した。 1.酸欠作業の認識なし
2.作業主任者未選任
3.換気せず
4.測定器具不備
5.特別教育未実施
9-11 1997.8.2 三重 建設業  道路に埋設されたLPガス管の撤去作業において、本管から分岐した供給管の切断を行っていた1名の労働者が、LPガス漏出により生じた酸欠空気を吸入し被災した。また、救出しようとしたと思われる1名の労働者も同様に被災した。 1.作業標準の不徹底
2.換気せず
3.ガス遮断せず
4.空気呼吸器等未使用
9-12 1997.8.6 兵庫 建設業  クレーン台船による作業終了後、スバット(台船固定用H鋼)を引き抜いたところ途中で折れていたため、1名の労働者が、折れて残った部分を引き上げるためにスバットガイド(スバットを通すための台船の穴)内に立ち入ったところ、酸欠空気(スパットが折れた際に生じたスバットガイドの破損部分を通してバラストタンクから漏れ出したもの)を吸入し被災した。また、救出しようとした1名の労働者も同様に被災した。 1.酸素濃度測定せず
2.換気せず
3.空気呼吸器等未使用
9-13 1997.9.9 北海道 建設業  木造家屋新築工事現場において、1階床下部分の硬質ウレタンフォーム吹き付けによる断熱工事作業中、ウレタンフォーム硬化の際に発生するフロンガス等の充満より生じた酸欠空気を吸入し被災した。 1.換気せず
2.安全衛生教育不十分
9-14 1997.9.29 北海道 道路貨物運送業  ドライアイスを保冷庫に取りに行ったところ、昇華した二酸化炭素によって生じた酸欠空気を吸入し被災した。 1.酸欠作業の認識なし
2.作業主任者未選任
3.酸素濃度測定せず
4.換気せず
9-15 1997.10.21 神奈川 港湾荷役業  台船修理作業において、船倉・内の海水の水深を測定するため船倉内に立ち入ったところ、船倉・内の錆によって生じた酸欠空気を吸入し被災した。 1.作業主任者未選任
2.酸素濃度測定せず
3.換気せず
4.特別教育未実施




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酸欠場所における硫化水素中毒発生事例(H8・9年)

No

発生月日

発生地

業種

被災者

発生状況

原因等

二次災害

死亡

そ生

死亡

そ生

8-1 1996.1.21 佐賀 清掃業  マンホール内の導水管の空気抜き孔の蓋を開ける作業のため内部の酸素、硫化水素、可燃性ガスの濃度を測定し、換気をした後、マンホール内で空気抜き孔の蓋を開けたところ、硫化水素、可燃性ガス等が噴出し、被災した。また、救出しようとした同僚も同様に被災した。 1.空気呼吸器等未着用
8-2 1996.4.27 北海道 食料品製造業  鶏肉加工の際の不要な水分を凝縮し排出する装置で、ポンプの修理のため内部の水抜きを行っていたところ、凝縮水より発生した硫化水素が噴出し、間近で吸引したため被災した。 1.作業標準の不徹底
2.連絡調整体制不備
3.安全衛生教育不十分
4.定期的に設備の点検、清掃せず
8-3 1996.5.15 熊本 産業廃棄物処理業  鮮魚加工時の排水を浄化するための処理施設において、処理時に発生した汚泥をトラックの荷台に投下した直後、荷台付近で作業を行おうとした作業者が汚泥の入っていたホッバーから漏出した硫化水素を吸入し被災した。また、救出しようとした同僚も同様に被災した。 1.作業標準の不徹底
2.安全衛生教育不十分
8-4 1996.6.28 熊本 その他の製造業  有機液肥製造施設において、配管の詰まりを取り除くため調整槽の中に降りていく途中、硫化水素の吸入により被災し、かつ、はしごより墜落して肋骨を骨折した。
また、救助しようと調整槽内に入った労働者も硫化水素により被災した。
1.硫化水素濃度測定せず
2.作業主任者未選任
3.特別教育未実施
4.安全帯等未設置
5.空気呼吸器等未使用
6.作業標準の不徹底
8-5 1996.6.29 東京 清掃業  地下2階にある中水製造装置の汚泥横内に入り、溜まった汚泥を水きりで集める作業をしていたところ、汚泥から発生した硫化水素により被災した。 1.換気せず
2.硫化水素濃度測定せず
3.作業主任者未選任
4.特別教育未実施
8-6 1996.7.19 兵庫 土木工事業  汚水幹線敷設工事現場において、ポンプマンホール(槽)内で旧管側マンホールへつながる流入管との閉塞部の撤去作業を行っている際、流入管より噴出した硫化水素ガスを吸入して被災した。また、救助のため構内に入った労働者も同様に被災した。 1.作業主任者未選任
2.作業標準の不徹底
3.硫化水素濃度測定せず
4.換気せず
5.特別教育未実施
6.空気呼吸器等未使用
8-7 1996.8.31 愛知 紙・パルプ製造業  製紙工程においてできるヘドロをビット内から汲み出す作業中、ポンプの点検のため、ビット内にはいったところ急に倒れた。救助のためビット内にはいった社長と工場長も同様に被災した。 1.酸素濃度測定せず
2.換気せず
3.空気呼吸器等未使用
4.特別教育未実施
8-8 1996.9.25 大分 清掃業  発電所内油分離槽室内において、ドレン中の油の処理作業を行っていた被災者がドレンと共に吹き出した硫化水素により中毒となり被災したもの。 1.安全衛生教育不十分
2.作業標準の不徹底
9-1 1997.9.10 東京 清掃業 スーパー地下食料品売場にある排水槽の清掃を行うため、硫化水素濃度等を測定した後、槽内に立ち入った1名の労働者が、別の排水槽から導水管を通して流入してきた汚泥から発生した硫化水素を吸引し被災した。また、救出しようとした1名の労働者も同様に被災した。 1.硫化水素濃度測定不十分
2.換気せず
3.空気呼吸器等未使用
9-2 1997.9.18 宮崎 畜産の事業 原水移送ポンプ槽の汚水ポンプの復旧作業を行っていた1名の労働者が、汚水から発生した硫化水素を吸入し被災した。また、救出しようとした1名の労働者も同様に被災した。 1.作業主任者未選任
2.硫化水素濃度測定せず
3.換気不十分
4.連絡調整体制不備
5.空気呼吸器等未使用
6.安全帯等未使用
9-3 1997.10.8 神奈川 建設業 マンホール内で下水道の撮影をしていた1名の労働者が、汚水から発生していた硫化水素を吸入し被災した。
また、救出しようとした2名も同様に被災した。
1.硫化水素濃度不十分
2.換気不十分


備考

イ 「換気せず」→本来換気が可能な作業であるのに、換気をしなかったこと。
口 「空気呼吸器等未使用」→作業の性質上等から換気を行うことが困難と認められる場合に、これを使用しなかったこと。なお、換気が可能であるのに、それを行わなかった場合な、イの「換気せず」に含まれる。
ハ 「作業主任者未選任」→第1種又は第2種酸素欠乏作業主任者を選任していなかったこと。
ニ 「特別教育未実施」→酸素欠乏作業等に係る特別の教育を行っていなかったり、不十分であったこと。
ホ 「安全衛生教育不十分」→ニの「特別教育未実施」以外の安全衛生教育を行っていなかったり、不十分であったこと。
へ 「作業標準の不徹底」→酸素欠乏等の危険を防止するための作業標準(作業の方法)がなかったり、徹底されていなかったこと。なお、作業の方法の決は、作業主任者の職務であるが、その選任の有無にかかわらず原因にあげている。







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酸素欠乏症等の防止対策の徹底について
(平成10年12月22日、基安発第34号)

労働省労働基準局安全衛生部長より、都道府県労働基準局長 あて







酸素欠乏症等の防止対策の徹底について

 酸素欠乏症及び硫化水素中毒(以下「酸素欠乏症等」という。)については、従来より酸素欠乏症等防止規則(以下「酸欠則」という。)に基づき、その防止対策の徹底を図っているところであるが、ここ数年の発生状況を見ると、死亡者数は減少しているものの、被災者数は若干の増加傾向を示している。
 このような背景の中で、本年度を初年度とする第9次労働災害防止計画においては、酸素欠乏症等の撲滅を図ることが計画の目標の一つとして掲げられているところである。
 今般、昭和63年から平成9年の酸素欠乏症等の災害発生状況について分析したところ、別添のような問題点等が認められることから、今後、関係事業場等に対する指導に当たっては、酸欠則に加えて特に下記事項に留意し、酸素欠乏症等の防止対策の徹底を図られたい。
 また、平成8年及び平成9年の災害発生事例を別添2のとおりとりまとめたので、併せて活用されたい。


1 酸素欠乏危険場所における措置

 酸素欠乏危険場所を有する事業場においては、労働者その他関係者の酸素欠乏危険場所の危険性に対する認識の向上及び理解の増進を図るとともに、酸素欠乏症等防止対策の実効を期するため、次の措置を講じること。



(1)酸素欠乏危険場所の把握及び周知の徹底

 災害発生の原因をみると、酸素(第2種酸素欠乏危険場所にあっては、酸素及び硫化水素)の濃度(以下「酸素濃度等」という。)の測定や酸素濃度等を適切に保つための換気等、基本的な対策の未実施が目立つことから、酸素欠乏危険場所であることの認識不足が最大の問題であると考えられるので、次の対策を実施することにより、作業場又は施設における酸素欠乏危険場所の把握及び関係者に対する周知の徹底を図ること。

イ 作業場又は施設の総点検等の機会を利用して、事業場内のすべての酸素欠乏危険場所を把握すること。

ロ 酸素欠乏危険場所の入口等の見やすい箇所に、次の事項を表示すること。

(イ)内部に立ち入ると酸素欠乏症等(第1種酸素欠乏危険場所にあっては酸素欠乏症)にかかるおそれがあること。
(ロ)当該場所に立ち入る場合に講ずべき措置
(ハ)事故発生時の措置
(ニ)空気呼吸器、酸素呼吸器又は送気マスク(以下「空気呼吸器等」という。)、酸素濃度等の測定器具、送気設備、安全帯等の保管場所
(ホ)酸素欠乏危険作業主任者の氏名及び連絡先
(へ)通常、人の立ち入らない場所にあっては施設管理者の氏名及び連絡先

ハ 作業場又は施設の入口等への内部に存在する酸素欠乏危険場所の位置等の表示、事業場内の「酸素欠乏危険マップ」の作成等により、一般作業者に対しても、各種の機会をとらえ、事業場内の酸素欠乏危険場所の位置の周知と立入禁止の徹底を図ること。



(2)適切な酸素濃度等の測定及び継続的な換気の実施

 酸素欠乏危険作業を行う必要がある場合は、次の措置を実施すること。

イ 次の対策を徹底することにより、適切に酸素濃度等を測定すること。

(イ)測定器具の保守及び定期的な点検を実施すること。
(ロ)測定を行ったにもかかわらず、その時期が早過ぎ作業時と異なった条件下であったり、1点しか測定しない等、その方法又は時期が不適切であったために酸素欠乏症等が発生した事例があることから、測定は、作業条件を勘案して測定点を選定し、作業の直前に実施すること。

ロ 作業前に換気を行い、酸素濃度が18%以上、硫化水素濃度が10ppm以下に保たれていることを確認したにもかかわらず、立ち入って被災した事例があることから、酸素欠乏空気の流入や硫化水素の発生のおそれがある場合には、作業中も継続的に換気を行うことにより、当該濃度の値を保つこと。



(3)労働衛生教育の徹底

 特別教育を実施し、作業標準が整備されているにもかかわらず、被災した事例もあり、労働者の酸素欠乏症等に対する認識の不足が問題と考えられることから、酸素欠乏危険作業に従事する労働者に対しては、必要に応じ、特別教育の一部又は全部の科目について労働衛生教育を繰り返し行うことが望ましいこと。



(4)酸素欠乏危険場所に近接して作業を行う場合の措置

 酸素欠乏危険場所への立入りが予定されていない作業においても、槽内への落下物の回収等のために立ち入り被災した事例も多いので、このような作業においても空気呼吸器等を備え付け、酸素欠乏危険場所への立入りの必要が生じた場合にはこれを使用させること。



(5)施設管理者の措置

 施設管理者は、通常立ち入る必要のない酸素欠乏危険場所については、施錠等により人が立ち入ることができないようにし、清掃、点検等のために立入許可を与える場合は、酸素欠乏症等の防止のために必要な措置について指示すること。



(6)施設の清掃、補修等の非定常作業に係る発注者の措置

 酸素欠乏危険場所を有する施設の清掃、補修等の発注者は、請負人に対し、当該酸素欠乏危険場所に係る注意事項について教示するとともに、酸素欠乏症等の防止に係る措置を講じることを発注条件として明示すること。




2 通風が不十分な場所におけるガス配管工事に係る措置

 通風が不十分な場所において、プロパンガス等を送給する配管を取り外し、又は取り付ける作業を行う場合は、次の措置を講じること。


(1)作業指揮者の選任

 酸素欠乏症の防止について必要な知識を有する者のうちから作業指揮者を選任し、その者に作業を直接指揮させること。

(2)ガスの遮断の徹底

 当該作業に係る災害のほとんどは、ガスを遮断せず作業を行ったことが原因であるので、作業指揮者は、当該作業を行う箇所にガスが流入しないよう確実にガスを遮断したことを確認した後でなければ当該作業を開始させてはならないこと。
 また、当該工事の発注者は、請負人に対し、これらのガスの確実な遮断について指示の徹底を図ること。

(3)安全衛生教育の実施

 災害の多くは、作業標準の不徹底により発生しており、労働者の酸素欠乏症等に対する認識の不足が問題と考えられるので、当該作業に従事する労働者に対して、酸素欠乏症の危険性等について安全衛生教育を実施すること。




3 二次災害の防止のための措置

 酸素欠乏危険場所その他の酸素欠乏症等のおそれのある場所において作業を行う場合は、酸素欠乏症等に被災した者を救出する際の二次災害を防止するため、次の措置を講じること。                    1


(1)空気呼吸器等の備付け

 酸素欠乏症等にかかった労働者を酸素欠乏等の場所において救出するに当たって、空気呼吸器等を使用しなかったために、二次災害が発生する場合が極めて多いので、酸素欠乏症等のおそれのある場所には空気呼吸器等を備え付けることにより、当該救出作業に従事する労働者に直ちに空気呼吸器等を使用させることができるようにすること。


(2)安全衛生教育等の実施

 酸素欠乏症等のおそれのある場所に近接した場所で別の作業を行っている者が、当該救出作業を行った際に酸素欠乏症等に被災する例も多いことから、それらの者に対しても、酸素欠乏症等の危険性、空気呼吸器等の使用方法等について安全衛生教育を行うとともに、救出に関する訓練を実施することが望ましいこと。









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別添1

酸素欠乏症等災害発生状況の分析
(昭和63年〜平成9年)




1 災害発生状況の推移表1、図1〜3=略)

 酸素欠乏症等は長期的には減少しているものの、ここ数年間増減を繰り返しており、特に酸素欠乏症の被災者数については増加の傾向を示している。最近10年間の合計で見ると、発生件数は192件、被災者数は312人であり、うち死亡者数は127人、被災者に占める死亡者の割合(以下「死亡率」という。)は41%となっており、死亡率が高いことが特徴である。



2 発生原因(図4=略)

 酸素欠乏症等の災害発生の原因は、換気が未実施であることによるもの123件(64%)、酸素濃度等の測定が未実施であることによるもの119件(62%)となっており、基本的な防止対策がなされていないことが災害につながっている。
 また、空気呼吸器等を使用しなかったことによるものは75件(39%)となっているが、これは二次災害発生の主要な原因ともなっており、二次災害を
伴う災害75件のうち、空気呼吸器等を使用しなかったことによるものが45件(60%)となっている。



3 管理面での問題点(図5=略)

 酸素欠乏症等が発生した原因のうち、管理面の問題について見てみると、安全衛生教育不十分76件(40%)、特別教育未実施67件(35%)、作業主任者未選任62件(32%)、作業標準の不徹底55件(29%)、安全衛生管理体制不備37件(19%)となっている。
 それらの背景には、事業者の酸素欠乏症等に対する認識の不足がうかがわれ、それとも相まって労働者に対して必要な知識が与えられていないため、上記2にあるような基本的対策の未実施につながっているものと考えられる。



4 形態別発生状況(図6、7=略)

 酸素欠乏症148件についてその発生形態を見ると、無酸素空気に置換されたもの73件(49%)、有機物の腐敗や微生物の呼吸・発酵による酸素の消
費によるもの43件(29%)、タンクその他の素材の酸化によるもの17件(11%)等となっている。
 最も多い無酸素空気による置換について、その無酸素空気の内訳を見ると、爆発や酸化の防止等のために設備等に充填された窒素が18件(25%)、二酸化炭素消火設備や保冷車のドライアイス等から生じた二酸化炭素が13件(18%)、ガス管工事で漏洩したプロパンガスが13件(18%)、金属の製錬 溶接等のために用いていたアルゴンガスが12件(16%)、冷凍装置等から漏洩したフロン等が11件(15%)等となっている。
硫化水素中毒44件については、汚水・汚泥・し尿からの硫化水素の発生によるもの31件(70%)、パルプ液からの硫化水素の発生によるもの5件(11%)等となっている。



5 月別災害発生件数(図8=略)

 酸素欠乏症等の月別の発生件数を見ると、酸素欠乏症では、季節的な影響はほとんど見られないのに対し、硫化水素中毒では、全災害44件のうち23件(52%)が5月から7月にかけて集中して発生しており、死亡者数では、23人のうち14人(61%)が集中している。これは硫化水素の発生の多くが腐敗物に起因しており、腐敗の進行しやすい夏期に集中しているためであると考えられる。



6 業種別発生状況(表2及び3、図9及び10=略)

 酸素欠乏症の被災者数は最近10年間の合計で230人であり、このうち、建設業が95人(41%)、製造業が87人(38%)となっている。製造業ではいくつかの業種にわたって発生しているが、特に食料品製造業で23人と多く発生しており、製造業全体の26%を占めている。
 硫化水素中毒の被災者数は最近10年間の合計で82人であり、このうち清掃業が34人(41%)と最も多く、次いで製造業が21人(26%)、建設業が18人(22%)となっている。製造業では、特にパルプ・紙・紙加工品製造業で10人と多く発生しており、製造業全体の48%を占めている。


(1)建設業における発生状況

 建設業では、他の業種にまたがる災害も含め、酸素欠乏症は61件発生し、硫化水素中毒9件を合わせ合計70件の災害が発生している。建設業全体での死亡率は、44%と比較的高くなっている。
 発生場所は、下水道のマンホールが12件、その他のマンホールが4件、ガス管の掘削穴が10件、工事現場の地下ビットが7件、ゴミ焼却場その他
のビットが5件、内壁が酸化したタンクが3件、その他のタンクが5件、汚水等の槽が3件、井戸が2件等となっている。
 主な場所について、比較的多くみられる発生形態としては、下水道のマンホール内では、汚水からの硫化水素の発生による硫化水素中毒が5件、有機物の腐敗・微生物の酸素の消費による酸素欠乏症が4件等となっている。また、ガス管掘削穴内では、ガス管工事中にガスの漏洩を遮断しなかったことによる災害が9件発生しており、建設業に目立つ災害である。工事現場の地下ビットでは、有機物の腐敗・微生物の酸素の消費による災害が4件等となっている。


(2)清掃業における発生状況

 清掃業では、硫化水素中毒の発生が全業種で最も多く20件発生しており、酸素欠乏症3件を含め23件の災害が発生している。死亡率は37%となっ
ている。
 大部分の災害が、下水道等のマンホール内、排水ビット、汚水の入ったタンク・槽、し尿処理施設、汚水処理施設等で発生しており、汚水・汚泥・し
尿から発生した硫化水素による硫化水素中毒が18件発生している。このうち11件(61%)が5月から7月にかけて発生している。
 このほかには、魚のあらから発生した硫化水素による中毒、温泉の源泉に溶解していた硫化水素の気化による中毒、マンホール内やビット内での有機物の腐敗や微生物の酸素の消費による酸素欠乏症等も発生している


(3)食料品製造業における発生状況

 食料品製造業では、酸素欠乏症19件、硫化水素中毒1件の合計20件の災害が発生している。死亡率は21%と比較的低い。
 そのうち17件が、清酒やしょう油等のタンク内で発生しており、微生物の発酵による酸素の消費が酸素欠乏空気の生じる原因となっている。災害の
発生形態としては、清掃作業のために立ち入ったもののほか、タンク開口部での作業中に転落したもの、タンク内に落とした物を拾うために立ち入ったもの等がある。
 関係労働者に対して特別教育がなされていない事例が15件(75%)と、ほかの業種と比べて高い割合であることが特徴である。


(4)その他の業種

 化学工業では、酸素欠乏症が10件発生しており、うち、死亡災害は1件1名である。発生形態としては、タンク等の内部が無酸素気体に置き換えら
れたことによる災害が6件発生しており、最も多い。
 パルプ・紙・紙加工品製造業では、硫化水素中毒5件、酸素欠乏症1件の合計6件の災害が発生している。そのうちパルプ液からの硫化水素の発生による災害が4件と最も多い。