セクハラ裁判/判例(2)
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No

判決日

事件名

管轄裁判所

事件の概要

判決の概要

14 H9.1.28 秋田(短期大学)損害賠償請求事件 秋田地裁 原告(反訴被告):女性労働者
被告(反訴原告):男性教授


1.原告は、A大学付属研究所の研究補助員として被告男性教授の下で働いていた。

2.原告によると、学会に参加し、そのときの宿泊先である横浜Pホテルにおいて、平成5年9月3日朝、チェックアウト直前に、被告が原告の部屋を訪れ、突然、原告をベッドに押し倒しわいせつ行為に及んだと主張。

2.これに対し、被告(反訴原告)は、原告の両肩に手をかけただけとし、強制わいせつを否定するとともに、原告が本訴を提起したこと、強制わいせつ罪で告訴したこと、雑誌に情報を提供したこと等により、社会的信用は著しく失墜したと主張。

1.暴行、脅迫による恐怖、驚愕のあまり、声を出すこともできず、抵抗すらもできなかったということはありえないことではないけれども原告と被告との関係、原告の年齢、原告の経歴を考えれば、原告が供述する右の対応は、強制わいせつ行為に対する対応としては、通常のものとはいえない。

2.原告の供述内容は、不自然不合理なものであって信用できないと断定することはできないが、強制わいせつ行為に対する原告の対応及びその直後の言動についての供述内容には、通常でない点不自然な点が多々あり、原告の主張するような強制わいせつ行為がなかったのではないかとの重大な疑念を生じさせるものであることは否定できない。

3.ホテルの一室で強制わいせつ行為があったとする原告の供述よりも、これを否定する被告の供述の方が信用性において勝るというべきであり、……被告の原告に対する刑法176条に該当するような強制わいせつ行為はなかったものと認めるのが相当である。以上により原告の本訴請求は理由がない。

4.(原告の行為は、)被告の名誉を侵害するものとして、いずれも不法行為にあたる。



原告敗訴(原告は被告に対し、60万円慰謝料支払い命令)
原告控訴
15 H9.2.28 日本フォークシェルフ(ちらし広告会社)損害賠償請求事件 東京地裁 原告:女性労働者
被告:男性社長、会社


1.原告は平成2年5月、被告会社に雇用された。事務所には、原告と被告社長と2人でいることが多かった。

2.被告社長は、原告と事務室で二人だけになったとき、手や尻に触る、抱きつく等の行為を行った。また、生理の状況を尋ねたり、背後から羽交い締めにし、小便をさせるような恰好をさせた。その後、原告が、被告に対して事務的にのみ接するようになったところ、ささいなことに怒鳴るなど、仕事上の嫌がらせを行った。
 その後、被告は、原告を勤務態度不良を理由に解雇した。

 (被告の責任)
1.被告社長は、平成4年8月ころから平成5年7月ころまでの間に1カ月に数回にわたり、事務室で原告と二人だけになったとき、原告の手や尻に触り、あるいは倒れかかったふりをして抱きつく等の行為を行った。(また、)原告が入社してから平成6年2月7日ころまでの間、少なくとも数回にわたり、勤務中の原告に対して生理のことに関して「まだあるのか、おかしいんじゃないか。女房はとっくに終わってるぞ。」「若い子だったら聞けないが、量は多いのか。」等と聞いた。
 被告は、平成6年2月7日午後4時ころ、事務室で原告を追いかけ回し、捕まえて羽交い締めにして「おしっこしーしー」と言いながら、母親が後ろから幼児を抱えて小便をさせるような格好をさせ、原告が泣いていると再度追いかけ回し同じことを行った。
 被告社長の右各行為は、原告の人格権を違法に侵害するもので不法行為を構成するものと認められる。

2.解雇は、普通解雇を前提としても解雇権の濫用にあたる違法なものであると認められる。そして、原告は、被告社長の違法な解雇により、結果的に被告会社で勤務を続けることができなくなったのであるから、被告社長の右行為は不法行為を構成するものと認められ…。

 (被告会社の責任)
3.…で認定した不法行為は、勤務時間中に被告会社の事務室内で行われたものであるし、原告がこれを拒絶できなかったのは、被告社長が被告会社の代表者としての地位を利用して行った行為であったためと認められる。したがって、右各不法行為は、被告社長の代表者としての職務執行と密接な関連性が認められ、被告会社はこれについて民法44条1項により、被告社長と連帯して責任を負うべきものであると認められる。

原告一部勝訴セクハラ行為に50万円、解雇に50万円、慰謝料計100万円認容
確定
16 H9.3.18 北菱(建設業)慰謝料請求事件 旭川地裁 原告(反訴被告):女性労働者
被告(反訴原告):男性社長(反訴原告)、会社


1.原告は、被告は原告に対し、性的要求を行ったり、自宅に誘って抱きついてきたり、営業途中で原告の身体に触ったりする等の行為を計9回にわたって行い、原告は性的屈辱に甘んじるか、職場を去るかの選択に迫られ、結局、平成4年9月18日、被告会社を退職するに至ったと主張。

2.これに対し、被告は原告の主張は、虚偽の事実であり、原告の提訴によって、被告及び家族は精神的打撃を受けるとともに被告及び被告会社の社会的信用が失墜したと主張。

(被告社長の責任)
1.各行為の際、原告は被告に当該行為をやめるように言ったり、その場から逃れたりするなど、被告の行為が原告にとって不快であり、これを許容する意思のないことを、言葉又は態度によって明確に示したことが認められ・・、すべての行為が原告の意思に反するものであったと認められる。

2.各行為は、原告に対する身体的接触を内容とするものであるがいずれも、その態様自体に性的意味合いが認められるものであり相手方の意思に反してこれを行うことが許容されるものでないことは明らかというべきところ、… 、被告は、これらの行為が原告の意思に反するものであることを認識しつつこれを行い、継続したことが認められる。
 また、被告は、被告会社の代表取締役として、従業員の就労環境を維持改善すべき立場にあるというべきところ、女性従業員が右のような行為を受けた場合、精神的に就労を継続すること自体が困難となる場合のあり得ることを十分予見しえたといわなければならない。

3.原告は、被告の右行為によって羞恥、不安、嫌悪などの精神的苦痛を経験するとと共に、被告会社での就労を継続して被告の右行為を甘受するか、被告会社を辞めるかのいずれかを選択せざるを得なくなり、最終的に後者を選択したことが認められる。そうすると、被告の右各行為は、原告の、性的領域における人格の尊厳を故意に侵害する不法行為にあたると同時に、原告の雇用関係継続に対する権利をも不当に侵害する行為というべきである。
 
(被告会社の責任)
4.各行為は、被告会社の代表取締役である被告が、その職務を行うにつきなした不法行為というべきであるから、被告会社は、商法261条3項、78条2項、民法44条1項により、右各不法行為によって原告に生じた損害を賠償すべき義務を負う。

5.被告らの反訴請求は理由がない。


原告一部勝訴慰謝料200万円認容
被告控訴
17 H9.3.27 京都大学慰謝料請求事件 京都地裁 原告:男性大学教授
被告:女性大学教授



 被告が京都新聞に掲載した手記及びシンポジュームにおいて配布した文書によって、原告の名誉が毀損されたと主張。

1.被告が本件手記(注:平成6年1月25日付け京都新聞朝刊掲載)及び同文書(注:同年2月20日開催の「大学でのセクシュアルハラスメントと性差別を考えるシンポジューム」において配賦した文書。)を公表した行為は、その各事実記載部分については真実もしくは真実であると信ずるに足りる相当な理由があり、その各論評部分については通常人が持ちうる合理的な論評の範囲を越えるところがない相当なものであるから、結局、原告の名誉を遵法に毅損したとの責任を負うものではない。

(注:手記の争点となった部分−「東南アジア研究センターは勤務環境改善委員会を設置し、矢野元教授のセクシュアルハラスメントといわれるものについて調査を行った。」「その過程で浮かび上がってきたのが、一人の女性の、レイプに始まるすさまじいまでのセクハラの証言であった。」「こんななかでたった一人、京都弁護士会人権擁護委員会に申し立てしたのが、研究者の道を歩み始めた甲野乙子さん(仮名)である。数年にわたるセクハラの生々しい証言は、それが事実であるかどうかやがて法律家の手によって裁かれることになるであろう。」
判決は、この部分については真実であるとの証明がなされた、その余の部分についても、真実もしくは真実であると信ずるに足りる相当な理由がある、と判示した。

(参考)研究室の朝礼で唱和させていたとされる「五訓」なるものとは、以下のとおり。
(1)矢野先生は世界の宝、日本の柱です。誇りをもって日々の仕事にはげみましょう。
(2)矢野先生が心安らかにご研究とお仕事に専念できるよう、私たちは、自分の持てるすべてを捧げてお尽くしいたしましょう。
(3)略
(4)略
(5)略

2.原告の請求棄却


原告敗訴、確定
17−2 H9.7.9 京都大学慰謝料請求事件 京都地裁 原告:男性大学教授(上記と同一人)
被告:弁護士(原告によるセクシュアルハラスメントの被害者等の代理人)


 原告によると、被告は文部大臣に対し、原告が性的暴力、セクシュアルハラスメントを行ったとする報告、これについての文部省としての見解等を求めた質問書を送付したほか、原告がセクシュアルハラスメントに及んだと弁護士会に人権救済の申立てた要旨を公表したことにより、精神的な苦痛を受けたと主張。

1.被告が本件質問書を送付した行為が不法行為を構成するほどの違法性を有するものとまでは認めることができない。

2.本件申立書要旨はその主要部分が真実であるか、被告がこれを真実であると信ずるについて相当の理由があるものであって、これを報道関係者に配布してその内容を告知したことは不法行為にあたるとはいえない。

3.原告の請求棄却。



原告敗訴、確定
18 H9.4.17 京都(呉服販売会社)損害賠償等請求事件 京都地裁 原告:女性労働者
被告:男性社長、専務、会社


1.被告会社の従業員Mは、ビデオカメラで、女子更衣室の原告らの様子を密かに撮影していた。

2.被告会杜はこれに気付いたが、カメラの撤去、犯人の追及、警告等十分な措置を取らなかったため再び同様の撮影が続けられた。最終的に会社はビデオカメラを撤去し、この就業員Mを懲戒解雇処分とした。

3.この件以来、原告は会社の雰囲気が悪くなったと感じていたことから、朝礼において会社を好きになれないと発言をした。この発言に対し、翌日の朝礼において、被告専務は、原告が従業員Mと男女関係にあるかのような発言をし、原告が勤務を続けるかどうか一日休んで考えてくるように発言した。
このことから、同僚が原告を避けるようになり、原告は職場にいづらくなり退職した。

(被告専務の責任)

1.被告専務は被告会社の取締役であって、…、その発言は社員に大きな影響を与えるから、被告専務は、不用意な発言を差し控える義務があるというべきである。また、不用意な発言をした場合には、その発言を撤回し、謝罪するなどの措置を取る義務があるというべきである。それにもかかわらず、 …原告に対して退職を示唆するような発言をしたうえ、そのため社員が原告と関わり合いを避けるような態度を取るようになり、人間関係がぎくしゃくするようになったことから、原告にとって被告会社に居づらい環境になっていたのに、何の措置も取らなかったため、原告は退職しているから被告専務は、原告の退職による損害を賠償する責任を負う。

(被告会社の責任)

2.被告会社は、雇用契約に付随して、原告のプライバシーが侵害されることがないように職場の環境を整える義務があるというべきである。そして、・・被告会社は、女子更衣室でビデオ撮影がされていることに気付いたのであるから、・・・再び同じようなことが起こらないようにする義務があったというべきである。それにもかかわらず、・・・その後何の措置もとらなかったため、再び女子更衣室でビデオ撮影される事態となったのであるから、平成7年6月ことに気付いた以降のビデオ撮影によって生じた原告の損害を賠償する責任を負う。
 なお、平成7年6月ころに気付く以前のビデオ撮影については、責任を負わない。

3.被告会社の取締役である被告専務が、朝礼において、本件(専務)発言をしているから、被告会社は、民法715条により本件専務発言によって生じた原告の損害を賠償する責任を負う。

4.被告会社は、雇用契約に付随して、原告がその意に反して退職することがないように職場の環境を整える義務があるというべきである。そして…、 本件専務発言によって、社員が原告との関わり合いを避けるような態度を取るようになり、人間関係がぎくしゃくするようになったので、原告が被告会社に居づらい環境になっていたのであるから、被告会社は、原告が退職以外に選択の余地のない状況に追い込まれることがないように本件専務発言に対する謝罪や・・発言を撤回させるなどの措置を取るべき義務があったというべきである。それにもかかわらず、…、被告会社が何の措置も取らなかったため、原告は被告会社に居づらくなって退職させているから、被告会社は原告の退職による損害を賠償する責任を負う。


原告一部勝訴慰謝料100万円認容
確定
19 H9.7.29 兵庫県国立病院(国立療養所)損害賠償請求事件 神戸地裁 原告:女性労働者(洗濯係)
被告:男性上司(洗濯長)、国


1.原告は、兵庫県内の国立病院の洗濯係として勤務する賃金職員である。

2.同病院の洗濯場の洗濯長は、平成5年7月ころから、原告にみだらな言葉をかけていたが、同年11月18日に、原告に対し、胸を触らせるよう要求したり、無理矢理胸を触るなどの行為をした。平成6年2月11日、被告が原告を乾燥室の中へ引き入れようとしたのを原告が拒否したところ、原告を意図的に無視し、口をきかず、仕事の指示を与えない、仕事を与えないなどの行為を行った。
 また、原告は訴外病院の事務長補佐に対し、被告上司の嫌がらせ行為を改善するよう要求し、病院も事実確認等を行い、被告に対して職員を公平に取り扱うよう指示したが、嫌がらせ行為は続けられた。

 (被告上司の責任)
1.被告上司は、原告の意思を無視して性的嫌がらせ行為を繰り返し、原告が性的嫌がらせ行為に対して明確な拒否行動をとったところ、職場の統括者である地位を利用して原告の職場環境を悪化させたものである。被告上司の右一連の行為は、異性の部下を性的行為の対象として扱い、職場での上下関係を利用して自分の意にそわせようとする点で原告の人格権(性的決定の自由) を著しく侵害する行為である。
 そして、被告上司の右各行為は、原告にとって精神的苦痛を与えたものであり、被告上司としては、右各行為により、原告に精神的苦痛を与えるものであることを予見できたといえる。したがって、被告上司は、原告に対し、右性的嫌がらせ行為及び職場でのいじめ行為について、不法行為責任を負うものというべきである。

 (被告国の責任)
2.被告上司の原告に対する性的嫌がらせ行為及び職場におけるいじめは、勤務場所において、勤務時間内に、職場の上司であるという立場から、その職務行為を契機としてされたものであるから、右一連の行為は、外形上、被告国の事業の執行につき行われたものと認められる。

3.被告国が被告上司の選任・監督について相当の注意をしたという事実及び相当な注意をしても損害が発生することが避けられなかったという事実は、本件全証拠によっても認められない。

4.以上のことから、被告国は、被告上司の不法行為について、使用者責任を免れない。

原告一部勝訴慰謝料100万円認容
双方とも控訴
20 H9.8.7 奈良県橿原市役所損害賠償請求事件 奈良地裁葛城支部 原告(反訴被告):女性労働者
被告(反訴原告):男性課長、男性係長


1.原告は平成2年4月採用、同年10月20日から税務部資産税課に配属。被告課長は、同課課長、被告係長は、同課係長であった。

2.被告係長はしばしば原告の胸、尻、髪等の身体を触り、また、原告に対し、性的発言をしたり、宴会では抱きつくなどの行為をしていた。また、被告課長は、被告係長の言動を認識していながら、何ら注意を与えず、かえってはやし立てたり、自ら原告に対し性的発言等を行った。
 このため、原告は被告らの不法行為により、精神的苦痛を被りそれが一因で抑うつ状態になり、休職するに至ったと主張。

3.これに対し、被告らは、原告の主張する被告らのセクハラ等の行為は全て事実無根であるとともに、多大の精神的苦痛を被ったと主張。

1.原告は、被告係長にお茶を持っていく際などに被告係長から、「月に5万でどうだ。セックスは週に何回だ。1回させてくれよ。今日の下着は何色だ。」などと性的嫌がらせを行った。被告係長は、お茶を渡そうとする際に、原告の手の上から覆いかぶせるように手を握りながら、「1回させてくれよ。」と言うのが常であった。また、卓上のヌードカレンダーを見せながら「おまえもこんなものか」と言った。
さらには、宴会において、原告に抱きついたり、大腿を触ったり、原告についてトイレに入ってくるなどの行為に及んだ。
 被告課長は、被告係長の言動を見聞きしながら、何ら注意を与えず、かえって・・・。
 原告は、被告らの以上のような言動により精神的打撃を受け、平成6年初めから出勤できなくなった。

2.(注:これに対して被告らは、上記の事実の一切を否定したが、証人の同課所属職員の証言に信憑性があり、被告らの主張は採用できない。とした。)

3.被告らの各発言内容や行為の態様・程度・期間、原告と被告らとの職場における地位や上下関係、被告らの役職等に照らせば、被告らの前記言動が、原告の人格権を著しく侵害するものであり、不法行為を構成することは明らかである。

4.反訴請求は棄却。



原告勝訴150万円(課長)100万円(係長)の慰謝料認容
確定
21 H9.9.25 大阪市立中学校損害賠償請求事件 大阪地裁 原告:女性教諭
被告:同僚男性教諭


1.原告及び被告は共に、大阪市立中学校の英語教諭である。

2.被告は、原告が重要な仕事をまかせられるようになると、原告に対し、嫉みを持つようになり、周囲に原告は性的に不満である等の性的発言や仕事において信用できない人物等の発言など、原告を誹議中傷する発言を繰り返した。

 被告は、原告を嫉み、…、平成5年6月から平成6年にかけて、誹議中傷する発言を繰り返していたものと認められ、(注:その発言のうちに、彼女が生徒に厳しく当たっているのは性的に不満があるからだ。」とか、「彼女に男さえいれば、性的に満たされるのに。」などセクシュアルハラスメント的発言も含まれていた。)右被告の行為は、原告に対する嫌がらせ、苛めと評価することができ、原告の人格権を侵害するものというべきであるから、不法行為に該当する。



原告一部勝訴慰謝料50万円認容
被告控訴
22
H9.10.27 大阪(英会話スクール)慰謝料請求事件 大阪地裁 原告:女性労働者
被告:男性社長

 真意であったとまでは認められないものの、「辞めるか、身体を提供してもらう。」との発言について、違法性があるとされた例。
1.被告社長は、原告にたいし、執務室において「12月末までにプレッジ(営業目標)を達成できないときは、辞めるか(被告に)身体を提供してもらう。」等と言って原告に性的要求をする発言を繰り返した。

 確かに・・・原告に身体を提供してもらうことが被告の真意であったとまでは認められず、本件提案をするに至ったのは、原告の仕事上の誤りを隠す等の問題行動があったためであることが認められる。しかし、本件提案は相手が若い女性である原告であるからこそ、性的行為を条件とすることによって、その言動が変えられると期待してなされ、実際にもその効果が上がっていること、また・・・雇用の継続と引換であったからこそやむを得ず、承諾したものと推認されるところからすると、身体提供の約束をさせたこと自体、・・・違法性が認められ・・・。

2.その余については、(原告が主張する「洗面所で胸元に手を入れて、、」「スカートに手を入れ太股や下腹部を触った」「さわらせないと仕事のやり方を教えない」等)すべて、矛盾、不自然であり、採用できないと棄却した。


原告一部勝訴、慰謝料等33万円認容。
23 H9.11.5 三重県厚生農業協同組合連合会等慰謝料請求事件 津地裁 原告:女性看護婦(T、Kの2名)
被告:男性看護士、県厚生農業協同組合連合会


1.原告T及びKは、被告厚生農協連合会が運営する鈴鹿厚生病院の看護婦及び准看護婦である。病院は主として精神科を診療科目としている。一病棟における深夜勤は、原則として男女1人ずつの2人1組で行う。

2.被告看護士は、職場においてすれちがいざまに原告らの身体に触ったり、卑狼な言葉をかけたりし、また、深夜勤務の度に、拒否の意思表示をしているにもかかわらず、休憩室において休んでいる原告らの胸や大腿部等に触ったりした。

(被告の責任)
1.被告看護士のひわいな言動は原告らにとって嫌悪感をもよおすものであり、第三者からみても冗談の範囲を越えていたと思われるが、…、原告らにとって上司にあたることもあって、原告らは監督責任者に対し早期に訴えることができなかった。

2.被告看護士の前記行為は、原告らに対し、いわゆる環境型セクシュアル・ハラスメントに当たり、不法行為に該当すると認められる。

 (被告連合会の責任)

3.本件の深夜勤務中の行為は、業務中、休憩室において行われたものとはいえ、…被告看護士の個人的な行為であるから、業務を契機としてなされたものではなく業務との密接な関連性は認められない。また、被告看護士の日常勤務中のひわいな言動は、やはり被告看護士の個人的な行為と認められる上、右深夜勤務中の行為と相まって不法行為となるものであると考えられるので、右言動のみについて被告連合会の使用者責任を認めることもできない。

4.使用者は被用者に対し、労働契約上の付随義務として信義則上職場環境配慮義務、すなわち被用者にとって働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき義務を負っており、被告連合会も原告ら被用者に対し同様の義務を負うものと解される。

5.被告看護士には、従前から日常勤務中特にひわいな言動が認められたところ、被告連合会は被告看護士に対し何も注意しなかったこと、S主任は平成5年12月時点で原告Kから被告看護士との深夜勤をやりたくないと聞きながら、その理由を尋ねず、何ら対応策をとらなかったこと、平成6年1月28日S主任は原告Kから被告の休憩室での前記行為を聞いたにもかかわらず、直ちにH婦長らに伝えようとせず、被告に注意することもしなかったこと、その結果、同年2月1日深夜、被告の原告Tに対する休憩室での前記行為が行われたことが認められる。

6.被告連合会は、平成6年2月1日以降、被告看護士の行為について対応策をとったものの、それ以前には監督義務者らは何らの対応策をとらずに被告看護士の行為をみのがして、…の被告看護士の原告に対する行為を招いたと認められる。

5.被告連合会は原告らに対する職場環境配慮義務を怠ったものと認められ、その結果被告が休憩室での前記行為を招いたといえるから、原告らに対し債務不履行責任を負う。

原告一部勝訴慰謝料50万円認容
確定