(旧)過労死認定基準
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脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について
mokuji

第1 認定基準
 1 取り扱う疾病
 2 認定要件
 3 認定要件の運用基準

第2 認定に当たっての留意事項
 1 認定の基本的考え方について
 2 認定要件について
 3 その他

参考
■過労死の新認定基準で取り扱われる疾病の範囲は(解説)


注意(本認定基準は、H13.12.12付け基発第1063号通達により廃止されました。したがって参考掲載です。)

脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について
(平成7年2月1日基発第38号通達)

平成8年改正版
★色文字は、平成8年1月22日付け基発第30号通達によって改正された部分である。


 標記については、昭和62年10月26日付け基発第620号通達(以下「620号通達」という。)により示してきたところであるが、その後の医学的知見等を踏まえ、「脳・心臓疾患等に係る労災補償の検討プロジェクト委員会」において検討が行われた。今般、その検討結果に基づき620号通達のうち、業務に起因することの明らかなものに係る認定基準を新たに下記のとおり定めたので、今後の取扱いに遺漏のないよう万全に期されたい。
 なお、本通達の施行に伴い、620号通達のうち、業務に起因することの明らかなもののみに係る部分は廃止する。


第1 認定基準


1 取り扱う疾病

 本認定基準は、中枢神経及び循環器系疾患のうち、次に掲げる疾患について定めたものである。

(1) 脳血管疾患

 イ 脳出血
 ロ くも膜下出血
 ハ 脳梗塞
 ニ 高血圧性脳症
 
 「脳血管疾患」とは、広義には脳血管の疾患すべてを意味するが、本認定基準では、そのうち、脳血管発作により何らかの脳障害を起こしたものをいう。従来、脳卒中と呼ばれていた疾患がこれに該当する。


(2) 虚血性心疾患等

 イ 一次性心停止
 ロ 狭心症
 ハ 心筋梗塞症
 ニ 解離性大動脈瘤
 ホ 不整脈による突然死等

 「虚血性心疾患等」とは、冠循環不全により、心機能異常又は心筋の変性壊死を生じる虚血生心疾患(イからハに掲げる疾患)並びに解離性大動脈瘤及び不整脈による突然死等をいう。




2 認定要件

 次の(1)及び(2)のいずれの要件をも満たす脳血管疾患及び虚血性心疾患等は、労働基準法施行規則別表第1の2(以下「別表」という。)第9号に該当する疾患として取り扱うこと。

(1) 次に掲げるイ又はロの業務による明らかな過重負荷を発症前に受けたことが認められること。

 イ 発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(業務に関連する出来事に限る。)に遭遇したこと。
 ロ 日常業務に比較して、特に過重な業務に就労したこと。


(2) 過重負荷を受けてから症状の出現までの時間的経過が、医学上妥当なものであること。

 なお、本認定基準においては、現在の医学的知見に照らし、業務上の諸種の要因によって発症したか否かの判断基準として、妥当と認められるものを認定要件としたものである。





3 認定要件の運用基準


(1) 「過重負荷」とは、脳血管疾患及び虚血性心疾患等(以下「脳・心臓疾患」という。)の発症の基礎となる動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤、心筋変性等の基礎的病態(以下「血管病変等」という。)をその自然経過を超えて急激に著しく増悪させ得ることが医学経験則上認められる負荷をいうものであり、業務による明らかな過重負荷として認められるものとして「異常な出来事に遭遇したこと」及び「日常業務に比較して、特に過重な業務に就労したこと」を掲げ、これを認定要件としたものである。
 なお、ここでの自然経過とは、加齢、一般生活等において生体が受ける通常の要因による血管病変等の経過をいう。



(2) 「異常な出来事」とは、具体的には次に掲げる出来事である。

 イ 極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態

 ロ 緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態

 ハ 急激で著しい作業環境の変化



(3) 「日常業務に比較して、特に過重な業務」については、次のとおりである。

 イ 「日常業務」とは、通常の所定労働時間内の所定業務内容をいうものである。

 ロ 「特に過重な業務」とは、日常業務に比較して特に過重な精神的、身体的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいう。
   客観的とは、当該労働者のみならず、同僚労働者又は同種労働者(以下「同僚等」という。)にとっても、特に過重な精神的、身体的負荷と判断されることをいうものであり、この場合の同僚等とは、当該労働者と同程度の年齢、経験等を有し、日常業務を支障なく遂行できる健康状態にある者をいう。

 ハ 業務による過重負荷と発症との関連を時間的にみた場合、医学的には、発症に近ければ近いほど影響が強く、発症から遡れば溯るほど関連は希薄となるとされているので、次に示す業務と発症との時間的関連を考慮して、特に過重な業務か否かの判断を行うこと。

 (イ) 発症に最も密接な関連を有する業務は、発症直前から前日までの間の業務であるので、まず第一にこの間の業務が特に過重であるか否かを判断すること。

 (ロ) 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合であっても、発症前1週間以内に過重な業務が継続している場合には、血管病変等の急激で著しい増悪に関連があると考えられるので、この間の業務が特に過重であるか否かを判断すること。

 (ハ) 発症前1週間より前の業務については、この業務だけで血管病変等の急激で著しい増悪に関連したとは判断し難いが、発症前1週間以内の業務が日常業務を相当程度超える場合には、発症前1週間より前の業務を含めて総合的に判断すること。
 なお、業務の過重性の評価に当たっては、業務量、業務内容、作業環境等を総合して判断すること。



(4) 「症状の出現」とは、自覚症状又は他覚所見が明らかに認められることをいう。






第2 認定に当たっての留意事項



1 認定の基本的な考え方について


 脳・心臓疾患は、血管病変等が加齢や一般生活等における諸種の要因によって、増悪し発症に至るものがほとんどであり、この血管病変等の形成に当たって業務が直接の要因とはならないことも指摘されている。また、脳・心臓疾患の発症と医学的因果関係が明確にされた特定の業務は認められていない。
 業務上の諸種の要因による精神的、身体的負荷が時として、血圧変動や血管収縮に関与するであろうとは、医学的に考えられることであるが、労働者が日常業務に従事する上で受ける負荷による影響は、その労働者の血管病変等の自然経過の範囲にとどまるものである。
 しかしながら、業務が急激な血圧変動や血管収縮を引き起こし、血管病変等をその自然経過を超えて急激に著しく増悪させ発症に至った場合には、業務が相対的な有力な原因であると判断し、業務に起因することが明らかな疾病とするものである。



2 認定要件について


(1) 異常な出来事について

 異常な出来事として、「極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態」及び「緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態」を掲げているが、これは、生体がこれらの事態に遭遇すると、急激な血圧変動や血管収縮を引き起こし、血管病変等をその自然経過を超えて急激に著しく増悪させ得るからである。
 さらに、異常な出来事に含まれるものとして、「急激で著しい作業環境の変化」を掲げているが、これは、例えば、極めて暑熱な作業環境下で水分補給が著しく阻害されるような状態により、脳梗塞が発症すること及び急激な温度変化が血圧変動や血管収縮に関与すること等の医学的知見に基づくものである。


(2) 日常業務に比較して、特に過重な業務について

イ 日常業務による負荷の影響は、血管病変等の自然経過の範囲にとどまるものであるから、日常業務の過程で発症したような場合には、業務起因性は認められない。
 なお、ここでいう日常業務とは、通常の所定労働時間内の所定業務内容をいうものであるので、例えば、恒常的な時間外労働が行われている場合には、時間外労働を除いた業務が日常業務である。
 また、特に過重な業務とは、同僚等が同様に発症していなければならないというものではなく、同僚等にとっても医学経験則上、特に過重な精神的、身体的負荷と認められれば足りるものである。


ロ 発症に影響を及ぼす期間については、医学経験則上、発症前1週間程度をみれば、評価する期間としては十分であるとされることから、本認定基準においては、一応の時間的な目安として「1週間」としているのであって、1週間を限定的に区分するものではない。
 なお、発症前1週間以内に過重な業務が継続している場合の継続とは、この期間中に過重な業務に従事した連続した日が含まれているという趣旨であり、必ずしも1週間を通じて過重な業務に従事した日が間断なく続いている場合のみをいうものではない。したがって、発症前1週間以内に就労しなかった日があったとしても、このことをもって、直ちに業務外とするものではない。


ハ 業務の過重性の評価に当たっては、業務量(労働時間、労働密度)、業務内容(作業形態、業務の難易度、責任の軽重など)、作業環境(暑熱、寒冷など)、発症前の身体の状況等を十分調査の上総合的に判断する必要がある。
 なお、所定労働時間内であっても、日常業務と質的に著しく異なる業務に従事した場合における業務の過重性の評価に当たっては、専門医による評価を特に重視し、判断すること。



(3) 症状の出現について

 通常、過重負荷を受けてから24時間以内に症状が出現するが、脳梗塞及び脳出血は、症状の出現まで数日を経過する場合がある。



(4) 不整脈について

 「不整脈による突然死等」とは、不整脈が一義的な原因となって心停止あるいは心不全症状等を発症した場合であって、その原因が医学経験則上、業務による過重負荷であると認められる場合をいう。
 したがって、業務上外の判断に当たっては、次の区分に従い、被災者が持つ基礎心疾患、既に保有している不整脈等と業務負荷との関係を総合的に判断する必要がある。

 @ 基礎心疾患等が存在する場合(下記Aの場合を除く。)の不整脈による突然死等の業務上外の判断に当たっては、これらの不整脈が、基礎にある異常な病態が原因となって発生する可能性が高いことから、基礎心疾患等が業務によって急激に著しく憎悪したものであるか否かを判断する必要があること。

 A 発症前に基礎心疾患等が認められない場合、又は基礎心疾患等の病変がごく軽度であるためにその存在が明確にされていない場合の不整脈による突然死等の業務上外の判断に当たっては、この不整脈が業務による明らかな過重負荷を発症前に受けたことにより発生したものか否かを判断すること。



3 その他

(1) 脳卒中について

 脳卒中は、脳血管発作により何らかの脳障害を起こしたものをいい、従来、脳血管疾患の総称として用いられており、現在まで、一般的に前記第1の1の(1)に掲げた疾患に分類されている。
 業務と発症との関連を判断する上で、詳細な疾患名は重要であるので、臨床所見、解剖所見のほかの、発症前の状況(頭痛等の自覚症状又は他覚所見が参考となる。)、症状の出現時の状況(頭痛等の自覚症状又は他覚所見、発作の状態、発作による転倒状況等が参考となる。)等により推定できることもあるので、これらを基に、専門医から意見を徴する等により可能な限り確認する必要がある。
 なお、確認できない場合には、本認定基準によって判断して差し支えない。


(2) 先天性心疾患等について

 先天性心疾患等(高血圧性心疾患、心筋症、心筋炎等を含む。)を有する場合は、これらの心臓疾患が原因となって慢性的な経過で増悪し、又は不整脈等を併発して死亡等の重篤な状態に至ることが多いので、単に重篤な状態が業務遂行中に起こったとしても、直ちに、業務と発症との関連を認めることはできない。
 しかしながら、先天性心疾患等を有していても、その病態が安定しており、直ちに重篤な状態に至るとは考えられない場合であって、業務による明らかな過重負荷によって急激に著しく重篤な状態に至ったと認められる場合には、業務の発症との関連が認められる。
 したがって、先天性心疾患等を有する場合には、先天性心疾患等の疾患名、その程度及び療養等の経過を十分調査の上、本認定基準によって判断して差し支えない。



(3) 本省りん伺について

 次の事案については、本省にりん伺すること。

イ 認定基準により判断し難い事案

 (イ) 業務による継続的な心理的負荷によって発症したとして請求された事案継続的な心理的負荷については、発症との医学的因果関係を明確に認める医学的知見が確立していないこと、その影響度合いも個人差が大きいこと等の理由から、最新の医学情報の収集、分析等専門的な検討を行った上で、個別に適切な判断を行う必要がある。
 このため、業務による継続的な心理的負荷によって発症したとして請求された事案であって、医学的判断が特に困難なものについては、当面、本省において医学的事項について検討するので、りん伺することとしたものである。

 (ロ) 認定基準で掲げた疾病以外の疾病に係る事案
 本認定基準で掲げた疾病以外の疾病については、一般的に過重負荷に関連して発症する疾患であるとは考えられないが、医学的資料とともに、本認定基準で掲げた疾病以外の疾病が過重負荷に関連して発症したとして請求された事案については、本省にりん伺することとしたものである。


ロ 原因となった疾患名が明らかにならない急性心不全 急性心不全(急性心臓死、心臓麻痺等という場合もある。)は、通常、心臓が停止した状態をいい、疾患名ではない。急性心不全の原因となった疾患は、脳・心臓疾患に限らず、他の疾患の場合もあり、業務と発症との関連を判断する上で、原因となった疾患名は重要であるので、臨床所見、解剖所見等により確認する必要がある。
 しかし、臨床所見、解剖所見等により十分な医学的究明がなされていても、原因が不明な場合及び医学的な判断資料が不足しているため疾患名を確認できない場合には、本省にりん伺することとしたものである。