苦情処理、労働相談の制度
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苦情処理、労働相談の制度


1 企業内苦情処理制度

2 個別労働紛争解決制度

3 労働審判制度

4 その他

    [都道府県、都道府県労働委員会]
   [弁護士会、社労士会、労働組合、経営者団体、法テラス、その他裁判制度]

 

 

 

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1 企業内苦情処理制度

  わが国における個別労働関係の相談(電話相談を含む)は、年間100万件と云われている。

  このような労働相談や個別労働紛争の増加を踏まえ、平成13年10月には「個別労働紛争解決制度」が、次いで,平成18年4月からは「労働審判制度」が発足している。しかし、これらの公的な制度は、企業の労使から見れば、あくまで「企業外苦情処理制度」である。

  誰しも、個別労働紛争が日常的に発生している「職場(現場)」をもつ企業内において、公的な手続を踏む前の対応ができた方がよいと考えるが、現実には、「企業内苦情処理窓口」は、十分な機能を果たしていない(というより、利用されていないのである(*1)、欧米に見る企業内苦情処理制度については、注(*2)を参照。)。

  僅かに,企業内において、人事労務(個別労働関係)に係る相談ルートとして命脈を保ってきたのが「上司に相談してみる」という方法であった。
  しかし、近時、わが国企業の伝統であった「上司に相談」というラインを通じた解決の力が落ちてきているとの指摘もある。

  最近、注目されるのは、大企業を中心に均等法15条が規定する苦情処理機関(*3)の設置が増えていることである。この規定は、企業内苦情処理機関の設置を促し、当該機関を通じた企業内自主解決を前提にしつつ、一方で、当該苦情処理機関と外部の個別労働紛争解決制度との関係づけを図っているところである。
  企業の立場からは、法的要請に基づき、企業内に苦情処理機関を置する以上、重複を避ける意味でも、当該機関を均等法に限定したテーマでのみ運用するのは効率的でない。均等法15条が、労働関係の企業内苦情処理制度の全般的整備の端緒となる可能性もある。

  いずれしても、制度問題以前に、企業内において自主解決の可能な事項については、「まず、自主解決に取り組む」、そうした労使の意識改革が重要であることは、言うまでもない。

 

[編注]
(*1) 苦情処理機関、人事労務トラブルに対応する相談窓口の設置すらされていない企業が多い。労働組合がある場合の労使協議も十分に機能しているとは言いがたい。

(*2) 欧米に見る企業内苦情処理制度
 1) アメリカ大企業に見る社内オンブズパーソンは、仕事ないし職場に関連した問題の全般について、組織内にあって、非公式に、調整的に相談と問題解決を図るものであり、企業によって中立・独立性が保障される。多くはトップ直属の高い地位を与えられることが多いと云われる。
 2) イギリスでは、労働者は苦情がある場合は、企業に書面による申出を行い企業内苦情処理制度の手続を経てからでなければ、外部の「労働審判所」に申し立てができない。
 3) フランスでは、企業内労働者代表制を活用した個々の労働者の苦情処理行われると云う。
(以上2)3)につき2003年1月「司法制度改革推進本部労働検討会資料」から)、

(*3) この苦情処理機関は、「事業主を代表する者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とする当該事業場の労働者の苦情を処理するための機関をいう。」とされ、「(均等法6,7,9,11,12,13の各条に定める事項について)労働者から苦情の申出を受けたときは、(企業内)苦情処理機関に対し当該苦情の処理をゆだねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない」(以上、均等法15条)

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2 個別労働紛争解決制度

個別紛争解決制度


 平成13年10月1日から、個別労働関係紛争解決促進法に基づく(1)労働相談、(2)労働局長による助言・指導、(3)紛争調整委員会によるあっせん(均等法に基づく「調停」を含む)が行われている。 なお、本制度のうち、労働局長の助言指導を申し出たこと、紛争調整委員会にあっせん申請をしたことを理由に、労働者に対する不利益取扱いをすることは禁止されている。(促進法4条3項、同5条2項)

(1) 総合労働相談コーナー 

  全国300か所に設置された「総合労働相談コーナー」において労働相談が実施されている(*1)。労働相談コーナーでは、まず、労働基準法等の行政所管法律の違反に対しては、労働基準監督署等の職権を行使して解決を図るルートへの振分けが行われる。それを除いた民事上の個別労働紛争が、労働局長の助言・指導又は紛争調整委員会のあっせんへ回送されることとなる。

(2) 労働局長の助言・指導

  比較的問題点の明白な事案に対しては、申出により、紛争当事者に問題点を指摘し、自主的な解決を促す方法によって解決を図ることが試みられる。そのために必要な助言・指導(*2)を労働局長が行うもの(促進法4条)である。

(3) 紛争調整委員会によるあっせん

  あっせんは当事者の申請を受けて行う(*3)。
  職員によって、相手方の参加の確認及び相手方の主張・事情等について事前調査が行われる。あっせん手続は、通常委員1人が担当して個別方式で進められる。処理は非公開で、原則、1回の調査で終結させる。
  あっせんの場所は、原則、労働局であるが労働基準監督署を利用した現地あっせん(北海道等)が実施されることもある。あっせんに基づく当事者合意は、民事上の和解契約となり、合意に至らなければあっせんは「打切り」となり終了する。あっせんについては、申請時に時効が中断する(促進法16条)。

 

[編注] 個別労働関係紛争の利用状況
(*1) 平成20年度の相談件数は、1,075,021 件、うち民事相談件数は236,993 件(解雇25.0%、労働条件の引下げ13.1%、いじめ等12.0%)。
(*2) 平成20年度の申出件数は、7,592 件(解雇25.1%、労働条件の引下げ10.5%、いじめ等12.7%)。
(*3) 平成20年度のあっせん申請件数は、8,457 件(解雇39.6%、いじめ等15.2%、労働条件の引下げ8.5%)。
[リンク]平成20年度個別労働紛争解決制度施行状況(H21.5.22厚生労働省発表)

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3 労働審判制度

労働審判制度


  労働審判手続きは、個別労働関係民事紛争、すなわち「労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争」を対象としている(*1)。

(1) 労働審判制度の現状

  労働審判は、平静18年4月から運用されており、労働審判官1人と労働審判員2人で構成される「労働審判委員会」で審理が進められる(*2)。

(2) 労働審判の流れ(申立と答弁書及び審理)

[1] 申立書には、(第1回審理を充実させるため)、申立理由、争点、争点ごとの証拠、当事者間の交渉経緯などを記載するほか証拠書類の写しも添付することとされている。
[2] 第1回期日は、申立て日から40日以内の日を指定(労審規13条)、その場合には、答弁書の提出期限も指定される。
[3] 答弁書には、@申立趣旨に対する答弁、A事実の認否、B答弁を理由づける具体的な事実、C予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実、D予想される争点ごとの証拠、E当事者間の交渉経緯の概要、F代理人の郵便番号及び電話、及びDの証拠書類についてはその写しを添付しなければならない。(申立人には直接送付しかつ裁判所に3通提出する。)
[4] 相手方答弁に対する申立人の反論、及びこれらに対する再反論は「期日において口頭で行う」。(口頭主張を補充する「補充書面」の提出は可)
[5] 労働審判手続きは、非公開である。ただし、許可を得て傍聴可とされている。

(3) 第3回期日-調停、不調の場合は審判

  第3回期日では、調停を行い、それが成功しない場合は、審理を終結して即日口頭又は後日書面にて審判を行なうこととなる。審判に対しては、2週間以内に異議申立を行なうことが可能(この場合、訴訟に移行)、異議申立がなければ審判の効力が確定する。

(4) 労働審判の利用と注意点

[1] 労働審判の利用に当たっては、弁護士費用を含めたコストを考慮する必要がある。とくに、金銭的要求を伴う事件ではこの点を無視できない。しかし、訴えが認められることによって期待できる感情面での癒し効果が大きいのも事実である。
[2] 労働審判の申立先は、現在、都道府県に1か所(地方裁判所本庁)であるから注意する(北海道は4か所)。

[編注]
(*1) 募集・応募の段階は対象外であるほか、公務員関係にも制度の適用はない。
(*2) 利用件数は、平成18年度1200件弱、平成19年度4-12月で1208件となっている。
(*3) 制度発足から1年半の運用状況をみると、申立の7割が調停で解決し、1割が取り下げ、2割が労働審判に付され、労働審判の結果に関し、うち4割は2週間以内の異議申立がなく確定しているといわれる。
なお、3回以内で審理終結が97%(平均審理期間は73.8日)とされる。
労働審判事件は、双方代理人付き事件が85%に達しているのも特徴点の一つである。このうち、代理人別解決率は、双方代理人75%、双方なし46%強、申立人のみ41%となっているという。(Jurist増刊2008.12労働審判-事例と実務運用より)

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4 その他

都道府県


(1) 都道府県の労政主管課等による労働相談、(あっせん)調整

  都道府県の自治事務として、労働相談やあっせんが行われている(*1) (*2)。
[1] 他の権限ある機関(労働基準法等については労働基準監督署の紹介、民事上の個別労働紛争については、労働局、労働委員会、地裁「労働審判」等)の紹介を基本としている。こうした中で、「東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府、福岡県、大分県」の6都府県は、 「あっせん」業務を自ら行っているという。(もっとも、担当職員が労働相談の延長で事前調査、助言指導、あっせん機能的な業務を一連のものとして手掛けているようである。)

[2] 労働相談の担当職員1人が労働相談からあっせん(調整)までを行なう。なお、あっせんは当事者対峙方式ではなく、個別方式である。(東京都:労働相談情報センター都内6か所、神奈川県:労働センター等県内8か所、埼玉県:産業労働センター県内6か所、大阪府:総合労働事務所3か所等)

[3] 都道府県の相談体制は時々の財政事情を受けて、増強縮小がなされることが多く、柔軟性をもった組織ではあるが、一方では弱点ともなっている。

[編注]
(*1) 都道府県における組織形態は、労働単独事務所は少なく商工部門との合同で「商工労政事務所」等又は県の地方事務所の一部となっているものが多いといわれる。
(*2) 平成18年度の相談件数は、127,212件(全国)、あっせん件数は1,250件(全国)となっている。

 

(2) 都道府県労働委員会のあっせん

  都道府県の自治事務として、知事から委任を受け要綱等に基づく形で、平成13年4月から都道府県労働委員会による個別労働紛争のあっせんが行われている(*1)。
  現在、44都道府県労働委員会において取り扱われているが、東京都、兵庫県、福岡県の3都県は労働委員会として実施していない。あっせん委員は公労使の3者構成。非公開である。なお、労働者のあっせん申請に関連して、不利益取扱い等を禁止する法的保護は規定されていない。

[編注]
(*1) 平成20年度のあっせん件数は、解雇を中心に全国で481件とされている。
[リンク]平成20年度-労働委員会で行う個別労働紛争のあっせん件数について(H21.7.13中央労働委員会発表)

 

その他の期間

(3) 弁護士会による「あっせん」等

  全国21弁護士会に、「仲裁センター等」が設置運営されている。申立手数料、成立手数料等の形で費用が発生する、すなわち有料である
  強制力の強い「仲裁合意」より、「あっせん」の利用が多いといわれる。なお、あっせんによって当事者に合意が成立すればそれは民事上の和解の効果をもつ。

(4) 全国社会保険労務士会連合会の「労働相談」

  社会保険労務士会連合会による無料労働相談がある。
  特定の「曜日」(都道府県ごとに相違する)に開催されているので事前確認が必要である。

(5) 労働組合

  (連合)
  地方連合会は「なんでも労働相談」としてアドバイザーを配置し、フリーダイヤルによる労働相談に対応している。
  (全労連)
  都道府県単位に常設の労働相談センターをおいて、フリーダイヤルによる労働相談に応じている。

(6) 経営者団体

  都道府県単位の経営者団体では、会員企業を対象に労働相談を実施している。

(7) 法テラス(日本司法支援センター)

  資力の乏しい人を対象に、無料法律相談、弁護士費用の立て替え等の民事扶助を行っている。

(8) その他の裁判制度について

[1] 民事調停
    個別労働紛争に限らずあらゆる民事紛争を対象とする(簡易裁判所)。個別労働紛争に関しては、自動的訴訟移行規定などが整備された「労働審判」制度にほぼ移行するものと思われる。
[2] 少額訴訟
    60万円以下の金銭紛争を対象とする(簡易裁判所)。1回の審理で終了、金銭債権(額)を明確にすることができる証拠がある場合には、有効。
[3] 支払督促(支払命令
    賃金不払をはじめ、金銭の支払いをめぐる労働紛争において、利用されることがある。
[4] 仮処分
    解雇無効訴訟における地位保全の仮処分や賃金の仮払い仮処分等において、利用されることがある。

 

[参考文献・資料]
1) 労働政策研究・研修機構「企業外における個別労働紛争の予防・解決システムの運用の実態と特徴」
2) Jurist増刊2008.12「労働審判-事例と実務運用」