医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康障害事例
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医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康障害防止について
内視鏡の殺菌消毒剤を使用中に、健康障害を訴えた事例が平成11年以降8件認められた。
平成17年2月24日、厚生労働省は「医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康障害防止対策」を取りまとめ、関係機関に通知した。
事例
発生年 |
都道府県 |
発 生 状 況 |
平成11年 |
神奈川 |
医療器具の洗浄作業に従事していたところ、両手指に皮膚炎を発症した。 |
平成11年 |
栃木 |
通常はビニール手袋を着用し検査器具の洗浄作業を行うが、当日は手袋を着用せず、水であると誤認して殺菌消毒剤に浸してあった検査器具の洗浄を行ったところ、手、手指及び前腕にかゆみ、痛みを伴い、亀裂が生じた。 |
平成12年 |
東京 |
内視鏡の殺菌消毒剤を使用中、手や顔が腫れて張った。 |
平成12年 |
大阪 |
内視鏡の殺菌消毒剤の調製時及び使用時に、薬剤が付着し、その蒸気の刺激により全身に皮膚炎を生じた。 |
平成13年 |
大阪 |
検査器具の殺菌消毒剤の蒸気を吸入したことにより、気道粘膜損傷を生じた。 |
平成14年 |
兵庫 |
内視鏡の殺菌消毒剤を用いてカメラの洗浄作業に従事していたところ、3か月後にかゆみ・あかぎれになり、血がにじみ、赤く腫れた。 |
平成15年 |
奈良 |
内視鏡の殺菌消毒剤に接触し、微熱、食欲不振となった。 |
平成16年 |
山形 |
殺菌消毒剤を用いて手術器具の殺菌作業を行っていた際、殺菌後の器具に付着している殺菌消毒剤を洗い流すときに熱湯を使用したため、蒸気が発生し、これを吸入して中毒となった。 |
医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康障害防止について
(厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長あて平成17年2月24日付け基発第0224007号)
医療機関において内視鏡等の医療器具等の殺菌消毒剤として広く使用されているグルタルアルデヒドは、皮膚、気道等に対する刺激性等を有する物質であり、実際に医療機関でこれを取り扱う労働者に皮膚炎等の健康障害が発生している。
このため、厚生労働省では、医療機関におけるグルタルアルデヒドの取扱いの実態等を調査するとともに、グルタルアルデヒドによる健康障害防止対策について専門家による検討を行ってきたところである。
今般、その結果を踏まえ、別添1のとおり「医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康障害防止対策」を取りまとめ、別添2のとおり医療関係団体に対し要請を行ったので、各局においても医療機関に対し本対策の周知徹底を図られたい。
参考1 医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働災害事例(平成11年〜平成16年)
参考2 グルタルアルデヒドに関する情報
参考3 殺菌消毒剤として使用されるグルタルアルデヒドの主な代替品
参考4 換気装置について(略)
参考5 保護具について(略)
参考6 参照条文
別添1
医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康障害防止対策
1 趣旨
医療機関において内視鏡等の医療器具等の殺菌消毒剤として広く使用されているグルタルアルデヒドは、皮膚、気道等に対する刺激性等を有する物質であり、実際に医療機関でこれを取り扱う労働者に皮膚炎等の健康障害が発生する事例がみられる。
このため、医療機関においてグルタルアルデヒドを使用して医療器具等の消毒作業を行う場合に講ずべき措置を示すことにより、グルタルアルデヒドによる労働者の健康障害の防止を図るものとする。
2 事業者が講ずべき措置
事業者は、グルタルアルデヒドによる労働者の健康障害を防止するため、グルタルアルデヒドを含有する殺菌消毒剤の添付文書に記載された使用上の注意を遵守するほか、以下の措置を講ずるよう努めること。
(1)作業環境管理及び作業管理
ア 濃度の測定
グルタルアルデヒドを使用して消毒作業が行われる屋内作業場においては、別紙に示すところにより、空気中のグルタルアルデヒドの濃度を測定すること。
なお、設備の新設・更新、作業方法の変更等があった場合には、必要に応じて濃度の測定を行うこと。
イ 測定結果に基づく措置
アの測定の結果、空気中のグルタルアルデヒドの濃度が0.05ppmを超える場合には、有効な呼吸用保護具、保護眼鏡等を使用させることにより労働者のばく露防止を図るとともに、0.05ppmを超えないようにするため、次に掲げるいずれかの措置のうち、当該作業場において有効な措置を講じること。
また、措置を講じたときは、その効果を確認するため、再度測定し、その結果の評価を行うこと。
なお、(ウ)又は(エ)により換気のための装置を設置する場合には、効果的に換気のできる位置に設置すること。
(ア)グルタルアルデヒドと同等以上の効果があり、有害性の少ない他の殺菌消毒剤への変更
(イ)密閉型の自動洗浄機の導入
(ウ)局所排気装置又はプッシュプル型換気装置の設置による換気
(エ)全体換気装置(換気扇を含む。)の設置又は窓の開放による全体換気
(オ)グルタルアルデヒドへの労働者のばく露を低減させる作業方法への変更
ウ グルタルアルデヒドに直接接触するおそれの高い作業において留意すべき事項
労働者をグルタルアルデヒドに直接接触するおそれの高い作業(自動洗浄機を用いずに行う消毒作業、自動洗浄機の消毒剤の交換作業等)に従事させるときは、アにより測定した空気中のグルタルアルデヒドの濃度が0.05ppmを超えない場合であっても、有効な呼吸用保護具、保護眼鏡、不浸透性の保護衣、保護手袋等を使用させることにより労働者のばく露防止を図ること。
また、自動洗浄機を用いずに行う消毒作業においては、ふた付き容器を用い、医療器具等を浸漬している間はふたをすること。
さらに、自動洗浄機を用いずに行う消毒作業において消毒剤を洗い流すときに熱湯を使用したり、自動洗浄機を用いて行う消毒作業において消毒剤の加温時に内視鏡をセットしたりするなど高濃度のグルタルアルデヒドにばく露するおそれのある方法は採らないこと。
(2)健康管理
労働者をグルタルアルデヒドを取り扱う業務に従事させる場合には、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第43条に基づく雇入時の健康診断において、問診により皮膚疾患、呼吸器疾患、アレルギー症状等についての既往歴を調査するとともに、必要に応じてアレルギー反応に関する他覚的検査や臨床検査を行い、その結果を踏まえ、アレルギー症状を発症する可能性のある者や既に気管支喘息を発症している者に対しては、その作業方法等に十分配慮すること。異動等により労働者を新たにグルタルアルデヒドを取り扱う業務に従事させる場合も、上記の既往歴の調査等を行うこと。
また、グルタルアルデヒドを取り扱う労働者に皮膚、呼吸器等への異常が見られた場合には、産業医等の意見に基づき、設備の改善、作業方法の改善、就業場所の変更等の必要な措置を講じること。
(3)労働衛生教育
グルタルアルデヒドを取り扱う業務に従事する労働者に対して行う労働安全衛生規則第35条に基づく雇入れ時等の教育は、次の事項について行うこと。
ア グルタルアルデヒドの物理化学的性質
イ グルタルアルデヒドの有害性並びにばく露することによって生じる症状及び障害
ウ グルタルアルデヒドの取扱い上の注意及び応急措置
エ 保護具の使用方法
オ その他健康障害を防止するために必要な事項
医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康障害防止について
(厚生労働省労働基準局長から別記に掲げる関係団体の長あて平成17年2月24日基発第0224008号)
労働基準行政の推進については、平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、医療機関において内視鏡等の医療器具等の殺菌消毒剤として広く使用されておりますグルタルアルデヒドは、皮膚、気道等に対する刺激性等を有する物質であり、実際に医療機関でこれを取り扱う労働者に皮膚炎等の健康障害が発生しています。
このため、厚生労働省では、医療機関におけるグルタルアルデヒドの取扱いの実態等を調査するとともに、グルタルアルデヒドによる健康障害防止対策について専門家による検討を行ってきたところです。
今般、その結果を踏まえ、別添のとおり、「医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康障害防止対策」を取りまとめましたので、貴会傘下会員への周知につきまして、特段のご配慮をいただきますようお願いいたします。
(別添、別紙及び参考1〜参考6 略)
別記
(社)日本医師会会長
(社)日本歯科医師会会長
(社)全日本病院協会会長
(社)日本病院会会長
(社)日本医療法人協会会長
(社)日本精神科病院協会会長
(社)全国自治体病院協議会会長
(社)日本私立医科大学協会会長
グルタルアルデヒドに関する情報
1 名称
グルタルアルデヒド
(別名:1,5-ペンタンジオン、グルタラール)
2 構造式
CHO-(CH2)3-CHO
3 用途
医学的消毒(滅菌)、皮膚組織標本、なめし剤、紙・プラスチック等への定着剤として使用される。
なお、医学用消毒(内視鏡の殺菌消毒、医療器具の化学的滅菌又は殺菌消毒)としては、グルタルアルデヒドを2〜20%含有する「グルタラール製剤」として販売、使用されている。
4 物理化学的性質
分子量:100.13
融点:-14℃
沸点:187〜189℃(分解)
引火点:71℃
発火点:225℃
比重:0.72(20/4℃)
蒸気圧:2.3kPa(17mmHg)(20℃)
蒸気密度:3.45(空気=1)
無色の液体。水と混和し、アルコール、エーテル、ベンゼンに溶解する。
タンパク質変性作用を有する。
特異な刺激臭を有する。
5 有害性
眼、皮膚、呼吸器に対する激しい刺激性を有する。眼は発赤し痛みを感じ、皮膚も発赤し、吸入により咳、頭痛、息苦しさ、吐き気を催す。
反復又は長期接触すると皮膚感作され、長期吸入により喘息を起こす。
がん原性については、ラット及びマウスを用いた吸入によるがん原性試験では否定されているが、人に対するがん原性に関する評価は定まっていない。
微生物等に対する変異原性が認められている。(平成10年10月30日付け基発第625号通達により「変異原性が認められた化学物質」とされている。)
6 ばく露限界濃度
米国労働衛生専門家会議(ACGIH):TLV-Ceiling(天井値)0.05ppm
英国安全衛生庁(HSE):TLV 0.05ppm
7 応急措置
眼に入った場合には、多量の水で洗い流すこと。
皮膚に付着した場合には、汚染された衣服を脱がせ、水と石けんで皮膚を洗浄すること。
吸入した場合には、新鮮な空気を吸わせ、安静にすること。また、必要な場合には人工呼吸を行うこと。
飲み込んだ場合には、口をすすぎ、また、水や牛乳を飲ませて、胃の内容を希釈した後、すみやかに医療機関を受診すること。
8 こぼれた場合の措置
グルタルアルデヒドがこぼれた場合には、十分な換気を行い、モップ等で速やかにふき取り、ふき取ったモップ等は直ちに大量の水ですすぐか、又はふた付きの容器に納めておくこと。また、多量にこぼれた場合は、亜硫酸水素ナトリウムで中和した後、同様の手順でふき取ること。
なお、こぼれたグルタルアルデヒドのふき取り等を行う場合には、労働者に有効な呼吸用保護具、保護眼鏡、不浸透性の保護衣、保護手袋等を使用させること
9 廃棄する場合の措置
グルタルアルデヒド又はこれに汚染されたものを廃棄する場合には、排水処理又は燃焼処理をすること。
10 名称、取扱いの注意等の通知
グルタルアルデヒドは、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第57条の2の規定に基づき名称、取扱いの注意等を文書で通知すべき物であるが、殺菌消毒剤としてのグルタルアルデヒドは医薬品であるため、薬事法(昭和35年法律第145号)第52条に基づき添付文書等に用法、用量その他使用及び取扱い上の必要な注意等を記載することが義務づけられており、労働安全衛生法第57条の2の適用除外となる。
参考文献
(1)国際化学物質安全カード(ICSC)
(2)化学物質評価研究機構「化学物質安全性(ハザード)評価シート」
(3)中央労働災害防止協会「化学物質の危険・有害便覧」
(4)化学工業日報社「14504の化学商品」
殺菌消毒剤として使用されるグルタルアルデヒドの主な代替品
内視鏡等の医療器具等の殺菌消毒剤として、グルタルアルデヒド(グルタラール製剤)の代替となる殺菌消毒剤が開発されており、主な代替品の名称、特徴、使用上の留意点等は次のとおりである。
1 フタラール製剤
フタラール製剤は、オルト-フタルアルデヒドを0.55%含有する製剤である。
オルト-フタルアルデヒドはグルタルアルデヒドよりも揮発性が低く、粘膜刺激性も弱く、また、皮膚刺激性、皮膚感作性は陰性である。
しかしながら、フタラール製剤で消毒した器具を用いて白内障手術を行った患者に、水疱性角膜症等が発現したとの報告があるので、超音波白内障手術器具類には使用しないこととされているほか、本剤で消毒した膀胱鏡を繰り返し使用した膀胱がん既往歴を有する患者にショック・アナフィラキシー様症状が現れたとの報告があるので、経尿道的検査又は処置のために使用する医療器具類には使用しないこととされている。
また、皮膚に接触すると黒色に変色することがあり、フタラール製剤で消毒した経食道心エコー(TEE)プローブ等の医療器具を使用した患者に、食道の粘膜損傷等が発現したとの報告もある。
このため、フタラール製剤を使用する場合には、換気を行うとともに、グルタルアルデヒドを使用する場合に準じて労働者に保護具を使用させる必要がある。
なお、フタラール製剤の使用に際しては、添付文書に従うこと。
2 過酢酸製剤
過酢酸製剤は、6%過酢酸の入った第1剤と緩衝液の入った第2剤で構成され、濃縮液として販売され、水で希釈して使用される。使用時の過酢酸濃度は0.3%である。
過酢酸は、酢酸に酸素原子が1つ付加した物質で、強い酸化作用があり、劣化のおそれ又は腐食のため、天然ゴム・生ゴム、鉄、銅等の材質には使用できない。
過酢酸は、強い酢酸臭を有し、ヒトの皮膚、粘膜に激しい刺激作用があるので、過酢酸製剤を使用する場合には、労働者に有効な呼吸用保護具、保護眼鏡、保護手袋等の保護具を使用させる必要がある。
なお、過酢酸製剤の使用に際しては、添付文書に従うこと。
参照条文
○労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)(抄)
(雇入れ時等の教育)
第三十五条 事業者は、労働者を雇い入れ、又は労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対し、遅滞なく、次の事項のうち当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のため必要な事項について、教育を行なわなければならない。ただし、令第二条第三号に掲げる業種の事業場の労働者については、第一号から第四号までの事項についての教育を省略することができる。
一 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること。
二 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること。
三 作業手順に関すること。
四 作業開始時の点検に関すること。
五 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること。
六 整理、整頓(とん) 及び清潔の保持に関すること。
七 事故時等における応急措置及び退避に関すること。
(第二項 略)
(雇入時の健康診断)
第四十三条 事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。
一 既往歴及び業務歴の調査
二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
(第三号〜第十一号 略)