福利厚生制度のいま
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労働省勤労者拠出型年金制度研究会報告書(h9.9.19)

財形年金の再編で確定拠出年金を創設

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報告目次

T 研究の目的・趣旨 (略)
U 高齢期の経済生活の現状 (略)
V 勤労者拠出型年金制度の必要性 (略)
 ・高齢期の経済生活を取り巻く社会環境変化 (略)
 ・勤労者拠出型年金制度の必要性 (以下に図表のみ掲載)

  ○図表・・高齢期の経済生活を支える関連制度の概要
  ○図表・・高齢期の経済生活を支える関連制度の概要
 

W 勤労者拠出型年金制度の検討

 ・アメリカの401(k)プランの概要

 ・わが国における勤労者拠出型年金制度の検討

 ・勤労者拠出型年金制度案(財形年金貯蓄制度再編の方向)

V まとめ

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研究会の委員名簿 

 

 

 

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勤労者拠出型年金制度の検討
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 公的年金、退職金の上乗せとしてより重要な役割を担うとともに、多様な勤労者ニーズや労働移動の受け皿となる「勤労者拠出型年金制度」の整備について、検討を進めることとする。

 アメリカで、近年急速に加入者数を伸ばしている勤労者拠出型年金制度として、いわゆる「401(k)プラン」がある。401(k)プランは、上述のような「勤労者拠出型年金制度」の要素をもち合わせており、わが国における勤労者拠出型年金制度のあり方を検討する上で、参考になる点が多いと考えられる。

 

 また、一定の財源を即時に現金で受け取るか退職金財源として事業主に拠出してもらうかについて勤労者が選択する仕組みが、401(k)プランの基本的な考え方である。わが国においても、最近、退職金の一部を給与に上乗せして受け取ることを勤労者が選択できるという事例がでてきており、このような退職金の支給のあり方の多様化への受け皿としても、401(k)プランのような制度は参考になると考えられる。

 そこで、わが国における勤労者拠出型年金制度の内容についての検討に入る前に、アメリカの401(k)プランについて概観してみる(図表3=省略)。

 

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1 アメリカの401(k)プランの概要
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(1)確定拠出型年金制度

 401(k)プランは、確定拠出型年金制度の一形態であるので、まず、アメリカの確定拠出型年金制度について概観する。アメリカの企業が、近年確定拠出型の年金制度を積極的に導入している理由として、次のような点があげられる。

 

・確定拠出型には、確定給付型にみられるような後発債務が発生せず、支払保証制度の保険料を負担する必要もないこと

・確定拠出型の方が厳格な法的規制による負担が少なく、確定給付型に比べて運営が簡単であること

 

 アメリカにおける確定拠出型年金制度では、従業員個人の退職後の生活に備えるために、事業主もしくは従業員の拠出が、個々人の勘定に分離して積み立てられる。退職後の給付額は退職時の個々人の勘定の残高によって決まり、それ以前に最終的な給付水準が決定できないが、現時点の積立額が幾らになっているかについては個々人が把握できる。従業員は、退職後に拠出額の元利合計を一時金や年金の形で受け取ることができる。

 確定拠出型年金制度には、次にあげるような種類がある。

A. マネー・バーチェス制度(Money Purchase Plan)

 従業員の給与の一定割合を事業主が拠出し、退職後の給付に備える制度である。なお、企業の収益動向にかかわらず一定の事業主拠出が求められるために、事業主にとっての拠出の柔軟性が小さく、普及率は低い。

B. 利益分配制度(Profit Sharing Plan)

 事業主の総拠出額が利益に基づいて決定され、それを従業員に配分する制度である。報酬や勤続年数を配分の算定ベースにする企業が多い。

C.従業員貯蓄制度(Thrift Plan)

 従業員が給与の一定割合を拠出し、事業主も従業員拠出の一定率等を任意に上乗せ拠出する制度である。事業主拠出は従業員拠出と同率、もしくはその半分のケースが多い。

D.従業員持ち株制度(Employee Stock 0wnership Plan)

 基本的には利益分配制度と同様であるが、事業主拠出等を原資に自社株を購入して従業員に割り当てる制度である。



 

(2)401(k)プランの概要


A.制度の概要

 401(k)プランとは、マネー・パーチェス制度、利益分配制度、従業員持ち株制度等のうち、内国歳入法401条(k)項に適合し、課税繰り延べが認められる制度である。従業員貯蓄制度(Thrift Plan)についても、制度内容の一部を利益分配制度等に組み替え、利益分配制度等の一つとして401条(k)項の適用を受けている場合が多い。

 現在では、401(k)プランの大部分が、従業員が給与の一定割合を、一定年齢後に退職した際の給付原資として拠出することを選択し、事業主も任意に上乗せ拠出する形態となっており、これらの拠出について、給付時までの課税繰り延べという税制上のメリットが、一定限度まで認められている。従業員にとっては、このような税制上のメリットに加えて、事業主による上乗せ拠出や、従業員それぞれのニーズに応じて拠出率を決定できるというような制度の柔軟性、個人別に積立額が明確にわかるといった点も、大きな魅力となっている。

 401(k)プランの参加を希望する従業員は、401(k)プランの提供者である事業主に対して、プランへの加入を申し込む。401(k)プランを実施する事業主は、原則として、21歳に達し、かつ勤続1年以上の従業員全員に、401(k)プランへの加入資格を与えなければならない。

 給付原資の運用については、事業主が提示する複数の運用方法の中から、従業員自らが自由に決定できる。 運用リスクは従業員が負い、事業主や金融機関等には、従業員に対して必要な情報を開示することや、適切な運用選択が行えるように運用に関する教育を徹底することなどが求められている。

 401(k)プランは、老後の生活保障を目的としており、59.5歳以前の中途引き出しには厳しいペナルティ課税が課される。また、転職等の際には、転職先の企業の401(k)プランや後述のIRA(Individual Retirement Account)への移管も認められており、ポータビリティの高制度となっている。

 

B.制度の沿革

 401(k)プランの起源は、古くからあったCODA(Cash or Deferred Arrangement、事業主が拠出する一定の財源について、従業員が、現金で受け取るか、退職後まで給付を繰り延べるかを選択する方式。繰り延べを選択した部分については、従業員への課税が給付時まで繰り延べられる)まで遡る。

 CODAは、当初利益分配制度等における事業主拠出のみを対象としていたが、その後従業員の報酬そのものについても、退職後までの給付繰り延べ選択の仕組みを探り入れ、課税繰り延べという税制上のメリットを追求する形式が普及した。つまり、報酬の一部を減額(Salary Reduction)し、それを退職後の給付原資(事業主拠出)にあてることを、従業員が選択することによって、従業員の課税所得が減少し節税が実現するわけである。

 CODAによる税制上のメリットは長年にわたって幅広く認められてきたが、実際に給付の繰り延べ選択による税制メリットを享受しているのは高給従業員が多いというような問題が指摘され、1978年に、内国歳入法401条(k)項でCODAの満たすべき要件が厳格に定義されることとなった。すなわち、現在では、401条(k)項を満たすCODAが401(k)プランであるといえる。

 

C.拠出の仕組み

 401(k)プランにおける拠出には、従業員が退職時まで給付を繰り延べることを選択した部分(以下、繰り延べ選択部分と呼ぶ)と、事業主による任意の上乗せ拠出がある。また、企業によっては、従業員が課税後給与から拠出することを認めている場合もある。

 繰り延べ選択部分については、従業員に対して100%受給権(Vesting、企業等に没収されることはなく、退職等一定の要件を満たせば受給することができる権利)が付与されるが、59.5歳以前の引き出いこ対しては10%のペナルティ課税が課される。

 さらに、事業主が任意に行う、繰り延べ選択部分への上乗せ拠出は、従業員の401(k)プランへの加入を促進することを目的として広く行われている。事業主の上乗せ拠出分については、エリサ法(従業員退職所得保障法)によって、勤続5年後に100%の受給権を従業員に付与すること、もしくは勤続3年から勤続7年の間に段階的に受給権を付与すること(勤続3年で20%、以後1年毎に20%ずつ増やし、勤続7年で100%)が求められている(実際には、事業主の上乗せ拠出について、エリサ法の基準より早めに、従業員に対して受給権を付与している例が多い)。

 税制上、繰り延べ選択部分は事業主拠出とみなされ、勤労者の課税所得から除外される(ただし、社会保険料算定上は、繰り延べ選択部分についても従業員の給与に含めて計算される)ため、実質的には従業員が課税前給与から拠出するのと同じ税効果となる。事業主拠出(従業員の繰り延べ選択部分、事業主の上乗せ拠出部分を含む)は、一定限度まで損金算入が認められている。なお、従業員が繰り延べを選択できるのは年間9500ドル(1996年、毎年インフレ調整される)までで、確定拠出型年金制度全体の事業主の年金拠出(従業員が繰り延べを選択した部分を含む)の限度額は報酬の25%もしくは3万ドルのいずれか低い額である。

 

 

D.運用選択

 401他プランにおいては、繰り延べ選択部分及び課税後給与からの拠出部分について、事業主が提示した選択肢の中から、従業員が自己責任のもとに運用方法を選択する。エリサ法は、事業主に対して、3つ以上の運用方法の選択肢を従業員に提示し、4半期に1回は運用選択を変更する機会を従業員に付与することを求めている。運用方法の選択肢としては、利率保証の確定ファンド、リスクはあるが成長可能性の大きい株式ファンド、それらの組み合わせの他、自社株などがある。

 事業主の上乗せ拠出分の運用についても、エリサ法は、従業員による選択を認めることを、事業主の努力義務として規定している。従来、事業主の上乗せ拠出は自社株による場合が多かったが、最近では、事業主の上乗せ拠出の運用に関しても、繰り延べ選択部分等と同じように従業員に選択を委ねる企業が少なくない。

 プラン提供者である事業主は、従業員の加入申込のとりまとめ、個人勘定ベースでの拠出・給付等の記録や管理、運用方法の選択肢の提示、プラン資産の運用全般等を行う義務を負っており、必要に応じて、これらの義務について外部機関(金融機関等)との間で委託契約を締結している。

E.給付

 401(k)プランは老後の所得保障のための積立を目的としているが、例外的に従業員が障害等により就労不能になって退職した場合等については、年金(企業によっては複数の給付タイプからの選択が可能)もしくは一時金として給付を受けることができ、給付時に所得課税がなされる。それ以外の理由で59.5歳以前に引き出した場合には、通常の所得税に加えて10%のペナルティ課税が課される。




 

(3)転職時の取扱い

 401(k)プラン加入者が転職する場合に、3500ドル以上の積立残高が転職元企業にあれば、それを転職元に残しておくことができる。転職先に401(k)プランがある場合には、残高を移管することができる。転職先に401(k)プランがない場合も、退職金受け取りから60日以内にIRA(注)に移管すれば、移管した退職金については引き出すときまで課税されない。なお、転職時においても、59.5歳に達していない等受給要件を満たさずに現金として受け取った場合は、通常の所得税に加えて10%のペナルティ課税が課される。

 

(注)IRA:個人退職積立勘定。1975年にエリサ法によって創設された。もともと自営業者等を対象とした、高齢期のための拠出に関する税制上の優遇制度だったが、1981年税制改正以降、対象が拡大され、勤労者にも適用されることとなった。

 

 IRAへの拠出は課税所得から控除される取扱いとなっており、拠出限度は2000ドルと401(k)プランよりも低く設定されている(401(k)プランから移管した部分は別枠)。IRAも、401(k)プランと同様、59.5歳以前の引き出しに対してはペナルティ課税が課される。なお、IRAの場合、70.5歳に到達した翌年の4月1日までに給付が開始されなければならないと定められている。

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2 わが国における勤労者拠出型年金制度の検討
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 前段にて概観したとおり、401(k)プランは、勤労者の拠出を基本としつつ、事業主の上乗せ拠出も広く行われている確定拠出型の制度であり、税制上のメリットがある点、拠出や運用等の自由度が高い点などが、特徴としてあげられる。

 401(k)プランを参考にしつつ、わが国で勤労者拠出型年金制度を考えるにあたって、特に重要な要件としては次の点があげられよう。

 

A.勤労者拠出が制度の基本となること

B.拠出するかどうか、勤労者が任意に選択できること

C.拠出額(率)を勤労者が弾力的に設定できること

D.事業主の上乗せ拠出(任意)があること

E.勤労者拠出に対して、税制上の支援があること

F.拠出の元利合計額を原資として、一定年齢時もしくは一定年齢以降に給付されること(確定拠出型)

G.運用等の取扱機関の範囲が広い等、運用の自由度が高いこと

H.制度導入にあたって、加入者規模に制約がないこと

 

 上記の要件について、わが国の既存の制度を比較してみたのが次表である。ただし、もともと勤労者による拠出が想定されていない制度については、比較対象から除外している(図表4)。

 比較してみると、制度の性格上財形年金貯蓄制度が前述のA.〜H.の要件に多く合致するという点で、財形年金貯蓄制度を基本として、わが国における勤労者拠出型年金制度のあり方を検討することが望ましいと考えられる。

 財形年金貯蓄制度の枠組についてみていきたい。

○ 概要

 勤労者財産形成促進制度は昭和46年に制定された勤労者財産形成促進法に基づき発足し、昭和57年に、勤労者の退職後の生活の安定を目的とした財形年金貯蓄制度が創設された。現在、財形年金貯蓄・財形住宅貯蓄については、両制度合わせて元本550万円(郵便貯金及び生命・損害保険等にあっては、財形年金貯蓄の払込合計額が385万円を超えてはならない)までの利子非課税が認められている(図表5=略)。

○ 勤労者の拠出

 事業主が財形貯蓄取扱機関(金融機関等)を選択し、勤労者は、その中から自分が利用する財形貯蓄取扱機関と契約を締結する。財形年金貯蓄への拠出は、課税後給与からの天引きによる勤労者拠出が基本となる。(なお、転職等の場合を除き、預替えを行うことは不可能。)

 

○ 勤労者財産形成給付金・基金制度

 財形貯蓄に関する措置として、事業主が対象勤労者のために拠出し、対象勤労者に給付することにより、勤労者の財産形成に寄与することを目的とした財形給付金制度及び財形基金制度がある。

 財形給付金制度は、財形貯蓄(一般、年金、住宅の別を問わない)を行う勤労者に対して、事業主が年間10万円を限度に毎年定期的に拠出し、財形貯蓄取扱機関(信託、生保等)に運用させた後、7年毎にその元利合計を勤労者に給付するものである。

 財形基金制度は、事業主が年間10万円を限度に毎年定期的に財形基金(注)に拠出し、財形基金が財形貯蓄取扱機関(財形給付金制度における機関+銀行、証券等)に運用させた後、7年毎にその元利合計を勤労者に給付するものである。

 

 (注)財形基金:事業主とその雇用する勤労者で組織する、労働大臣認可の法人

 

○ 支払い

 勤労者が60歳に達した日以後の日(最後の預入等の日から5年以内の日)であって契約で定める日から年金支払いを開始し、5年以上の期間にわたって毎年定期的に年金の支払いを受けることとなっている。一時金での支払いは認められていない。

 また、財形年金貯蓄は、年金の支払いを目的とした貯蓄であることから、年金支給開始日前に払出し(財形年金貯蓄契約の一部又は全部の解約)があった場合には、利子等の非課税措置は打ち切られ、その日の前5年以内に支払われた利子等について遡及課税が行われることとなっている。ただし、勤労者の死亡及び重度障害を理由とする払出しについては、このような遡及課税は行われない。

 

○ 転職時の取扱い

 財形年金貯蓄制度においては、勤労者の転職等にあたり、転職等の先の事業主が財形年金貯蓄制度を導入している場合には、転職等の先における財形貯蓄取扱機関への預替えを行うことができるなど、転職等の日から1年以内に手続きを行うことによって非課税措置も継続することが可能であるが、転職等の先の事業主が財形年金貯蓄制度を導入していない場合には、財形年金貯蓄を継続することはできない。(図表6)