賃金制度−年俸制(1)
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<目次> ■年俸制に関するメモ(参考) ・年俸制の導入目的 ・一般的に指摘される年俸制のデメリット ・適用対象層 ・年俸の構成と支払方法 ・業績評価方法の事前検討 ・年俸制の変動率 ・年俸制雑感(1)JOBローテーション ・年俸制雑感(2)職能給(personnel)と職務給(job) ■年俸制と法律問題 ■管理職年俸制を適用者はどう評価しているか (労務行政研究所による調査から) ■年俸額を使用者の一方的裁量で減額できない(H9.1.24東京地裁)決定 ■最近の年俸制の導入と見送りの動き(H9.6記) ■社員の評価に悩む−−年俸制導入企業の4割(H10.4追加) 年俸制に関するメモ(参考) 目次に戻ります ■年俸制の導入目的 一般的にアンケートにあらわれる導入目的は次のようなものである。 ○より業績主義を強めた賃金決定を行う ○経営陣の一員であることの自覚を促す ○従業員のインセンティブ強化 ■メリット ○年功賃金に代わる業績、成果主義賃金の要素を入れた新しい賃金制度の確立ができる ○「目標管理」とりわけ、目標を個人別に設定しやすい(その際にも、目標ハードルを高 めに設定しやすい) ○賃金のコスト管理がしやすい(絶対額管理になじみやすく、会社業績が下がったときに 対応しやすい) ○優秀な人材の早期選抜ができる 目次に戻ります ■一般的に指摘される年俸制のデメリット ◎目先の業績のみ追求 ◎不公平感の上昇 ◎連帯感の消失 ◎部下の育成軽視 その他各種アンケートから ○年俸制導入前に予期したような賃金の柔軟化は図れなかった ○目先の業績のみを追い本質的な生産性の向上を失った ○短期的な業績を追う恐れがあり、ホワイトカラーのねばり強い意欲を低下させた ○失敗が自分の年収につながるため、仕事に対する失敗を恐れるようになった ○安定的に業績をあげるタイプの社員に酷であり、やる気を失わせる ○「目標管理」において、なぜ高めのハードル設定をするのか理解されない 目次に戻ります ■適用対象層 ◎業務に対して自己決定できる裁量性があること。結果に責任をとらせても不平が出ない などの権限と責任が付与されていること。管理職層のうちでも、上級管理職層に最も適合 する賃金制度である。 ◎報酬水準が一定の高さがあること。生活給に食い込むような賃金水準では、年俸制を採 用する余地はない。当該地域の平均給与年俸の2割アップ位を年俸制適用の下限報酬とし たい。 (業績評価による年俸ダウンの下限10〜20%を考慮した場合) 労務行政研究所の97年の年俸制を導入している主要28社283人の部課長調査にみる 年俸水準は、つぎのとおり。
年俸水準と割合(%)
600万〜700万円台 | 2.8 |
800万〜900万円台 | 10.2 |
1000万〜1100万円台 | 20.1 |
1200万〜1300万円台 | 36.0 |
1400万〜1500万円台 | 21.6 |
1600万円以上 | 8.8 |
◎一般従業員への適用は、思ったような成果は期待できないだろう。 (後述するような「年俸制と法律問題」で取り上げるような時間外労働の割増賃金支払い 等の問題を解決するにしても、、) わが国の場合、一定年齢までは「年齢給」要素を賃金体系からなくすことは困難と思われ るし、配置や異動の面で相当の制約を受けることになる。 また、生産部門従事者のように、個々人が裁量する余地が少ない者にも年俸制は不向きで ある。 一般従業員で検討の余地があるとすれば、技術研究職層(1年で研究成果のでない研究部 門の取扱い問題はある)と営業の一部くらいであろうか。 ◎年俸制の採用は、それを採用しない場合と比較して同程度の効果しか見込めないようで あれば採用する意味はない。一般的に指摘される年俸制のデメリット「目先の業績のみ追 求、不公平感の上昇、連帯感の消失、部下の育成軽視」などのマイナス面だけしか手元に 残らないからである。 目次に戻ります ■年俸の構成と支払方法
a | 基本年俸+賞与 | 月例賃金の12倍を基本年俸とし、賞与は別立で支払う方法 例えば、賞与が5ヶ月分あるとしたらこれは、年俸にまったく組み入れないで従来通り残しておくタイプ。 |
b | 基本年俸+業績賞与 | 基本年俸は月例賃金×12+基本賞与で構成し、業績賞与を付加する方法 例えば、賞与が従来5ヶ月分あるとしたら、このうち3ヶ月分を基本賞与として年俸に組み込み、残の2ヶ月分を業績賞与とするタイプ。 |
c | 年俸(賞与合算) | 月例賃金と賞与を含め全て年俸化するタイプ。 このタイプは、その年の年俸に確定修正を加えるためには、中間の見直しを行い、企業業績や本人の成績を考慮して後半の年俸額を修正する必要が出てくる。 |
いずれの場合も、諸手当は月々、別途支給することとなる。 このほか、理論上はプロ野球契約のような単一型年俸もありうるが、ビジネス界では例外 的であり馴染まないと思われる。 現在、大企業を中心に採用されている年俸制でも上記の a型 b型 が多い。 お気づきであろうが、 a型 b型 は基本的に、業績評価の反映は賞与部分において行う ものである。何も年俸制などと言わず、ボーナス査定をきっちりやれば年俸制と同様の効 果が出せるではないか、と思われる方もあるだろう。 実はそのとおりである。年俸制賃金制度には、後述するように運用を誤ると大きなデメリ ットを伴うことがあるから、中小企業ではまず、職能給制度(職能給+年齢給を基本とす る)の検討ないし的確な運用に留意し、業績や成果に応じたボーナス査定を行うことでの 対応の方が現実的と思われる。 (採用企業での年俸のダウン幅がせいぜい10%平均までと言われているから、通常のボ ーナス査定とほとんど相違が現れるわけではないと思われる。) なお、支払方法に関して、年俸を12等分して支払い、賞与時には支給しない方法は、現 状では社会保険料等の支払いが労使ともに増えることを覚悟しなければならない。 また、解雇・休業・労災補償における平均賃金及び一般従業員への年俸制の適用において は、割増賃金の算定基礎額のいずれもが、高くなるという問題もある。 現状では、賞与支給を併用する企業がほとんどである。 ■基本年俸の構成部分 ○基本年俸の構成は、職能給制度を採用している企業であれば、その主要な構成要素であ る「職能給+年齢給+諸手当」の年齢給部分を役割給に置き換え「職能給+役割給+諸 手当」の賃金体系に変更して、これを12倍して基本年俸に持っていくケースが多いよ うである。 ○「年齢給」は刻み幅の大小はあっても、漸増する傾向があるが、「役割給」は役割が上 がれば上がり下がれば下がるという可変要素を持った賃金であるところに相違がある。 ○「職能給」は通常、毎年1号昇級などの定昇制度を持っている例が多いから、この場合 は、年俸制においてもその限りでの賃金上昇は行われる。ベースアップも当然に反映さ れることとなる。 ○日本型の年俸制は、ベースとなる賃金体系があって、それを、職能年俸、役割年俸等と して年俸額に換算しているわけであるから、基本となる賃金体系をしっかり整備してお く必要がある。 ■年俸以外の手当 ◎年俸以外に支給される手当てで代表的なものは、単身赴任手当と通勤手当である。 ◎その他、地域手当、家族手当など。 ◎諸手当の支給は、年俸制に移行しない社員との均衡上、手を加えない例の方が多いよう である。 ◎非管理職には、時間外労働手当の支払いが法律上必要となる。 目次に戻ります ■業績評価方法の事前検討 年俸制賃金の評価は、役割とその役割の達成度で成果を判定するのが基本である。 「役割の評価」と「達成度の評価」基準が明確にされる必要がある。 「役割の評価」 ○役割の大きさを客観的に測る。 役割評価の要素としては、通常、質・量の両面が考慮される必要がある。 例: 量的側面 部下数、担当エリア、取扱品目・物量、予算額などであるが、計数化になじみやすい。 質的側面 役割評価はかなり困難である。 1 企業への貢献度、、、役割の失敗のマイナス効果、成功のプラス効果を計る。 2 チャレンジ度、、、、与えられた固有の役割を基準に、加点主義でチャレンジ度を 点数評価する。 3 知識、技術、ノウハウ、、その役割の遂行に求められる知識、技術等の程度 4 心身の負担度、、、、、、その役割の遂行における心身の負担度を評価する。 ○役割に応じた(企業が期待する)貢献内容を明確にする。 ○役割に応じた権限と責任範囲を明確にする。 「達成度の評価」 ○期間内に達成を期待される成果が何かを明確にする。 ○特に、期待される成果の内ポイントとなるものは何かを明らかにすることが重要。 ○納得性を担保するための手続を重視する。(目標面接・評価面接、異議申立制度) ○「達成度の評価」結果は、通常、『次年度の基本年俸の役割給部分』と『当年度の賞 与部分』の双方に反映される。役割の年間達成度は一定の計数で現し、次年度年俸の 役割給(業績給と呼んでもよい)に反映される。 また、当年度の業績賞与部分に直ちに反映される。 ○「達成度の評価」計数は、5段階程度の刻みで設定されるケースが多いが、上限・下 限の設定に、その企業の年俸制の特徴が現れる。 *その他の留意事項 1 数値項目で結果評価を行い得るか 2 数値で評価しにくい仕事については何をもって客観評価を行うか 3 目標数値の決定をどのように行うか(申告制では実力のある人ほど目標が高くなって しまう) 4 本人の責任とは言えない要因が発生したとき、目標未達成をどのように考慮するか 5 4と逆にラッキーの要素をどのように評価に組み入れるか 6 チームワークや短期の業績にあらわれない努力をどのように評価するか 7 人事異動による引き継ぎは、前任者との責任範囲をどのように区分するか 企業の必要性から異動させた場合には、新業務への習熟期間が短ければ、短期的に業 績が落ちるが業績評価において、どのように評価するか。 8 1年以上の期間を要する仕事への評価は、どのようにするか 9 将来における創造性、役割遂行におけるチャレンジ性、協調性、部下育成、といった 長期的な視野や短期業績ではとらえにくい成果を、どう評価していくか。 10 能力があっても成果を上げるチャンスが与えられない(団塊世代の下位管理職層への 集中など、機会均等が担保されていない場合など)状況がある場合、どうするか。 目次に戻ります ■年俸制の変動率 ○年俸制の変動率(上限、下限)を決めていないところが多いが、少なくとも下限は対象 者に明示しておくことが望ましい。とくに、大幅なダウンを伴うケースは、あらかじめ例 示しておくのが納得性を高める上で効果的である。 ○低い評価を受けた者のモラールダウンは、多少なりとも避けがたいところがあるが、納 得性を確保することで対処する。 ○標準的年俸額の水準は、年俸非適用者や世間水準との比較で定期的にチェックする必要 がある。 ○個人業績と企業業績は必ずしも一致しないことがある。変動率を企業業績に一定程度、 対応させるケースが多い。 ○アンケート等では、評価による望ましい査定幅として上限割合で20%程度(金額で2 00万円程度)が、下限割合で10%程度(100万円程度)が最も多い。 (労務行政研究所の主要28社283人の部課長調査) 目次に戻ります ■年俸制雑感(1) 労働の対価だけで日本の賃金は成立しない。 初任給19万円では定期昇給が必要になる。本人給(年齢給)が必要であろう。 そして、JOBローテーションを前提に、人の育成と生産性の向上を目指そうとするなら 、賃金体系の基本部分には職能給制度を置かざるを得ないだろう。 社員の階層をわけて、それぞれに対する賃金についての考え方を整理する必要があろう。 本人給(年齢給)でカバーする必要のないまでに、生活保障賃金の水準が高められた段階 からは、本人給を職務給(役割給)に置換えることが検討されていいだろう。 *職務給は一度、日本で、賃金制度の基本として検討されながら定着しなかった歴史があ る。 年俸制賃金は、改めて、職務給(役割給)賃金制度への回帰を試みようとするところがあ る。日本において職務給が定着しなかったのにはそれなりの理由があったと、見るべきで あるから、「一般従業員の年俸化」とか「全社員年俸化」とかが、安易に導入されること には頚をかしげざるを得ない。 最も、現状の年俸制は、いわゆる日本型年俸制とも言うべきもので、年俸額の構成割合も 、役割給(35〜40%)と職能給(60〜65%)となっている例が多いようである。 目次に戻ります ■年俸制雑感(2) 年俸制賃金は、職能給(personnel)と職務給(job)(役割給)を併せた要素をもつ賃金体系 が一般的であるが、ここにいう『職能給』と『職務給』の特徴とはなにか。 職能給の特徴 ・職務遂行能力のランキング化 (能力の把握について絶対的でなくあいまいさが残る点もあるが、、) ・能力評価し、処遇し、能力開発を行い、能力評価し、処遇し、能力開発を行う。 (従業員の採用→OJT中心の教育→従業員の能力・スキル向上→生産性・品質向上を ベースとし、長期安定雇用を前提とした日本企業のJOBローテーションになじむ) ・定期昇給制度になじむ。 (年功的になりやすい、賃金は硬直的、賃金ダウンがない、賃金上昇のパフォーマンス が出にくい問題点はあるが、、) ・職務評価が比較的簡単で導入しやすい。 能力とはなにか ○今やっている仕事がどの位できるか ○社員として期待する能力がどれだけ身についているか ○人間として何ができるか ○将来何ができそうか (備考) 能力が高い人間は与えられた仕事が出来る、と推測できる。 では、逆に結果が悪い人間は能力が低いか、? 職務給の特徴 ○職務給のメリットとデメリット
メリット |
1 職務に合わせて、人を採用・配置するので人件費の面では効率的である 2 仕事中心の評価基準となり、納得性は高い 3 中途採用方式で人を採用する場合、なじみやすい (オープンな労働市場の形成があれば) 4 教育訓練の節約が可能である 5 適正配置の面でも効果を発揮する |
デメリット |
1 人材配置・運用の柔軟制に欠ける ・JOBローテーションができない ・多能化の促進が困難 ・配置転換に困難を伴う 2 ポスト不足に対応しにくい 3 仕事が変るたびに賃金が変る(生活の維持に障害、不安) 4 人によってはあっという間に賃金が天井に行ってしまう 5 長期安定雇用にマッチしにくい 6 職務に人をはめ込むため、人材の育成・活用のための職務配分ができない |
一般に、職務給導入の前提条件としてはつぎのような点が指摘されている。 また、過去、日本で職務給が定着しなかったのは、この前提条件がクリアできなかったと いうことでもある。 1 職務が標準化できる、またされている (技術革新の早さは職務の標準化に困難を伴いやすい。) 2 最低職級の賃金水準が、生活保障給のレベルにある 3 職種別、産業別組合が組織化され、横断的な職種別賃金が形成されている 4 横断的な労働市場が形成されており、転職の自由が確保されている 5 適正配置が行われ、また行い得る条件にある 管理職年俸制を以上の条件に当てはめてみると、少なくとも、1,2,5の条件はクリア しているように思われる。 目次に戻ります 見送り 日本経済新聞平成9年2月6日朝刊より 三菱レイヨン、年俸制拡大急がず −−300人対象 導入見送り視野−− 部長級への評価・公平性難しく 三菱レイヨンは部長級を対象にした年俸制の導入を延期する。事業部長を対象に実施し ている年俸制を7月から部長級まで拡大する計画だったが、「部長の業績評価システム を構築するには時間が必要。拙速は禁物」(田口栄一社長)と判断した。産業界では年 功序列型の賃金体系を能力・実績重視型に移行する動きが相次いでおり、年俸制の導入 は加速している。しかし、年俸を決定する人事考課でいかに公平性を維持するかが課題 となっており、三菱レイヨンの決断は最近の人事制度改革に一石を投じることになりそ うだ。 部長級への導入延期を決めたのは、上司−部下に代表されるピラミッド型組織構造の下 で「果たして公平な評価基準ができるかどうか」(三菱レイヨン)との不安が残ってい るからだ。 事業部長の場合、社長をはじめとする役員陣が本人をよく知っているため、多面的に実 績を評価、把握できる。しかし、部長級になると、直属上司の役員以外が詳細な実績を 把握するのは困難で、所属部署などによって評価にばらつきが生まれる公算がある。年 俸制導入は社員の意識改革を徹底するのが狙いだが、公平感を欠く評価が多発すれば、 活性化を狙った年俸制が逆に社員の士気を弱める要因になりかねない。「事業部長級に 関してはスムーズに運営されている」と同社は説明する。 同社は昨年7月、管理職の3分の1にあたる事業部長と工場長、役職定年(55歳以上) を迎えたシニア社員の合計約300人を対象に年俸制を導入。今年7月には部長級約3 00人も対象に加える計画だった。現在の部長級の賃金体系は職能(資格)に連動した 通常の月給方式を採用している。 年俸制の前提となる評価方法は、所属部署や資格などに応じてあらかじめ対象者の持ち 点(ポイント)を決めておき、各人に1年間の業績目標を提出させる。1年経過した段 階で、直属の上司(役員)を含む複数の役員がチェックし、横断的な評価を下す。 減収の場合もあるが、初年度に限り「前年度実績の10%以下」にとどめる。ただ、2 年目以降は下限を設けず、年収は最大200万円程度の差が生じる。 同社は現在、部長級を対象とした年俸制を98年7月までに導入する方針は堅持してい る。新たな評価システムを作成するが、公平で客観的な人事考課基準が設定できなけれ ば「年俸制そのものの見直しもあり得る」(田口社長)としている。 目次に戻ります 導入 朝日新聞平成9年6月3日朝刊より 「競争原理」で生き残り模索 マスコミ幹部に年俸制 TBSが部長以上の管理職を対象に年俸制を導入する方針を固めた。早ければ10月か らスタートさせることになりそうだ。マスコミ幹部の年俸制は、電通をはじめ広告代理 店などで広がりを見せているほか、日本経済新聞社も来春から局長クラスでの導入を予 定している。外国資本が参加する衛生デジタル放送の開始などメディアを取り巻く環境 が大きく変わる中で、「競争原理」をキーワードに横並びの年功制が崩れ始めている。 採算を重視する分社化を視野に入れる動きも目立ち、組織全体の見直しが加速している。 放送 TBS、、、対象となるのは社員1500人のうち局長、局次長と専任部長などを除く ライン部長の計役170人。これまで5段階の査定はあったものの、実際にはBかCの 評価が多く、給与の差があまり開かなかったという。年俸制になると年齢に従って昇級 する仕組みはなくなる。、、、(略) 放送局の中では、NHKが1991年度から職員の3%にあたる局長、局次長級(計約 130人を対象に、コスト意識を徹底させるとして、年俸制に踏み切っている。ただ、 役職の「基本給」は同じで、ボーナスで差がつく内容となっている。 新聞・広告 新聞社や出版社にも、年俸制は広がろうとしている。 日本経済新聞社は理事(局長クラス)の約80人を対象に来年3月から始める見込みだ。 同社社長室は「仕事の成果に応じて賃金が決まる年俸制の導入により、会社のリーダー 格である理事社員の経営への参加意識と、各職務での成果を一段と高める効果を期待し ている」。 徳間書店は、管理職だけでなく約200人の全社員を対象とした年俸制を、来年4月か らスタートさせる方針だ。評価の物差しをどうするかなど検討を進めている。 広告代理店では、大手の電通が昨年4月から局長級約120人を対象に採り入れた。電 通広報室は「過去の評価を蓄積させないことにより、リカバリー(ばん回)を可能にし 大きな仕事にチャレンジしやすくなる」と言っている。 中堅の協同広告は、企画制作部門の専門職のディレクター(部長級)を皮切りに、90 年度から段階的に導入。93年度からは全社員が年俸制となった。やればやっただけ報 いられるという成果主義の風土を醸成し、社員に刺激を与えるのが狙いらしい。、、。 目次に戻ります 年俸制と法律問題 ○賃金の支払方法 年俸制であっても、年俸額を12か月に分けて支払うことが必要。 毎月払いが行われない場合は、労基法第24条第2項「賃金は、毎月1回以上、一定の 期日を定めて支払わなければならない」とする規定に違反する。 ○平均賃金や割増賃金の算定基礎賃金をどう取り扱うか 労基法で、平均賃金の概念を使うのものに、労基法第20条(解雇予告手当)第26条 (休業手当)及び第8章の労災補償等がある。 平均賃金は「算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対して支払われ た賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」(第12条)とされている。 また、割増賃金の計算では、家族手当・通勤手当のほか「1か月を超える期間ごとに支 払われる賃金」を算定基礎から除外している。(施行規則第21条第4号) 平均賃金の計算における「3か月間に支払われた賃金の総額」の捉え方、及び割増賃金 の計算基礎賃金から法定除外されている「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」 の捉え方には、難しい問題がある。 ■年俸の構成と支払方法の項で例示したa型(基本年俸+賞与)b型(基本年俸+業績 賞与)c型(年俸(賞与合算))のうち、b型は基本年俸に組み込まれた確定賞与部分 、c型は賞与自体の性格付けにおいて、取扱い判断の困難性がある。 a型(基本年俸+賞与)の場合、賞与部分を除外して、上記の平均賃金、割増賃金の計 算を行うのが合理的との考えも成り立ち得よう。 一口に年俸制と言っても(上記の3つの型以外あるいはその変形を含め)多様であり、 一様な解釈は困難なケースも多い。 ○割増賃金 年俸制度は、本来の意味では労働時間に単純に比例しない賃金制度として位置づけられ るものである。 労働時間に比例しない賃金制度としては、これまでも「出来高払い賃金」「歩合給」制 度があった。 注意しなければならないのは、これら「出来高払い賃金」「歩合給」の賃金制度におい ても、労働基準法の割増賃金の規定は適用されることである。(注1) 年俸制の適用を受ける労働者が、そのことを理由に労働時間の管理を要しない、又は割 増賃金の支払いを要しないものとして取り扱われることはない。 しかし、適用される労働者層によってその取扱いは若干、異なる。 ■管理監督者(労基法第41条の規定によって、労働時間、休憩及び休日に関する規定 が適用されない。) 労基法による労働時間等の規制を受けず、時間外・休日労働の割増賃金の支払いも不要 であるから、年俸制賃金の適用にもっともなじむ層である。 管理監督者といえるためには、つぎの2点が重要なファクターとなる。 ・部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある 者(職制の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目して 判断する。) ・基本給、役付手当等においてその地位にふさわしい待遇がなされていること。ボーナ ス等の一時金の支給率や算定基礎額について一般労働者に比し優遇措置が講じられて いること。 なお、深夜業(の割増賃金)規定は管理監督者においても適用除外されないから、深夜 割増賃金の支払い義務がある。ただし、労働協約、就業規則その他によって深夜業の割 増賃金を含めて所定賃金が定められていることが明らかな場合には別に深夜業の割増賃 金を支払う必要はない(昭63.2.14基発第150号)とされる。 実務的には、就業規則(給与規定)等に、含まれるとする深夜割増賃金相当部分を(通 常は金額を、場合によっては時間数で特定する。)他と区分して明示しておけば、基本 的に問題ない。 ただし、使用者には、管理監督者の深夜労働従事時間数を把握・管理する義務は残るの で注意が必要であろう。 ■みなし労働の対象者 事業場外労働と裁量労働にみなし労働時間制が適用されている。 みなし労働時間制度は、管理監督者の場合と違って労働時間の規定を適用除外するもの ではない。 まず、「みなし」時間そのものにも、つぎのように割増賃金の支払い義務が生じる点に 注意が必要である。 事業場外労働 事業場外労働は、業務を遂行するために通常、所定労働時間では不足し、それを超えて 労働することが一般的である場合、その業務の遂行に通常必要とされる時間を労働した ものと「みなす」訳であり、この「みなし」時間を労使協定に委ねている。 この場合、みなし時間が法定労働時間の8時間を超える場合、36協定の締結と時間外 労働の割増賃金支払が必要となる。 裁量労働 裁量労働は、労使協定で定めた時間を労働したと「みなす」制度。例えば、1日9時間 と協定すれば、それ以上の労働をした場合も、以下の場合も一律9時間の労働と「みな す」ことになる。法定労働時間の8時間を超えるみなし時間を協定する場合、36協定 の締結と時間外労働の割増賃金支払の義務がある。 加えて、 みなし労働時間制は、労基法第4章の労働時間の算定に限られた取扱いであるため「深 夜業、休日労働、休憩の規定」等の適用が排除されることはない。すなわち、深夜業、 休日労働には、時間数に対応した割増賃金の支払いが必要であり、そのための労働時間 管理が要求されることになる。 みなし労働の対象者への年俸制の適用は、これらの点から(通常の労働者と同様)多く 困難を伴う。 (注1)−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− *労働基準法施行規則第19条 法第37条第1項(割増賃金)の規定による・・計算額は、つぎの各号の金額に(時間 外若しくは休日又は深夜労働時間数)を乗じた金額とする。 第6号 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定 期間において出来高払制その他請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期 間における、総労働時間数で除した金額 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ○欠勤控除 欠勤日数・時間に比例して賃金カットを行うことは可能。ただし、あらかじめ就業規則 (賃金規定)等に定めておく必要がある。 定めがない場合は年俸制が成果・業績主義の賃金制度であることから、基本的には賃金 カットを行わない趣旨と解すべきであろう。 ○年俸労働者の解雇 使用者が年俸労働者を解雇する場合は、3か月以上前の予告を要する。3か月の予告期 間をおかない場合は、その間の賃金支払義務を負う。 (年俸労働者が退職する場合においても、3か月前の予告を要する。これを遵守しない 場合、民事上の損害賠償責任が発生する。) なお、使用者の予告期間が30日に満たない場合は、労基法により刑事上の罰則(6箇 月以下の懲役又は30万円以下の罰金)の適用を受ける。 (注)年俸制は「6か月以上の期間を以て報酬を定めたる場合」(民法第627条第3 項)の規定の適用を受けるため、3か月前の解約の申し入れが必要となる。 ○就業規則の規定 年俸制の「決定・計算・支払方法」、「締め切り日、支払日」「昇給」に関して、就業 規則への定めと所轄労働基準監督署長への届け出が必要である。 ○その他