「新・労働基準法」の実務解説
 
5.一年単位の変形労働時間制

 
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H10改正・労基法の実務解説5
文責は労務安全情報センターにあります。施行通達が出た段階で一部書き換えがありますからご注意ください。(H11.1.11 記)


1年単位の変形労働時間制 予備知識 1年単位の変形労働時間制の導入要件
H10年改正のポイント Q&Aでおさらい
労働日数・労働時間の制限は新旧どう変わったか(早見表) 施行通達確認





予備知識

1.わが国では、昭和62年改正で変形労働時間制が大幅に拡充された。1年単位の変形労働時間制は、昭和62年改正の際に認められていた3カ月変形労働時間制について変形期間を最長1年に延長する形で、平成5年改正で誕生した制度です。

2.この制度は、「年間単位で休日増を図ること」によって、所定労働時間の短縮を実現するために有意義であるとされています。また、1年単位の変形労働時間制は、「あらかじめ業務の繁閑を見込んで、それに合わせて労働時間を配分するものであるので、突発的なものを除き、恒常的な時間外労働はないことを前提としたもの」(労働省労働基準局)と説明されています。

3.諸外国では、現在、1年単位の変形労働時間制を認めているのは、フランスとカナダ。ドイツは6カ月、アメリカは最長52週単位です。







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H10年改正のポイント


1. 対象期間の全部を通じて使用される労働者以外の中途採用者、期間途中で退職が予定されている労働者についても1年単位の変形労働時間制の対象にできることとなった。この場合の中途採用者、中途退職者に対する時間の清算取扱いとして、対象期間に労働させた期間を平均し1週間当たり40時間を超えた時間について、割増賃金の支払義務を課すこととなった。(これによって、同 一事業場で複数の労働時間制が併存する不 都合を回避できることとなる。)
2. 対象期間を1ヵ月以上(従前は3ヵ月以上だった)の期間に区分して労働日、労働時間を特定できるようになった。この場合、区分期間の各初日から30日前までに、事業場の過半数組合又は代表者の同意を得て、各期間の労働日と労働時間を定めなければならない。
3. 対象期間の最長労働日数及び最長所定労働時間が法定化された。
最長労働日数:1年当たり280日(一定の場合これより少なくなることあり。)
最長所定労働時間:1日10時間、1週52時間(但し、対象期間が3ヵ月を超える場合は、「週48時間を超える週が連続して3以下で、かつ3ヵ月に3以下」になるようにすることが必要。
4. 対象期間中の連続労働日数の制限が設けられた。
連続労働日数:6日(特定期間中は週1日の休日が確保できる日数)
5. 育児、介護その他特別の配慮を要する者については、その時間が確保できるよう配慮すること。
6. 対象期間が3ヵ月を超える1年単位の変形労働時間制では、36協定の延長限度時間が一般より短い設定となったこと。



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労働日数・労働時間の制限は新旧どう変わったか(早見表)

制限事項

改正前

改正後

1. 労働日数 制限なし <対象期間が3ヶ月を超える場合>
1年当たり280日。1年未満の限度日数の計算は
280×(対象期間の日数÷365)で計算する。
2. 1日及び1週間の労働時間 <対象期間が3ヶ月以内の場合>
1日10時間、1週間52時間
<対象期間が3ヶ月を超える場合>
1日9時間、1週間48時間
対象期間に関係なく一律に
1日10時間、1週間52時間。
但し、
<対象期間が3ヶ月を超える場合>
48時間超えの週は連続3以下、かつ、3ヶ月毎に区分した各期間において48時間超えの週が3以下であること。
3. 対象期間における連続労働日数 1週間に1日の休日が確保できる日数 6日
4. 特定期間における連続労働日数 制限なし 1週間に1日の休日が確保できる日数
5. 育児を行う者等に対する配慮 配慮するよう務めなければならない 配慮しなければならない









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1年単位の変形労働時間制の導入要件(今回の改正点は赤字で表示)

以下の点を労使協定に定め、所轄労働基準監督署長に届出ること。
1. 対象者の範囲 →(改正)対象労働者の範囲の限定はなくなった。
  中途採用者、中途退職者にも採用可能に
2. 対象期間と起算日 対象期間を平均し1週間当たり労働時間が40時間を超えない範囲で1年以内。
3. 特定期間 特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間)を設定する場合は、その定め。
4. 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間 この部分は、以下の方法により特定することができる。
<期間中の労働日、労働時間の特定>
○期間を区分しない場合
○期間を複数に区分する場合
1ヵ月以上の期間で区分が可能。この際、労使協定に定めを要する事項は次のとおりです。
 1. 最初の期間における労働日
 2. イの労働日ごとの労働時間
 3. 最初の期間を除く各期間における労働日数
 4. 最初の期間を除く各期間における総労働時間
   (最初の期間とは、区分された各期間のうち例えば1年間期間の初日の属する期間をいう。)
5. 有効期間  








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Q&Aでおさらい


Q:中途採用者や中途退職者の労働時間の個別清算には、どのような意味があるか。

A:忙しい時期だけ雇われたり、繁忙期には在職しているものの閑散期には退職することになっている労働者を考えてみると、繁忙期の労働であるからその実動期間を平均すると明らかに週40時間以上働いているのに、閑散期を待って得られる1年平均の恩恵を受けられない(割増賃金も支払われない)ことがあり得る。
 このような弊害があるから、従来は、中途採用者や退職予定者の1年単位の変形労働時間制度は認められていなかった。今回の改正で、労働時間の清算を行うことを条件に制度の適用が認められるようになったものである。清算処理は、個々の労働者ごとに行う必要があり若干煩瑣ではあるが、これによって、同一事業場で複数の労働時間制が併存する不都合を回避できるメリットもある。


Q:1年単位の変形労働時間制において、中途採用者や中途退職者の労働時間の清算方法(割増賃金支払方法)はどのようにすればよいか。

A:割増賃金の計算方法は労基法第37条による。具体的には次のとおり。

1.労使協定で所定労働時間が8時間を超える時間とされている日は、その定める所定労働時間を超える時間、また、所定労働時間が8時間以内に特定されている日は、8時間を超えた時間をカウントする。
2.労使協定で週の所定労働時間が40時間を超える時間とされている週は、当該所定労働時間を超えた時間、また、所定労働時間が40時間以内とされている週は、40時間を超える時間をカウントする。(但し、1.で時間外となる時間は除く。)
3.対象期間中に労働させた期間(歴日数)を平均して1週40時間を超えた場合は、その超えた労働時間をカウントする。(但し、1.及び2.で時間外となる時間を控除できる。)

<3.の計算方法の詳細>
例:
 A 「本人の雇用されていた期間」の総実動時間(休憩時間は除く)を積算する。
    (注)総実動時間起算は次による。
    ・中途採用者の総実動時間=採用日から対象期間の終了日までの期間
    ・中途退職者の総実動時間=対象期間の初日から退職日までの期間

 B 「本人の雇用されていた期間」の法定労働時間の総枠を計算する。
    ・計算式…本人が雇用されていた期間の歴日数÷7×40時間

 C  時間外労働として割増賃金を支払うべき時間数

 C=A−B
    例えば、5月1日〜10月31日までの6ヵ月間勤務したGさんについて
    その間の総実動時間をカウントしたら1140時間(上記のAに当たる)だったとしよう。
    次に、上記Bの計算を行うと、184日÷7×40時間=1051.4時間
    従って、Cの時間外労働として割増賃金を支払うべき時間数は、1140−1051.4=88.6時間となる。


Q:1年単位の変形労働時間制の休日設定方法?

A:変形期間が3ヵ月を超える場合は、労働日数の限度が280日と法定化されたから、365-280=85日が年間休日数となる。また、連続労働日数が6日とされていることから、この制限内で休日を設定すればよい。
 なお、労使協定で「特定期間=対象期間中の特に業務が繁忙な期間」を定めた場合の期間中は、1週間に1日の休日を確保できる日数で可(理論上は最長連続労働日数12日)。


Q:週48時間を超える所定労働時間の設定制限(3連続まで)の意味は?

A:1日及び1週の最長所定労働時間は、1日10時間、1週52時間とされていますが、これには次のような制限があります。(対象期間が3ヵ月超えの場合)繁忙期といえども週48時間を超える所定労働時間(例えば週52時間など)は、3週連続が限度。・・・・週48時間が1ヵ月続いているのは違法といことになる。
 また、バラバラに週48時間を超える所定労働時間を設定する場合でも、起算日から3ヵ月単位に区切って各期間にそれぞれ3までが限度。


Q:わが社は、1年単位の変形労働時間制の労使協定について有効期間を、毎年の会計年度に併せて7月から翌年6月までとしています。改正法の施行で現行の労使協定は無効になりますか。

A:新法は、平成11年4月1日から施行されますが、施行時点で平成11年3月31日を含む労使協定を定めている事業場は、その協定(時短促進法による決議も同様。)は、なお有効とされています。
(労使協定が旧法に適合している限り、新法に抵触している部分があってもなお、有効という意味です。)