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在宅ワークの現状と課題
労働時間総合情報コーナー「在宅就労」の中間報告を併せてご参照ください
は じ め に
パソコン等情報通信機器の普及やインターネット等情報通信環境の整備等に伴い、在宅ワークへの関心は大きな高まりを見せているが、このような働き方を選択する者が増える一方で、トラブルの発生も少なくない状況にある。
こうした状況を踏まえ、平成10年7月に「在宅就労問題研究会」(座長:諏訪康雄法政大学社会学部教授)が発足し、在宅ワークに係る実態の把握・分析と施策のあり方について検討を進め、昨年7月に中間報告をとりまとめ、現状と課題を踏まえ、今後の施策のあり方及び当面講ずべき具体的な措置について提言したところである。
その後引き続き、在宅ワークの契約に係る最低限のルールとしてのガイドラインの内容を中心に検討を進めてきたところであるが、今般その内容をとりまとめたので、それを含めた形で以下のとおり最終報告として提言を行うものである。
本報告が在宅ワークの健全な発展に資することを期待するものである。
(注) 昨年7月の中間報告においては「在宅就労」という言葉を用いたが、わかりにくいとの指摘もあり、本報告では既に広く一般に用いられている「在宅ワーク」という用語に改めた。
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T 検討の趣旨
近年における情報通信の高度化、パソコン等情報通信機器の普及により、自宅等においても相当高度な仕事を行うことが容易になりつつある。
このような中で、豊かでゆとりある生活に向けての個々人の就業ニーズの多様化や、企業における成果重視型の雇用管理の進展、アウトソーシング志向の高まり等を背景として、企業がその雇用する労働者を自宅、サテライトオフィス等において勤務させる形態や、個人が在宅で自営的に働く在宅ワークが増加してきている。
こうした在宅形態での新しい働き方については、仕事と家庭の両立をはじめとして、通勤負担の解消、ゆとりの創出、さらには障害者や高齢者の雇用機会の創出等の観点から、より柔軟かつ多様な働き方の実現のための有力な手段として、社会的な期待や関心も極めて大きなものとなっている。
また、国際的な動向をみても、欧米諸国を中心に情報通信機器を使っての在宅形態での働き方が増加しており、ILO総会においても1996年に在宅形態の労働に関する条約が採択されるなど関心が高まっている。
このような中で、本研究会においては、これら新しい在宅形態の働き方の特質等について整理するとともに、必要な対策についての検討を行うこととしたものである。
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U 在宅ワークの現状と課題
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1 在宅形態での働き方の種類
在宅形態での働き方については、次のとおり分類することができる。
┌雇用関係の下で行われるもの(在宅勤務) @
└雇用関係に基づかず、自営的に行われるもの A
├ 法定資格者(税理士、医師等)、自家製品の製造販売、一部のライター
│ 等独立的に行われるもの B
└ 請負的に物品の製造、役務の提供等を行うもの C
├
│ 物品の製造、加工等に係るもの D
└ サービス(役務)の提供に係るもの E
※ @とAとの区別については、在宅形態での働き方が新しい働き方であり、その実態が非常に多様であることから、分けることが容易でないものもあり、実態に基づき判断されるべきであるが、ここでは概念整理として2つに分類したものである。
Cについては、委託者への従属性の強弱等により、内職従事者など労働者に近い実態のものから、独立の企業としての性格を有するものまで、多様なものがある。
Dのうち、原材料の提供を受け、かつ、同居の親族以外の者を使用しないものは、家内労働法上の家内労働に該当する。
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2 研究会における検討の対象
イ これらの在宅形態での働き方のうち、上記の1の@の雇用関係の下に行われる在宅勤務については、労働者保護法規の適用がなされ、その下で使用者としての責任を想定できること等の点で、同Aの雇用関係に基づかず自営的に行われるものとは性格を大きく異にする面がある。また、同@については、テレワーク推進会議最終報告(平成8年11月)をはじめ、既存の調査研究、政策提言等も少なからず存在し、また通勤負担の軽減等の観点からの施策も推進されつつある。
これに対し、在宅形態で自営的に行われる働き方については、パソコン等情報通信機器の普及により近年急速に増加しているが、これまでその実態等が必ずしも十分に明らかにされておらず、また、施策の基本的方向についても十分な議論が行われているとは言い難い状況にある中で、一部には契約をめぐるトラブル等も発生している。
ロ そこで、本研究会においては、在宅形態で自営的に行われる働き方のうち、上記の近年急速に増加している働き方について、集中的に調査検討を行うこととした。具体的には、上記の1のCの「請負的に物品の製造、役務の提供等を行うもの」のうち、同Eの「サービス(役務)の提供に係るもの」、すなわち、文章等入力、プログラミング、システム設計、設計・製図、デザイン、DTP・電算写植等、ライター、翻訳などがこれに当たる(ただし、デザイン、ライター、翻訳等の一部については、同Bに該当するものも想定される。)。
以下では、これらを「在宅ワーク」と称するが、上記1の樹形図では下線のものが該当する。これらは、その多くがパソコン、ワープロ、電話、ファクシミリ等の情報通信機器を活用して行われる点でも共通性を有しているところである。
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3 在宅ワークの現状
日本労働研究機構の調査(注1.2)、本研究会におけるヒアリング調査の結果等によれば、在宅ワークの現状は次のようになっている。
(注1)『情報通信機器の活用による在宅就業実態調査』
・ 労働省の委託に基づいて日本労働研究機構が平成9年10月に実施。以下「JIL調査」という。なお、特に断らない限り、引用するデータ等は同調査によるものである。
・ 「在宅就業」の定義は、「パソコン、ワープロあるいはファックスなどの情報通信機器を使って自宅で請負・フリーの仕事を行うこと」とされている。
・ 調査の対象は、情報通信機器活用の在宅就業が普及しているとみられる業種に限定。具体的には、印刷・出版・同関連産業、広告・調査・情報サービス業、専門サービス業(土木建築サービス業、経営コンサルタントサービス業、機械設計業、デザイン業、翻訳業)、その他の事業サービス業(速記・筆耕・複写業、広告制作、労働者派遣業)。
・ 事業所調査は、予備的調査により在宅就業の実施が確認された677社を対象に実施(有効回答216社、有効回答率31.9%)。また、個人調査は、当該事業所が過去1年間に発注した在宅就業者2,278人を対象に実施(同270人、同11.9%)。
(注2)『在宅ワーカー実態調査』
・ 同機構が在宅ワーキングフォーラムの調査に参加、協力する形で平成9年1〜2月、同10年2月及び同11年2月に実施。以下「FWORK調査」という。
数値は、単純集計値である。なお、「FWORK調査」において比較をしているものは、平成9年1〜2月、同10年2月及び同11年2月の実施調査である。
・ 「在宅ワーク」の定義は、「自宅などをオフィスとして働くこと」とされている。
・ 平成9年1〜2月実施の対象は、対象期間内にFWORKにアクセスした在宅ワーキングフォーラムの会員約1万人(回答858人)。同10年2月実施の対象は、アクセスした同会員約2,500人(回答277人)。同11年2月実施の対象は、アクセスした同会員約4,500人(回答364人)。
(1) 職種等 在宅ワークには多種多様なものが存在するが、文章入力・テープ起こし(43.7%)、データ入力(25.2%)といった比較的単純・定型的なものに従事する在宅ワーカーが多い。また、その他の職種については、設計・製図(14.8%)、デザイン(11.5%)、DTP・電算写植(11.1%)、プログラミング (10.4%)、翻訳(9.3%)、システム設計(6.3%)などとなっている(複数回答)。 昭和63年実施の労働省の『在宅就業訪問調査』と比較すると、この10年間で、文章やデータの入力業務が中心である傾向に基本的な変化はないが、DTP・電算写植、プログラミング等の仕事が拡大している。 各職種の概要は次のとおりである。 @ 文章入力:手書き原稿等のワープロ入力等の作業 A テープ起こし:講演、座談会等の録音テープの内容のワープロ入力等の作業 B データ入力:各種調査票等の氏名、住所、調査内容等の各種データの入力作業 C 設計・製図:パソコン上で所要の支援ソフトを用いて行う設計、製図の作業 D デザイン:パソコン上で所要の支援ソフトを用いて行うデザインの作業 E DTP:デスクトップパブリッシング。パソコン等を用いて行う雑誌等の印刷原稿の組版(レイアウト、文字組み、図版・写真の取込み、色の指定等)の作業 F プログラミング:コンピュータのプログラム(情報処理手順の指令)をコンピュータ言語を用いて作成する作業 G 翻訳:出版物、業務文書等の他の言語への翻訳、その成果のワープロ入力等の作業 H システム設計:コンピュータのソフトウェアの設計・開発の作業 (2) 在宅ワーカーの数 在宅ワークを行っている者の数については、現在得られる統計資料により推計することは難しいところであるが、JIL調査をもとに日本労働研究機構テレワーク研究会が行った推計によれば、在宅ワーカーの数は、出版印刷、情報サービス、専門サービス等の業種に限っても、文章入力・テープ起こし、データ入力、設計・製図、デザイン、DTP・電算写植、プログラミング、翻訳、システム設計といった分野で、約17万4千人程度が想定される。 なお、これらの業種は在宅ワークが多く見込まれる業種としてJIL調査の対象とされたものであるが、事業所数からみれば全体の3%を占めるに過ぎず、これら以外の業種分野も含めれば在宅ワーカー数はさらに多くなるものと見込まれる。 203,500社 × 15.4% × 12.8人 ÷ 2.3社 ≒174,000人 ┌ ┐ ┌ ┐ │事業所・企業統│ (注) │1事業所平均│ (1人平均受託先) │計調査による調│ │の発注先在宅│ │査対象業種に係│ │就労者数 │ │る企業数 │ └ ┘ └ ┘ (注) JIL調査では、上記の調査対象業種において、実施率は30.8%(2,200社中677社で実施)となっているが、有効回答率が7.1%と低いことから、これを1/2に割引いた15.4%を想定。 (3) 在宅ワーカーの属性等 イ 性、年齢 在宅ワーカーのうち70.7%が女性で、男性は29.3%である。 女性は30〜44歳層が69.1%と多く、男性は30歳以上の年齢層に分散しているが、60歳以上が21.5%と高年齢者も少なくない(50歳以上層で31.6%)。 ロ 子の有無 在宅ワーカーの多くが育児期の女性であり、子供のいる女性、子供のいない女性、男性と分類した場合、子供のいる女性が全体の49.6%を占め、子供のいる女性のうち55.2%は、末子の年齢が6歳以下で、育児期である。 また、文章等入力・処理の職種類型に該当する者の78.3%は子供のいる女性である。 ハ 学歴 在宅ワーカーの学歴は比較的高く、大学卒以上が34.4%、高専・短大卒が15.2%、専門学校卒も11.9%である。 ニ 会社員等勤務の有無等 在宅ワーカーの97.0%は、在宅ワークの開始までに会社員等としての勤務を経験している。また、関連する仕事に従事する傾向があり、仕事内容を会社員等勤務時のものと比較すると、同一・ほぼ同じが31.5%、関連が深いが21.9%を占める。 ホ 在宅ワーク継続期間 在宅ワーカーの在宅ワーク継続期間は、全体として短い者が多く、1年未満が20.0%、1〜2年未満が10.7%、2〜3年未満が11.1%であり、5年未満計でみると59.6%となっている。特に末子の年齢6歳以下の子供有の女性では、1年未満が40.5%、2年未満計では56.7%を占めている。一方、末子の年齢7歳以上の子供有の女性、子供なしの女性、男性では、5年以上の割合も比較的高く、それぞれ60.0%、42.0%、43.1%となっている。 ヘ 居住地域 在宅ワーカーは、東京(23.7%)、南関東(19.3%)、甲信越(13.3%)など東京の隣接あるいは周辺地域に居住する割合が高いが、北海道・東北(16.7%)、東海・近畿(12.5%)と分散傾向も若干みられる。 (4) 発注企業の属性等 イ 業種、規模 発注事業所の業種は、印刷出版(28.2%)、情報サービス(26.9%)で過半数を占め、土木・建築・機械設計(15.7%)、広告・宣伝物製作(9.3%)、調査・経営コンサルタント(5.6%)などとなっている。 従業員規模の状況をみると、10人未満が32.8%、10〜29人が39.3%と小零細規模の事業所が中心となっており、一方、50人以上は16.2%に過ぎない。 ロ 発注事業所ごとの在宅ワーカー数 事業所単位で過去1年間に発注した在宅ワーカー数をみると、1人が23.1%、2人が19.0%、3〜4人が22.7%と、5人未満が3分の2近くを占める。 ただし、1事業所で30人以上の在宅ワーカーに発注したところもあり、1事業所当たりの発注した平均在宅ワーカー数は、12.8人とやや多くなっている。 ハ 発注開始年 近年発注を開始した事業所が多く、在宅ワーカーへ仕事の発注を開始した年をみると、調査時点から3年以内が31.0%を占め、また、調査時点から10年以内でみると66.2%となっている。 (5) 在宅ワーカーが在宅ワークを選択した理由 在宅ワークという働き方を選択した理由(複数回答)は、自分のペースで柔軟・弾力的に働ける(63.7%)、家族や家事のため(48.1%、特に子供のいる女性では79.9%)が多く、そのほか自分がやった分だけ報われ働き甲斐がある(35.9%)、仕事の依頼があった職場の人に勧められた(20.0%)などである。 (6) 在宅ワークを開始したきっかけ 最初の仕事の獲得ルートとしては、以前の勤め先(20.0%)、勤め先以外の知人(20.0%)、以前の勤め先の知人(10.0%)、以前の勤め先の取引企業(8.5%)等の、以前の勤め先関係や知人の紹介が多いが、求人広告への応募(19.3%)もみられる。パソコンネット情報は0.4%に過ぎない。 (7) 在宅ワーカーが働いている理由 在宅ワーカーが働いている理由(複数回答)は、能力、経験を活かす(53.3%、平成11年の「FWORK調査」では58.1%)、生活維持の収入を得る(40.7%、同48.9%)、家計の補助(37.0%、同35.3%)、社会とのつながり(27.0%、同34.2%)、副収入を得る(25.2%、同32.2%)のほかに、自分探し・自己実現(−、同30.3%)、経済自立の第一歩(−、29.7%)などとなっている。 (8) 企業が在宅ワーカーに発注する理由等 在宅ワーカーへの主な発注理由(複数回答)は、専門的業務への対応(39.8%)と繁忙期への対応(37.0%)が最も多く、次いで、人件費コストの削減(31.0%)、労働力の確保(27.3%)、退職労働者の活用(18.1%)となっている。 労働省『平成9年度産業労働事情調査(アウトソーシング等業務委託の実態と労働面への影響に関する調査)』においても、業務委託の顕著な効果(複数回答)としては、専門知識・技術・人材の不足の補充(45.1%)、人件費の削減(30.6%)、業務量の変動に対する弾力的な対応(23.5%)、雇用管理の負担の解消(19.4%)などが挙げられている。 また、平成3年の労働省の『情報サービス分野における在宅就業実態調査』でみても、在宅ワークへの企業のニーズとして、専門能力を有する人材の活用、業務の繁閑への対応、退職者の活用という基本的傾向は同様である。 (9) 在宅ワーカーの就労ルート イ 仕事の獲得ルート 在宅ワーカーによる仕事依頼の獲得ルート(複数回答)としては、在宅ワークの継続年数が短い在宅ワーカーは、以前の勤め先(継続3年未満では34.5%)や、勤め先以外の知人の紹介(同27.4%)が中心である。これに対して、継続年数が長い者では以前の勤め先は少なく、仕事仲間の紹介(継続7年以上では30.7%)、求人広告への応募(同29.3%)、自分で営業(同26.7%)が多くなっている。 ロ 仲介業者、在宅ワーカーの団体等による介在 仲介業者、在宅ワーカーの団体等が、多様な形態で在宅ワークに介在している。専門の仲介業者が、発注元から仕事を一括して請け負い、これを在宅ワーカーに再発注する中で、仕事の確保、在宅ワーカーの能力評価、成果のチェック等の広範な機能を担うことがある。 また、このような仲介業者の中には、在宅ワーカーをあらかじめ登録しておき、受注のつど在宅ワーカーに仕事を割り振る仕組みを取っているところもある。 ホームページを活用して仕事に係る情報提供を行う在宅ワーカーの団体の例もある。 (10) 発注者の募集ルート等 イ 募集ルート 発注者による募集ルート(複数回答)としては、社員の紹介(32.9%)、退職者の応募等(31.5%)、取引先の紹介(23.6%)、在宅ワーカーの紹介(16.7%)等の知人関係等が多い。他方、本人の売込み(24.1%)も多い。 ロ 選考基準 選考基準(複数回答)は、責任感・信頼性(69.0%)、職種経験(61.6%)、高い能力・熟練度(50.0%)の順に多い。 ハ 在宅ワークの問題 発注者は、在宅ワークの問題点として、仕事成果の個人差が大(44.9%)、必要時に必要量をやってもらえない(32.4%)、優秀な人材の確保が難しい(31.5%)等を指摘するものが多い。 (11) 在宅ワーカーにおける仕事の確保状況 仕事の確保状況について、継続的にあるは45.6%に止まり、途切れる時があるが41.5%、ない時の方が多いも11.1%と、仕事の確保に問題を抱えている者が半数を占める。 「FWORK調査」でも、困っている事項としては、「仕事の確保」が最も多く上げられている(49.7%→52.3%→50.9%)。また、同11年調査によると、「仕事の繁閑の差が極端」43.1%、その裏腹として困っている事項に「収入が安定しない」47.4%を挙げる者が多い。 (12) 仕事の発注者数 過去1年間に仕事を引き受けた発注者数をみると、1社のみが58.1%を占め、特に「文章等入力・処理」に限れば79.2%と発注先が特定される傾向にある。 一方、「調査・計算処理」、「設計・製図、デザイン」、「DTP・電算写植」、「ライター、翻訳」などでは複数の企業から受託する割合が高くなっているが、その場合でも主要な取引先への依存度は極めて高い状況となっている(それぞれ、仕事量の60%以上とするものが36.4%、54.3%、61.5%、33.3%。また、在宅ワーク全体では54.6%である)。 「FWORK調査」によると、3ヶ月以内に取引のあった社の数では、1社が39.8%→35.3%→29.3%、2社が20.6%→24.2%→27.6%と多少拡がる傾向がみられる。ただし、ワープロ・テープ起こしでは1社(55.4%)、2社(20.8%)が多い(平成9年)。 これらは、デザイン、設計等一部の裁量性の強い職種にあっては、@発注者側においては、発注先を多様化することにより、より多様なアイデアが得られるというメリットが生ずること、A発注が臨時的・単発的なものとして行われることが多いため、在宅ワーカー側においても受注先を多様化する必要性が高いこと、などによるものと思われる。 このように、在宅ワークには、発注者が1社というものも多いが、複数の場合でも主要な取引先への依存度が高い状況にある。 (13) 仕事の発注方式等 イ 発注方式 仕事の発注については、恒常・定期的(39.4%)よりも、登録型(27.3%)、仕事毎に選考契約(26.9%)といった非継続的な形態の方が多い。発注者や仲介業者が登録制をとる場合において、過去の実績等から、特定の者に発注が集中しがちである。 ロ 発注打ち切りの事前予告 仕事の発注形態が恒常的・定期的とする場合、発注打切りの事前予告をしているものは50.6%に止まり、事前予告をしていないものが30.6%を占める。 ハ 納期限等 年末、週末等に発注し、休日あけを納期限とするものや、納期までの期間の短い発注も少なくない。 発注者からみた主なトラブルの内容(複数回答)として、仕事の納期(67.5%)を挙げる者もある。 (14) 契約の方式 在宅ワーカーからみた契約の仕方(複数回答)としては、口頭(49.6%)や書面であっても伝票形式(29.6%)、メモ程度(15.6%)が中心で、契約書形式(24.4%)はさほど多くなく、発注する仕事に係る契約条件等の必要な情報が十分開示されていない。また、口頭による契約締結は、トラブルの要因となっている。 一方、発注者からみた契約の仕方において、初回の契約が口頭で行われている場合は39.4%であるが、そのうち同一の発注者との間で2回目以降も口頭で済まされるものが89.4%となっている。また、初回時が契約書形式の場合は29.2%であるが、そのうち2回目以降も契約書形式をとっているものは52.4%であり、2回目以降は伝票形式(22.2%)や口頭(12.7%)などによるケースも少なくない。 (15) 報酬の決定状況等 イ 報酬の額 報酬の額が入力作業のような単純・定型的な作業については、在宅ワーカーの増加に伴い、報酬の額は以前より低下の傾向にある。発注者のコスト管理意識が高い。また、在宅の主婦であることをもって低報酬を当然視する傾向もみられる。 「FWORK調査」では、困っている事項として単価が安いことを挙げる者が多い(36.2%→39.9%→36.3%)。 ロ 報酬設定者 報酬(複数回答)については、発注者が設定する場合が60.4%と多く、発注者が設定し、必要があれば交渉するが27.8%、在宅ワーカーが自分で提示し、発注者と交渉するが17.4%となっている。ただし、職種の差があり、発注者が設定するとするものは、例えば文章等入力・処理では83.0%だが、設計・製図・デザインでは28.6%である。 「FWORK調査」(平成11年、複数回答)でも発注者が決めるものが8割前後となっている。 ハ 報酬決定で重視する事項 発注者が報酬決定に当たり重視する事項(複数回答)としては、仕事の難易度(72.2%)、在宅ワーカーの実績・能力(64.4%)が半数以上で指摘されており、次いで、同業者の地域相場(43.5%)、納期の長短(15.3%)の順となっており、一般労働者の賃金を重視する者は少ない(パート・アルバイトの賃金を重視する者8.8%、正社員の賃金6.0%、派遣労働者の賃金4.2%と少ない)。 ニ 報酬支払い時期 報酬支払い時期は、1ヶ月に一度(63.4%)が中心であるが、納品の都度(1ヶ月以内)(19.0%)、納品の都度(1ヶ月超後)(11.1%)のケースもみられる。 ホ 在宅ワーカーの年収 在宅ワーカーの年収は、100万円未満が44.4%、100〜149万円が12.6%となっている。 「FWORK調査」(平成11年)によれば、100万円未満は47.8%である。 (16) 在宅ワークの実施状況 イ 就労時間 就労時間は、女性の76.9%が週35時間未満(末子が6歳以下の女性の場合に限れば93.2%)であり、男性では週35時間以上が62.1%、50時間以上も25.4%ある。 「FWORK調査」では、週40時間以上働く者が31.6%→26.2%→31.0%、60時間以上働く者も10.7%→6.5%→7.8%となり、なお、かなりの者が長時間働いている。 ロ 就労時間帯 就労時間帯では、夜の20〜24時に就労する者が33.7%おり、特に育児や家事が優先されるとみられる末子が6歳以下の女性では54.1%を占める。また、0〜4時に就労する者も11.9%いる。 ハ 就労時間に関する指示等 指示、指導、配慮を行っていない発注者が89.4%を占め、行っているものは10.6%と少ない。 ニ 作業環境 全体としては専用・独立的な部屋が59.3%であるが、文章等入力・処理においては、居間が50.0%、台所が8.5%を占める。 「FWORK調査」(平成9年)では、居間などで必要に応じ家事育児などこなしつつ行うが27.7%となっている。 (17) 能力開発に係る状況 在宅ワーカーの能力の維持向上に関心のある発注者は76.9%と多い。そのうち在宅ワーカーが自ら行う必要があると認識している発注者がほとんど(84.9%)であるが、会社が行う必要があるとする者も44.0%ある(複数回答)。 しかし、実際に研修・講習を行っている発注者は28.3%にとどまっている。 その実施時期は、採用登録時、新機種ソフトの導入時等である。 また、発注者や仲介業者が講習等を有償で行う例もある。 (18) 能力評価に係る状況 在宅ワークに係る能力評価の客観的な基準がなく、発注者の44.9%が、在宅ワークの問題点として、「仕事成果に個人差が大きい」を指摘しており、トライアルテストが行われる場合でも、会社によってレベルも内容も相違しており、評価についてもバラツキがある例がある。 (19) 健康管理に係る状況 イ 発注者による指導 在宅ワーカーの健康管理に係る発注者側の意識としては、在宅ワーカーが個人で対応する問題であるが66.7%、会社としても対応が必要と考えるがそこまで手が回らないとするものが19.9%となっている。 VDT作業(注1)についての指導に関し、必要を感じている発注者は27.3%に過ぎず、実際にも指導しているとするものは1.9%である一方、61.6%は個人で対応する問題とし、関心がないとするもの(8.3%)もみられる。 VDT作業指針(注2)に関しては、全く知らないが69.5%で、聞いたことはあるが内容は知らないとするものが18.6%である。 ロ VDT作業により感じている症状 在宅ワーカーが、VDT作業により感じている症状としては、眼精疲労(81.4%)、肩こり(70.8%)、腰痛(49.2%)の割合が高い。 「FWORK調査」では、困っている事項として、忙しすぎる、体力的にきついとする者が13.0%→19.6%→14.2%となっている。 ハ ストレス 自宅でのVDT作業により精神的ストレスを感じるかどうかについては、ない(30.1%)、たまにある(54.2%)、よくある(11.9%)と、多くの在宅ワーカーがストレスを自覚している。 (注1) VDT作業とは、JIL調査の説明によると、「パソコン等のブラウン管や液晶などの画面に向かって入力などを行うこと。」 (注2) VDT作業指針とは、労働省が昭和60年12月に策定した「VDT作業のための労働衛生上の指針」のことであり、同指針には、VDT作業における労働衛生管理等に関する事業場での自主的対策について示されている。 (20) トラブルの発生等の状況 イ トラブルの発生状況、内容 発注者では在宅ワーカーとのトラブルについて18.5%が「たまにある」としている。発注者からみた在宅ワーカーとのトラブルの内容(複数回答)としては、仕事の出来具合(70.0%)、仕事の納期(67.5%)、報酬の支払い(32.5%)、仕事の量・頻度(20.0%)がみられる。 一方、在宅ワーカーでは発注者との報酬支払い等に関するトラブルについて14.8%が「たまにある」(「よくある」を含めると15.2%)としている。 ロ 「インチキ在宅ワーク」 「インチキ在宅ワーク」ともいうべき悪質な事案が少なからず存在する。例えば、仕事を与えると称し、機器やソフトを購入させたり、有料での研修受講を求めながら、実際には仕事を与えない事案や、ネット上で、仕事をさせながら、あるいはデザイン等を提出させ、アイデアを使用しながら対価を支払わない事案がみられる。 |
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4 在宅ワークの今後の見通し
(1) 今後の継続希望
在宅ワークについては、在宅ワーカーの86.7%が今後とも在宅ワークの継続を希望し、また、在宅ワーカーに仕事の発注を行っている事業所の31.9%が今後の拡大を方針とし、発注を行っていない事業所でも47.3%が今後の導入の可能性を指摘するなど、関係者の期待も大きいものがある。
(2) 在宅ワーク希望者
「FWORK調査」(平成11年)によれば、現在在宅ワークを行っていない者のうち97.0%が、今後やってみたいと思っている。
在宅ワークの希望者が増加している背景としては、情報通信機器の低価格化・普及により誰でも簡単に在宅ワークを開始できると思われがちであること、在宅ワークに対する社会的関心の高まり等がある。
(3) 今後における拡大の見通し
今後における拡大の程度については、在宅ワークに影響を及ぼし得る次の諸点に係る動向等にも関わる面があり、なお明らかではないものの、相当増加する可能性も大きいといえる。
@ 企業におけるアウトソーシング(外注化)がどの程度進展するか。
A 在宅ワーカーを活用する業種がどの程度拡大するか(現状では、在宅ワークの普及している業種が、印刷出版、情報サービス業、専門サービス業等に比較的限定されている)。
B 在宅ワーカーへの発注形態がどの程度変化するか(現状では、発注は、継続的ではなく、必要な期間(繁忙期)だけ行われる傾向にある)。
C 今後の情報通信機器・技術の普及が仕事の外注にどのような影響を及ぼすか。
D 我が国企業における仕事の進め方がどの程度変化するか(現状では、個々人の権限や責任が明確化されず、時間的な拘束の度合が重視されがちで、外注に馴染みにくい)。
E 我が国において、雇用労働者になる方が、独立事業主となる場合に比し有利である面(労働関係法令の下での保護、労働・社会保険料負担等種々の面)がどの程度で変化するか。
(4) アウトソーシングの問題
労働省『平成9年度産業労働事情調査』において、全企業について業務委託の今後の方針をみると、積極的に利用していく(10.8%)と、現状程度とする(37.0%)で約半数を占めているが、「業務委託を行っていない、また、今後も行う予定がない」とする企業も46.8%を占めている。
今後業務委託を廃止する企業及び現在業務委託を行っていない、また今後も行う予定がない企業について業務委託を行わない理由(複数回答)をみると、自社内に十分な技術と人材の蓄積がある(63.8%)、委託費用がかかりすぎてコスト削減の期待がもてない(30.6%)、業務の標準化、マニュアル化が難しい(21.7%)、余剰人員の発生や再配置が懸念される(14.8%)、企業情報やノウハウの流出が心配である(14.7%)、信頼できる適切な受託企業が見つからない(9.1%)などが挙げられており、在宅ワークが拡大していく上での課題を示唆するものとなっている。
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5 在宅ワークへの期待
イ 近年における情報化の進展により、在宅ワークについては、多様な形態での展開が可能となっている。在宅ワークは、育児・介護期にある者を中心に仕事と家庭の両立が可能となる柔軟な就労形態の一つとして、また、障害者、高齢者等身体・健康上の理由で日々の通勤が困難な者に対する就業機会の拡充や、独立開業のための重要な手段として、さらには広い意味での就業機会の拡充や、働き方の選択肢の拡大といった見地からも、その発展についての期待が高まっている。
ロ また、在宅ワーカーにおいても、在宅ワークを選択する理由として、単に育児、介護等の家庭との両立だけでなく、専門性を活かしつつ自らのペースで柔軟・弾力的に働けることを魅力として挙げるものも多く、満足度も概ね高いものがある。
一方、企業にとって在宅ワークは、柔軟な企業経営を行っていく上で、専門的能力を有する労働力を確保し、戦力として活用することができるという側面があり、今後、在宅ワークは企業の中で重要な位置を占めていく可能性がある。
ハ このような在宅ワークの特性を活かせる場面としては、次のように整理できると考えられる。
@ 育児・介護期の者を中心とする、仕事と家庭の両立が必要な労働者における就労形態として
A 高齢労働者のニーズに応じた多様な就労形態の一つとして
B 重度障害者等に対する就業機会を提供する方途として
C 起業のための手段として
D 就業機会の創出のためのメニューの一つとして
E 柔軟な企業経営を行う上での専門的能力を有する労働力の確保のための手段として
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6 在宅ワークに係る問題点・課題
在宅ワークに係る問題点は、大別すると、在宅ワークを行っている者の契約条件をめぐるものと、在宅ワークを希望する者が良質な仕事を確保する上での障害となるものとに分けられる。
(1) 在宅ワーカーの契約条件をめぐる問題点
@ 契約条件の不明確さ
契約の締結時に、在宅ワーカーに対し、報酬額、その支払時期・方法、納期、作業が遅延した場合や作業成果に瑕疵ある場合の取扱いといった契約の基本的な内容が明示されていないことが多い。また、契約が口頭で行われる場合も多く見受けられる。これらにより、特に在宅ワーカーの側に予想しない不利益を生ずるおそれがある。
A 契約内容上の問題
例えば、在宅ワークに係る契約については、
a 以前の仕事が遅延したり、成果に瑕疵があったことを理由に仕事を無償で行わせる、
b 作業の遅延や瑕疵により損害が生じた場合に、在宅ワーカー側が当然に責任を負う旨の条項を設ける、
c 継続的な契約関係を一方的に打ち切る、
d 長時間就労なしには遵守が困難となるような無理な納期を設定する、
といった事案が見受けられる。
これらに関しては、在宅ワーカーの側に不当な条件を強いたり、不測の損害をもたらすおそれがあり、また、dについては在宅ワーカーの生活や健康を損なうおそれも生ずる問題があるといえる。
B 報酬決定手続上の問題等
在宅ワーカーの報酬決定については、必ずしも当事者の交渉によらず、発注者が決定することも多い。また、報酬の決定に当たりいかなる要素が考慮されるべきかについての社会的なコンセンサスも存在していない。これらは、発注者の側と在宅ワーカーの側との間で情報量の格差があり、後者の側において、報酬相場等に係る十分な情報を得ていないことにも因るものと考えられる。
また、入力作業等、裁量性の弱い在宅ワークについては、情報通信機器の普及、新規に開始する者の増加等により、報酬の水準が以前よりも低下傾向にある。
C 健康管理上の問題
在宅ワーカーの健康管理に関しては、とりわけVDT作業対策や腰痛の防止対策が重要である。これらについては、基本的に、在宅ワーカー自身の自己管理によるべきであるが、現実には、かなりの者が眼精疲労、肩こり、腰痛等を感じる状況となっている。
一方、発注者による取組も、VDT作業の適正な実施に関する指導がほとんど行われていないなど、極めて低調な状況にある。
また、在宅ワークにあっては、深夜にわたる就労など、就労時間帯が比較的不規則な者も少なくない。納期限が短い等の無理な発注が行われていることもその一因と考えられるが、発注者による就労時間に関する指示、指導、配慮はほとんど行われていない実情にある。
D プライバシー保護上の問題
在宅ワークにあっては、インターネット等を通じて、発注したい仕事や在宅ワーカーに係る情報の提供等も行われているが、在宅ワーカーの団体が行う場合において情報の掲載に係るルールを定めている例もあるものの、多くの場合そのようなルール化も行われておらず、在宅ワークに係る個人情報の不正使用やプライバシーの侵害等も懸念される。
(2) 在宅ワーク希望者が良質な仕事を確保する上での障害
@ 需給のミスマッチ
入力作業のような単純・定型的な職務に係る在宅ワークを開始する者が増加する一方、発注者の側では、専門性や高度な能力を有する人材を求める傾向が強く、現状では、仕事の仕上がり等の面での不満が大きい。
また、在宅ワークについては、自宅でパソコンを使って簡単に仕事ができるのではないか、という気持ちから開始する者や、報酬額の多寡とは関係なく、社会参加の一形態として開始する者の存在が、ミスマッチの大きな要因の一つとなっているものと考えられる。
A 仕事の安定的確保の困難さ
イ 需給調整システムが十分に整備されておらず、在宅ワークを行おうとする者、仕事を発注しようとする企業のいずれにおいても、知人関係等に頼らざるを得ない状況にある。
ロ また、在宅ワークの希望者が増加する中で、専門性を必要としない分野における仕事の安定的な確保が難しさを増している。また、発注者においては必要な都度在宅ワーカーを活用する傾向が強く、発注が平準化されないため、在宅ワーカーにおいては仕事が確保できても受注の繁閑の差が大きく、安定的な収入確保を難しくしている。
B 仲介的機能の未整理
仲介業者が一括して仕事を請け負い、これを個々の在宅ワーカーに再発注し、その進行管理と作業成果のチェック等を行う例が認められる。また、これが重層的に行われる場合も想定される。このような仲介業者の存在は、在宅ワークの仕事量の拡大とその円滑な実施確保の上で大きな役割を果たし得るものと言えるが、一方で責任主体が不明確となったり、中間搾取の問題につながるおそれもある。このような中で、仲介業者の果たすべき責任と役割についてどのように考えるべきか等についても整理する必要が強まっている。
現実には、仲介的なものとしては、
a 仲介業者が、その受注した仕事の一部又は全部を在宅ワーカーに再発注する形態
b 在宅ワークに係る仕事を求める者の情報又は在宅ワーカーを募集する情報をネット上で公開している形態
の2つが把握できるが、いずれにしろ仲介システムが未発達であり、純粋な仲介代理人は確認できていない。
C 能力開発機会の不足等
発注者側が在宅ワークの問題点として「仕事の成果に個人差が大きい」、「優秀な人材の確保が難しい」が高い割合で指摘されていること等から明らかなとおり、在宅ワーカーには高い専門性や能力が期待されている。
一方で、在宅ワーカーは、雇用労働者とは異なり、能力開発を受ける機会に乏しい状況にあるため、その保有する知識・技能を維持したり、より高度な職種へのステップアップを図る上での難しさがある。また、新たに在宅ワーカーとなろうとする者に対し、発注者等が募集する研修や講習も行われている。その多くは有償で行われているが、中には悪質な事案も存在する。
D 能力評価システムの未整備
在宅ワーカーの能力評価については、一部において既存の能力評価システムの活用等の動きもあるものの、能力評価に係る広範かつ客観的な基準は存しない状況にある。このことは、在宅ワーカーにとってみれば、在宅ワーク市場において、自らの売込みのポイントを対外的に明らかにしにくい、また、報酬の水準について判断しづらい、ということにつながる。
また、発注者等の側においても、在宅ワーカーの能力が把握できないことにより、必要な人材の安定的な確保が難しく、実際にも作業成果にばらつきが生ずるといった不利益をもたらしている。
これらは、在宅ワーク市場が健全に発展していく上での大きな障害となりかねないものといえる。
(3) その他−各種トラブルの発生
仕事の仕上がり、仕事の納期、報酬の支払い等に関するトラブルがみられるが、行政機関による在宅ワークに係る相談、指導体制も整備されておらず、比較的弱い立場にある在宅ワーカーが不利な状況に陥り易い状況にある。また、在宅ワーカー、発注者等の団体による自主的な解決も図られているとは言い難い状況にあると言える。
一方、家庭の主婦等に対し、仕事をあっせんする等と称し、高額な機器やソフトを購入させたり、有料で研修を受講させながら、実際には何ら仕事を与えないといった悪質な事案も少なからず見受けられる。これは、就労意欲は高いものの、在宅ワークに関する十分な知識・情報を有しない者が、在宅ワークを開始するための能力を修得しようとして被害にあっているものとみることができる。これら悪質業者の存在は、在宅ワークの発展の上での大きな障害といえる。
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V 今後の施策のあり方
在宅ワークについては、今後における新たな働き方の選択肢として大きな期待が集まる一方、従来の施策の枠組みに収まりにくい、さまざまな問題点・課題も存在している。
現状では、在宅ワーカーの契約条件をめぐって、主に、発注者等との関係で経済的に弱い立場にある在宅ワーカー側に一方的に不利益を生じさせるおそれがあるとともに、在宅ワーク希望者において良質な仕事を安定的に確保することのみならず発注者の側においても適切な受託者を確保することが難しい状況にある。
このような状況の下で、在宅ワークという働き方が、個々人による自由かつ適切な選択の結果として可能となるよう健全に発展していくためには、関係当事者による在宅ワークの適正な実施を確保するとともに、在宅ワーク市場が魅力ある市場となるよう環境整備を図っていくことが必要であり、そのための所要の施策を講ずることが必要な時期にきていると考えられる。
その際、在宅ワーカーやその希望者の中には、育児、介護等を行う者など家庭、健康等の事情により在宅ワークを必要とする人々が存在するが、施策の推進に当たっては、在宅ワーカーそれぞれの事情等に応じたきめ細かな配慮が必要である。
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1 在宅ワークの適正な実施確保に係る支援
(1) 契約条件の明確化
契約条件の明確化は在宅ワークの適正な実施のための基盤をなすものであり、在宅ワークの健全な発展を図る上で重要であるが、実際には、契約を口頭で行い、あるいはメモの手交程度で済ませる例が多く、これが在宅ワーカーの立場を不安定なものとし、またトラブルの要因ともなっているのは、既に見てきたとおりである。
このため、契約締結時にまず文書等により契約条件が明確化されるよう発注者、仲介業者等に働きかけるとともに、在宅ワーカーにもその必要性の認識を促すことが必要である。
(2) 契約条件の適正化
在宅ワーカーは、概して、経済的に弱い立場にあり、また十分な情報を保有しないために、発注者等に対する十分な交渉力を有しないことが多く、在宅ワークに係る契約条件が一方的ないし不適切な内容となるおそれがある。
このため、契約に係る最低限のルール(例えば、報酬の支払い、納期、継続的な発注の打切りの場合における事前予告等に関するもの)について、当事者に対してガイドラインの形で一定の基準を示し、当事者がそれに沿って契約を行うことで自主的に適正化が図られるよう必要な措置を講ずる必要がある。
(3) 報酬決定の適正化
家内労働に係る最低工賃制度のように、報酬決定そのものに公的に介入することも考えられるが、在宅ワークの仕事の内容がきわめて多様であることにかんがみれば、現時点においては、報酬決定の際に考慮すべき事項について示すとともに、情報の提供を通じ、当事者による合理的かつ適正な報酬額の決定を支援することが適当であろう。
このため、発注者の側との情報量の格差を補うことが必要であり、在宅ワーカーに対し様々な情報、とりわけ、報酬相場等に係る情報提供を行うことが必要である。
なお、今後の動向を見ながら、報酬に係る最低限必要な水準を明らかにすることについても引き続き検討する必要があろう。
(4) 在宅ワーカーの健康管理
在宅ワークに係る主要な健康管理対策としては、長時間にわたる作業の回避、VDT作業への配慮等がある。
これらについては、まず在宅ワーカーによる自己管理が重要であり、そのための意識の喚起を図ることが重要である。このため、VDT作業の適正な実施、在宅ワーカーの腰痛の防止等、在宅ワーカーの健康障害の予防を図るための情報提供を行うことが適当である。
一方、発注者側に対しても、在宅ワーカーの健康に配慮した適切な発注に努めるよう意識を喚起していくことが必要である。このためには、長時間労働あるいは深夜にわたる労働が不可避となるような無理な発注を行わないよう、発注者、仲介業者に配慮を促していくことが必要である。
(5) プライバシーの保護
在宅ワークの適正な実施を確保する観点から、インターネット等を通じて提供される在宅ワーカーの個人情報について、その不正使用を防止し、プライバシーの保護を確保することが必要である。
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2 在宅ワーカー等に対する支援
(1) 在宅ワーク希望者への対応
今後、在宅ワークを希望する者がかなり増加する可能性が大きいが、在宅ワーク市場を魅力ある市場とするためには、これらの者がスムーズに在宅ワークを始めることができる環境を整備することが不可欠である。
このため、就労に必要な技能レベル、需給の動向、報酬相場等の情報を的確に提供するとともに、様々な不安・不満についての相談にきめ細かに応じていくことが強く求められており、在宅ワーク希望者に対する情報提供や相談を行うことが必要である。
また、スムーズに在宅ワークを始めるためには、在宅ワークに関する一定の基礎的知識や技能を身につけることが必要であるが、現在、民間で一部実施が見られる在宅ワーク希望者に対する一定の講習会については、必ずしも量的、内容的に十分とは言い難いものがある。
このため、在宅ワーク希望者に対する基礎的な知識や技能の付与のための講習の実施について、何らかの公的な支援を行う必要がある。
(2) 円滑な需給調整の確保
在宅ワークにおける仕事の内容・レベルには多様なものがある中で、発注される仕事と在宅ワーカーの技能レベルとの間のミスマッチが大きく、それが在宅ワーカーにとっても、発注者にとっても大きな問題になっている現状にかんがみると、円滑な需給調整を図るためのシステムを早急に整備することが必要であると考えられる。
このため、例えば、在宅ワーク希望者の能力評価を行い、企業等に対し、これらの者の保有する技能レベル、さらには希望する職種や報酬額等に係る情報の提供等を行う何らかのシステムを構築することが急務である。
このようなシステムの中で、在宅ワーカーに対し、企業の側がどのような内容の仕事を発注しようとしているのかについての情報を提供することも考えられよう。
(3) 仲介的機能の整理
在宅ワークの円滑かつ適正な実施を確保する上で、仲介的機能の整理を図ることは重要と考えられる。しかしながら、上記Uの6(2)Bにより指摘したとおり、仲介機能は未整理という状況であり、今後、在宅ワーク市場の健全な発展のため、仲介システムが有効に機能していくためには、引き続き、実態把握に努め、どのような支援策等が必要か検討を進めることが必要である。
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3 能力開発・能力評価に係る支援
(1) 能力開発の促進
在宅ワーカーに高い専門性や能力が期待される中で、在宅ワーカーへの能力開発は、適切な仕事の選択や、より専門的ないし高度な仕事へのステップアップを通じた安定的な就労の確保等を実現する上で重要である。また、在宅ワーカーの能力の向上が促進されることは、在宅ワーク分野全体の健全な発展にも資するものとなる。
このため、在宅ワーカーに対するステップアップのための能力開発について、何らかの公的な支援を行う必要がある。
(2) 能力評価の促進等
上記Uの6(2)CDで述べたとおり、在宅ワークの分野においては、在宅ワーカーの能力の評価を客観的に行うことが、在宅ワーク分野の健全な発展のために不可欠である。
このため、それぞれの職種ごとに、必要とされる知識・技能レベル等の内容の明確化を図ること、個々の在宅ワーカーの能力評価を客観的な基準を用いて行うこと、及びその能力評価を行った者に対する就労支援のあり方について検討されるべきである。それにより、在宅ワーカーによる円滑な仕事の確保、生活の向上、さらには発注者や仲介業者による安定的な事業運営にも資することとなる。
この能力評価についても、公的な支援について検討する必要がある。
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4 在宅ワーカー等に対する相談、指導の実施等
(1) 在宅ワーカー等に対する相談体制の整備
在宅ワークにあっては、報酬の支払い、仕事の成果等に関するトラブルが見受けられるが、これらトラブルが発生した場合において、より弱い立場にある在宅ワーカーが一方的に不利な状況に陥るおそれがある。もとより、このような事態は、程度の差はあれ、経済活動に付随して生ずるものではあるが、当事者による対等の立場での円滑な解決が可能となるよう、在宅ワーカー、発注者等に対し、専門的な知識を有する者による各種相談指導を実施することは、在宅ワーカーの保護と在宅ワークの健全な発展に資するものと考えられる。
(2) その他
いわゆる「インチキ在宅ワーク」事案については、簡単に家庭で収入を得られる等の甘言を弄し高額な機器等を購入させ、有料の研修を受講させるといった手口が多い点で、基本的にその構造はインチキ内職に類似するものである。
また、多くの場合、就労契約自体を解消ないし修正しても解決にはつながらず、むしろ詐欺的な手段で締結された物品の購入等の消費契約関係の解消や修正が被害者の主たる関心となる点においても、これらと同様である。
このような消費契約関係をめぐる問題については基本的には消費者行政において所要の対応が図られることが期待されるが、労働関係施策においても、在宅ワーク希望者等に対する広報啓発等に努めるとともに、消費者保護行政との連携を図ることが望まれる。
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5 その他
在宅ワーカーの就労環境の整備に関しては、その他次のような意見がある。
@ 必要経費に関する所得税法上の取扱いの拡大
家内労働者等(注)の場合には、所得税の取扱いにおいて、必要経費に算入する金額を最低でも65万円とすることが認められている。この特例を在宅ワーカーにも一律に認めてほしいとの要望がある。
(注)家内労働者等とは、家内労働法第2条第2項に規定する家内労働者又は外交員、集金人、電力量計の検針人のほか、特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする者をいう。なお、在宅ワーカーも「特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする者」に該当する場合がある。
A 在宅ワーカーの子に係る保育所入所の機会
就学前の子を持つ在宅ワーカーから、保育所の需要の高い都市部においては、雇用労働者や自営業者の場合に比べ保育所に入所しにくいという声がある。在宅ワーカーの中でも保育を必要とする人については、可能な限り就労の実態、家庭における保育の実態に応じて対応してほしいとの要望がある。
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W 当面講ずべき具体的な措置
既に見てきたとおり在宅ワークについては、就労者の増加が見込まれ、そのため今後の施策のあり方として、@在宅ワークの適正な実施確保に係る支援、A在宅ワーカー等に対する支援、B能力開発・能力評価に係る支援、C在宅ワーカー等に対する相談、指導の実施等、としたところであるが、当面、具体的には以下の措置を講ずべきである。
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1 ガイドラインの策定、周知・啓発
関係者による在宅ワークの適正な実施を確保するためには、在宅ワークの契約条件の文書明示や契約条件の適正化等に係るルールを確立して、発注者及び仲介業者、さらには在宅ワーカーが、それに沿った契約を行うよう誘導していくことが必要である。
また、その手法としては、在宅ワークが新たな働き方の選択肢として社会的な期待や関心を集めているものの、なお、成熟途上の働き方であることにかんがみれば、法令等による規制などのような強制的な手段よりも、むしろ緩やかな形での誘導策を講ずることが適当である。
当面、行政としては、以下のとおり最低限確保されるべき事項を盛り込んだガイドラインを策定、周知・啓発して、関係当事者による自主的な遵守を促すことが適切であると考えられる。
(1) ガイドラインを必要とする在宅ワーク
ガイドラインは、在宅ワークに係る契約条件が、主に発注者との関係で経済的に弱い立場にある在宅ワーカー側に一方的に不利になることを防ぎ、関係者による在宅ワークの適正な実施を確保するために必要となるものである。
この場合、特にガイドラインの必要性が高いのは、事業者性が弱く従属性の強い在宅ワークであると考えられ、具体的には、主としてその報酬が単価により決められている在宅ワーク、すなわち、文章入力、テープ起こし、データ入力、ホームページ作成などの作業を行うものがこれに該当する場合が多いが、法人形態により行っている場合や他人を使用しているような場合は除くことが適当である。
(2) 在宅ワークに係る受発注の形態
在宅ワークに係る受発注の形態は、以下に大別できる。
@ 発注者が、直接在宅ワーカーに仕事を注文する形態
A 発注者から注文を受けた仲介業者が、その受注した仕事の全部を在宅ワーカーに発注するという重層的な形態
現実には、個人の在宅ワーカーが、受注した仕事の一部を自ら行い、他を別の在宅ワーカーに発注する例も多いが、このように仕事の一部を自ら行い、他を再発注する場合、@とAの形態が併存するものと分類できる。
(3) ガイドラインの適用範囲
ガイドラインは、基本的には上記(2)の@及びAの発注者又は仲介業者が、在宅ワーカーとの間で直接締結される契約について適用するものとする。
(4) ガイドラインの内容
第1 趣旨
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(5) ガイドラインの周知・啓発方法等
ガイドラインは、最低限確保されるべき事項について関係当事者による自主的な遵守を促すものであることから、発注者や仲介業者にその周知を徹底し、啓発を図ることが重要である。
特に、上記(2)のAのような発注形態における在宅ワーカーと直接契約しない発注者については、本ガイドラインは適用されないが、発注者と仲介業者との間の契約の内容が、ひいては仲介業者と在宅ワーカーとの間の契約の内容に影響を及ぼす場合が多いものであることから、そのような発注者に対してもこのガイドラインの内容を踏まえた適正な内容の契約を締結していくよう周知を図ることが重要である。
周知・啓発の手法としては、ガイドラインの内容をわかりやすく説明したホームページやパンフレット等を活用するほか、ガイドラインに盛り込まれている文書明示をすべき契約条件についてその項目を契約文書の形で示したモデル契約様式をガイドラインと併せて周知・啓発を図るという手法が効果的である。
また、これらは、在宅ワーカー及びその希望者が在宅ワークをするに当たって認識すべき事項としても重要であるので、在宅ワーカー等に対しても周知を図ることが必要である。
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2 在宅ワークの健全な発展のための具体的支援策
在宅ワークは、育児・介護期にある者を中心に仕事と家庭の両立が可能となる柔軟な就労形態の一つとして期待されているものの、家庭において育児、介護等を行う者は、一般的に情報源が限られているため在宅ワークに係る適正な情報を入手することが難しい状況にあり、スムーズな在宅ワークの開始が困難となっていると考えられる。
このため、育児、介護などの家庭等の事情により在宅ワークを必要とする者については、特に公的支援が必要であると考えられることから、当面は、そのような者を中心として上記Vで述べた施策の基本的方向に沿って、次のとおり早急に具体的な施策を講ずることが必要であると考えられる。
なお、これらの施策の実施に当たっては、柔軟に対応できるよう民間団体を適切に活用していくことも視野に入れることが必要である。
(1) 在宅ワーカー等に対する各種情報提供
在宅ワーカー等と発注者との間の情報量の格差を解消するという観点から、就労に必要な技能レベル、需給の動向、報酬相場等に係る最新の情報を提供することが必要である。
また、在宅ワーカー等の仕事の円滑、適正な実施を図るという観点から、次のような事項についても情報提供を行うことも必要である。
@ 在宅ワークを始めるに当たっての心構え、ノウハウ、具体的な仕事の進め方
A ガイドライン、モデル契約様式
B トラブル発生時の解決処理策(民事訴訟制度等)
C 健康確保のための措置(健康診断、VDT作業の適正な実施方法、腰痛の防止 策等)
D 能力向上の方法、能力評価制度、能力評価制度を活用した自己の能力の的確なPRのノウハウ
E 雇用労働者としての再就職等の将来設計
F 育児・介護との両立方法
G 税金、社会保険
これらの事項については、在宅ワーカーの知識、理解を深めるために不可欠であることから、可能な範囲で早急に取りまとめ、ホームページへの掲載やハンドブックのような形での配付が行われることが求められる。
なお、発注者や仲介業者に対しても、このような在宅ワーク分野の需給の動向、報酬相場、健康確保のための措置、能力評価制度などの情報を適宜提供していくことが、在宅ワークの円滑かつ適正な実施を確保していく上で重要である。
(2) 在宅ワーカー等に対する相談体制の整備
適正な契約締結の方法、契約時やトラブル発生時の法律的取扱い、在宅ワークをめぐる関係法令などをはじめとして、在宅ワーカー等が抱える各種の相談に対応するため、在宅ワーカーが多い地域を中心に、専門的な知識を有するアドバイザーによる相談指導等を実施する体制を整備することが考えられる。
その際、在宅ワーカーは、育児、介護等により時間、行動等が制約される場合が多いことを考えれば、いわゆるワンストップ・サービスとして1カ所で総合的相談に応じられる体制を整えることが必要であり、また、Eメール等を活用しての相談体制の整備も有効であろう。
(3) 能力開発・能力評価に係る支援
@ 在宅ワーク希望者に対する基礎的セミナーの実施
在宅ワーク希望者を対象に、在宅ワークを始めるに当たっての心構え、ノウハウ、在宅ワークの現状、契約締結に当たっての基礎知識、初歩的な技能等を付与するセミナーを実施することが必要である。
A 能力向上への支援のあり方、在宅ワークに係る能力評価制度の整備等
在宅ワーカーの能力の維持向上については、何らかの支援が必要であることは上記Vの3に述べたとおりである。また、一定の能力開発を行った在宅ワーカーに対する就労支援については、そのような者の能力評価を行い、その保有する技能レベル、希望する職種、報酬額等に係る情報を企業等に対して提供することや、企業の側がどのような内容の仕事を発注しようとしているかについての情報を在宅ワーカーに提供することなど、様々な形の支援を行っていくことが考えられる。
そのため、在宅ワークの職務内容、在宅ワーカーの要望等をさらに十分把握・分析した上で、能力向上への支援のあり方や能力評価制度、能力開発を行った者に対する就労支援のあり方などについて早急に検討を行い、実施に移していくことが必要である。
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X 家内労働法との関係
最後に、在宅ワークに係る今後の施策のあり方の検討に関連し、在宅ワークと家内労働法上の家内労働との関係についても、整理を試みることとする。
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1 家内労働と在宅ワークとの比較
イ 仕事の性格
一般に、家内労働と在宅ワークとは、仕事を発注する者との間の請負契約に基づいて自営的な形態で行われ、雇用労働者としての保護が及ばない点で共通する。
ロ 仕事の内容
家内労働は物品の製造等に係るものであるのに対し、在宅ワークが役務の提供等に係るものである点で、仕事の内容が異なる。
ハ 従属性の程度
家内労働にあっては、発注者と家内労働者の間の従属性に着目して、家内労働法が制定されている。
これに対し、在宅ワークにあっては、
@ 仕事の内容(例えば、自らの裁量性や専門性に基づく仕事であるか、発注者から提供された情報の加工処理等の裁量性の弱い仕事であるか)、
A 受注先企業との関係(例えば、独立自営的な経営であるか、一定範囲の企業に依存する関係にあるか)、
が様々であり、これらにより従属性の程度が相当異なると考えられる。
ニ ステップアップの可能性
家内労働にあっては、定型的な作業を繰り返し行うものが多い。これに対し、在宅ワークにあっては、比較的単純な仕事から高度な能力を有するものまで様々なものがあり、このため、自らの能力開発等に向けた努力を通じ、より専門的ないしより高度な仕事へのステップアップを図ることで、収入の増大や職業生活の向上につながる可能性がより大きい。
ホ 地域性
家内労働にあっては、地場産業の下支え的なものが多く、製造加工する物品の運搬コストという制約からこれら産業の所在する地域に集中する場合が多い。これに対し、在宅ワークにあっては、情報通信技術を活用するものが多く、このような地域性はみられない。
へ 仕事の仲介
a 家内労働にあっては、かつて、仲介人が、製造業者・問屋と家内労働者の中間にあって、原材料、製品の運搬から工賃の決定、仕事の割当てを行ったり、さらに仕事を問屋などから一括請け負って自らの危険負担において自らの名で家内労働者に委託をし大規模に業務を行うなど、種々の形において存在していたところであるが、家内労働法により、次のように整理されるに至った。
@ 自己の計算に基づいて製造業者、販売業者から仕事の完成を請け負い、自己の名において家内労働者に委託をするいわゆる総請けまたは請負的仲介人(ブローカー)は、「委託者」とする。
A 原材料、製品の運搬を行ったり、委託者に代わって、仕事の割り振り、工賃の支給などを行ういわゆる代理的仲介人は、委託者の「代理人その他の従業者」とする。
b これに対し、在宅ワークにあっては、ボランティア的に仲介が行われることもある一方、仲介業者が発注元から仕事を一括して請け負い、登録している在宅ワーカーに再発注する例もあるなど、仕事の仲介の形態が多様である。また、発注量に比して在宅ワーク希望者が多く、希望者が仕事を十分には確保できないという現状があり、仲介業者による需要の掘り起こしが期待される点も在宅ワークの特徴といえる。
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2 在宅ワーク分野への応用可能性
以上述べたとおり、家内労働と在宅ワークとの間にはいくつかの相違点も存するところであるが、一方で、在宅ワークにおいては、無理な発注、契約の一方的打切り、報酬の不払い等、家内労働法制定当時の家内労働に多くみられたと同様の問題点が発生している。そこで、在宅ワークに係るこれら問題点に関し、家内労働法上の、あるいは別途の法的な措置が必要かどうかについても検討しておくことが適切であろう。
イ まず、在宅ワークのうち企業的な性格を有するものについては、家内労働法におけるような従属的な関係を前提とする保護等を行う余地に乏しいものといえる。
ロ 一方、それ以外の在宅ワークについては、何らかの保護等の措置を講ずる必要性が想定され、家内労働法的な手法が当てはまるかどうかについて、個別の施策ごとに検討する必要があろう。しかしながら、前述のとおり在宅ワークがなお成熟途上にある働き方であることにかんがみれば、当面は上記のWの措置によることとし、何らかの法的な措置により保護等を行う必要性については、今後における在宅ワークの質量両面での推移を注視しつつ、今後の検討に待つことが適当である。
ハ なお、家内労働法の制定に際しては、労働基準法適用事業との間での公正な競争条件の確保等の観点も念頭に置かれていたとみられる。在宅ワークについても、安価な労働力としての利用、さらには労働者保護法規等の適用のない点に着目した利用等につながる可能性は必ずしも否定できず、この点についても現時点においてはそのような状況は見受けられないものの、今後の推移を注視する必要があると考えられる。
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Y 家内労働法以外の法律の適用関係
家内労働法以外の法律の適用関係であるが、本研究会において対象とする上記Uの1のEである、「請負的に物品の製造、役務の提供等を行うもの」のうち「サービス(役務)の提供に係るもの」については、取引関係の下に行われる在宅ワークに当たるため、独占禁止法上の不公正な取引の禁止に係る規制の対象となり、違反行為は、排除措置の対象となる(ただし、不公正な取引に対する罰則はない)。
〔参考〕
・ 上記Uの1のEについては、独占禁止法上の不公正な取引の一つである優越的地位の濫用について、「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」が平成10年3月に制定されている。
・ 同Dである、「請負的に物品の製造、役務の提供等を行うもの」のうち「物品の製造、加工等に係るもの」についても、取引関係の下に行われる在宅ワークに当たるため、独占禁止法上の不公正な取引の禁止に係る規制の対象となる。
・ また、同Dは基本的には下請代金支払遅延等防止法や下請中小企業振興法の適用もある。ただし、下請代金支払遅延等防止法にあっては親事業者が一定の資本規模以上であることを要し、また、下請中小企業振興法にあっては継続的な委託関係にあることを要する。これらの法律の適用がある場合には、勧告や、振興基準に基づく指導・助言等の措置の対象となる(ただし、下請代金支払遅延等防止法にあっては、委託に係る書面の交付の違反について罰則がある)。
・ なお、同Dのうち、原材料の提供を受け、同居の親族以外の者を使用しないものは、「家内労働」として家内労働法上の対象となる。同法違反の一部については罰則の適用がある。