セクハラ裁判/判例(1)
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■職場とセクシャルハラスメント



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No

判決日

事件名

管轄裁判所

事件の概要

判決の概要

H2.12.20 ニューフジヤ害賠償請求事件 静岡地裁沼津支部 原告:女性労働者(フロント会計係)
被告:男性会計課長


 原告は、NFホテルのフロント会計係、被告は原告の上司で同ホテルの会計課長。昭和62年11月中旬の勤務終了後、原告は被告の誘いを断りきれず食事を共にしたが、その帰途、被告は車内で原告をモーテルに誘ったが、原告はこれを拒否した。その後、山中の路側帯で被告は原告を脅迫し、執拗にキスを繰り返した。
 翌日、原告の抗議に対し、被告は謝罪もしなかったため、原告は、上記行為のため非常な打撃を受けて身体の不調をきたしながら勤務を続けたが、苦しさの余り、同僚に相談したところ、かえってこのことが職場の噂となり、被告の下で働くことに耐えられなくなり、昭和63年1月末、Nホテルを退職するに至った。

1.被告は、一方的に原告の腰の辺りに手を触れるなどしたうえ、原告には被告の要求に応じる意思が全然ないのに、原告にキスをしたもので、この被告の行為は、その性質、態様、手段、方法などからいって、民法709条の不法行為に当たることが明らかである。

2.原告は、その意に反して被告にキスをされ、生理的不快感、被告の要求に返答しようがなくて黙っていたのにこれを承諾したものととらえられたくやしさ及び人格を無視された屈辱感を覚えさせられたこと、当日から食欲不振、不眠、口の中の不快感などの精神的変調をきたし、口の中の不快感は現在まで続いていること、事件以後も毎日生理的嫌悪を感じる被告を上司とする職場で働かなくてはならず、他の従業員にも事件を知られ、中には興味本位な言動をとる者もあり、原告にとって辛い職場環境となってしまったこと、..退職せざるを得なくなったこと、被告には自己の非を認めて謝罪する態度がまったく見られず、これについても原告は憤りを覚えていること、以上の事実が認められ...少なからざる精神的損害を蒙ったということができる。

3.原告の受けた精神的苦痛の内容、程度に、……とりわけ、被告の加害行為の内容、態様、被告が職場の上司であるとの地位を利用して本件の機会を作ったこと、被告の一連の行動は、女性を単なる快楽、遊びの対象としか考えず、人格を持った人間として見ていないことのあらわれであることがうかがわれ、このことが原告にとってみれば日時が経過しても精神的苦痛、憤りが軽減されない原因となっている。

原告一部勝訴
慰謝料100万円認容
確定

(備考)
本件裁判に被告が出廷しなかったため、原告の主張をすべて事実として認めるものとされた。
H4.4.16 キュー企画損害賠償請求事件 福岡地裁 原告:女性労働者
被告:男性編集長、会社


 原告は、被告会社にアルバイトとして入社したが、正社員となり、被告会社の発行する雑誌の取材、執筆、編集等の仕事を任されるようになった
 他方、被告は編集長であったが、編集業務における原告の役割が増大し、業務の重要部分にかかわれないなどから、疎外感を持つようになり、会社の関係者や取引先に原告の性的言動に関する噂を流したり、退職を求めたりした。
 原告は、被告会社の専務に対し、被告に謝罪させるように訴えたが、専務は、あくまで両者の話し合いによる解決を指示するにとどまっていた。
 最終的には、原告に対し、被告との話し合いがつかなければ退職してもらうしかないと話し、原告は退職を申し出、退職に至った。

1.被告Hが、被告会社の職場又は被告会社の社外ではあるが職務に関連する場において、原告又は職場の関係者に対し、原告の個人的な性生活や性向を窺わせる事項について発言を行い、その結果、原告を職場に居づらくさせる状況を作り出 し、しかも、右状況の出現について意図していたか、又は少なくとも予見してい た場合には、それは、原告の人格を損なってその感情を害し、原告にとって働きやすい職場環境のなかで働く利益を害するものであるから・・民法709条の不法行為責任を負う・・。

2.右のような被告Hの一連の行動は、まとめてみると、一つは、被告会社の社内の関係者に原告の私生活、ことに異性関係に言及してそれが乱脈であるかのようにその性向を非難する発言をして働く女性としての評価を低下させた行為。 ニつは、原告の異性関係者の個人名を具体的に挙げて(特に、それらの者はすべて被告会社の関係者であった。)、被告会社の内外の関係者に噂するなどし、原告に対する評価を低下させた行為であって、直接原告に対してその私生活の在り方をやゆする行為と併せて、いずれも異性関係等の原告の個人的性生活をめぐるもので、働く女性としての原告の評価を低下させる行為であり、しかも、これらを上司であるS専務に真実であるかのように報告することによって、最終的には原告を被告会社から退職せしめる結果にまで及んでいる。 ・・本件においては、原告の異性関係を中心とした私生活に関する非難等が対立関係の解決や相手方放逐の手段ないしは方途として用いられたことに、その不法行為性を認めざるを得ない。

(被告会社の責任について)


3.被告Hの原告に対する一連の行為は原告の職場の上司としての立場からの職務の一環又はこれに関連するものとしてされたもので、・・被告会社の『事業の執行に付き』行われたものと認められ、被告会社は被告Hの使用者として不法行為責任を負うことを免れない。
 S専務らに被告会社の職場環境を調整しようとの姿勢は一応見られ、その対処もあながち不当とまでは断言できないけれども、原告と被告Hとの対立の主たる原因となったのが、前記のような原告の異性関係等に関する被告Hの一方的な理解及びこれに基づく同被告の原告に対する退職要求等であった点については、正しく認識していたとは言い難い。そして、問題を専ら原告と被告Hとの個人的な対立と見て、両者の話合いを促すことを対処の中心とし、これが不調に終わる と、いずれかを被告会社から退職させることもやむを得ないとの方針を予め定めた上でS専務により両者の妥協の最後の余地を探ったものである。・・原告がやむなく退職を口にするや、これを引き止めるでもなく直ちに話合いを打ち切り、次に面談する予定で待機させていた被告Hに対しては、解決策につ いては特段の話合いは何もせず、原告が退職することを告げた上で3日間の自宅謹慎を命じたに止まったというのであり、 ・・同専務らは、原告の退職をもってよしとし、これによって問題の解決を図る心情を持ってことの処理に臨んだものと推察されてもやむを得ない。 ・・以上のとおり、S専務らの行為についても、職場環境を調整するよう配慮す る義務を怠り、また、憲法や関係法令上、雇用関係において男女を平等に取り扱 うべきであるにもかかわらず、主として女性である原告の譲歩、犠牲において職 場関係を調整しようとした点において不法行為性が認められる」

(損害賠償額)


4.原告も、被告Hから退職要求を受けた後、立腹して、被告H等に原告及び原告 との交際があるとされた関係者に謝罪することを強く求め、また、ことごとに対決姿勢を堅持し、被告Hと冷静に協議していく姿勢に欠けるところがあったこと、 さらには、相互の能力をかれこれ対比して、被告会社内における編集業務における主導的地位をめぐって係争する姿勢を保持するなど、被告Hに対するライバル 意識を強く持ち、アルバイト学生や被告会社関係者を巻き込むなどして自ら派閥 的な行動をとり、時には逆に被告Hに対して攻撃的な行動に出るに及んだことな どが、両者の対立を激化させる一端となったことも認められ、また、原告の異性関係についてその一部は原告自ら他人に話したことも認めら れる。これらの事情や、・・諸般の事情を考慮すれば、原告の精神的損害に対する慰 謝料の額は、150万円をもって相当と認める。


原告一部勝訴
慰謝料150万円認容
確定
H6.4.11 S社(靴会社)賃金等請求事件 東京地裁 原告:女性労働者(反訴被告)
被告:男性専務(反訴原告)、会社


1.原告によると、原告が上司の被告専務から平成元年10月1日(日曜日)に出勤を命じられ、被告会社において作業をしていたところ、被告専務が後ろから抱きかかえたり、わいせつ行為に及ぶとともに、暴力で性的関係を強要するなどしたため、原告は拒絶した。
同月10日(祝日)にも、同様のことがあったこと、また、原告が乳がん手術療養後、職場復帰をしたとき、暴言を浴びせた上、全く身に覚えがないのに、原告に嫌疑のかかる方法で、被告会社の現金の盗難被害届を出されたため、精神的苦痛を受けたと主張。

2.これに対し、被告は、原告から内容証明郵便により、被告会社と連帯して慰謝料の支払いを請求されたが、上記のような行為はなかったのであるから、名誉と社会的信用を著しく侵害されたと主張。

1.原告の自署によるタイムカードには、平成元年10月1日(日曜日)、同月10日(祝日)に出勤した旨の打刻はなされていない、、。

2.被告は、平成元年10月1日午後2時ころから午後7時ころまでの間、自宅付近にある亀有ラドン健康センターに妻とともに行ったと供述しており、これを裏付ける..領収証..と被告会社の会計帳簿..が存在する。また、被告の供述によると、当時、被告会社従業員のS、Tは休日には必ず被告会社に出勤し1階で仕事をしていたというのであるから平成元年10月1日についても、同様であるとすると、被告が原告主張のようなわいせつ行為に及べば、1階で執務中の両名に聞こえるはずであり、このような状況の中で被告がわいせつ行為をなしたとは考えがたい。

3.10月10日、被告会社の従業員KM、Aのタイムカードには出勤した旨の打刻がなく、うち、KMは同日午前10時30分から午後4時まで市川市で行われたクラブ主催のスポーツイベントに参加し、その後のアフターパーティにも午後7時まで参加していた事実=確認。以上の事実に照らすと、KMが出勤すると聞いていたので同日出勤したとの原告の供述、KM、Aが同日出勤していたとの原告の供述は、いずれも信用することが出来ない。

4.被告専務は、原告の右内容証明郵便の送付により精神的苦痛を受けたものと推認されるところ、……、被告専務が原告に対し、わいせつ行為等の不法行為をしたとの事実を認定することはできないから、右送付行為は、正当な権利行使とは認められず、違法性を有するというべきである。

原告敗訴(被告(反訴原告)
勝訴)
慰謝料30万円認容
確定
h6.5.26 大西建設損害賠償請求事件 金沢地裁輪島支部 原告(反訴被告):女性労働者
被告(反訴原告):男性社長、会社


 原告は、平成3年1月、被告会社に入社し、被告社長の自宅の家政婦的仕事に従事していた。

 被告社長は、平成3年1月末頃から3月にかけて、原告に性的な言葉をかけたり、原告の身体を触るようになり、口を近づけたり、抱きつこうとしたり、性的関係を求めたりしたが、原告は抵抗していた。
 その後、4月頃から被告社長は原告に辞めてほしいと考えるようになり、被告社長と原告は直接口を利かなくなり、文書でやりとりするようになっていた。また、昼食を自宅で食べず、金銭の支払いを原告にさせなくなり、原告も働きぶりが悪くなり、次第に、被告社長の命令に反抗したり、毎日のように言い争いをするようになった。
 また、被告会社はボーナス支給額を、従業員の勤務態度、成績などを勘案して決定していたが、原告の勤務期間、成績などから対象外とし、支給しなかったため、原告は要求し、執協に抗議したため、被告社長は平成3年9月14日付で原告を解雇した。

1.被告社長の個々の言動の中には、世間話や冗談、飲酒の上での猥談にすぎず、許される範囲内のものもあり、すべてが違法となるものではないが、被告は、原告の体に触ったり、胸に触ろうとしたり、抱きついたりしており、右行為は、原告に不快感を与え、また一般の女性であれば不愉快に感じる行為であって、原告の仕事が家政婦的仕事であり、被告の自宅で被告と一対一の仕事であ ることを考えると、被告の右行為は、その労働環境を悪化させるものでもあ り、セクシャルハラスメソトとして違法というべきである。

2.被告は、原告に辞めてほしいと思い、原告の作った昼食を自宅で食べず、その結果、原告に対し昼食について弁当持参の指示をだすことになり、また金銭の支払いを原告にさせず事務所で行い、これらはいずれもその必要のないものであり、更に、ボーナスを支給しなかったものであり、いずれも嫌がらせにすぎないと認められる。そして、被告会社代表者兼被告は、当時原告に辞めてほしい
と考えた理由として、原告の整理整頓の拙さや食事の不味さ等をあげるが、その程度は解雇を考えるほどではないと認められること、また、前記嫌がらせは、前記性的行為の中止と時期を同じくして始まっていることを考え合わせると、嫌がらせと性的行為との間に因果関係がないとはいえない。そうすると、被告の嫌がらせは、性的行為に対する原告の対応を一因として、原告に不利益を課しており、前記性的行為と一体として、セクシャルハラ スメソトと認めることができ、違法というべきである。

3.原告に対する解雇は、性格及び仕事ぶり
、また、7月以降の両者の関係は通常とはいいがたく、原告の指示命令違反、反抗的態度は著しく、被告の前記嫌がらせに対する抗議を考慮してもなお、限度をこえており、原告の解雇はやむをえない

4.被告が8月7日に原告に加えた暴力について、遵法性を認めることができることはいうまでもなく、これにより被告は原告が被った損害を賠償すべき義務を負う。しかし、右は原告の挑発に対してなされたものであり、特に前記性的行為と因果関係のあるものとは認められない。なお、右暴行につき、原告の挑発があったからといって被告の暴行の違法性や責任が阻却されるものではない。

5.被告は被告会社の代表者であり、原告の仕事は代表者である被告の自宅の家政婦的仕事であり、被告の自宅での言動は、被告個人としての言動であるとともに、家政婦的仕事をしている原告に対する被告会社代表者としての職務上の言動という面があり、
被告会社も被告と連帯して損害賠償責任を負う。


原告一部勝訴
慰謝料80万円認容
双方とも控訴
4−2 H8.10.30 大西建設損害賠償請求(控)事件 名古屋高裁金沢支部 控訴人:第1審原告
被控訴人:第1審被告社長、第1審被告会社


概要(省略)

(被告会長の責任)
1.職場において、男性の上司が部下の女性に対し、その地位を利用して、女性の意に反する性的な言動に出た場合、これがすべて違法と評価されるものではなく、その行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法となるというべきである。
 これを本件についてみると、…第1審被告社長及び第1審原告の年齢、経歴、婚姻歴等に、右性的言動の行われた場所、第1審原告の対応等からすると、3月27日の強制猥褻行為はそれ自体違法である上、その前後の2月3日以後4月上旬までの第1審被告社長の第1審原告に対する言動は、社会的見地から不相当とされる程度のものと認められ、第1審原告の人格の尊厳性を損なうものであることが明らかであるから違法というべきである。また、…。

2.しかしながら(4月上旬以降の被告社長の対応は)…第1審原告の家政婦としての適切でない仕事振りからすると、第1審被告社長の対応は、嫌がらせとしての面があったことは払拭できないものの、違法とまで未だ認めることはできない。
 なお、第1審被告会社が第1審原告に、ボーナスを支給しなかったことは第1審被告会社に明確な支給規程がなく、従業員である第1審原告の第1審被告会社に対する具体的権利とまではいえない面があり、…零査定されたことは仕方ないというべきであり、…ましてや前記性的言動に対する抗議行動の報復であったと認めることもできない。

3.…元はと言えば第1審被告社長の違法な言動が原因しているとはいえ、(同人のした指示が)すべてセクシュアル・ハラスメントであるとして、口頭及び文書で執拗に抗議する態度からして、9月上旬時点で、両者の信頼関係は完全に損なわれるに至っていること及び第1審原告の家政婦としての能力に疑問の点があることからすれば、同月14日付でした第1審被告会社の第1審原告に対する普通解雇の意思表示が、使用者に認められた解雇の権利を濫用した違法なものと認めることはできない。

 (被告会社の責任)

4.第1審被告会社は、…代表取締役宅の家政を一手に委ねるために第1審原告を採用したものであり、第1審被告社長が第1審原告から食事等の家政の提供を受けることは、妻の家出後であること、第1審被告社長自らがそれを受けて昼夜を問わぬ第1審被告会社の役務を現実に担っていた等の特殊な事情を考慮すれば、第1審被告社長の職務とは別の個人的利益とは認めることはできず、むしろ職務行為ないしはこれと率連する行為と認めるのが相当である。そうすれば、この間になされた代表取締役である第1審被告社長の違法行為について、第1審被告会社は、第1審原告に対し、民法44条1項によって損害賠償すべき義務を負うものと解するのが相当である。


原告一部勝訴慰謝料120万円認容
双方とも上告
H6.9.30 前橋セクシュアルハラスメント(幼稚園)慰謝料請求事件 前橋地裁 原告:女性教諭
被告:男性園長


 被告が原告に更衣室で抱きついてきたり、勤務中、近づいてきたりしたため、原告はこのような被告の態度に嫌悪感を強く感じ二人きりにならないよう神経を使わざるを得なくなり、不眠症に悩まされるといった健康上の障害が発生するに至った。

 原告は教育長に訴え、聞き取り調査が行われたが、被告は原告が嘘をついていると主張した。

1.本件行為は、その行われた場所・状況・時期等を考慮すると、被告から原告に対する単なる儀礼的若しくは社交的範囲を越えた性的行為と解せられ、両者の年齢、職場における地位、家族関係(双方とも配偶者を有する。)及び原告の了解がないこと等を勘案すると、原告の人格権を侵害する不法行為に当たると認められる。

原告一部勝訴慰謝料10万円認容
高裁で和解
H7.3.24 テクネット損害賠償請求事件 横浜地裁 原告:女性社員N
被告:横浜営業所長K
(親会社から被告会社に出向中)、会社及び親会社



1.控訴人Nは、平成2年5月被控訴人会社にアルバイトとして採用され、その後の同年11月に正社員に採用された。

2.正社員に採用された平成2年秋ころから被控訴人Kの控訴人Nに対するわいせつ行為が始まった。
平成3年2月19日の行為は、控訴人Nに大きな精神的ショックを与え、社長に直訴するも、被控訴人Kからは具体的に行為を認めての謝罪がなかった。

3.控訴人Nは、平成3年7月23日の親会社の監査の日において、「Kのわいせつ行為が退職の理由である」と述べて、退職届を提出した。



1.強制わいせつ行為ともいうべき右行為に対して、(イ)顔を背け、体をくねらせ、腕を突っ張るなどして抵抗したり、施錠していない横浜営業所の事務所の出入り口(原告本人)から外へ逃げるとか、(ロ)反射的に悲鳴を上げて・・・助けを求めたりすることもできたはずであるにもかかわらず、そのような行動をとらなかった(原告本人)ばかりか、かえって、その供述からは前記主張の状況下にしては冷静な思考及び対応のあったことさえ窺える。

2.原告が主張する被告所長の行為は、原告の性的自由を著しく侵害する強制わいせつ行為に比類すべきものであって、このような攻撃を受けた場合、通常であれば冷静な思考及び対応を採ることはほとんど不可能であると考えられるところ、原告が抵抗して逃げようとしなかった理由として挙げる各事由が、余りに冷静・沈着な思考及び対応に基づくものであり、納得し難いものである。

3.…のとおり、原告主張に係る被告所長の行為(強制わいせつ行為に比類すべき行為)に沿う前記原告の供述は到底信用することができないし、他に主張事実を認めるに足る証拠はない。…19日の件については、被告所長の原告に対する再三の謝罪によって、既に解決済みであると認められる・・・。

(被告会社の責任)
4.被告所長の原告に対する行為は、行為自体が極めて軽微であって、不法行為を構成する程のものではなかった上、原告から直訴を受けた被告会社社長は、原告の言い分を十分に聴き、さらに、被告所長から事情を聴取したのち、同被告所長に対し、再三の謝罪を命じてこれを履行させているのであるから、被告会社らがそれ以上に、被告所長に対する何らかの処分及び事実の公表等の措置を採らなかったとしても、そのことが違法であるとは到底いえない。
 したがって、被告会社らに原告指摘に係る不法行為責任を認めることはできない。

4.原告の請求はいずれも理由がないから棄却。



原告敗訴
原告控訴
6−2 H9.11.20 テクネット損害賠償請求(控)事件 東京高裁 控訴人:女性社員N
被控訴人:横浜営業所長K
(親会社から被告会社に出向中)、会社及び親会社


概要:(省略)

1.平成2年秋ころから被控訴人Kは、事務所で控訴人と2人きりになった際、控訴人の席の後ろを通る時に、ぽんと肩を束叩くようになり、次第に、肩に手を置いてる時間が長くなり、肩を揉んだりし、また、控訴人の髪をなでたり、束ねたり、指ですくなどして控訴人の髪に触るようになった。

2.(その後)平成3年2月19日午後11時50分ころ、・・・「Nさんを一度抱きしめたかった。Nさんはかわいいから。」などと言いながら、控訴人の首筋に唇を押しつけてきた。・・・被控訴人Kは、控訴人の首筋に唇を押し付け、・・・作業着の中に手を入れ、ブラウスの上から胸を、ズボンの上から腰を、それぞれ触ったり、控訴人の前に回りこんでキスをしようとし、顔を唇に何度も押し付け、顎を無理やりつかんでキスした上、舌を口の中に入れたり、腰を控訴人の身体に密着させたまま上下に動かし、指を控訴人の股間に入れてズボンの上から下腹部を触るなどした。・・・
 控訴人は、腕を胸の前で堅く組んだり、肘を張ったり、顔を背けたり、手を払いのけようとしたが、払いのけようとする手を乱暴に強い力で振り払ったり、控訴人の防御の姿勢に合わせて、前後に回るなどし、執拗に右行為を続けた。
(それは約20分間にわたり、執拗に行われ、控訴人が)やっとの思いで「お昼すぎちゃいますよ。」と言うと、「ああ、気持ちよかった。いい子を抱くと気持ちがいい。やられた方はとんでもないってか。こんなことしたら、Nさん泣いちゃうかと思った。仕事辞めないでね。」と言い、自分の席に戻って言った。(控訴人供述)

・・・(これに対して)被控訴人Kが、瞬間的ないしは数十秒の間・・背中に両手を回して抱きしめたに過ぎないものとは到底考え難く、、、(としてその主張を退けた。)

3.同年3月14日、控訴人は被控訴会社の本社に赴き、社長に面会を求め2通の書面を手渡し、・・・右各書面は、被控訴人Kからわいせつ行為をされた事実を訴えるとともに、社長として適切な措置をとることをもとめる内容となっており、、、


4.米国における強姦被害者の対処行動に関する研究によれば、・・・。したがって、強姦のような重大な性的自由の侵害の被害者であっても、すべての者が逃げ出そうとしたり悲鳴を上げるという態様の身体的抵抗をするとは限らないこと、強制わいせつ行為の被害者についても程度の差はあれ同様に考えることができること、特に、職場における性的自由の侵害行為の場合には、職場での上下関係(上司と部下の関係)による抑圧や、同僚との友好的関係を保つための抑圧が働き、これが、被害者が必ずしも身体的抵抗という手段を採らない要因として働くことが認められる。したがって、本件において、控訴人が事務所外へ逃げたり、悲鳴を上げて助けを求めなかったからといって、直ちに本件控訴人供述の内容が不自然であると断定することはできない。


5.およそ、本件のように、男性たる上司が部下の女性(相手方)に対してその望まない身体的な接触行為を行った場合において、当該行為により直ちに相手方の性的自由ないし人格権が侵害されるものとは即断し得ないが、接触行為の対象となった相手方の身体の部位、接触の態様、程度(反復性、継続性を含む。)等の接触行為の外形、接触行為の目的、相手方に与えた不快感の程度、行為の場所・時刻(他人のいないような場所・時刻かなど)、勤務中の行為か否か、行為者と相手方との職務上の地位・関係等の諸事情を総合的に考慮して、当該行為が相手方に対する性的意味を有する身体的な接触行為であって、社会通念上許容される限度を超えるものであると認められるときは、相手方の性的自由又は人格権に対する侵害に当たり、違法性を有すると解すべきである。



(被控訴人会社テクネットの責任)

5.被控訴人Kの不法行為は、・・・勤務時間内に行われ又は開始された行為であり、控訴人の上司としての地位を利用して行われたものというべきであるから、・・・被控訴人会社の事業の執行行為を契機とし、これと密接に関連を有する行為と言うべきである。・・・行為に出た動機が被控訴人Kの個人的な満足のためのものであったとしても、そのことは右認定を左右するものではない。
したがって・・・民法第715条に基づき、・・の使用者として、損害賠償責任を負うというべきである。

(親会社S建設の使用者責任の可否)

6.被控訴人会社は、S建設(注:業界有数の大手ゼネコン)の100%出資の子会社であるとはいえ、(親会社との)取引の割合や全社員中の出向社員の比率からみても、・・・独立した別個の企業として経営されていた・・(関係から)S建設が、被控訴人Kに対する実質上の指揮監督関係を有していたと認めることはできない。(から)・・使用者責任を負うものではない・・。(控訴棄却。)



控訴人一部勝訴、被控訴人会社及び被控訴人Kに、各自275万円認容。
確定
H7.8.31 Pホームズ損害賠償請求事件 東京地裁 原告:女性労働者
被告:会社

 原告は平成6年4月1日、被告会社に雇用され海外事業本部管理第3課に配属された。原告は勤務態度が悪く、仕事に対する集中度を欠き、指示を無視したり、勝手な行動をとって同僚の業務進行を阻害した。また、強調度に欠け、礼節を失することが多かったため、会社は使用期間中の同年6月10日、原告を解雇した。

 原告は、この解雇が上司が夕食に誘ったのを拒否したことを理由とするもので無効であると主張した。
1.原告は、右6月1日のF人事課長代理との会談において同課長代理が不当な動機・目的をもって原告を夕食に誘ったかのような供述をするが、F課長代理が原告を夕食に誘ったのは、右認定の動機・目的(注:夕食でもしながら原告の勤務態度等について忠告ないし説諭する機会を持ちたい。)によるものであって、・・原告の主張するような動機・目的があったと認めるに足る証拠はない。

2.また、・・6月7日に、M取締役が原告を応接室に呼んだのは、・・原告が主張するような不当な動機・目的でなしたと認めるに足りる証拠はない。



原告敗訴
H7.9.6 奈良県建設業振興会損害賠償請求事件 奈良地裁 原告:女性労働者
被告:男性理事長


1.原告は、平成5年3月大学を卒業し同年4月奈良県建設業振興会に勤務した。

2.平成6年6月4日、原告は、被告理事長より誘われた講演会の帰途、特急の車内で、被告に太股や手を触られたが、拒絶はしなかった。
 また、同月17日、原告は、被告理事長に誘われて休暇をとり、別荘に行った際、そこで被告から胸、腰を触られたり、抱きしめられたりした。同月21日、原告は、被告に勤務中、応接室に呼ばれ、性的言辞を浴びせられた。原告はこれらの行為をされても特に反抗しなかったが、それは馘首されることを恐れたからであった。

3.その後、被告理事長は、個人的な写真の整理、作文の提出を命じたりした。原告は、勤務を辞めたいという意思が固まり、退職した。

1.被告理事長の行為が、原告の明確な拒絶の態度にあっていないとはいえ、その意思に反するものとして不法行為を構成することは明らかであり、…における被告理事長の言辞も、その内容、振興会における被告と原告との関係、性差、年齢差等に照らすと、原告に著しい不快感を抱かせるものとして不法行為を構成するというべきである。

2.原告が、就職難といわれる時期に大学を卒業し、純粋な気持ちのまま初めて就いた職場において、理事長の被告から前示のような不法行為を受けたことや被告のその後の対応等・・・を考慮すると慰謝料額は、、。

3.不法行為後の被告の対応(個人的な写真の整理や作文の提出の指示)を原告に向けられた新たな不法行為とみることはできないし、被告のこれらの行為あるいは前認定の不法行為によって、原告が退職を余儀なくされたということもできない。



原告一部勝訴慰謝料100万円認容
確定
H8.4.15 八王子市立小学校校長慰謝料請求事件 東京地裁八王子支部 原告:女性教員
被告:男性校長


 原告は被告とともに八王子市の委員会委員を任命されており、その委員会主催による中学校の見学会に参加後、有志による懇親会が開催され、その帰路、被告は性器を露出して、原告が止めるよう何度も言ったにもかかわらず、手を取って握らせた。
 原告は、性的行為を拒否したことにより被告が教育上のことで原告を無視したり、人事上の不利益を課したと感じた。

1.原告と被告の各供述を比較すると、原告の供述は、…、被告が行ったとされる卑狼な行為及びその前後までの状況が具体的かつ詳細であり、終始一貫しているのに対し、被告の供述は、…、原告と被告が別れたときの状況については具体的な供述がなく、不自然な感が否めない。
  …のとおり、原告は被告の原告に対するその後の態度、言動の一部を性的嫌がらせと受け止めていることなどに照らせば、原告の供述はそれ自体、また、被告の供述と対比しても、全体として信用することができるところ、右供述によれば、…の卑額な行為の事実を認めることができる。これに反する被告の供述は右のとおり信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2.人事については、不相当とまでは言えないし、初任者指導教員の職務が学級担任の職務と比較して、劣っているとか重要性がないとかいうことはできないとすれば、平成5年度の人事が降格人事であるとか、特に原告に不利益を課した人事であるとは言い難いばかりか、・・人事が原告の希望に反するものであるからといって、直ちに被告が卑狼な行為に対する原告の対応・態度に関連させ、原告に対する嫌がらせ行為として行ったものとも解しがたい。



原告一部勝訴慰謝料50万円認定
双方とも控訴
10 H8.4.26 大阪(葬祭会社)損害賠償請求事件 大阪地裁 原告:女性労働者
被告:男性会長、会社


1.原告は平成6年5月9日被告会社に就職した。

2.被告は、採用間もない5月中旬、原告に対し、顧客を訪問中の車中で太股をなでる、性的関係を暗示する等の行為を行った。原告は、知人を仲立ちにして、謝罪を求めたが、被告は謝罪に応じなかった。

1.行為は1回的なもので、反復継続的なものではなく、また、原告の明示的な拒絶を無視してなされたものではなく、態様も必ずしも悪質ではないが、・・・被告は、立場上その手を払退けることが叶わなかった原告の屈辱を余所に、男慣れしていると思ったなどと嘯き、いまだ謝罪の意志も明らかにしていない・・・。

(被告の責任)
2.職場で行われる相手方の意思に反する性的言動の全てが違法性を有し、不法行為を構成するわけではない。社会的にみて許容される範囲内の行為も自ずからあろう。違法性の有無を決するためには、行為の具体的態様(時間、場所、内容、程度など)、当事者相互の関係、とられた対応等を総合的に吟味する必要がある。

3.被告会長の行為は、行為の態様自体はさして悪質ではないものの、偶発的なものではなく、原告に対し再発の危倶を抱かせるものであり、その人格を踏みにじるものであるから、社会的にみて許容される範囲を越え、不法行為を構成するというべきである。

(被告会社の責任)
4.被告会長の行為は会長の職務とは無縁ではなく、…、同行為は被告会社の会長としての地位を利用して行われたものであるから、職務との密接な関連性があり、事業の執行につき行われたと認めるべきである。

原告一部勝訴慰謝料80万円認容
高裁で和解
11 H8.5.16 札幌(中古自動車販売会社)損害賠償請求事件 札幌地裁 原告:女性労働者
被告:男性社長、会社


1.原告は、平成7年5月1日に入社し同年6月15日に退職までの間、被告会社において洗車、一般事務、電話番等の職務に従事していた。

2.被告社長は原告に対し、定時連絡と称して、電話で交際を迫ったり、事務所内で原告に抱きつき胸などを触る、被告の自宅の掃除も命じて、際を見て性的関係を強要する等の行為に及び、原告は退職に至った。

1.被告が原告に性交を迫ったほか、性的言動を繰り返し、あるいは抱きついたりベッドに押し倒す等の実力行使に及んだことは、原告に対し、性的羞恥心、嫌悪感を催させ、それ自体精神的苦痛を与えるものであることは言うまでもない。
 それのみならず、・・・被告の理不尽な性的嫌がらせ行為等によって退職せざるを得なくされた精神的苦痛にもまた、十分な慰謝が必要。

2.これらの事情や原告が本件当時20歳の女性であったこと、・・・の諸般の事情を考慮すると、、、。

(被告社長の責任)
3.被告社長が、原告に対し継続的に性的嫌がらせ行為等を行うことにより、故意に原告の性的自由を侵害し、かつ、その結果原告を被告会社から退職することを余儀なくさせたことが認められるので、被告社長は原告に対する不法行為責任を免れない。

(被告会社の責任)
4.被告社長が右のとおり不法行為責任を負う場合、被告会社も有限会社法32条、商法78条2項、民法44条1項により損害賠償責任を負うか否かは、結局、右不法行為が、被告社長が「職務を行うにつき」なされたか否かにかかる。

5.被告社長の各行為はいずれも、…原告の勤務時間中あるいはこれに準ずる時間帯に、被告会社の事務所内や被告会社の代表取締役としての被告社長の管理支配の及ぶ場所において、しかも、被告会社の代表取締役としての職務権限を用いて行われたものというべきである。そして、このことと、被告社長の一連の行為が原告の被告会社に在職中の約一ヶ月半の間に継続的に行われたもので全体として一個の不法行為と評すべきことを考えると、右不法行為は、被告社長の代表取締役としての立場と密接不可分で、その職務執行を離れては実現され得ないものであって、結局、右不法行為は、被告社長が 職務を行うにつきなされたものというべきである。


原告一部勝訴慰謝料70万円認容
確定
12 H8.10.14 連合滋賀損害賠償請求事件 大津地裁 原告:女性労働者
被告:男性事務局長、副事務局長、労働組合


1.原告は滋賀同盟、引き続き、連合滋賀の事務局書記として勤務していた。

2.原告によると、被告組合は雇用における女性差別を行っていること、被告事務局長が、女性職員に対して、お茶くみ等私用を命じたり、副事務局長が職場において日常的に女性を差別する発言を繰り返していたことは環境型セクシュアルハラスメントに当たること、被告副事務局長が原告に暴力行為を働いたこと、嫌がらせにより退職に追い込まれたこと、被告らを相手方とした調停申立をしたところ、機関誌において、原告が誹議中傷されたことを訴えた。

(被告事務局長の責任)
1.被告事務局長は……原告らに対して職務に含まれないお茶汲み等を事実上強要していたのであるが、そのことによって精神的苦痛を受けたと認めることはできず、原告が主張するその余の女性差別的行為については不法行為を構成すると認めることができず、…のとおり同被告が原告に退職を強要したと認めることもできないから、同被告事務局長に対する損害賠償請求は理由がない。

(被告副事務局長の責任)
2.被告副事務局長は、原告に対して、臀部を蹴り上げるなどの暴行を加え、加療一週間を要する傷害を負わせたのだから、これによって原告が被った損害について賠償すべき責任がある。
 同被告による、女性差別的発言は、「古い女は出ていってもらおか。」「(2,3年後まで原告らが)まだいるの。俺達不幸やな。」といった発言が認められるものの、原告に向けて日常的に女性差別的な発言を繰り返していたものではなく、女性一般に対して不快感を与える発言がなされていたとしても、それによって法的保護を必要とするほどの精神的苦痛を原告が受けたとは認められず、退職強要行為があったとは認められない。

(被告労働組合の責任)
3.原告がセクシュアルハラスメントに当たると主張する事実についても、一般的に使用者において、被用者が労務に服する過程において生命及び健康を害しないように配慮すべき注意義務を負うとともに、職場内における性的性質をもった言動が、被用者の職務遂行を妨害する目的や効果をもって行われ、脅迫的あるいは不快な労働環境が創られている場合には、これを解消するよう配慮すべき義務を負担とすることがあるとしても、…のような女性社員がお茶汲みや清掃を事実上分担してきたこと、一部役員が女性職員や職場外の女性に対して女性を侮蔑するような発言をすることがあったこと等の事実をもって、原告らの職務の執行を妨害する目的・効果をもっていたとは認められず、被告労働組合にその解消を図るべき義務違反があったと認めることはできない。

4.本件報告記事は原告の名誉・信用を失墜させるものと認めることはできない。他方、囲み記事は、被告の主張を掲載するに止まらず、「さまざまな手段や方法を用いて連合滋賀や事務局を非難、攻撃し、オドシとも言える行為を繰り返してきており」と交渉過程で原告があたかも卑劣な方法を用いているかのような印象を与えるものであり、・・・原告の名誉を公然と毀損するものというべきである。


原告一部勝訴副事務局長に対し30万円(暴行について)組合に対し20万円(機関紙による名誉毅損について)の慰謝料を認容
双方とも控訴(双方とも控訴棄却)
13 H8.12.25 アルファボックス(広告代理店)慰謝料請求事件 東京地裁 原告:女性労働者
被告:男性会長、会社


1.原告は、平成3年11月18日入社。

2.被告会長は、平成4年4月頃から原告が役員室へ報告にいくたびに、食事に誘ったり、きわどい話を毎度のようにした。また、平成5年1月14日午後、被告会長は、入院中の原告に対し、押さえつけてキスをしたり、胸に触る等のわいせつ行為を行い、また、原告の退院後も、原告を無理にドライブに連れ出し、その最中に強引にキスをしたり、ホテルに誘ったりした。原告は、最終的に同年5月末、会社を退職した。

(被告社長の責任)

1.被告会長の原告に対する一連の言動は、@肉体関係や交際を求めるといった、主に性に関わる内容であり、Aその行為態様は、見舞いやドライブの際の行動に明瞭に表れているように、強引且つ執効で、時間的にも、平成4年4月ないし平成5年4月までの間の長期間に及んでおり、B被告会長は、原告に対し、「好きな人にはのめり込む。」等とは述べているものの、原告に対する愛情を感じさせる事情は証拠上全く窺えず、…、悪質である。
 そして、このような言動は、被告会長が被告会社の会長であり、原告の上司であることから、原告が同被告会長の要求にあからさまに逆らえないことを利用して行われたものであると認められる。
 被告会長のかかる行為は、原告に対し、性的に激しい不快感を与え、同人の人格を踏みにじるものであり、社会的にみて許容される範囲を明らかに超えているから、不法行為を構成する。

 (被告会社の責任)

2.被告会長は、勤務時間中、被告会社内部において、原告に対し、…の話をし、原告への見舞いは勤務時間中に行われ、被告会社の業務に関する会話がなされていた他、被告会長の一連の行為は、被告会社の会長ないし原告の上司としての地位を利用して行われていたものであるから、右一連の言動は、被告会社の職務との密接な関連性が認められ、事業の執行につき行われたと認められる。
 被告会社は、被告会長の選任及びその事業の監督につき相当の注意をなしたとするが、主張上も、証拠上もその具体的内容については、明らかにされていないので、理由がない。そうすると、被告会社は、民法715条の使用者責任を免れない。


原告一部勝訴慰謝料150万円認容
被告控訴