「新・労働基準法」の実務解説
 
2.労働条件の明示

 
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H10改正・労基法の実務解説2
文責は労務安全情報センターにあります。施行通達が出た段階で一部書き換えがありますからご注意ください。(H11.1.16 記)


労働契約締結時の書面による
労働条件の明示

予備知識
H10年改正のポイント
Q&Aでおさらい
施行通達確認
厚生労働省・モデル労働条件通知書





予備知識


1.労働基準法第15条は、使用者に、労働契約締結の際の労働条件の明示について義務を課していますが、基本的には口頭でも可という制度で、労働契約書を取り交わす慣習のないわが国では、なかなか実効があがらない規定となっていました。

2.その後、昭和51年の改正で、このうち「賃金に関する事項」についてだけは、書面交付が義務づけられました。

3.今回の労基法改正の検討過程では、一時、就業規則の作成義務を5人以上事業場まで拡大することなどについても検討されたりしましたが、最終的には、労働契約締結時(採用時)の労働条件の書面交付の範囲を拡大し、労働条件の明確化をはかることとなりました。






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H10年改正のポイント


1.労働契約の締結に際し、使用者が書面の交付により明示しなければならない労働条件の範囲が、これまでの「賃金に関する事項」に加えて、表1右欄のとおり、新たに4項目が加えられ、計5項目となりました。
  なお、使用者の労働条件明示義務の範囲は、書面交付によって明示する労働条件より広いことに注意する必要があります。(表1左欄参照。)

2.問題となるのは、「就業規則の記載事項の範囲」と「書面による労働条件明示の範囲」について、項目に相違があることです。
  具体的には、表2を参照してください。
  この表からもわかるとおり、書面による労働条件の明示項目のうち、
  ○労働契約の期間(新設)
  ○就業の場所、従事すべき業務に関する事項(新設)
  ○時間外労働の有無(新設)
  の3項目は、就業規則の必要記載事項になっていませんし、実際にも就業規則の記載事項になじまないところもあります。


3.つまり、今後は、就業規則の交付(提示は不可)をもって、労働契約締結時の労働条件の書面交付にかえることができない、ことになりますから注意を要します。
  企業の具体的対応としては、
  1.就業規則を交付(提示は不可)することによって労働条件を明示する場合は、上記の3項目について別途書面で交付することも可能ですが、
  2.実務上は、就業規則を交付している事業場でも、新たに、書面による労働条件明示を義務づけられた事項を様式化して書面交付することになろうかと思います。

4.今回の法改正によって、大手企業を含めて、「雇入通知書」あるいは「労働契約書」の普及が、一挙に進む可能性もあります。

5.労働省が示している「モデル労働条件通知書」を参考に掲載しておきました。 (モデル様式 労働省・モデル労働条件通知書)
  



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(表1)使用者の労働条件明示義務の内容と「労働契約締結時の書面交付により明示しなければならない労働条件」の関係

使用者の労働条件明示義務の内容

書面の交付により明示義務のある労働条件

    1. 労働契約の期間(新設)
1. 就業の場所、従事すべき業務に関する事項 2. 就業の場所、従事すべき業務に関する事項(新設)
2. 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関する事項 3. 始業・終業の時刻、時間外労働の有無、休憩時間、休日・休暇、就業時転換に関する事項(新設)
3. 賃金の決定、計算・支払の方法、締切り・支払の時期、昇給に関する事項
(退職手当及び5.に規定する賃金を除く。)
4. 賃金の決定・計算・支払の方法・締切り・支払の時期(但し、退職手当、臨時の賃金等は除く。)(従来どおり)
4. 退職に関する事項 5. 退職に関する事項(新設)
4の2 退職手当(適用労働者の範囲、決定・計算・支払方法、支払時期)に関する事項    
5. 退職手当を除く臨時の賃金、賞与、これらに準ずる賃金、最低賃金に関する事項
準ずる賃金とは、
・1ヶ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
・1ヶ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
・1ヶ月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給、能率手当
   
6. 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項    
7. 安全、衛生に関する事項    
8. 職業訓練に関する事項    
9. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項    
10. 表彰、制裁に関する事項    
11. 休職に関する事項    





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(表2)就業規則の記載事項と「労働契約締結時の書面交付により明示しなければならない労働条件」の関係

就業規則の記載事項(法第89条)

書面の交付により明示義務のある労働条件

    1. 労働契約の期間(新設)
    2. 就業の場所、従事すべき業務に関する事項(新設)
1. 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関する事項 3. 始業・終業の時刻、時間外労働の有無、休憩時間、休日・休暇、就業時転換に関する事項(新設)
2. 賃金の決定(臨時の賃金等を除く)、計算・支払の方法、締切り・支払の時期、昇給に関する事項 4. 賃金の決定・計算・支払の方法・締切り・支払の時期(但し、退職手当、臨時の賃金等は除く。)(従来どおり)
3. 退職に関する事項 5. 退職に関する事項(新設)
3の2 退職手当の定めをする場合は、適用労働者の範囲、決定・計算・支払方法、支払時期に関する事項    
5. 臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額の定めをする場合はこれに関する事項    
6. 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる場合においては、これに関する事項    
7. 安全、衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項    
8. 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項    
9. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関す事項    
10. 表彰、制裁の定めをする場合においては、その種類、程度に関する事項    
11. 前各号のほか、事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項    








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Q&Aでおさらい

Q:退職に関する事項とは、どの範囲をいうのか

A:定年制度がある場合は定年に関す事項、退職事由と退職手続き、解雇事由と解雇手続き(解雇予告と除外、その他の社内手続き等、懲戒解雇については対象となる事由と手続き)など。
  就業規則の該当箇所を書面化して交付することでもよいでしょう。


Q:モデル様式は示されるのか

A:労働条件の書面明示に関する「モデル様式」が示され、周知がはかられることが予定されています。


Q:「就業規則+不足項目の追加書面」交付の方法で、労働条件明示を行う場合の注意事項は?

A:今回の改正で、労働契約締結時に必要な書面による労働条件の明示は、就業規則の交付のみでは不可となりましたが、前記「改正ポイント」の項で説明したように、不足する3項目(1.労働契約の期間、2.就業の場所、従事すべき業務に関する事項、3.時間外労働の有無)についてだけは、別途、書面交付して、その他は就業規則を交付(提示は不可)することでも要件は満たすことになります。
  但し、就業規則は多数の労働者に対して、選択的な適用区分をもって規定している事項がありますから、当該労働者に適用される部分を明確にした上で交付する必要があります。
 (実務上は、就業規則の交付は交付として行い、別途、法律の要件をすべて満たすような「雇入通知書」や「労働契約書」を様式化して交付するほうが現実的だろうと思いますが、、、。)