企業の福祉のあり方(研究会報告から)
■HOMEPAGE
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■福利厚生制度のいま





今後の企業内福利厚生制度の再構築のために
経済社会の構造的な変化に対応した企業の福祉のあり方に関する調査研究報告書

調査/対象等の概要
 調査主体:労働省 
 調査時期:1996年
 企業調査:常用労働者30人以上の企業2000社(有効回答企業数653社)
 個人調査:調査対象企業の従業員8000人(有効回答数2280人)

<目次>
■調査対象等

■福利厚生制度の現状
 1 制度の導入状況
 2 世帯用社宅(社有)がある理由

■福利厚生制度に関する課題
 1 福利厚生制度に関する課題
 2 今後の制度のあり方に影響を及ぼす社会環境変化
 3 退職後の生活支援に対する考え方

■福利厚生制度の今後の方向
 1 制度全般の水準、各制度における方向
 2 各福利厚生施策の今後の方向
 3 社外の保養施設の利用補助への切り替え
 4 福利厚生制度の重点変更と移行時の問題点
 5 今後の重点施策

■福利厚生制度運営における今後の方向
 1 企業グループ内での施策の共同化
 2 福利厚生制度の
外注化
 3 カフェテリアプラン

■退職金制度の現状と課題

調査結果からみた企業内福祉の課題
(労働省、調査研究報告書の記述から)

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調査結果の要約
・企業調査の要約です。(個人調査は省略)
・この要約コメントは、労働省の集計表をもとに当方において付けたものです。
・以下の表現で、中小企業とは30〜299人を、中堅企業とは300〜999人を、大企業とは1000人以上を示すものです。
福利厚生制度の現状 1 制度の導入状況 ○福祉厚生諸制度の導入では、規模間格差が極めて顕著で、規模が大きくなるほど導入率が高くな  っている。 ○中小企業のうち、66.7%(3分の2)以上の導入率に達しているのは「社員旅行の実施・補  助」「財形貯蓄制度」「慶弔見舞金制度」「永年勤続表彰」の4制度である。  表1「福利厚生制度の導入状況」を見る  表3「非正規従業員への制度適用状況」を見る 2 世帯用社宅(社有)がある理由 ○企業規模が小さくなるほど、「従業員の確保・定着に役立つ」点を重視している。特に、中小企  業では73.9%がこの理由を上げている。 ○大企業では「転勤をスムーズに進める」「持ち家取得までの生活援助策」を上げる割合が高い。   表2「世帯用社宅(社有)がある理由」を見る 戻る 福利厚生制度に関する課題 1 福利厚生制度に関する課題 ○大企業は「法定福利費の負担増」を一番に懸念している。 ○中堅企業は「従業員ニーズの多様化」に戸惑っている。 ○中小企業は、福利厚生の充実もさることながら「賃金の上昇を求められる」ことが多い。  表4「福利厚生制度に関する課題」を見る 2 今後の制度のあり方に影響を及ぼす社会環境変化 ○企業規模に関わらず「従業員の高齢化」の影響を上げる率が高い。 ○中堅企業・大企業では「従業員ニーズの多様化」も制度運用に影響を与えると見ている。  表5「影響を与える社会環境変化」を見る 3 退職後の生活支援に対する考え方 ○「ある程度は企業責任」5.7%「必要性は認めるが、余力がない」52.2%が併せて過半数  である一方、「そこまで必要なし」も33.3%ある。 戻る 福利厚生制度の今後の方向 1 制度全般の水準、各制度における方向 ○「充実させたい」54.4%「現状維持」42.4%。大企業では「現状維持」49.6%が「  充実させたい」41.8%を上回る。 2 各福利厚生施策の今後の方向 ○今後充実させたいのは、「自己啓発の援助」「退職前準備教育」。これに広い意味での「健康管  理の関連施策」が続いている。  ○大企業で、制度を縮小させたいものの一つに「企業内保育所」が63.2%の高率で上がってい  るのが興味深い。  表6「各福利厚生制度の今後の方向」を見る 3 社外の保養施設の利用補助への切り替え ○「考えていない」が79.6%と多数である。大企業では、保養所(社有)の縮小意向は比較的  高く、24.7%が社外保養施設の利用補助へシフトすることを検討している。 4 福利厚生制度の重点変更と移行時の問題点 ○重点変更の意向ありは26.6%にとどまるが、 移行時の問題点として、中小企業・中堅企業  には「制度設計・運営のノウハウ不足」を上げる。大企業では、「税制面での有利・不利」を上  げる割合が高い。  表7「重点変更と移行時の問題点」を見る 5 今後の重点施策 ○規模を問わず「健康管理関連」「自己啓発支援」が2大重点施策となっている。  表8「今後の重点施策」を見る 戻る 福利厚生制度運営における今後の方向 1 企業グループ内での施策の共同化 ○企業グループ内での福利厚生施策の共同実施は6割で実施されており、中でも、リクレーション  活動31.3%、保養所の利用25.5%が多い。 ○一方、グループ以外の他企業との施策共同化は、84.1%が「実施する計画なし」となってい  る。なお、中小企業では、7.6%が他企業との共同実施・運営を行っている。 2 福利厚生制度の外注化 ○大企業は、「社員食堂」62.7%「保養所」33.2%「独身寮」23.2%の外注化比率が  高い。外注化の問題点では「コスト増」がトップ。  表9「現在外注化している、今後外注化したい福利厚生施策」を見る  表10「外注化の問題点」を見る 3 カフェテリアプラン ○カフェテリアプランがどういったものか知らない企業が、71.1%(中小企業73.2%、中  堅企業50.0%、大企業20.7%)ある。 ○「すでに実施」「予定・検討中」を加えても、3.2%で「実施計画なし」とする企業が20.  5%(特に、大企業で46.7%に上っているのが注目される。) ○大企業が、カフェテリアプランを実施する際の障害としては上げるのは、「社宅など一部施策で  ポイントかができない」「運用が面倒でコストがかかる」「運用ノウハウがない」「選択化にな  じまない施策が多い」など。  表11「カフェテリアプランについて」を見る  表12「カフェテリアプランを実施する際の障害」を見る 戻る 退職金制度の現状と課題 ○9割が退職金制度を持ち、退職一時金制度が約8割、退職年金制度が3割弱(但し、大企業では  7割強)となている。 ○退職金制度が長期勤続者に有利になっている企業の割合は、中堅企業において高く64%、大企  業において低い45%。平均で6割弱。 ○今後の意向 ・退職金一時金制度  長期勤続者優遇45.7%、一定勤続年数まで優遇36.0%と長期勤続優遇の意向は強い。 ・退職年金制度  長期勤続者優遇40.8%、一定勤続年数まで優遇41.5%とほぼ並ぶが、長期勤続優遇の傾  向に変わりはない。 ・「勤続年数とリンクさせない」10.1%「早期退職者を優遇したい」4.0%は、少数である。  表13「退職金制度の有無、勤続年数との関係及び今後の意向」を見る 戻る 調査結果からみた企業内福祉の課題 (労働省、調査研究報告書の記述から) 1.企業内福祉の役割の変化  企業内福祉には、従業員の確保対策、あるいは従業員の生活安定を支援してモラールアップを図 るといった雇用・労務管理上の意義が挙げられる。一方で、企業内福祉には、公的な社会保障を分 業・補完する役割がある。  こうした役割や存在意義は、経済社会の変化に伴って変化していく。人件費を含むコストコント ロールが厳格になるなかで、賃金を含む全体的な人事処遇システムにおいて企業内福祉をどのよう に位置付けるかが重要になっている。 2.制度の再構築 (1)法定福利費の上昇  企業内福祉の在り方に影響を及ぼしている最大の要因が法定福利費の上昇である。とりわけ、大 企業ほどこの問題を指摘する割合が高い。  法定福利費は、厚生年金の料率の上昇や医療費の伸びに伴う健康保険料率引き上げにより、今後 も引き続き上昇していくものとみられている。法定福利費の上昇は、福利厚生を含む総人件費管理 の見直しへ向けた動きにつながっていくと考えられる。 (2)社会環境変化への対応  今後の企業内福祉に影響を及ぼす社会環境の変化として、高齢化、若年労働力の不足が挙げられ る。  また、人口構造の変化とあわせて、従業員の意識の変化や従業員構成の変化への対応も企業内福 祉の課題である。 (3)制度の重点変更  企業が任意に導入する法定外企業内福祉のコスト・パフォーマンスが、改めて問われており、特 に大企業では、企業内福祉再構築のニーズが高い。  財源制約下で、従業員構成の変化、従業員ニーズの変化に対応して新たな分野への重点配分を行 うには、大胆なスクラップ・アンド・ビルドも必要になってきている。しかし、企業が今後充実し たいと考える施策と従業員の望む施策とが必ずしもー致しているとはいえず、制度再編に当たって は、労使間の調整が重要となってこよう。 3.制度運営の合理化 (1)制度運営上の課題認識  企業内福祉は、企業のほかにも複数の組織が施策の実施・運営に関係していることが多く、事務 負担の大きさや効率性の悪さが指摘されている。 (2)制度運営等の外注化  制度の企画や実施・運営を専門のサービス会社等に外注しているケースは、施設の管理・運営面 が多い。従業員の意識をみても、若い層を中心にして、現物給付よりも、選択の幅のある外部施設 の利用補助をより強く求める意識などがみられており、外部のサービスを有効に利用することは、 従業員の意識にも合致する。 4.勤労者意識の変化への対応 (1)福祉ニーズの多様化  勤労者意識の変化は、企業内福祉再構築を迫る大きな要因である。性、年齢、家族形態、就業形 態あるいは生活価値観等によって施策ニーズに違いがみられる。  企業が施策の重点を絞り込もうとしても、従業員のニーズの分散化傾向がみられ、結果としてコ ストアップにつながるという問題がある。 (2)カフェテリア化  大企業では、カフェテリァプランへの関心も高い。カフェテリァプランは、福祉メニューの拡大 に伴うコスト上昇を抑えつつ、多様化する従業員のニーズにこたえる施策を提供することを可能に する一つの方策ではある。  ただし、カフェテリァプランは、施策メニューに限界のある中小企業にはなじみにくく、住宅な ど施策によっては適正なポイント付与が難しい、選択化に伴いスケールメリットが失われるとの問 題点も指摘されている。さらに、運用の煩雑さやノウハウ不足が導入のネックと考える企業も多い。 戻る 5.規模間格差の問題 (1)規模間格差の現状  ほとんどの施策は企業規模が大きくなるほど導入率が高いが、事業展開の違いが施策の必要性の 違いをもたらしているものがあるために、必ずしも単純な規模間比較の結果のみで現状評価はでき ない。そこで、中小企業への企業内福祉制度導入を政策的に誘導・促進する際には、従業員ニーズ 、社会的要請が高い施策に優先順位をつけながら進めることが必要である。 (2)制度設計等の情報・ノウハウ不足  中小企業では、制度の再構築よりも水準を充実させたいとする意向が根強い。しかし、制度設計 や運営のノウハウ、情報が不足しているという問題があり、企業間で共有化されていないため、企 業の個別事情を踏まえた相談、情報提供ができる体制の整備も求められる。 (3)施策共同化  中小企業と大企業の企業内福祉制度の水準が異なる一つの要因として、利用者が少ないためにス ケールメリットを発揮できないという制度の効率性の問題がある。このため、企業グループ内、あ るいは企業グループを超えた企業内福祉施策の共同化に当たっては、会社間の調整の難しさや全体 をまとめるコーディネート機関かないことがネックと指摘されている。 6.就業形態の多様化への対応  従業員に占める非正規従業員の割合が増加傾向にあり、一企業内での就業形態は今後さらに多様 化していくと予想される。非正規従業員の企業内での位置付け等を踏まえつつ、従来、制度の適用 対象にならなかった非正規従業員への適用を検討することも必要となろう。 7.労働移動への対応  企業内福祉の中には、従業員の定着促進を目的に導入されている施策も多く、なかでも長期勤続 者に有利な制度設計になっているのが退職金である。しかしながら、大企業では、退職一時金の今 後の方向として退職金の勤続優遇を一定のところで抑えたいとの意向が強く、また、退職年金制度 についても、勤続奨励型の退職金制度を変更していく方向性がうかがえる。